9のトピックで学ぶ「代謝とアンチエイジング」の関係
大人の階段を上っていくと、そこかしこで直面する老化現象。代謝と老化はどんな関係があるのだろうか? 最新の研究から浮かんできた9つのキーワードとともに解決の糸口を探った。
取材・文/松岡真子 イラストレーション/モリタクマ
初出『Tarzan』No.806・2021年3月11日発売
目次
① 老化は細胞レベルで起きている!
刻まれたシワやぽっこりお腹。それは細胞の衰えを告げるサイン。
「老化に関連して注目を浴びているのが、再生力を司る幹細胞です。その減少が代謝の低下も招く。ヒトのカラダは約200種類、37兆個もの細胞で構成されており、そのうち修復に長ける幹細胞は生後だと約60億個が存在します。
でも、80代を迎える頃には約200分の1に。その結果、臓器の機能は低下し、基礎代謝も落ちる。さらには、細胞のエネルギーを産出するミトコンドリアの働きも鈍くなります」(大阪大学特任准教授・日比野佐和子先生)
寄る年波に勝つ方法は、ある。
「細胞内のミトコンドリアの量や機能性を高めて、幹細胞を活性化するためにも、日頃の生活習慣を整えて、細胞に力を授けましょう」
② 代謝、老化、ホルモンの三角関係。
「加齢による内臓機能の衰えはホルモンの分泌量減少も招き、結果的に細胞レベルの代謝も落ちます。例えば50種類以上のホルモンに変化するDHEAーs。“ホルモンの母”と呼ばれ、筋力の維持、代謝アップ、免疫力の向上などを担っていますが、思春期以降は右肩下がりに」
一方で増えるホルモンもある。
「コルチゾールです。正常時は血圧や血糖の上昇を抑え、抗炎症および免疫抑制の働きをします。でも、ストレスを浴びて分泌が過剰になると、カラダを酸化させ、代謝の低下を招く。その猛威を止めるには、セロトニンが有効です。別名“幸せホルモン”の95%が腸内で作られているので、善玉菌を増やしましょう。朝食でセロトニンの原料となるタンパク質を摂取すると整いやすいです」
③ 老化はもはや疾患の一部である。
「予防医学が発達しているアメリカを中心に、20年くらい前から広がりつつある認識です。老化は体内で起こる炎症と捉えられていますね」
世界ではカラダの衰えは自然の摂理という考え方が古くなりつつある。
「日本では病気とは別問題という思考が根強い。人の老化(臓器の機能や免疫力の低下)は34歳、60歳、78歳で急激に進むことが最近の研究で報告されているが、代謝が良ければそれには当てはまらない場合も。
糖尿病、前立腺肥大、男性機能の低下、骨粗鬆症など、高齢になるにつれて罹患率が上がるものの土台には、老化がある。カラダの衰えを疾患とみなして、30〜40代からケアを始めると症状を防ぐ確率は上がります。自己治癒力やウイルスへの防御力も問われる今こそ、概念を変えてみて」
④ 血液のサビは老化の始まり。
「LDL(悪玉)コレステロールの値が正常でも、血中のLDLの酸化度が高い場合があります」
カラダのサビは衰退のきっかけだ。
「活性酸素によって発生する最大級の悪玉・酸化変性LDLコレステロール(LAB)は、血管にあるLOXー1という物質に捕まると炎症が生まれる。これが動脈硬化の引き金に。この数値が高い人は低い人に比べて心筋梗塞の発症率は2倍、脳梗塞は3倍であるそう。ドロドロの血液は循環を滞らせて、代謝も下げる。
予防策として、酸化した油の摂取を控えるだけでなく、体内の脂質の酸化を抑えること。つまりアマニオイルや青魚に含まれるオメガ3を意識的に摂る。そして、ストレスを溜め込んでカラダの中を酸化させない。適度な運動での発散も忘れずに」
⑤ 見た目の衰えとメラノサイトの関係。
肌トラブルの要因として、なにかと敵視をされているメラニン。そもそも、シミやソバカスはターンオーバー(新陳代謝)が乱れている証し。
「紫外線を浴びた体内のメラノサイトからメラニンが生まれます。本来は皮膚がんになるのを防ぐための仕組みですが、老化によって肌が生まれ変わるサイクルが遅れ始めると、シミとなって残る。美白の観点では鎮静させておいた方がいい細胞ですね。ところが、髪の毛では、メラノサイトの機能低下が白髪に関係しています。
肌のシミ予防には、ビタミンCとLーシステインがメラニンの生成を防ぐので重要ですが、これを摂取したからといって、白髪になるわけではなく、新陳代謝が底上げされることで、それぞれにとって良い効果をもたらします」
⑥ 加齢臭もセルフマネジメントをする時代。
知らぬ間にスメハラをしている事態は、是が非でも避けたい。
「40歳を過ぎると男女問わずノネナールという加齢臭の原因となるニオイ物質が発生しやすくなります。これは、脂肪酸の一種である9ーヘキサデセン酸が過酸化脂質(コレステロールや中性脂肪など脂質が酸化したもの)や皮膚表面のバクテリアによって分解されることで、発生するといわれています。
そもそも、体内に溜め込んだ老廃物や有害物質によって、代謝が衰えて9ーヘキサデセン酸の分解を招く。そのため、ニオイ物質の原因である脂質のバランスを整えることが重要に。良質なオイルの摂取を基本とし、動物性脂肪の摂り過ぎは卒業しましょう。その代わりに、抗酸化作用の高い緑黄色野菜を積極的に食べてください」
⑦ 見た目が若いと長生きする、という説。
「双子でも実年齢より若く見える方が長生きする傾向にあるようです」
風貌は寿命を左右する!? 2001年と08年に南デンマーク大学が実施した研究結果を教えてくれた。
「国内の70歳以上の双子1826人の顔写真から、第三者の男女41人が見た目年齢を判定7年後の追跡調査で1151人を分析すると、初回で実年齢よりも若いと判断された人の方が存命していました。そして、彼らは身体能力、握力、認知機能も高かったという報告があります」
老化の進行が異なるのは、代謝の良し悪しも関係するのだろうか?
「習慣や環境が与える影響は大きいです。ちなみに、細胞の寿命に関わるとされている染色体の端にある“テロメア”が長いことも判明。ストレスで短くなるので気をつけて」
⑧ 目は内臓を映し出す鏡。
「眼底検査をすると網膜血管が確認できる。唯一、外から直に血管を観察することができます。糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が見つかることも」
病気だけでなく、目から健康状態や代謝の状態も読み取れる。
「例えば、一時的な充血は心身が昂っている証し。自律神経が乱れ、交感神経が優位となって緊張状態に陥っています。すると、目は乾き、水分や酸素と栄養素も欲して血管が太くなる。この状態が長引くと代謝を落としかねない。休息して副交感神経を優位にし、末梢まで酸素を行き届かせましょう。さらに、白目の黄ばみが気になり始めたら、カラダが糖化しているかも。低糖質の食事を心がけましょう」
まさに“目は口ほどに物を言う”。
⑨ 名前がすぐ出てこない…は脳の代謝の低下!?
「あれだよ、あれ」と、口にしながらも肝心の呼称を忘れた。これまた加齢に伴う代謝の衰えなのか?
「一概には言い切れない部分ですが、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)というビタミン類似物質の減少が絡んでいることも。体内で合成されるNMNは10代後半をピークに下り坂を辿り、40代では最盛期の半分に。すると、ぐっすり眠れず、思考や記憶力、代謝も衰える」
聞けば、NMNはアンチエイジング業界で注目の成分でもあるそうだ。
「ハーバード大学のデビッド・シンクレア教授が、生後22か月のマウスにNMNを投与したところ、運動能力、細胞活性レベルなどが生後6か月のマウスに相当する機能に戻った報告もあります。細胞レベルでの若返りの鍵を握っていますね」