肝臓の状態を知るためにできること、肝臓のためにできること
沈黙の臓器、肝臓。その状態を知りたいなら活用すべきは健康診断の結果。肝機能の検査項目と基準値、そこからわかることを専門の医師に教えてもらった。まずいと思ったら、併せて紹介する改善法もぜひお試しを。
取材・文/井上健二 イラストレーション/市村ゆり 取材協力・監修/尾形哲(肝臓外科医、長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長)、栗原毅(栗原クリニック東京・日本橋院長)
初出『Tarzan』No.847・2022年12月15日発売<br />
教えてくれた人:尾形哲
おがた・さとし/佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。神戸大学医学部卒業。パリ、ソウルの病院で肝移植手術を多数経験後、帰国。日本でも生体肝移植を多く手掛ける。医学博士。
教えてくれた人:栗原毅さん
くりはら・たけし/栗原クリ ニック東京・日本橋院長。北里大学医学部卒業。東京女子医科大学で肝臓病学を専攻し、教授に就任。生活習慣病の予防・治療を目的としたクリニックを開設する。医学博士。
AST、ALTは基準値内でも安心できない
黙する肝臓のご機嫌を知るのに、欠かせないのが血液検査。
肝臓が作る3つの酵素、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPの値をチェックしよう。ことに危険な脂肪肝の早期発見には、ASTとALTのモニタリングが欠かせない。だが、ASTとALTが基準値内でも安心するのはちと早計。
「基準値はどちらも10〜30IU/Lですが、私の長年の臨床の経験を踏まえると、ASTとALTの両方が16IU/Lを超えてきたら、すでに脂肪肝が始まっていると覚悟してください」(肝臓専門医の栗原毅先生)
同じく基準値内でも、ALT>ASTなら脂肪肝が疑われる。
γ-GTPは、肝臓で作られて胆汁に排泄される酵素。アルコールの摂取量に敏感に反応することから、基準値(0〜50IU/L)を上回っていたら、アルコール性脂肪性肝疾患が疑われる。節酒、禁酒に励もう。
肝機能の検査項目と基準値
基準値 |
理想値 |
|
---|---|---|
AST(GOT) |
10〜30IU/L |
5〜16IU/L |
ALT(GPT) |
10〜30IU/L |
5〜16IU/L |
γ-GTP |
0〜50IU/L |
– |
後戻りが困難な線維化をチェックしよう
脂肪肝の線維化が進み、いざ肝硬変が始まると、後戻りさせるのはひと苦労。そこで活用したいのが、線維化の度合いを推定する「FIB-4インデックス」というスコアリングシステム。下記のサイトで手軽に調べることができる。
年齢、AST、ALT、血小板の数値を入れると、線維化リスクを評価してくれる。
「この値が1.3以上だと線維化が始まっている恐れがある。2.6以上だとハイリスクです。1.3以上の人は、より高精度の超音波エラストグラフィー検査を受けてみてください」(肝臓外科医の尾形哲先生)
前述のサイトでは、年齢、AST、ALTの他に、血小板の値も入れる。他の3つはわかるとして、なぜ血小板が線維化に関係しているのか。
「線維化が進むと、硬い肝臓内へ血液を送り込むために門脈圧が上昇します。門脈圧が上昇すると、脾臓が大きくなったり腹水が溜まるようになったりします。
脾臓が大きくなると、血液の墓場である脾臓の機能が高まり、分解される血小板の数が増えて血中の値が下がるのです」
AST、ALT、血小板が基準値内でもインデックスでは線維化リスクありとなることも。早速試そう。
本当の悪玉小粒子LDLコレステロールを防ぐ
肝臓が作るコレステロールはLDLコレステロールとHDLコレステロールの2つ。
俗に、HDL-Cはコレステロールを減らす善玉、LDL-Cはコレステロールを増やす悪玉だが、近年LDL-Cに真の超悪玉が見つかった。より小粒で比重が高いsdLDLコレステロールだ。
通常のLDL-Cは、細胞表面の受容体と結合して働くが、sdLDL-CはLDL-Cより小型なので、受容体にキャッチされにくく、血中を長く漂い続ける。またsdLDL-Cは小粒で動脈壁に潜り込みやすく、活性酸素で酸化されると、ドミノ倒し的に動脈硬化が起こるのだ。
「健康診断ではsdLDL-Cは測定されませんが、35mg/dL未満が正常値と考えられます」(栗原先生)
詳細は不明だが、中性脂肪が多いとsdLDL-Cは増えやすい。sdLDL-Cに注意すべき人の特徴を下のリストで確認しておこう。
sdLDLコレステロールが高くなりやすい人
- 中性脂肪値が300mg/dL以上である。
- HDLコレステロール値が40mg/dL未満である。
- ヘモグロビンA1cが7.0%以上である。
高カカオポリフェノールが肝臓を救う
活性酸素による酸化は、動脈硬化以外でも肝臓を蝕む。肝臓で酸化が進むと、エネルギーを作る細胞のミトコンドリアを障害。代謝が落ち、脂肪が溜まり、脂肪肝が進行するのだ。
それにストップをかける救世主が、カカオ分70%以上の高カカオチョコレート。
チョコ=砂糖の塊というイメージが強いが、高カカオチョコは低糖質。砂糖の代わりに豊富に含まれるカカオポリフェノールには、強力な抗酸化作用があり、肝臓を活性酸素から守る。カカオのポリフェノール量は、赤ワインの約4倍だ。
「ポリフェノールは水に溶ける水溶性で摂り貯めできない。高カカオチョコを1回5g、5回に分けて摂るのがオススメです」(栗原先生)
また意外にも、高カカオチョコは、オートミールやゴボウなどより食物繊維がリッチ。食後の血糖値の上昇を抑え、脂肪肝を促す余分なインスリン分泌を抑える効果もある。
腸内環境を整えると肝臓が蘇る
腸内環境の乱れは、肝臓にもダメージを与える。理由は2つある。
腸内環境が悪化して便秘になると、大腸内に便が長く留まる。その間に腸内細菌がそこから栄養を吸収するため、カロリー過多から肥満、脂肪肝が生じやすい。これが理由1。
腸管は有害物を防ぐバリア機能を持つが、腸内環境が乱れるとそれが破綻。悪玉菌が作る毒素・エンドトキシンが侵入しやすくなる。エンドトキシンは門脈を介して肝臓に達し、脂肪肝からより危険な脂肪肝炎への移行を促す。これが理由2だ。
「便秘薬で便秘を解消し、腸内環境を良くすると脂肪肝炎が改善したという報告があります」(尾形先生)
腸内環境を整えるには、乳酸菌のように有益な微生物を摂り入れるプロバイオティクスと、野菜や穀物や海藻などから善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を摂り入れるプレバイオティクスの双方が有効だ。