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ポイントは「睡眠圧」にあり! 新幹線で気持ちよく眠るコツ

出張の多いビジネスパーソンにとって、新幹線での過ごし方は仕事のパフォーマンスに直結する大事な問題。東京〜新大阪の2時間半、移動中いかに眠るか。睡眠改善を中心にコンサルティング事業を行う作業療法士の菅原洋平さんに教えていただきました。

意識的に眠りをコントロールする。

日頃寝不足だと、移動中に存分に眠ろうと思うもの。しかし、

「新幹線にせよ飛行機にせよ、普通車やエコノミーシートだと基本的に席は狭い。布団やベッドでは寝返りを打つとカラダとの間に空間ができて放熱され、汗を乾かしたり深部体温を下げてより深い睡眠に入れるのですが、スペースに余裕のないシートでは寝返りを打つことができず、カラダに熱が溜まってしまう。だからうまく深く眠れなくなってしまうのです」

そう話すのは、睡眠改善を中心にコンサルティング事業を行う作業療法士の菅原洋平さんだ。

「狭いシートでずっと同じ姿勢をとっていると、肋骨が圧迫されて呼吸も阻害されがち。また、頭を垂直に近い状態に保ったまま眠っていると、睡眠の深さを測る睡眠段階が4段階のうち2段階目までしか到達しません。つまり、普通車やエコノミーシートでは多くの場合、眠ったつもりでも深くは眠れていないことになります」

つまり、カラダ的には本当に休めるのは水平に眠れる布団やベッド。新幹線や飛行機では眠気が取れる程度なのだ。ならば、いっそのこと割り切って移動時間の間にうまく仮眠を取り、スッキリ目覚める方法を模索した方が得策だ。

「基本的には日々の生活の中で睡眠リズムを整え、移動時もそこに沿って意識的に眠りをコントロールしましょう。その場の状況に流されてただ眠るのではダメです」

帰りは絶対寝るな! 寝るのは朝の新幹線で。

平日の朝、東京や新大阪、名古屋などへ向かう東海道新幹線の車内は日帰り出張のスーツ姿で埋まっている。ある者はパワポの仕上げに勤しみ、ある者は見積書と睨めっこ。彼らはその1時間半、2時間半という乗車時間を、ビジネスのために有効に使っている。

そして出張を終え、帰宅するべく夕方~夜間の新幹線に乗り込んだ彼らは、ひと仕事終えた解放感もあって駅で買った缶ビールをグビリ。いつしか眠り込み、下車駅のアナウンスを聞いて慌てて起きる。よくあるパターンだ。

しかし、これは睡眠の質を高める観点からするとNG行動である。

「基本的に夜の新幹線で寝てはいけません。寝るなら朝の便に限ります。その一番の理由は『睡眠圧』にあります」(菅原さん)

新幹線で上手く眠るには?

われわれのカラダは続けて起きている時間が長くなるほど「プロスタグランジンD2」という睡眠誘発物質が脳脊髄液の中に溜まり、睡眠圧が高まっていく。つまり早起きして夜遅い時間まで活動していれば深く眠れるわけだが、ある程度睡眠圧を高めるには最低7時間程度はカラダを覚醒させておく必要がある。

もうお分かりだろう。いくらひと仕事終えたからといって、帰りの新幹線で寝てしまうと、せっかく高めた睡眠圧を無駄に使ってしまう形になり、帰宅後の寝つきが悪くなるのだ。

「翌日が休みならば帰りに飲酒して爆睡しても構いません。しかし翌朝通常通り出勤するなら、ただでさえ出張で疲れているのに夜の新幹線で寝たおかげで寝不足、となるのは避けたい。だから新幹線出張が多い人ほど出張の準備は前日夜に済ませ、朝の新幹線は日頃の睡眠不足解消に徹するべき。ひいては、それが帰りの新幹線で起きておくことにもつながります」

一番ダメなのは、帰りの新幹線で眠気を我慢した結果寝落ちして深く眠ってしまうパターン。こうした眠り方をすると目覚めた後もけだるく眠気が取れなかったり、頭痛が起きたりする(これを睡眠慣性と呼ぶ)。どうしても眠いときは携帯のアラームをセットするなどして、短時間だけ眠ろう。

乗車時間が3時間を超える場合は、帰りの便で前半1時間だけ仮眠し、後半は起きる。これで帰宅後の寝つきはさほど悪くならない。

夜の新幹線では「シートは倒さない」。

いまや花粉症の時期に限らず、アレルギー対策などで一年中マスクをしている人も多いが、マスクは新幹線移動のときこそ必需品だ。

「車内はエアコンの効きすぎが気になる人も多いと思います。特に睡眠中は口が開いて気づいたら喉がカラカラになっていることも。特にこの時期、風邪予防のためにも乗車中は必ずマスクを着用しましょう」(菅原さん)

エアコンの効きすぎが気になるなら、睡眠時にこんな対策も。

「首元の冷えは睡眠を阻害するので、マフラーを緩めに巻いたまま寝るといいでしょう。大きめのマフラーなら広げて毛布代わりになります。また、小さく折り畳んで収納できるアウトドア用のジャケットを持参しておけば、それも布団代わりになります。また、周りの音や光が気になるようなら耳栓やアイマスクも必需品です」

照明についてもうひとつ。新幹線普通車の車内照明は総じて明るく、夜間でも照度を落とすことはない。それがその後の睡眠に如実に影響することも、と菅原さん。

「車内照明は家庭のリビングと同様500~700ルクス程度あると思われます。夜に500ルクス以上の光を浴びると睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が半分程度になりますから、眠気を我慢して睡眠圧を高めても、照明のおかげで帰宅後に寝つきが悪くなる可能性があります。夜の新幹線ではPCメガネをかけ、目で浴びる光を少しでもカットしましょう」

また、出張後の夜の新幹線ではシートを思い切り倒したいところだが、睡眠圧を高めるためにもそこは我慢して倒さないこと。

「シートを倒さずに過ごせば、睡眠物質が溜まって帰宅後にぐっすり眠れます。朝の新幹線で眠るときは後ろに迷惑がかからない程度に倒しても構いませんよ」

取材・文/黒田 創 撮影/大嶋千尋 イラストレーション/安ヶ平正哉 取材協力/菅原洋平(作業療法士、ユークロニア代表)

(初出『Tarzan』No.730・2017年11月9日発売)

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