「腰痛の85%は原因不明」は誤解!? 実態調査で判明した腰痛の真実
約2800万人。これは日本人の40歳以上の推定腰痛患者数。厚生労働省が行なっている「国民生活基礎調査」では男性が訴える不調のトップは常に腰痛。イマイチ原因不明だし、有効な治療もないし、もはや腰痛がある生活に慣れてしまったという人へ。諦めるのはまだ早い。近年の実態調査で、腰痛の8割は原因が特定できることが判明していた。
取材・文/石飛カノ 取材協力/鈴木秀典(山口大学大学院医学系研究科整形外科准教授)
初出『Tarzan』No.860・2023年7月6日発売
鈴木秀典さん
教えてくれた人
すずき・ひでのり/山口大学大学院医学系研究科整形外科准教授。専門は脊椎脊髄病学、脊椎外科。医療現場の第一線で、運動器疾患の治療に従事している。
長年、ほとんどの腰痛は放置されてきた
もう何年も腰痛に悩まされている。整形外科を訪れてレントゲンやMRIで検査しても原因が分からない。そりゃそうだ、なにせ腰痛の85%は原因不明という話。一生付き合っていくしか道はないのか…。
いや、それは大いなる誤解。実はきちんと調べれば多くの腰痛の原因は突き止められる。そんな可能性が開けたのは2016年。きっかけとなったのは「山口県腰痛スタディ」という研究。研究報告を行ったのは山口大学医学部の鈴木秀典さんらだ。
山口県腰痛スタディとは?
山口県臨床整形外科医会に所属する県内の整形外科医院、病院、大学病院の共同研究。県内の整形外科医院を初診した323人(うちデータ解析は320例)を詳細な診療、身体所見、局所麻酔剤による神経ブロックで確定診断を行った。
すると診断できない純粋な非特異的腰痛は22%、ヘルニアなど病気の腰痛はこれまで通り特異的腰痛だが、一般的な慢性腰痛もこのグループに振り分けられ計78%。多くの慢性腰痛の原因が明らかにされた画期的研究だ。
「画像だけでは正確な診断ができない非特異的腰痛が85%という定説は、アメリカの総合診療医らの論文が基になっています。日本ではそれが、よくわからない=原因不明と解釈され、ほとんどの腰痛は明確な治療法がないという認識が広まりました。
ところが、山口県の整形外科の開業医の先生たちが主催した学会でそれはおかしいのではないかという問題提起が起こり、山口大学と共同で腰痛症の実態を調査したのです」
どうせ原因不明なんでしょ、という腰痛患者の声に、多くの整形外科医たちはずっと悔しい思いをしていたという。調査対象となったのは自宅近隣の整形外科医院を受診した腰痛症患者。腰がイテテという状態が長引いているのでとりあえず近所の病院に行ってみました、という人々だ。
「対象者は最初の診断で79%が原因が分からない非特異的腰痛に振り分けられました。そこからアンケートや身体所見、問診、神経ブロック注射を行い、確定診断しました」
実は腰痛の8割は原因を突き止められる
痛みの原因箇所に神経ブロック注射をして痛みが取れたら、明確に診断を下せる。下のグラフをご覧あれ。
原因が確定できる特異的腰痛と診断された患者は全体の78%。つまり約8割の腰痛が診断可能で、これまでの認識とは真逆の結果となった。
「丁寧に診断を行えば多くの腰痛症は診断可能で、運動療法などの治療で対応できます。今ではそれが整形外科学会のコンセンサスで、これまでの誤解が解消されつつあります」
原因が分かればあとは自助努力するのみ。下記のように「腰痛診療ガイドライン2019」の策定委員会でも慢性腰痛に運動が強く推奨されている。
慢性腰痛に対する運動療法は有用であるか?
推奨度:行うことを強く推奨する
合意率:90.0%
エビデンスの強さ:中程度の確信がある
己の腰痛を救うのは己の力なのだ。