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タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
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目の前のことに気持ちが揺れっぱなしでは、本来の実力も発揮できない。落ち込んだ時や憤りを感じた時のための“切り替え術”をマスターして、泰然自若の精神を手に入れよう。
“絶対に負けられない戦い”は誰にもある。でも哀しいかな、想定外の事態にメンタルが乱れて本領発揮できないまま轟沈することもままある。それに引き換え、並々ならぬプレッシャーの中で日々勝負に挑むアスリートの精神力の屈強さよ。
「いえ、不測の展開に気持ちが揺れるのはプロも一緒です」と、アスリートのメンタルトレーニングに携わる日本体育大学の高井秀明先生。
「ただしアスリートは自らメンタルを切り替える術を心得ています」
“切り替え術”は我々の日常生活でも応用可能。ぜひ取り入れてみてほしい。
なぜ切り替え術でリセットできるのか。前提として、ヒトとはある事象に対して感情の動きや身体反応が起こる生き物。感情とは端的に言えば喜怒哀楽で、怒や哀などのイヤ〜な気分にどっぷり浸かってしまいそうな時こそ、切り替え術の出番である。
切り替え術とは、不快な感情にこだわる意識を別の対象に向けて切り替えるためのアプローチのこと。例えば、気持ちが動揺した時に見ると決めておいた“モノ”を見つめるなど行動で強制的に気持ちを誘導するのだ(フォーカルポイントとも呼ばれる)。行動により感情がポジティブになれば、認知も変わり、結果的に状況の好転につながる。
また思い通りにならない状況では気持ちばかり焦って注意散漫になりがち。アプリを複数立ち上げれば処理速度が落ちるPCと同様、課題の作業能率を上げるには優先すべきことに集中するのが大事なのだ。
心が乱れてもその都度リセットできればいつも穏やかさを保てるはず。では、どんな動作によって意識の向く先を変えるか。
切り替え術の精度の高さを求めるなら、オリジナルの方法をつくってみるのが一番。準備するものは紙とペン。まず「商談が成功した」「最高のプレーができた」など過去の成功体験を思い出し、その日の出来事や自分の心理状態などを、覚えている限り書き出す。
次に、挙げた要因を状況、身体感覚、気分などにざっくり分類したうえで、成功体験につながった要因を自分なりに分析。“こうすればうまくいく”と成功パターンを思い描ける方法こそ、自分に有益な切り替え術。次の行動に自信を持って臨めることが何よりも大事だ。
もしも自己分析が思うようにはかどらなければ、尊敬する人を観察して行動パターンを真似することから始めるのもOK。
ただのゲン担ぎとならぬよう切り替え術を正しく理解したい。
困った状況に陥った時に、即興で切り替え術を編み出しても、リセットはまず不可能。事前の自己分析を通して準備するからこそ切り替え術は効力を持つ。
また、「これさえやれば大丈夫」と、切り替え術を一つに絞るのもNG。当然ながら毎回100%成功する切り替え術は存在しない。最初の一手が思い通りにいかなかった時に、「次はこの手を打とう」と思える“備え”を用意すれば、失敗しても余裕を持って次の行動に移れる。
ただし切り替え術をむやみやたらに用意するのも考えもの。実践しながら「面倒だな」「やる意味あるか?」と疑問に思えば、切り替え術を見直す絶好のチャンス。理想は切り替え術を持たなくても、整ったメンタルを保てること。その境地に達するまでのプロセスとして、切り替え術を賢く活用したい。
取材・文/門上奈央 イラストレーション/安ケ平正哉 取材協力/高井秀明(日本体育大学スポーツ心理学研究室)
(初出『Tarzan』No.769・2019年7月25日発売)