腰ではなく尻が痛む。女性に多い「仙腸関節性腰痛」のセルフケア
一般的な慢性腰痛の多くは「椎間関節性・筋筋膜性・椎間板性・仙腸関節性」の4種類に分類される。それぞれ対処法は異なるが、セルフケアなしに改善はない。まずは痛みのリリースを行い、治ったら再発予防の運動を。今回は女性に多く、仙腸関節に負担がかかることで起こる「仙腸関節性腰痛」のケアを紹介する。
取材・文/石飛カノ 撮影/内田紘倫(男性モデル)、角戸菜摘(女性モデル) スタイリスト/川合康太 ヘア&メイク/山田久美子(女性モデル)、MUROKITA KANNA(男性モデル) イラストレーション/野村憲司、今牧良治、作山依里、武久真奈(すべてトキア企画) 監修/石垣英俊(ホリスティック・クーラ)、中村尚人(TAKT EIGHT)
初出『Tarzan』No.860・2023年7月6日発売
仙腸関節性腰痛とは?
本来安定感があるはずの関節に炎症が生じる
骨盤の内部にある仙腸関節はほとんど動かない。このタイプの腰痛を訴えるのは男性より女性で、とくに妊婦さん。妊娠・出産時に関節に過度の負荷がかかり炎症を起こしやすいと考えられている。
仙腸関節(せんちょうかんせつ)は骨盤の中心にある仙骨とその両側にある腸骨のジョイント部分。そもそも靱帯でがっちり固められているので脊柱の椎間関節のような可動性はなく、どちらかというと動きにくい構造。それでも負荷がかかったり加齢で関節が変性すると、不具合が起こる。
痛みが生じるメカニズムは椎間関節性腰痛と同様、関節部分に繰り返し負荷がかかって周囲に炎症が起こると考えられている。骨盤が患部なので腰ではなくお尻が痛むのが特徴で、あぐらを組むときなどに痛みが生じたらこのタイプの腰痛である可能性が高い。女性に多く見られることも特徴のひとつ。
通常は左右どちらかに痛みが出る場合が多いので、骨盤の左右差をできるだけなくし、安定させることが課題となる。
レッドフラッグサインに当てはまれば、すぐに受診を
レッドフラッグ=危険信号。腫瘍、感染、骨折など見逃せない重篤な疾患のサインのこと。まずは危険信号の有無を確認することが腰痛の診断手順の第一歩となる。下のチェック項目にひとつでも当てはまったら整形外科を受診のこと。
- HIV陽性者である。
- 食生活が不規則で偏食、または少食だ。
- ダイエットしていないのに体重が減ってきた。
- 脚の痺れなどの症状がある。
- 背骨が曲がるなどカラダが変形している。
- 熱がある。
- 発症年齢が20歳未満、または55歳以上。
- 寝ているときやじっとしていても、絶え間なく痛みがある。
- 胸の痛みを伴っている。
- がんの病歴がある。
- 長年ステロイド剤を利用している。
慢性腰痛セルフケアの進め方
慢性腰痛に関してはセルフケアなしに改善はない。ただし医療の現場では運動療法が有効とされているものの、どの腰痛にどんな運動が適当かというエビデンスはまだ出揃っていない。
そこで理学療法やマッサージの臨床現場で腰痛改善の実績を持つプロフ ェッショナルに指導を仰いだ。
中村尚人さん
教えてくれた人
なかむら・なおと/理学療法士。理学療法士として12年間の臨床経験を経て、ヨガ・ピラティススタジオ〈TAKT EIGHT〉を東京・八王子に設立。ヨガ解剖学の第一人者として雑誌、テレビなど多方面で予防医学の重要性を伝えている。
石垣英俊さん
教えてくれた人
いしがき・ひでとし/鍼灸あん摩マッサージ指圧師。〈神楽坂ホリスティック・クーラ®〉代表。オーストラリア政府公認カイロプラクティック理学士、応用理学士、国際中医専門員、心身健康科学修士など多岐にわたる資格を持つ、不調改善のプロ。
当てはまる腰痛によって対処法はそれぞれ異なるが、まずはファーストステップで痛みを軽減し、セカンドステップで再発予防のための運動を行う。この組み合わせが基本。
ステップ1:セルフマッサージで今すぐ!痛みリリース
手技によるマッサージ、テニスボールを使った持続圧迫などでまずは痛みの軽減からスタート。それぞれの腰痛に合わせたセルフケアを2〜3日実践してみよう。
その時点で効果が感じられなかったものは中断すること。とくに痛みがある部分を直接刺激するケアは即効性があるのですぐに効果の有無が分かる。そのかわり、やりすぎはくれぐれも禁物。ちょっと痛みが引いてきたと感じたらセカンドステップの運動へ。必ずこの順番で行うこと。
ステップ2:痛みが治まったら ピラティス&ヨガで再発予防
今回紹介する再発予防メソッドはピラティスとヨガ。ピラティスは体幹の安定性を養うスタビリティ、ヨガは柔軟性を獲得するモビリティのメソッド。
まずピラティスで安定させてからヨガで動かすという手順で行う。徐々に負荷を高めていき、腰痛再発をきっちり予防。レベル1が痛みも不安もなく安定してできるようになったらレベル2へと駒を進めよう。おすすめ頻度は週3回程度。もちろん毎日行ってもよし。
ステップ1:痛みリリース
仙腸関節性腰痛の応急ケアはあの手この手を使っての多方向からのアプローチ。
「踵と脛骨、腓骨を繫ぐ距骨が歪んでいると股関節から仙腸関節に負担がかかり腰痛を繰り返すことが多いので、まずはこの部位を矯正します。さらに、仙腸関節にじかにアプローチする持続圧迫、骨盤を安定させる大臀筋や外旋六筋のリリース、骨盤底筋に繫がる内転筋ほぐしなどを行います」(石垣さん)
ただし、持続圧迫はやりすぎると逆に痛める場合もあるので、様子を見ながら慎重に行うこと。
① 距骨を整える(5~10回)
踵の骨と脛の骨の間にある距骨の位置を矯正する。片足の内くるぶしの下にある距骨に反対側の踵を当てる。軸脚の膝を曲げて距骨に圧をかけながら外側に位置を矯正。逆も。
② 仙腸関節に圧をかける(30~60秒)
床に仰向けになり、テニスボールを仙骨と腸骨の間に当てる。上、真ん中、下と仙腸関節に沿ってボールをずらしながら当てて体重をかけ、圧を加える。逆も同様に行う。
③ 臀筋群を緩める(30~60秒)
床に仰向けになり、片方の手首にお尻を乗せる。そのまま股関節を外回しに回転させて片脚を移動。硬くなりがちな大臀筋と外旋六筋が刺激されて緩む。逆も同様に行う。
④ 内転筋を緩める(5往復)
床に横座りして片脚の内腿に左右の掌を重ねて乗せる。狙いは膝上から脚の付け根。上体を前傾させて3秒間圧をかけたら離して掌をずらし、再び圧をかける。逆脚も。
ステップ2:再発予防エクササイズ
左右どちらかに痛みが生じるケースが多い仙腸関節性腰痛。そこで下半身の左右差をできる限り取り除くことが再発予防のポイントとなる。
「具体的には仙腸関節を安定させる大臀筋や中臀筋、ハムストリングスを中心に鍛え、同時に股関節の安定性を養っていきます。また、レベル2のヨガは下肢の裏側全体をストレッチすることが目的。鍛えることも大事ですが下肢が硬いと仙腸関節に負担がかかるので、柔軟性を高めることもまた大事」(中村さん)
レベル2の犬のポーズがクリアできれば再発リスクはぐっと減る。
エクササイズ:レベル①
大臀筋を鍛える|レッグプルフロント(5〜10回×3セット)
床に両手と両足の爪先をつき、腕立て伏せの姿勢をとる。そのまま頭から踵までが一直線になるよう左右の脚を交互に上げる。脚を上げた方の大臀筋、軸脚の腸腰筋、腹横筋などに刺激が入ることで骨盤が安定する。
背筋を鍛える|東側を伸ばすポーズ(30〜60秒キープ)
床に長座姿勢で座り、上体を後傾させて両手をカラダの後ろで床につく。指先は手前に向ける。肘を伸ばして床からお尻を上げ、お腹を薄くするイメージでカラダを一直線にしたら頭を反らす。背面の筋肉全体が刺激される。
エクササイズ:レベル②
臀筋群を鍛える|スクーター(5〜10回×3セット)
股関節を曲げてお尻を後ろに突き出し、膝を曲げる。上体は前傾姿勢。そのまま手の動きと連動させて片脚を引き上げ、後ろに振り出す。大臀筋と中臀筋が刺激される。片側5〜10回行ったら逆も行って1セット。
下半身を伸ばす|下向きの犬のポーズ(30〜60秒×1セット)
両手と両膝、爪先を床につけてセット。床を押して膝を床から離し、股関節を引き込むようにしてお尻を天井に向けて持ち上げる。そのまま左右の足で交互に足踏み。硬くなった膝や太腿裏のハムストリングスを緩める。