アイドルに必要な「体力」ってどんなもの? AKB48・岡田奈々さんに聞く、心とカラダとの付き合い方
昨年夏、「根も葉もRumor」での激しいロックダンスが注目を集めたAKB48。同曲はTikTokでも繰り返しコピーされ、YouTubeなどで“やってみた”ダンス動画が続々と投稿されるなど社会現象化しました。今回はその「根も葉もRumor」でセンターを務めた岡田奈々さんに、「アイドルに必要なカラダと体力とは?」をテーマにお話を伺いました。
取材・文/中野慧 撮影/大内カオリ<br /> 衣装/プルオーバー¥33,000、スカート ¥61,600、ブーツ ¥41,800(全てメゾン ミハラヤスヒロ tel. 03-5770-3291)。
目次
コロナ下が「根も葉もRumor」のパフォーマンスを生み出した!?
――AKB48は「根も葉もRumor」、そして続く「元カレです」でのダンスパフォーマンスで新たな注目が集まりました。我々は『ターザン』なので、まずは「アイドルに必要な体力とは?」について、「根も葉もRumor」でセンターを務めた岡田さんに伺えればと思います!
岡田奈々さん(以下、岡田):おおー(笑)。そうですね、アイドルに必要なのは…ハードスケジュールに耐えられる強いカラダと心、ですね。今は心身ともにスタミナがある子が這い上がっていっている感じがします。
――岡田さんはもう10年、AKBで活動し続けていらっしゃいますけど、ご自身や周囲の体力面での変化は感じますか?
岡田:それは…色んなところで感じます! 私が10代のときは精神的にも肉体的にも弱くて、体調を崩したり、落ち込んでしまって布団から動けない、ということもありました。でも今のメンバーは心身ともに強い子が多くて、みんな全然泣かないし、休むこともあんまりなくなってきていて。
――それは、どうやって強くなっていったんでしょう。ジムに通ったりとかランニングしたりとか…?
岡田:私の場合は、毎日たくさんの楽曲のレッスンに追われていくうちに勝手に体力がついたんです(笑)。AKBの曲は何百曲とあるので、ダンスの振りを覚えるために、朝から晩までレッスン場にこもってハードな練習をして、コンサートやツアーに行って、場数を踏んで成長していく感じでしたね。
――どれぐらいのスケジュールだったんでしょう。週5日ぐらいとか…?
岡田:いや、もう毎日です。一日じゅうレッスンまたはコンサートや劇場公演で、家にいるときも曲の歌詞、立ち位置、振り付けを覚えて…と、脳がいくらあっても足りないんですよ。最初の頃は実家から通っていたんですが、当時の睡眠時間は3〜4時間ぐらいで、移動の電車の中で寝てカラダを休めていました(苦笑)。
――想像を絶するハードさですね…。「アイドルと体力」については後ほど詳しく伺えればと思いますが、AKB48は昨年(2021年)の「根も葉もRumor」で、激しいロックダンスが注目されましたよね。ロックダンスに取り組むことになったのはなぜだったんですか?
岡田:最初は、秋元先生が「ロックダンスやりたい!」と言い出したことがひょんなきっかけだったんです。でも、「根も葉もRumor」からみんなの意識が本当にガラッと変わったんですよ!
――どういうことなのでしょう?
岡田:それまでって、みんなそれぞれ違う仕事をしていたこともあって、レッスンにそこまで時間をかけられなかったんです。だけどコロナ禍で他の活動が制限されたことで、みんなで集まってたくさん練習をするようになって、お互いに指摘し合うことも増えて…。
――おおー。指摘し合える関係になるって、なかなか難しいですもんね。
岡田:そうなんです(笑)。AKBは大人数いるので、みんながみんなダンスに前向きだったわけじゃないですし、私もダンスに苦手意識があるから、最初はやりたくなかったんですよ。でも練習を重ねて、みんなでクオリティの高い一つの作品を作っていくことはすごく楽しかったですし、それを通じてみんなの絆が深まったのが良かったなって。
――最初のきっかけこそ秋元さんだったけれど、取り組んでいくうちにメンバーのみなさんがどんどん主体的にコミットするようになっていって、あの素晴らしいパフォーマンスが生まれていったんですね。
ロックダンスに必要なカラダって?
――そもそもアイドルのみなさんがやっている「歌いながら踊る」って、相当難しい身体運動なんじゃないかと思うんです。どうやって上手くなるんでしょう?
岡田:そうなんです、すごい難しいんですよ〜! 上手くなる方法かぁ…AKBって基本的に、ダンスレッスンとかボイストレーニングといった基礎レッスンがなくて、とにかく実戦を重ねて上手くなっていく方式なんです。だからたとえば、レッスン中にマスクをして歌いながら踊っていくというのはやったりしますね。
――吸える酸素量を制限して肺活量を鍛える、高地トレーニングに近いことをやったりするわけですね。岡田さんの場合、「ダンス上手くなってきたな」と思えてきた時期って、いつぐらいなんですか?
岡田:いやいや、全然上手くならないです。「根も葉もRumor」のダンスは、自信をもってステージに上がれるぐらい時間をかけて練習したので、できるようになったことなんですよ。過去に一番練習した曲と比べると、だいたい100倍ぐらいの練習量かな(笑)。
――100倍! ロックダンスはすごく習得が難しそうですが、どうやってできるようになったんでしょう?
岡田:一番大きいのは、振り付けを作ってくださった神田橋純さんが顧問をしている三重高校ダンス部OGの方たちの、超スパルタ教育を毎日受けたことですね。
――話題になったダンスプラクティスバージョンのPVで、「頑張れー!」「できるよー!」って、応援している方たちですか?
岡田:そうです! もう、メンバーみんなにとっての先生です。いっぱい怒られて成長しました。
――なるほど。踊る以外のトレーニング内容も変わったりしましたか?
岡田:今まではみんなで筋トレに取り組むことってなかったんですけど、「根も葉もRumor」は体幹が強くないと踊れない曲なので、体幹トレーニングをしっかりやるようになりました。先生も一緒になって全員で、一曲まるまる5分の「根も葉もRumor」の曲をかけてプランクをやったり、横向きになったり、上下に動いたり。
――プランクやピラティス的な体幹を鍛えられるエクササイズをやるわけですね。しかし5分間のプランクってめちゃめちゃキツそう…。
岡田:初めてやったときは、家に帰って寝て次の日に起きたら、布団から起き上がれなかったです(笑)。今までのダンスは首とか足が痛くなることはよくあったんですけど、「根も葉もRumor」のレッスンでは初めて体幹が筋肉痛になりました。
――それは、めちゃくちゃ効いてますね(笑)。
AKBメンバーの「体力」との向き合い方は?
――10年前(2012年)に公開されたドキュメンタリー映画『Documentary of AKB48 Show must go on』を初めて観たときに、前田敦子さんはじめ当時のメンバーのみなさんがコンサートのバックヤードで過呼吸になったりしている様子が描かれていて、「アイドルってそんなに体力が必要なんだ!」と衝撃を受けたんです。岡田さんやAKBメンバーのみなさんって、今はどういうふうにカラダと心をケアしているんでしょう?
【予告】「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on」/ AKB48[公式]
岡田:映画に出てきたのは、コンサート中に体力が限界を迎えてしまったり、精神的なプレッシャーが強かったり…という場面でしたよね。思い返すと昔は、水を飲むのも「いいよ」って言われないと飲めない雰囲気だったりしました(笑)。でも今は、水分補給は自由にやっていますね。
――昔はかなり体育会系だったけれど、今は自分のペースでやれる環境になっているわけですね。
岡田:そうですね。今の方が強い子が多くなっている気がします。というのは、それぞれが自分の体力を何となくわかってきているんですよ。「もう疲れた」と思った子はレッスン中に自主的に休憩に入りますし、やる子はやり続けるし、マイペースにそれぞれやっている感じです。
――「根も葉もRumor」以降、激しいダンスを踊るようになったと思うんですが、ケガしてしまうこともあるのでは?
岡田:ロックダンスは下半身を酷使する動きが多いので、膝・股関節を痛める子は多かったですね。ケガしてしまったときは、AKBメンバーが通う整骨院があって、そこに駆け込んでケアしながら、無理しない程度にレッスンに参加したり、あるいは見学だけしたり、というふうにやっています。
――なるほど。今、すごく気になってしまったんですけど、若いメンバーが多い中で最年長の柏木由紀(ゆきりん)さんは、カラダの負担も大きいのではと…。
岡田:たしかに! でも、ゆきりんさんはあんまり怪我しないんですよ。自分の体力をわかっていて、「ここまでやったら危ないな」というときは一旦休んだりして、上手く調整しながら取り組んでいらっしゃるみたいです。
――やっぱり「自分の体力の見極め」が、大事になっているわけですね。
今のAKBメンバーはプロテイン大好き!? アイドルとコンディショニング
――食事や栄養素のことも気になります。今のAKBのみなさんって、プロテインなどのサプリメントを活用していたりもするんですか?
岡田:もうみんな、プロテイン大好きですね(笑)。レッスン前後に飲んだり、食事に取り入れたりしている子はすごく多いです。ただ、私は飲まないんですよ。好きな食べ物を食べて必要な栄養素を取って、ストレスフリーに生きたいなと思って。
――なるほど。トレーニーのあいだでもプロテインを使わず、「好きなものを食べたい」とか「普段の食事でタンパク質を摂っていれば十分」という人もいたりしますね。
岡田:そうですよね、やり方は人それぞれなのかなと。私の場合、大事なライブで体力を使いそうなときに、寝る前と朝起きてからアミノバイタルを飲むようにしているぐらいです。
――アミノバイタル、重要ですよね。食事ということでいうと、岡田さんは2016年の選抜総選挙で摂食障害になっていたことを話されていましたが、アイドルの方は体型管理のプレッシャーもすごく強いわけですよね。
岡田:高校生〜20歳過ぎぐらいまでは本当に悩んでいました。昔は野菜が嫌いでジャンキーなものが好きだったんですよね。でも今はそこまで悩むことはないというか、「ある程度まで気にする」ぐらいの感じです。野菜、梅干し、納豆、昆布とか、おばあちゃんみたいなものが大好きになってます(笑)。
――かなり意識が高くなっている…?
岡田:いや、私はすごく意識的にやっているというわけではないんです。普段からお腹が空いてなかったら、その間は食べないようにするとか、お弁当を食べるときも、そのときの自分の感覚で「今日は炭水化物だけ抜いておこう」ってセーブするぐらいです。まあでも、一番心掛けているのは食べない時間を16時間ぐらいおくってことですね。
――いわゆる「16時間ファスティング(※)」ですね。たしかに食事や栄養って、「ゆるい管理」ぐらいにとどめておくのが意外と大事かもしれません。岡田さんの場合、カラダのケアはどういうふうにしているんですか?
岡田:踊る前はしっかりストレッチをする、家に帰ったら湯船に浸かってストレッチをして足のマッサージをして寝る、マッサージガン(※)を使って筋肉をほぐしたりするぐらいですね。岩盤浴、サウナ、温泉も好きなのでときどき行っています。
――カラダと同時にメンタルのケアもしている感じですね。アイドルにとって、メンタルを健康的に保つために大事なことってなんでしょう?
岡田:一番大事なのは、ストレスを発散する時間をちゃんと確保しておくことだと思います。空き時間を上手く利用してカラダを休めたり、息抜きをするタイミングを前もって計画しておいたり。ただ私の一番の気分転換は、髪色を変えることかな(笑)。真っ黒にしたり真っ青にしたり、髪色を変えると見た目が変わるので、気持ちも切り替わるんですよ。意外と、そういうことで保っていたりします。
――なるほど。岡田さんの髪色や髪型がよく変わるのは、気分転換という意味でも大事なことだったわけですね。ちなみに我々『ターザン』って「運動がメンタル面にも良い影響を及ぼすのではないか」ということを、専門家の方に話を伺ったり、科学的な研究成果をもとに紹介したりしているんですけど、岡田さんはダンスを激しく踊るようになって、そういったことは感じたりしますか?
岡田:あー、運動とメンタルの関係ってすごいあるなと思って! アイドルをやっていて精神的に疲れたときでも、劇場公演で2時間ライブパフォーマンスすると、その後すごいスカッとしてるんです。やっぱり運動で汗を流すことって、一番のメンタルケアになるんじゃないかなって思います。
「カッコいい」と「かわいい」の振り幅
――ここからは「アイドルの身体と表現」ということについて伺いたいと思います。「根も葉もRumor」、そして次の「元カレです」はダンスパフォーマンスでのカッコよさが前面に出ていると思います。「カッコいい」路線というと、かつては「RIVER」や「Beginner」のような曲もありましたよね。
岡田:そうですね。私自身、かわいらしい楽曲よりも「RIVER」とか「Beginner」みたいなカッコいい曲、ダークな曲が好きだったんです。「根も葉もRumor」以降に「カッコよくいること」が当たり前にできるようになってきたのは嬉しかったですし、やりがいがありました。
――なるほど。ただ、「RIVER」「Beginner」と、「根も葉もRumor」って、ちょっと違うカッコよさがあるのかなと思ったんです。
岡田:おおー!?
――ちょっとスポーティーなカッコよさがあるのかなって。「根も葉もRumor」って、ロックダンスという新しいジャンルに挑戦したわけですよね。それ以前のダンスと比べて、どういう違いがあったんですか?
岡田:あー、それはですね、今までのダンスって「振り付け」だったんです。そういうなかでアイドルってダンスでは「自分がかわいく見える角度」を考えて表現したりするんですよ。
でも「根も葉もRumor」のロックダンスって、そういう「アイドルの表現力」で勝負できないんです。腕と足の通らなきゃいけない軌道が決まっていて動き自体も直線的で、ダンスの基礎知識をきちんと理解して、その動きをカラダに馴染ませないと上手く踊れないんです。そこが今までとの違いなのかもしれません。
――なるほど。そして続く「元カレです」も難しいダンスナンバーでしたけど、「根も葉もRumor」のダンスとの違いはどういうものだったのでしょうか。
岡田:「根も葉もRumor」は体幹が大事で全力疾走している感じなんですが、「元カレです」は蹴り技が多いので脚力も必要で、ミドルテンポの曲なので400m走のような難しさがありましたね。
――「元カレです」には、パフォーマンスの出方にK-POP的な感性があるように感じたんです。韓国でIZ*ONE(アイズワン)として活動してきた本田仁美(ひぃちゃん)さんが復帰したことの影響などもあったのかな? と思ったのですが。
岡田:ひぃちゃんからは「韓国ではこうやってたよ」ということを色んな面で教えてもらえて、すごくいい影響を受けていると思います!
もちろん組織の成り立ちが違うので、AKBで韓国のやり方の全部を取り入れることはできないんですけど、たとえばダンスの動きをビデオに撮ってコマ送りで細かく見ていったりとかは、やるようになりましたね。あと個人的には、ひぃちゃんが派手髪だから私が浮かなくなったのがすごく嬉しい(笑)。
――なるほど(笑)。アイドルって「魅力が実力を凌駕している存在(※)」というふうに定義されたりしますよね。「実力」というのは歌やダンスの上手さ、ルックスのかわいさで、「魅力」というのはそれ以外の要素なわけですよね。岡田さんはそういった点を、どういうふうに考えていらっしゃるんでしょう。
岡田:それは、すごくわかります。私も10年やってきて、自分はダンスも下手だし、歌も別に上手くないのに、なんでセンターとかのいいポジションが貰えるのかっていったら、実力以外の何かがあるのかも、とは思います。
今、ファンの人から支持が厚いメンバーって、愛嬌があるだけじゃなくてステージに対する熱意がある人が多いんですね。考えてみると、神7(セブン)の方々もステージではすごくキラキラしていました。ステージに立つ人って、歌やダンスが上手ければいいというものでもないと思うんです。そういう「人間力」みたいなことも、アイドルには必要なのかなと。
――でも、今のAKBの皆さんは「実力」をすごく付けていこうとしている感じもするんです。これからAKBはダンスや歌の表現を磨いて、K-POPアイドルのようなダンス&ボーカルグループになっていくのでしょうか?
岡田:そう思ったんですけど、ダンスで2曲攻めたので、今度出た新曲「久しぶりのリップグロス」は、アイドル路線に原点回帰する曲になっているんですよ。「根も葉もRumor」でロックダンスをやってカッコいいAKBになって、「元カレです」でも難しいダンスナンバーに挑戦して、そこで表現の自由というか、振り幅が出てきたのかなと思います。
――おお、どういうことなんでしょう?
岡田:メンバーのなかには「アイドルらしくかわいらしくいたい」という子もいれば、私みたいに「カッコよくいたい」という子もいて、そのなかで「『根も葉もRumor』ではこんなにカッコいいのに、『ヘビーローテーション』みたいな王道アイドル曲ではすごくかわいいね」ということになったら、それがすごく面白いなって。
――なるほど、それはたしかに魅力的ですね。ちなみに岡田さんの考える「アイドルの人間力」って、どういうものなのでしょう…?
岡田:うーん…どんな出来事に遭遇しても取り乱さないような強い精神力、いろんなものを受け止められる大きな心。あまりピリピリしないというか、いつも機嫌よくいられる人、ということですかね。
――最後に、岡田さんの今後の展望、カラダとの付き合い方について教えてください!
岡田:私はダンスもそんなに上手くないですけど、10年前に加入した頃よりは遥かに成長していると思いますし、そういう成長物語をファンの人と一緒に作っていくこと、それを見せるということが、ファンの人に見続けてもらえる理由だと思うんです。「カッコいい」と「かわいい」の振り幅を生かして、アイドル活動だったりそれ以外のミュージカルなどの演技のお仕事だったり、いろんな顔を見せられる人になれたらいいな、と思います。
カラダに関しては…今年25歳でだんだんガタが出やすい年齢になってきているはずなので、ケアを怠らないことは大切にしたいですね。最近すごく思うのは、自分をある程度甘やかすことで、周りにも優しくできるんじゃないか、ということです。そういう部分も含めて、一人の女性として素敵な人間になりたいなと思います。
――今回はたくさんのお話、ありがとうございました!