起きたくない、微熱が続く。“朝のサイン”で体調チェック【後編】
カラダの調子をチェックするのに、寝起きは最適なタイミング。安静時でノイズ(余計な情報)が一番少ないため、リアルなサインを把握しやすいからだ。そこで、今回は微熱や胸焼け、便の色の異変といった朝のカラダのサインからわかることや、そのために必要な対処法を紹介。 医師のアドバイスを参考に自分の心身をモニタリングしよう!
取材・文/井上健二 イラストレーション/谷端実 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.854・2023年4月6日発売
狭間研至先生
教えてくれた人
はざま・けんじ/地域医療の現場で医師として診察を行う傍ら、一般社団法人日本在宅薬学会理事長として薬剤師の生涯教育にも尽力している。医療法人嘉健会思温病院理事長・院長、医学博士。
目次
起床直後は体調を確認するベストタイミング
ベストコンディションを維持したいなら、つねに自分の心身の実態を知り、モニタリングしたいもの。いわば心身の声を聞くベストタイミングは、毎朝の起床直後。安静時でノイズ(余計な情報)がいちばん少ないため、リアルなサインを把握するのに最適なのである。
また、健康の基本のキは「快眠・快食・快便」とよくいわれるけれど、朝ならその状況を3つ残らずチェックできる。そこで現役の医師に、朝チェックしてみるべきポイント、そこからわかること、対処法について聞いてみた。
健康診断はせいぜい年1回だが、朝のモニタリングはその気になれば毎日行えるのがメリット。体調の変化を手帳やスマホなどに記録して、月1回→週1回になるなど不調の頻度が明らかに増えたり、そのレベルが上がったりしたと思ったら、早めに医療機関を受診してほしい。
チェック① 眠ったはずなのに疲れが取れない
たっぷり眠ったのに起きたらしんどいし、午前中から眠たい…。そんな状況から抜け出せないなら、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑惑アリ。これは睡眠中に呼吸が頻繁に止まり、脳が低酸素に晒される病気。ひどいイビキに悩まされる。
「止まるたびに脳が覚醒して呼吸を再開するので、本人は眠ったつもりでも、実際はほとんど眠れず、眠気も疲労も取れない。放っておくと運転中などの意図しない居眠りの引き金となり、血管への負担が大きくて高血圧や心臓病のリスクも高まります」(狭間研至先生)
パートナーがイビキでSASに気づくこともあるが、一人暮らしだと見過ごされやすい。異常な眠気を感じたら、早めに睡眠外来へ。
チェック② 起きたくない
朝はフィジカル面だけではなく、メンタル面のチェックにも好適。
「しんどくて起きたくない、仕事に行きたくないといったネガティブな気持ちが続くときは、うつ病の前触れかもしれません」
加えて、好きだった趣味に興味を失う、楽しみにしていたものが楽しくなくなるといった自覚があるなら、それもうつ病のサイン。
起きたら、まず朝日を浴びる。うつ病は脳内でセロトニンというホルモンの働きが落ちているが、網膜が光を感じると脳内でセロトニン分泌が促される。また、ウォーキングのようなリズミカルな呼吸を伴う軽めの運動も、セロトニン分泌を活性化する。こうした努力を重ねても朝のしんどさが変わらないなら、心療内科や精神科を受診してみよう。
チェック③ 朝からだるい
朝は本来、いちばん元気な時間帯のはず。それなのにだるさや疲れを感じるなら、貧血を考えてみる。カラダの細胞は、酸素を介して活動エネルギーを得ている。その酸素を運ぶのが血液。赤血球内のヘモグロビンが酸素を運搬している。
その大事なヘモグロビンの成分として欠かせないのが、鉄。鉄不足だと酸素が隅々まで十分に供給されなくなり、エネルギー不足でだるさや疲れが生じる。鉄欠乏性貧血だ。
「とくに月経で血液を失う女性は、鉄欠乏性貧血に陥りやすい。この他、造血作用を持つ腎臓の機能低下で、貧血になるケースもあります」
鉄欠乏性貧血が不安なら、赤身肉やレバーなどから鉄を摂取。腎機能も念のために健康診断などで確認を。
チェック④ 頭痛・ふらつき・めまいがある
「ヒトは血管から老いる」という名言がある。細胞は、血管が運ぶ血液で養われるから、血管が劣化したら老化が進み、健康は損なわれる。その血管にもっともダメージを与えるのが、高血圧。日本人の3人に1人は高血圧だといわれる。高血圧を放置すると動脈硬化が進み、心臓病や脳卒中のリスクを押し上げる。
“サイレントキラー”の異名を持つ高血圧は痛くも痒くもないが、朝ならそれを比較的自覚しやすい。
「目覚める前後に、血圧が急に上がるモーニングサージという現象が起こります。その際、血圧が高すぎると頭痛、ふらつき、めまいなどを感じることも少なくありません」
思い当たるなら、家庭用の血圧計を購入。毎朝きちんと血圧を測ろう。最高血圧135mmHg、最低血圧85mmHgをたびたび超えるようなら、迷わず循環器内科へGO。
チェック⑤ 胸焼けがする、空咳が出る
朝食前なのに、胸焼けを感じたら、単なる夕飯の食べ過ぎではなく、逆流性食道炎を疑ってみたい。
胃は、食べ物を殺菌消毒する胃酸を分泌する。胃壁は粘液で胃酸から守られているが、胃と隣り合わせの食道は胃酸には無防備なまま。食道と胃の境目には、下部食道括約筋というリング状の筋肉のベルトがあり、胃の入り口をギュッと縛って胃酸の食道への逆流を防いでいる。
「ところが、加齢などでこの筋肉が弱く緩くなった人が横になると、首の長い花瓶を横倒しにしたように、胃酸が食道へ逆流し、胸焼けなどを起こす逆流性食道炎が生じます」
また、胃酸の刺激で空咳が起こり、睡眠を邪魔することも少なくない。食べ過ぎ、早食い、脂っこい食事を避け、節酒・禁煙を心がけよう。
チェック⑥ 便の色がおかしい
下痢や便秘を繰り返すのは、腸内環境が乱れている証拠。全粒穀物や豆類といった発酵性食物繊維や乳酸菌などの摂取を増やしたい。同時に便の色も確かめてみよう。
通常は黄褐色だが、黒っぽくなるタール便は、胃や十二指腸に潰瘍などが生じて出血している恐れがある。血中のヘモグロビンが便に混じるまでに酸化され、黒っぽくなるのだ。赤みを帯びるなら、痔や大腸での出血が考えられる(酸化する時間がないので、黒ではなく赤いままだ)。
「白っぽい便も要注意です。便の黄褐色は、胆汁のビリルビンという色素の色。胆石や膵臓がんなどで胆汁が腸管に流れにくくなると、便が白っぽくなります。この場合、行き場を失った胆汁は血中へ入り、白目や爪を黄色くする黄疸が起こります」
チェック⑦ 理由なく体重が減った
体重の増減は、健康状態を反映している。ダイエット中でなくても、体重はできれば毎朝量ろう。体重が少しでも増えるのには敏感な反面、体重が減っていたら「ラッキー!」と無邪気に喜びたくなるが、それはアウト。食事制限も運動もしていないのに体重が減少するのは、カラダからのSOSにほかならない。
第一に想定されるのは、甲状腺の機能が亢進するバセドウ病。バセドウ病では、基礎代謝が上がりすぎるため、カロリーカットをしなくてもどんどん痩せる。とくに30〜40代の女性に多く見受けられ、動悸や息切れ、手足の震え、疲れやすさなどの症状も出てくる。
男女を問わず、理由なき体重減少は、がんによるものかもしれない。
「がん細胞は多くのエネルギーを消費しながら急速に成長する。そのため体重減少を伴うことがあります」
チェック⑧ 微熱が続く
コロナ禍以降、誰しも体温の変化には敏感になった。平熱には個人差もあるが、コロナ禍で改めて自分の平熱は把握できたはず。朝起きたとき、それを超える発熱があり、咳などの症状も伴えば、コロナなど感染症を真っ先に疑う。
では、平熱よりやや高い微熱が日中も続くときはどう考えるべきか。
「微熱に加えて咳が止まらないなら、肺結核の可能性があります」
肺結核というと大昔の伝染病というイメージも強いけれど、いまでも日本では年間約2000人が肺結核で亡くなっている。コロナと同じく、現在進行形の感染症なのだ。早期発見、早期治療が大切なので、思い当たるときは早めに医療機関を受診するべし。また、膠原病などの自己免疫疾患でも、全身倦怠感などとともに微熱が長引くこともあるから、要注意。