徹夜明けの回復法、寝付きをよくするコツ… 「眠りの緊急事態」突破術
平日も休日も睡眠マネジメントできっちり休息をとっている。しかし、そんな平和な日常を乱す眠りと超回復の非常事態が発生。眠りに関する2人の専門家、作業療法士の菅原洋平さん、大塚製薬ソーシャルヘルスリレーション部ディレクターの石川泰弘さんが秘策を伝授する。
取材・文/井上健二 イラストレーション/上坂元均 取材協力/菅原洋平(作業療法士)、石川泰弘(大塚製薬ソーシャルヘルスリレーション部ディレクター)
(初出『Tarzan』No.774・2019年10月10日発売)
目次
Q1:残業で深夜帰宅。あと4時間しか眠れない!
A:週末に見つけた自分なりのルーティンを役立てよう。
「私は毎週1回、3時間しか眠れない日があります」。そう苦笑する作業療法士の菅原洋平さんが実践する突破術に耳を傾けよう。
「帰宅したら部屋を暗くし、寝室でストレッチして、脳の温度を下げるために耳より上の後頭部に保冷剤を当てて頭を冷やします。入眠時心像が現れてからベッドに入ると、すっと眠れます」。
入眠時心像とは、目を閉じると幾何学模様が現れたり、知っている人物や風景が見えたりする現象。脳が外界の情報を遮断し、内側に集中し始めた証拠。入眠の好機だ。いずれにしても非常時こそ習慣マネジメントで週末に見つけた自分なりのルーティンを役立てよう。
Q2:ビジネスホテルに大きなバスタブがない!
A:全身浴したいなら、事前に出張先で銭湯やサウナを検索。
浴槽入浴⇒入眠という勝利の方程式が確立しているのに、出張先などのアウェーな環境下ではそれが崩れることだってある。出張先のホテルのバスタブが極小で、浴槽入浴できないときはどうすべきか。
「浴槽入浴の狙いは深部体温を上げること。バスタブにお湯を張って足湯をするだけでも温まった血液が全身を巡り、深部体温が上げられます。42度で20分入るのがお薦めです」(大塚製薬ソーシャルヘルスリレーション部ディレクターの石川泰弘さん)。
足湯ならハンズフリーだから入浴時間も読書などで有効活用できる。全身浴したいなら、事前に出張先で銭湯やサウナを検索。その近所の宿をブッキングするのが鉄則!
Q3:徹夜明けもなんとか超回復したい!
A:翌日は無理せずに早めに帰宅して就寝。
「徹夜のリカバリーには最低1日かかる。翌日は無理せず、翌々日のV字回復を狙いましょう」(菅原さん)。
徹夜明けでも午前中は案外元気。25時間以上起きていると脳は一時的に興奮してハイテンションになるからだ。その後テンションが下がり、15時前後に猛烈な眠気が襲う。
「そこで眠ると爆睡して眠りのサイクルが狂って尾を引く。この時間帯に外出したりして絶対に眠らないのがポイント。早めに帰宅して就寝。2日分の睡眠を取るつもりで睡眠時間をできるだけ長く確保します。こうすれば翌日から普段通りのパフォーマンスが出せるようになります」。
Q4:真っ暗な部屋が怖くて眠れない!
A:目の網膜に光を当てないような工夫を。
“眠りの精”メラトニンは光に反応すると減る。
「メラトニンの増減に関わるのは、目の網膜にあるメラノプシン。そこに光が当たらなければ、メラトニンの減少は防げます。暗闇が嫌いなら、光が網膜を直撃しないような照明にしてください」(菅原さん)。
ベッドで寝ているなら、ベッドよりも低い位置でデスクライトを壁側に向けて間接照明に。これである程度の明るさは確保できるし、メラノプシンも刺激されない。また夜中オシッコに起きたときにトイレの照明をつけると目が覚めやすい。トイレは暗くし、人感センサー付きのフットライトを廊下にセットしておこう。
Q5:新幹線で日帰り出張すると夜、寝付けない!
A:帰りに寝ないで行きで寝ましょう。
行きはPCで仕事に励み、帰りはお酒を飲んで爆睡。すると夜眠れず、疲れやすい……。新幹線出張あるあるだ。
「連続覚醒時間が7時間以上だと夜の眠りに悪影響を与えないので、行きは寝て睡眠不足を解消しましょう」(菅原さん)。
逆に帰路は寝ない方がいい。「帰りに眠ると連続覚醒時間が7時間未満で就寝時刻を迎え、寝付けず疲れが溜まりがち。帰りに寝ないためにも行きで寝ましょう」。
新幹線の照明は約500ルクス。3時間過ごすとメラトニンは半分に減る。帰りはPCメガネでメラトニンを減らしやすいブルーライトをカットすると帰宅後スムーズに眠れる。
Q6:心配事が次々と襲ってきて眠れない!
A:心配事をノートに書き出してみる。
心配事が気になってクヨクヨし始めると眠気が吹き飛んでしまう。そんな夜を乗り切るために石川さんが教えてくれた突破術は2つ。
「手始めに頭の中の心配事をノートに書き出してみましょう。書いて見直すと“大した悩みじゃない”とか“いま気にしても仕方ない”と客観視できて気分が落ち着きます」。
続いて本棚から愛読書を取り出す。「ヒトは近くを見るとき、心身をリラックスさせる副交感神経が優位になりやすい。初めての本だと夢中になって寝られない恐れがあるので、すでにストーリーを知っている愛読書の好きな場面をめくってください」。
Q7:どうしても目が冴えて寝付けない!
A:ベッドから出て、暗い場所で目を閉じてリラックス。
15分以上寝付けないと脳は覚醒の準備を開始。その先1時間は眠れないと覚悟すべし。
「来るはずのない眠気をベッドで悶々と待つのは不快。15分寝付けなかったらベッドを出て暗い場所で目を閉じてリラックス。脳を休めます。連続して起きている体力はないので、1時間ほどで眠気が出てきます。そこでベッドに入りましょう」(菅原さん)。
これを何度か繰り返すと体温が最低になる起床時刻の約22時間後(7時起床なら朝5時)までにはウトウトして眠れるはず。
「翌日は睡眠不足ですが、最低体温の時刻に寝ていれば、睡眠周期が大崩れする心配はありません」。
Q8:昼寝をしても眠気が残ってしまう!
A:起きる時刻を3回唱えてから眠る。
「昼寝も慣れないと眠りすぎたり、眠れなくてストレスになったりする人もいる。覚醒と眠りの切り替えには学習が必要です」(菅原さん)。
学習の一環として菅原さんが薦めるのは、起きる時刻を3回唱えてから眠ること。
「覚醒と睡眠は、脳自身で制御可能。その能力を引き出すために3回ほど唱えて言語化し、設定したゴールを脳に教えるのです」。
ゴールを知ると、脳は起きる時刻の数分前から血圧と心拍数を上げて起きる準備をし、アラームが鳴る前に起きられるようになる。昼寝を介して、脳が覚醒と睡眠の主導権を握るとリズムが整い、疲労解消につながる。