激動の2020年がまもなく終わる。日本中、いや世界中が変化の矢面に立たされるなか、フィットネス界も紆余曲折あった。多くの人が通っていたジムが休業となり、営業再開後も運動中のマスクがマストに。再び外出自粛の要請が出されそうな日々。思えば“新しいフィットネス様式”が生まれるのは当然の流れだった。
そこで一年を象徴するトピックを『ターザン』編集部が独自にセレクト。編集長ヤマグチ、副編クスノキ、若手のタカハシの3人と、おなじみのトレーナー・サカヅメさんが講評し誌上フィットネスアワードを選ぶことに。近未来のフィットネスの姿が見えてくるかも。
誌上フィットネスアワード参加者は、この4名。
編集長・ヤマグチ
トレーナー・サカヅメ
副編集長・クスノキ
編集部員・タカハシ
① トレンド部門
キーワード
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ホームジム
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YouTube動画
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オンライン講習
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おこもり太り対策
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コミュニティ
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チャレンジ
ライフスタイルが大々的に変わり、フィットネスのあり方や位置付けが変化。
クスノキ 2020年って何もいいことなかった気がしない?
ヤマグチ 世の中が新型コロナウイルスに振り回されましたね。だからこそ新たな動きも出てきた。
タカハシ みなさん家から出られなくてウェブ方面に楽しみを見出した方が多い一年でした。
サカヅメ ユーチューブ動画をトレーニングやダイエットの参考にする方が一気に増えましたね。
クスノキ マネするとカラダ壊しそうな動画も結構ありますけど。
ヤマグチ 専門家のチェックを受けないで自己流でやってる人のコンテンツは要注意ですね。受け手側のリテラシーが問われます。
サカヅメ 今年は過渡期で、徐々に淘汰されると思いますが…。
クスノキ 今年のトレンドは、やっぱりホームジムじゃないかな。
ヤマグチ ジム通い歴30年以上のライターさんも自粛期間に通販でベンチを買って、ダンベルトレでしのいでたんですよね。
タカハシ 「脱げるカラダ」コンテストのファイナリストのみなさんも続々とホームジムを導入しました。
サカヅメ かつては日本にホームジムは根付かないと思いましたけど、新型コロナで変わりましたね。
クスノキ バーベルセットを自宅に用意するのが当たり前みたいになるとは確かに想像しなかった…。
サカヅメ 100%自分で衛生管理できるのもメリットです。知識があればしっかり鍛えられます。
ヤマグチ 性格によるでしょうね。誰かと一緒だからこそやる気になるっていう方も多いですし。
タカハシ オンライン講習の需要はそこだと思います。ジムに行かなくても確かな指導が受けられる。
クスノキ 「クラブターザン」のオンライン講習も好評なんだよね。
タカハシ はい、手ごたえを感じるので2021年もやりたいです。
クスノキ 編集部員も4月から急に自宅で作業する機会が増えたから、おこもり太りする人が多かった! すごいのは、太る理由がみんな違うの。だから自分に合った対策を見極めることが大事なんだよね。
サカヅメ 一般の方が日常でエネルギー消費するのは通勤の機会がいちばんですからね。あるいはスーパーなどでのお買い物。そういう機会が週に1度か2度ぐらいに減ってしまうと、日常生活での運動量が激減してしまいます。
ヤマグチ そこをどう補完するか。自分の「新しいスタンダード」をいかに築くかというのが、20年から21年にかけての大テーマですね。
クスノキ オンラインのコミュニティも20年のトレンドでしょう。
タカハシ そうですね、みなさんやっぱりヨコのつながりが欲しいみたいです。同じ興味、同じ関心を持つ人とウェブでつながって、オフ会で直接のやりとりもあるコミュニティには熱いものを感じます。今年〈チームターザン〉のコミュニティを始めて実感しました。
ヤマグチ いまだと「リアルアクティビティ部」の活動が盛り上がってるみたいですね。
タカハシ そうです。お互い得意なスポーツを紹介し合って一緒に体験する趣旨なんですけど、登山に行ったりアクアビクスしたり、車いすバスケをしたり…詳しい人がいないと経験できないことができて楽しいです。自分も時々参加しています。
ヤマグチ トレーニングに限らず広範なフィットネスを発信する場になってますよね。
クスノキ ふーん、いい話だね。またメンバー募集あるの?
タカハシ はい、〈チームターザン〉第3期募集は21年の1月ぐらいに行う予定です。
ヤマグチ 今年はネットでのチャレンジも話題でしたね。
タカハシ レースの開催がない分、ネットで経過を記載するエベレスティングとか、バーチャルスパルタンとか、レッドヴィルのチャレンジに参加する人が多かったです。
クスノキ トレンド部門はそんなところかな。
トレンド部門をおさらい!
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ホームジム
かつては筋トレ上級者の夢だったホームジム。しかし今年4月に日本中のジムが休業したことを受けて、ジムトレを習慣とする人やボディコンテストを目指す人を中心に、自宅で本格的なトレーニングを行えるようにホームジムを作る人が急増した。「正しいフォームを心得ている人ならホームジムこそ理想の環境です」(サカヅメ)。
YouTube動画
あらゆる動画が上げられるYouTube。ガチなトレーニング解説からおしゃれなライフスタイル系まで、フィットネス動画を参考にする人が増えた。「以前はちょい見せ的なサブのコンテンツでしたが、今や主流といえる状況です。残念ながら玉石混淆と言わざるを得ないので、見極める力を養うのが大事です」(サカヅメ)。
オンライン講習
一方通行の生配信から双方向のクラスまで、さまざまなオンライン講習が開催された。本誌「クラブターザン」の会員限定イベントでもオンライン講習が人気だった。「感染予防の関係でリアルなイベントに参加しにくい半面、今までなかなか受けられなかった講師の指導が受けられるのは利点ですね」(サカヅメ)。
おこもり太り対策
「自粛期間に3kg増えた」という証言が続々。リモートワークで通勤の際の活動量が減り、つまみ食いも増えた必然の結果と言える。「795号で編集部員6名のおこもり生活と体重の変化を調べると、体重が増えた5名の太る理由は“五者五様”でした。在宅でも生活習慣は意外に多様だから、自分に合った対策を見つける必要があります」(クスノキ)。
コミュニティ
リアルなジムのプログラムのように参加者同士の横の繫がりを求める人には、オンラインのコミュニティがもはや不可欠。本誌も〈TEAM Tarzan〉というコミュニティをスタートした。「相互に発信する中から関心の近い人同士、オンラインでもオフラインでも交流が広がっています」(タカハシ)。
チャレンジ
今年の春以降、スパルタンレースやトレランのイベントがバーチャルで多数開催された。スパルタンはランニングと障害物の代わりに指定のトレーニングに挑戦するスタイルで開催。「他の人と比較することで自分の現状を把握する機会にもなる。練習がてらチャレンジしてみると面白いと思います」(クスノキ)。
② ギア部門
キーワード
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スマートウォッチ
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自宅リラックスウェア
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リングフィットアドベンチャー
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フォームローラー
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ジアイーノ
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ハイパーボルト
自宅でのセルフケアを主眼にしたギアが大人気。さらに家トレ関連もますます充実。
タカハシ 《リングフィットアドベンチャー》は流行りましたね!
ヤマグチ これ、編集部員のムラタが家でやってるやつでしょ?
サカヅメ 1991年に大手スポーツジムと任天堂がコラボして固定式バイクに搭載したファミコンがありましたが、2020年ついにここまで進化したんですね。
クスノキ 最近スマートウォッチの進化もすごい。時刻が正確なのはもちろん、機種によって歩数、心拍数、活動量やトレーニング達成度、自律神経の状態や血中酸素飽和度が測定できて、健康作りの相棒だよ。
ヤマグチ 超高級腕時計の何十分の一の価格で何十倍もの機能がついている。スマートウォッチをすることはフィットネスの証し。もはやそういう時代なんですね。
クスノキ プライベートな時間と空間の快適さを求める傾向が強まった感じがする…自宅リラックスウェアの進化もそうだし、《ジアイーノ》が急激に売れたこともそう。
ヤマグチ 《ハイパーボルト》に代表されるマッサージガンや、筋膜リリースに使うフォームローラーも売れているそうですね。あと見逃せないのが、スポーツタイプのeバイク。いずれも機能の高さに加えて、デザインのカッコよさが決め手。
クスノキ 21年も売れるんだろうなあ。続いてニュートリション部門も振り返りましょう。
ギア部門をおさらい!
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スマートウォッチ
フィットネス好きもメカ好きも満足する高機能なスマートウォッチは最近、デザインも洗練されてきた。運動時の消費カロリーや自律神経から算出される睡眠スコアの算定、運動内容を踏まえて回復に必要な時間を導き出す機種など多彩だ。「スマホとはまた別枠の進化を遂げていると感じます」(ヤマグチ)。
自宅リラックスウェア
家着は“Tシャツ×短パン”の時代がまもなくシフト? 今年、遠赤外線効果を持つ特殊繊維使用のものや永久磁石を配列したものなど、疲労回復のための機能を搭載した“リカバリーウェア”がヒット。「メーカーの想定を需要がはるかに上回っているそうです。僕も時々自宅で着ると確かに快適」(クスノキ)。
リングフィットアドベンチャー
2019年10月の発売から、20年も入手困難な人気ぶりだった《ニンテンドースイッチ》ソフト『リングフィット アドベンチャー』。ジョギングでステージを進み、スクワットなどの運動で立ちはだかる敵を倒し、冒険を進めていくアドベンチャーゲーム。「熱中してプレイするとかなり“動いた”感が」(タカハシ)。
フォームローラー
鍛えるだけでは理想のカラダになれない。ストレッチや筋膜リリースの重要性に気づいたトレーニーが手に取るのはフォームローラー。気になる部位にコロコロ当てて血行を促す。継続するほど詰まりが取れ、気持ちよさを感じる。「ジムで筋膜リリースだけして帰る人がいるほどです」(サカヅメ)。
ジアイーノ
大気汚染や花粉症などの対策で以前からニーズはあったものの、少しでも身の回りを衛生的に保とうとする機運から、《ジアイーノ》や空気清浄機が人気に。「リラックスするために“いい空気”を享受したいと感じることは、おいしい料理を作るために材料を一つひとつ吟味することに近いのでは」(ヤマグチ)。
ハイパーボルト
筋膜リリースに関連する新製品が注目されるなか、テニスプレイヤーの大坂なおみ選手が愛用していると話題の《ハイパーボルト》を筆頭に、ケアアイテムのマッサージガンがスマッシュヒット。一台で全身のトータルケアが可能。「振動が強く、また強度も調節できるので、部位に応じて使い分けられます」(クスノキ)。
eバイク
運動不足を解消したい。クローズドな電車で通勤するのは気乗りしない。いろんなニーズに応えるのがeバイク。電動アシスト付きのスポーツバイクは、洗練されたデザイン。「電アシをオフにしても重くなくオンオフを自在に調整して乗れる。ダイエット目的で自転車に乗る人にもいいですね!」(タカハシ)。
③ ニュートリション部門
キーワード
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イントラワークアウト・ドリンク
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プロテインバー
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ユーグレナ
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高カカオ
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機能性ノンアル
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菌活
健康のベースは日々の栄養。味覚と機能に満足できるものが「おいしい」時代だ。
タカハシ イントラワークアウト・ドリンクの記事が反響あったって聞きましたけど…。
ヤマグチ 運動中のアミノ酸摂取ですね。BCAAとか。
クスノキ 昔からやってることも新たな話題になることあるよね。
サカヅメ 時代の流れで、そういうことよくありますね。
クスノキ プロテインバーも前からあるけど、やっぱりコロナの自粛期間中にタンパク質の大切さを感じた人が多かったのか、すごくポピュラーなものになった!
サカヅメ ゼリーとか、コンビニにある商品の幅が広がりましたね。個人的に高タンパク低脂肪なギリシャヨーグルトに注目しています。
クスノキ 食品を機能で選ぶ傾向は今年ますます強まったし、21年はもっとかもしれない。トレーニングの前に高カカオのチョコを口にするとか、新しいよね。
ヤマグチ そうですね、機能性ノンアルのドリンクとか。
サカヅメ ちょっとしたカラダへの配慮で大きく違ってくることが実際あるんだなって、自粛期間中すごく実感したんで…ユーグレナにも、菌活にも注目しております。
タカハシ クスノキさんがどんどん健康になっちゃう!
ニュートリション部門をおさらい!
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イントラワークアウト・ドリンク
イントラワークアウト・ドリンクとは筋トレ中の飲み物のこと。水と一緒にアミノ酸などを摂り、カラダづくりやリカバリーの効率化を図る。「個人的にはBCAAを飲んで鍛える日は“調子いいかも”とよく感じます」(クスノキ)。
プロテインバー
コンビニにプロテインゾーンがあるのはもはや当たり前。ヘルシーな間食を探している時や食事のオプションに最適。栄養価は申し分なく、チョコレートバーのようにおいしい商品がよりどりみどり。「食感と風味が微妙に異なるプロテインバーをカバンに常時2種類は入れて持ち歩いています」(サカヅメ)。
ユーグレナ
ユーグレナとは藻の一種であるミドリムシのこと。植物と動物、両方の性質を持ち合わせており、必須アミノ酸や不飽和脂肪酸、ビタミン・ミネラル、食物繊維などを一挙に摂れるスーパーフード。「今後ますます環境に優しい栄養源のニーズが増えるものと思います」(サカヅメ)。
高カカオ
以前はおいしさと裏腹に罪悪感がつきものだったチョコレート。高カカオを選べばメリットもたくさん。糖質の吸収が緩やかなので脂肪増加のリスクとなる血糖値スパイクが起こりにくい。またポリフェノールの含有量はワインの数倍に及ぶ。「以前は稀少でしたが、今ではコンビニでも買えてうれしい」(クスノキ)。
機能性ノンアル
ノンアルと聞いても酒を愛する者は動じないものだが、機能性と言われたら話はベツ。“内臓脂肪を減らす”“糖の吸収をおだやかにする”“食後の血中中性脂肪の上昇をおだやかにする”など、なんとも魅惑的な機能性ノンアルが急増中。「僕は昔からノンアル派ですが、最近のものはとにかくおいしい!」(サカヅメ)。
菌活
腸はいまだ研究し尽くされていない神秘的な器官だが、腸内環境の正常化は免疫機能の向上に繫がる。そんな期待から発酵食品の“菌”を日常的に摂る人が激増。「他国の人と比べて日本人の腸に多く棲んでいるというビフィズス菌が腸にもたらす効果について、今多くの専門家が研究に熱を上げているとか」(クスノキ)。
④ ワークアウト部門
キーワード
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“S”HIIT
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自宅トレ再発見
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アニマルムーブメント
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低酸素トレ
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公園トレ
従来の方法論や場所の制約から“解放”され、新たなワークアウトに取り組む人が増えた。
タカハシ では最後、ワークアウト部門に参りましょう。
クスノキ “S”HIITって新鮮だよね。サイレントHIIT。
ヤマグチ ドタバタしないから家でやるのにいいですね。
サカヅメ HIITは実際は高強度のインターバルトレーニングじゃなくてサーキットトレーニングなので、本当はHICTと呼ぶべきですね。発音しにくいですけど。
一同 なるほどね…。HICT…。
サカヅメ アニマルムーブメントはトレーニングの原点といえます。ヨガにも猫のポーズとか、拳法にも蟷螂拳とか蛇拳とかありますし。
一同 なるほどね…。温故知新…。
サカヅメ 自宅トレこそ温故知新ですね。自宅トレ再発見。まだまだ可能性があると思いますよ。
ヤマグチ よーし21年も『ターザン』をがんばって作るぞ。
タカハシ 公園トレで走る人が一時期すごく増えましたね。
クスノキ あの人たちが全員ランナーになったらいいのに!
サカヅメ ステイホーム期間がピークでしたが、継続は力です。
クスノキ 低酸素トレも20年の初め頃にすごく話題だったから、今後また盛り上がるかも。
ワークアウト部門をおさらい
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“S”HIIT
短時間で有酸素運動と筋トレの両方の効果を得られるHIIT(高強度インターバルトレーニング)。しかし効果を得るには全力でやり切る必要があり、近隣への騒音が気になる。よってSilent(静か)にこなせる種目を組み合わせた“S”HIITが話題に。
自宅トレ再発見
ジムが営業しているのが当たり前だった今年までは“家では運動しない”派だったトレーニーがやむなく自宅トレを開始。結果、ウェイトトレやマシントレでは気付けなかったカラダへの意識や使い方を学べたという声が続出。「正しいフォームで行ってこそ自宅トレの意義を感じられるはずです」(ヤマグチ)。
アニマルムーブメント
生活が便利になるにつれて“ムダ”な動作が減れば、使わなくなった筋肉や関節、神経の機能が低下。その解決策となるのが動物や昆虫の動きを模倣する「アニマルムーブメント」。カラダの機能性を追求するアスリートを中心にブームに。「ヨガでは猫のポーズ、中国拳法では蟷螂拳がありますが、いわば運動の原点です!」(サカヅメ)。
低酸素トレ
平地に比べて酸素量が低下する高地はプロアスリートには絶好のトレーニング地。一般の人が利用できる低酸素トレ施設が昨年から今年初めにかけて都内に複数オープン。「専門のサポートがあれば安心です。低酸素環境の運動を習慣化すると呼吸循環器系が鍛えられ、バテにくいカラダが作れます」(サカヅメ)。
公園トレ
公園内の遊具や段差、広い敷地を活用すれば、自宅やジムとはひと味違う運動ができる。公園によっては鉄棒や木で懸垂に取り組む姿が日常の風景に!? アイデア次第でいろんな運動ができる。「屋外はいいですね。私は外出自粛でジムに行けない時期、人のいない夜間に外を走っていました」(サカヅメ)。
取材・文/門上奈央、坂田滋久(編集部=座談会) イラストレーション/德永明子、サタケシュンスケ(アニマルムーブメント)
初出『Tarzan』No.801・2020年12月17日発売
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