ギックリ腰は予防できる? カラダがカタいのが原因? 肩こり・腰痛の「ウソ・ホント」
巷間言われる肩や腰の対処法。せっせと実践するわりに良くならないなら、何かが違うはず。その真偽を検証しよう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/藤田翔 取材協力/財前知典(理学療法士)
初出『Tarzan』No.780・2020年1月23日発売
目次
1. ストレッチだけで肩こり・腰痛は良くなる?
【ウソ!】肩こり・腰痛に対抗できるセルフケアの代表選手といえば、ストレッチ。その主役となるのは、反動を使わずに、筋肉をじわじわ伸ばして、関節の可動域を広げる静的ストレッチ(以下、ストレッチ)である。
確かにストレッチはセルフケアの柱の一つになり得るが、それだけでは肩こり・腰痛は退治できない。
「ストレッチは硬くなった筋肉の柔軟性を高めるのに有効です。しかし、その筋肉が硬くなった原因まで除いてくれるわけではありません。その原因が残っている限り、ストレッチで一時的に筋肉が柔らかくなったとしても、また硬くなりやすく、肩こりや腰痛が再発しやすいのです」(理学療法士の財前知典さん)
加えてストレッチをするべき筋肉としない方がいい筋肉の見極めも大事だ。たとえば、不良姿勢で伸ばされ続けて弱くなった筋肉をストレッチしてしまうと、より弱くなり、筋力のアンバランスがひどくなって、肩こりや腰痛が強まることもある。
2. 正しい姿勢を作れば、肩こり・腰痛は良くなる?
【ウソ!】悪い姿勢がクセになると、いつも同じような筋肉にストレスが加わり、肩こり・腰痛になりやすい。
けれど、逆は真ならず。バレリーナのような正しい姿勢になったからといって、それで肩こり・腰痛と縁が切れるわけではない。
「私の経験では、正しい姿勢に矯正できたとしても、それで良くなるのは6〜7割くらい。残りの3〜4割は、姿勢を正しても、肩こりや腰痛が消えるわけではありません。不良姿勢以外にも、凝りや痛みを招く要因はいろいろ考えられるからです」
そもそも姿勢のチェックは正面と真横から〝静止画〟で行うもの。一般的に真横から見たときに頭から踵までのパーツが床と垂直に並び、正面から見たときにすべて左右対称なのが、理想的な姿勢とされる。
だが、生身の人間の動きは〝動画〟そのもの。静止画では非の打ち所がなくても、動画で見ると筋肉や関節に負担をかけているシーンが案外多いかもしれない。それが凝りや痛みをもたらすことも少なくないのだ。
3. 湿布やマッサージの効果は限定的?
【ホント!】凝りや痛みがあると、湿布やマッサージに頼りたくなる。
湿布もマッサージも気持ちいいが、その効果はその場限りで持続しない。あくまで対症療法であり、肩こり・腰痛の悩みを、根っこから解決に導いてくれるわけではない。
「湿布やマッサージは、疲れて硬くなってしまった筋肉に、〝有給休暇〟をプレゼントするようなもの。ホッとひと息つけますが、日常生活で筋肉にかかる負荷を減らしてやる〝働き方改革〟を行わないと、肩こりも腰痛もなくならないのです」
マッサージの場合、必要以上に緩めてはいけない筋肉を緩めすぎると、凝りや痛みが余計ひどくなるケースもある。
緩めすぎない方がいいのは、カラダを重力に対して支えている抗重力筋。建物の支柱のような存在である。
抗重力筋がマッサージなどで緩みすぎると、カラダの安定を保つために、他の筋肉が頑張らないといけなくなる。それが凝りや痛みを誘発することもあり得る。
4. カラダは柔らかいほどいい?
【ウソ!】筋肉や関節が硬すぎると肩こり・腰痛を起こしやすいけれど、カラダは柔らかいほどいいわけではない。事実、ベタッと開脚できる人にも肩こり・腰痛に悩む人は大勢いる。
「関節にはモビリティ(可動性)とスタビリティ(安定性)という正反対の役割があります。モビリティとスタビリティのバランスが取れていることが重要。カラダが柔らかすぎてモビリティが高まりすぎると、スタビリティを担う筋肉の仕事が増えて重荷になります」
前述のように、ストレッチには、筋肉を柔らかくして関節の可動域を広げる働きがある。でも、運動直前の静的ストレッチは避けるべき。なぜなら、筋肉と関節のモビリティが高まりすぎると動きの支点が定まらなくなり、正確なモーションと大きなパワーが出せなくなるためである。
同じように、日常生活で動きの支点を作るうえでは、筋肉にも関節にも適度な硬さとスタビリティがあった方が有利。それが肩こり・腰痛の予防と改善につながるのだ。
5. 弱い筋肉は筋トレで鍛えるべきだ?
【ウソ!】カラダに硬い筋肉と弱い筋肉があり、筋力バランスが崩れると肩こり・腰痛が起こる。だから硬い筋肉はストレッチで伸ばして柔らかくし、弱い筋肉は筋トレで鍛えて強くすべきだ…。そういう主張もある。
一見戦略としては正しいように思えるけれど、弱い筋肉を無理に鍛えようとすると、肩こり・腰痛がひどくなるケースだって考えられる。
「弱い筋肉は、必ずしも本当に弱いわけではない。頑張り続けて疲れが溜まっているだけのこともあります。そこに負荷を加えて鍛えようとするのは、オーバーワークで疲れている社員に残業を強いるようなもの。筋肉が強くなる前に疲弊してしまい、凝りや痛みが強くなる恐れもあります。トレーニング好きは〝筋肉は裏切らない〟とよく口にしますが、肩こり・腰痛に関しては筋肉が裏切るケースも考えられるのです」
どこをストレッチし、どこを鍛えるべきなのか。その見極めをしっかり行おう。
6. 何気ない動きのクセが肩こり・腰痛の原因?
【ホント!】では、肩こり・腰痛を引き起こす、最大の要因は何なのか。
財前先生は「それは間違った動きのパターンにある」と指摘する。
肩の肩関節と肩甲骨には、「肩甲上腕リズム」という運動パターンがあり、腕(上腕)と肩甲骨は決められた割合で動くように設計されている。猫背で肩甲骨の動きが悪くなると、腕の負担が増えて疲れ果て、それが肩関節まわりの凝りにつながるケースが多い。
同じように腰の腰椎と骨盤と股関節には、「腰椎骨盤リズム」という運動パターンがあり、3者は協力し合っている。坐っている時間が長いと股関節の動きが悪くなり、腰椎と骨盤にストレスが集中。腰痛の引き金となる。
「肩こりにも腰痛にも関係するのが、肩と腰のちょうど真ん中にある胸椎の運動パターン。胸椎の動きが悪いと肩にも腰にも負担がかかるので、肩こりや腰痛が起こりやすいのです」
デスクワーク中心の運動不足の生活で、忘れがちな正しい運動パターンをカラダにインプットする。これが凝りや痛みと無縁の生活を送る第一歩なのである。
7. 枕を替えれば肩こり・腰痛は良くなる?
【ウソ!】旅先で慣れない枕やベッドで寝た翌朝、カラダの凝りや痛みがひどくなっていることがある。どうやら肩こり・腰痛には、寝ている間にカラダを支える枕やベッドといった寝具も影響しているらしい。
かといって万人を肩こり・腰痛から救う魔法の枕やベッドがあるわけではない。何がフィットするかは人それぞれ。寝転んで自由に体験できるショップを訪れて、自分にとってラクな姿勢が取れる寝具を選びたい。
たとえば、寝相が悪くて寝返りをたくさん打つタイプは、寝返りが打ちやすいようにやや硬めのベッドがいい。逆に寝返りが少ないタイプは柔らかめのベッドがいいだろう。
大切なのは、枕とベッドを別々ではなくワンセットで考えること。
「硬めのベッドは沈み込みが少ないのでやや高めの枕が合う。柔らかめのベッドは沈み込みが大きいので、やや低めの枕が合います」
寝具を試すときは、枕とベッドをあれこれ組み合わせながら、寝心地をじっくり確認するようにしたい。
8. 四十肩・五十肩は年齢のせい?
【ウソ!】歳を取ったら老眼になるように、40代になったら四十肩、50代になったら五十肩になるのは仕方ない。そう諦めがちだが、本当なのか。
「四十肩・五十肩は俗称。正式には、肩関節周囲炎と呼び、肩関節の筋肉の腱や、関節を包む関節包などで起こる炎症から痛みが生じます」
いつも決まった筋肉や関節に負担が加わり続けると、その刺激で炎症が起こりやすい。肩関節周囲炎は、使いすぎから起こるオーバーユース症候群なのだ。歳を重ねるにつれてオーバーユースが起こりやすいのは確かだが、使いすぎると20代や30代で発症してもおかしくない。
肩関節周囲炎の発端は、肩まわりの連携プレーの乱れ。肩甲骨、肩関節、胸郭は本来、協調して動く。その一つが、先述の肩甲上腕リズム。だが肩甲骨や胸郭の動きが悪いと、肩関節にオーバーユースのダメージが集中。炎症から四十肩・五十肩を招く。肩甲骨、肩関節、胸郭が滑らかに協調していれば、40〜50代でも四十肩・五十肩は避けられるのだ。
9. 筆圧が強い人は肩こりになりやすい?
【ホント!】肩こりの誘因は、肩まわりだけにあるとは限らない。手や腕の凝りが、肩こりに波及することもある。
その一因となるのが、パワーグリップとプレシジョングリップのミスマッチ。パワーグリップとは、ハンマーを打つときのように力を入れる握り方。プレシジョングリップとは、文字を書くときのように繊細な動きが求められるときの握り方だ。
「ストレスがあると力みすぎてしまい、無意識にパワーグリップでペンを握り、手や腕が緊張しがち。手や腕の筋肉と肩の筋肉はつながっていますから、手や腕の力みが肩まわりの筋肉のテンションを高め、肩こりになるケースもあるのです」
この種の肩こりがあるかのチェック法がある。手のひらを天井に向けて両腕をデスクに投げ出し、力を抜く。左右で親指がより内側に入っている方は、拇指球筋という親指の付け根の筋肉が緊張している証拠。同じ側の肩が張っているなら、手・腕由来の肩こりである可能性大だ。
10. ギックリ腰は予防できない?
【ウソ!】床に落ちたものを拾おうと前屈みになったり、くしゃみをしたり。そんな些細なきっかけで腰に激痛が走ることがある。ギックリ腰だ。
ギックリ腰は俗称。医学的には、急性腰痛症の一種である。
しばらく安静にしていると治るが、それに甘えて元の怠惰な暮らしに戻ると、ギックリ腰は再発しやすい。なんとか防ぐ方法はないものか。
「ギックリ腰の多くは、仙腸関節のオーバーモビリティ(動きすぎ)から起こります。この動きすぎがちゃんと抑えられたら、ギックリ腰の再発防止につながります」
仙腸関節とは、背骨の末端にある仙骨と、骨盤の腸骨が作る関節。ほとんど動かない関節だが、わずかな可動性がある。そこで腸骨をキュッと引き締めて、仙腸関節の可動性を抑えてやると、ギックリ腰の予防になるというワケ。
具体的には、骨盤底筋群、腹横筋、横隔膜、多裂筋といった体幹のインナーマッスルを鍛えるのが有効。