温かいもので代謝は促進する?「運動・食事」と代謝の関係
食事の時、運動する時にふと頭をよぎる「なんだか代謝に良さそう」というイメージ。実は一過性だったり真逆だったりもするその効果の真偽を、あらためて学ぼう。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/沼田光太郎 取材協力/桑原弘樹(コンディショニングスペシャリスト)
初出『Tarzan』No.839・2022年8月10日発売
目次
食べ物の温度と代謝促進はあまり関係ない
天津飯に鍋焼きうどん、クリームシチューにおでんにラザニア、ハフハフ食せばカラダはポカポカ。汗だくになること必至の熱々料理。いかにも代謝が上がりそうだが、残念ながらカラダを温める効果は一過性。
カラダを持続的に温めたいのなら、料理の温度ではなく食材の特性に注目すべき。たとえば肉や魚などのタンパク質。消化吸収に手間がかかるため、食後のエネルギー代謝が上がる。または糖質の代謝を促すアリシンを含むニンニクやネギ類。基礎代謝が上がるとは言えないが、食後の代謝アップは見込めるはず。
お酒が強いからといって代謝がいいとは言い切れない
ウワバミやザルと呼ばれる人々は確かにアルコールの代謝に関しては能力が高い。ただし、アルコール代謝に必要なのはADH(アルコール脱水素酵素)とALDH(アルデヒド脱水素酵素)という特殊な2種類の酵素。
どちらもアルコールに特異的に働くもので、一般的なエネルギーとなる糖質や脂質には反応しない。よってお酒が強い=代謝がいいとは言い難い。ただし、肝臓は全身の代謝の中枢。アルコールの処理が早い人ほど肝臓のリカバリーも早いので、大酒を飲んだ後も全身の代謝システムに影響が出にくいことは確か。
欠食すると代謝が落ちる
代謝をひとことで言うと、口から摂った栄養素を体内の化学反応で消化吸収し、ATPというエネルギーを作り出す働き。つまり、欠食するということはエネルギーを生み出す材料が体内に入ってこないということ。
材料がなければ化学反応は進みようがない。代謝を回す工場は開店休業状態に。 ATPは体内に蓄えられないので当然エネルギー不足になる。
で、カラダはどうするかというと、筋肉を分解してアミノ酸を糖質に変換し、エネルギーを作り出す。その結果、筋肉が減って基礎代謝が低下する。欠食は代謝を下げる一因なのだ。
1週間のハードな運動では基礎代謝は上げられない
たとえば、短時間でオールアウトするようなHIITという運動メソッドがある。筋肉の糖の取り込み能力や心肺機能をアップさせるトレーニングとして注目されているが、もちろん1週間では筋肉は増えない。ゆえに筋肉増量による基礎代謝アップは望めない。心肺機能の向上効果もおそらく1か月以上のトレーニングは必要だろう。
ただ、EPOCという運動後のエネルギー消費が高まる効果は期待できる。まずは脂肪燃焼効果が表れ、筋肉が養われるとともに代謝アップ効果が期待できると考えよう。むろん運動を持続してこその話だが。
ストレッチで代謝は高められる
ストレッチで血流が良くなれば全身の細胞に酸素や栄養が供給される。血液が皮膚を巡ることによる熱産生も起こるので、毎日続けることによって代謝はそれなりに上がると考えられる。
代謝アップの効果を実感したいなら、一日のうちでも代謝が低いタイミングで行うことがポイント。
体温の高い夕方よりもカラダが目覚めていない起床後にストレッチを行う方が、一日の代謝の底上げに繫がるはず。注意点は、起床後は筋肉も靱帯も固まっているので急激に刺激を入れると関節を痛めやすいこと。行うならじっくりと。
呼吸もやり方次第で代謝を上げられる
ATPを作り出すのは細胞の中にあるミトコンドリアという器官。ミトコンドリアの内部にはTCA回路や電子伝達系という化学反応の連鎖システムがあり、このシステムが酸素を介して効率的にATPを作り出すのだ。安静時より運動時に呼吸が荒くなる理由のひとつがここにある。
ということは、酸素がなければ代謝が完結しない。悪姿勢で胸郭が潰れ、酸素を十分に取り込めないとATPが作られにくくなる可能性は大いにある。代謝が悪く疲れやすいという実感がある人は、姿勢を正し、深呼吸をする習慣をつけるだけでも改善が図れるはず。
スプリンターはマラソンランナーより代謝が高い
ある調査によるとサブ3の男性マラソンランナーの平均体脂肪率は10.6%とかなりスリム。その理由はエネルギー消費量が非常に多いから。体重60kgの人が20km走ったとする。ランニングの消費エネルギーは体重×距離で求められるので、1回で1200キロカロリーが消費される計算。
一方、100mスプリンターの体脂肪率もトップ選手で10%前後。短距離なので走ることによるエネルギー消費は少ないが、彼らにはスプリント競技に不可欠な筋肉が備わっている。べースとなる基礎代謝の高さではスプリンターに軍配が上がりそうだ。