人は自分のニオイがわからない。
誰しもいつか到達する“中年”という未経験の海域を前に、海図も羅針盤もなしでは、ちと心細い。家電にはトリセツが付きもののように、加齢にもトリセツはあるべきだ。
中年になるとニオイは強くなるのか? あるいは、今日の自分は臭ってはいないかなどと、心配になったことのある人は多いだろう。
それはそうだ。そもそも人は自分のニオイがわからない。嗅覚は順応しやすく、同じニオイを感じ続けることができないからだ。
たとえばワキ臭の場合。
本人が無自覚のまま、盛大に臭うことのあるのが腋臭。これは汗腺の密集する部位の一つ、腋の下で発生する。汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類がある。
エクリン汗腺から出る汗の99%は水で、残る1%が塩分、尿素、アンモニアなどだが、これらはあまりにも微量でほぼ臭わない。
もう一つのアポクリン汗腺は日本人ではかなり退化しているが、腋の下や陰部、肛門、乳輪、耳の穴などにわずかに残り、有機物を含む汗をかく。おかげで常在菌の繁殖を招きやすく、常在菌による代謝産物があの独特なツンとくるニオイとなる。
ただ、腋臭を持つ日本人は意外に少なく、せいぜい10~15%。欧米人の70~90%とは大きな開きがある。だから、日本では臭うと目立ちやすいが、年を重ねると臭いやすくなるタイプの体臭もある。
加齢臭、実は男性は30代から!
中年以前から出始めるのが早期加齢臭だ。皮脂の分泌が最も盛んな30代男性に特有の体臭がこれ。主に体幹などに増えた皮脂が酸化され、ペラルゴン酸という物質となって臭うのだ。
ペラルゴン酸にひと足遅れで発生するのがミドル脂臭で、原因物質はジアセチル。後頭部、うなじなどの汗の中の乳酸を、常在菌のブドウ球菌が代謝したものだ。これが皮脂と合わさると、強烈なニオイに。
そして、最後に現れる物質が加齢臭の代名詞、2-ノネナールだ。主に体幹部に分泌した皮脂の成分、パルミトオレイン酸が酸化されてできる物質とされる。
強いアブラ臭は、早期加齢臭とミドル脂臭。いわゆる加齢臭はアブラ臭さより枯れたニオイとなる。
生活が乱れていたり、ストレスのきつい中高年は活性酸素の巣窟と化す。皮脂の酸化は避けようもなく、ニオイの一つも出ようってもの。
では、女性は何歳になってもセーフかというと、女性は女性ホルモンの枯渇する更年期以降、相対的に男性ホルモン(女性も持っている!)が優位に傾くと、臭いやすくなる。
さて、皮脂と直接は関係ないのが足のニオイ。仕事中の革靴の中は高温多湿で、まるで菌の培養器! 角質や皮膚の老廃物、汗の成分を常在菌がイソ吉草酸などに変換し、独特な納豆臭となる。これは水虫とは関係なく、ありきたりな生理現象だ。
体臭の改善策とは、つまり健康的生活。
体臭予防には当たり前だが日々の入浴を怠らないこと。浴槽でしっかり温まれば、発汗によって汗腺に淀むゴミや垢、老廃物を排泄できるし、臭わない汗をかきやすくなる。
ただし、皮脂は取り除き過ぎないように。洗浄力の強過ぎる石鹸、ボディソープでがしがしやると、皮膚の常在菌のバランスを崩しかねないし、皮脂の取り過ぎは反動で皮脂の過剰分泌を招くこともある。
体臭はカラダからのメッセージ。健康なら血中に入り込んだニオイ物質など、肝臓が分解、代謝して無臭化してくれるはず。急に臭うようになったり、ニオイに変化があったら、前述の10項目に立ち返ってみよう。まさに、望ましくない生活習慣のオンパレードだ。
体臭改善のためのライフスタイルの見直しは、そのまま健康的な生活に繫がるわけだ。