実録!『ターザン』編集部員の緊急事態宣言下のトレーニング
ジムトレーニング歴30年を超える剛腕ライター、ケンジ。新型コロナウイルスでジムが休業のため、自宅にベンチがやってきた!
取材・文/Mr.TRAINING(井上健二) イラストレーション/more rock art all
(初出『Tarzan』No.791・2020年7月9日発売)
目次
- 4月7日(火) |ロックアウト前、名残のジムトレ。
- 4月9日(木)| ほぼ日本中のジムがクローズ。やけ酒。
- 4月10日(金) |Amazonでフラットベンチ購入。
- 4月11日(土)|ラン初日。足の爪下で軽く出血する。
- 4月12日(日)|初めての自宅筋トレ。勝手が違いすぎた。
- 4月25日(土)|公園の遊具が閉鎖。懸垂ができなくなる。
- 4月29日(木)|初めてマスク着用でラン。辛すぎる。
- 4月30日(金)|ダンベルで片手20kg持てるようになる。
- 5月4日(月)|緊急事態宣言が延長。筋肉の衰えを自覚。
- 5月12日(火)|綱の手引き坂を歩かずに走り切る。
- 5月14日(木)|ダンベルを落とし、気を引き締める。
- 5月20日(水)|体重計に乗る。意外にも痩せていた!
- 5月27日(水)|2か月ぶりにジム再開。オープンと同時に行く。
- 6月3日(水)|ダンベルプレスとランは継続。今後は二刀流。
4月7日(火) |ロックアウト前、名残のジムトレ。
7都府県で緊急事態宣言が発出される公算が高まる。不要不急の外出自粛が求められているし、三密のジムはクローズしそう。
最後かもと思いつつ、午前中ジムへ。筋トレ40分、ラン60分のルーティンを普段通りにこなす。
夜、安倍首相が緊急事態宣言を発出。期間はゴールデンウィーク明けの5月6日まで。そしてジムトレ歴32年目にして最大の危機。地下鉄サリン事件でも、アメリカ同時多発テロでも、東日本大震災でも、決して起こらなかったことが起こりそう。
4月9日(木)| ほぼ日本中のジムがクローズ。やけ酒。
覚悟していたが、通っている自宅近くのジムもこの日から閉鎖。その夜一人自宅でやけ酒。酔った勢いでどこか開いているジムはないか検索してみる。
ジムトレのために都道府県を跨いで移動するなんて罪だが、念のために相互利用制度で使えそうな関東近郊の店舗を探す。しかし、緊急事態宣言を受け、相互利用サービスそのものが休止だ。次にホテルのジムなら使えるかもしれないと検索してみるけど、それもやはりクローズ。
往生際が悪く、7都府県以外のホテルのジムなら平気かもと検索範囲を広げても、結果は同じこと。エッセンシャルワーカーが必死に頑張っているのに、自分は一体何をしているのか。我に返って落ち込む。
4月10日(金) |Amazonでフラットベンチ購入。
ジムが閉まっている間、筋肉や心肺機能が落ちないようにするには、家トレするほかない。トレッドミルでのランは、外ランに切り替えればOK。
問題は筋トレだ。そこでクローゼットの奥から取り出したのは、秘蔵のダンベルセット。買って25年以上だが、ほとんど未使用。あまりに汚いのでゴシゴシ洗う。Amazonで探し、5,580円で格安フラットベンチも買う。
4月11日(土)|ラン初日。足の爪下で軽く出血する。
週2回のジムは平日1回+週末1回。平日分はすでに終えたから、緊急事態宣言後初の土曜、午前中ランへ。ホームコースは芝公園。芝公園、増上寺、プリンスホテルの敷地の外周を回ると、約2km。信号が少なく、適度な起伏もあり、ランには最適だ。6年前、初フルマラソンに出る前に練習して以来、久しぶりに走る。驚いたのはランナーの多さ。以前の3倍はいる。運動不足を解消したい気持ちはみんな同じなんだな。
芝公園4周+行き帰りで計9.4km。《Apple Watch》によると、平均心拍数毎分156拍、平均ペースは1km5分41秒。トレッドミルでは時速11km(1km5分27秒)以上でラクに走れるのに、外だとこのありさま。これが実力なのだろう。
ジム用の薄底シューズを外履き用に下ろして走ったら、右足の人差し指がシューズに当たり、爪の下で出血(爪下出血)が起こる。次からは少し厚底のシューズで走ろうかな。
ジムではラン⇒筋トレと一挙に片付けるが、慣れない外ランで疲れすぎて筋トレは翌日曜に持ち越す。
4月12日(日)|初めての自宅筋トレ。勝手が違いすぎた。
ベンチも無事届き、記念すべき自宅筋トレ初日。メニューを考えた。
ジムでは、チェストプレス、レッグプレス、ラットプルダウン、ロウイング、アブドミナルの5種目を行う。このうち背中のラットプルとロウイングは自宅では再現が難しい。他はチェストプレス⇒ダンベルプレス&プッシュアップ、レッグプレス⇒ダンベルスクワット、アブドミナル⇒Vシットという家トレに転換。
まずはダンベルプレス。ジムでのチェストプレスは75kg×10回×3セットで組んでいる。ダンベルだとその70%ほどの重さが妥当だから、75×0.7=52.5kg、片手なら25kg強だ。ダンベルにプレートをフルで付けると20kg。「軽すぎるな」と思いつつ持った瞬間、「ダメだ!」とわかる。重すぎるのだ。謙虚に減らして片手15kgからスタート。
ダンベルプレスを15回×5セット終えたら、名付けてSAP(サップ)へ。これはスクワット、アブドミナル、プッシュアップの頭文字を取ったものだ。スクワットはダンベル1個を縦に持って15回、Vシットは30回、プッシュアップは20回。これを5セット行うのに30分以上かかる。終わった頃にはヘロヘロ。家トレも手強い。
4月25日(土)|公園の遊具が閉鎖。懸垂ができなくなる。
家トレで困るのは、背中が鍛えにくいこと。背中は力持ちだから、20kg程度のダンベルでは物足りない。
芝公園には、懸垂ができる鉄棒がある。「イザとなったら、あそこで懸垂しよう」と目を付けていたのだが、躊躇するうち、東京都がこの日からステイホーム週間を宣言。鉄棒を含む公園の遊具までロックアウトされて、やりたくても懸垂できなくなる。
4月29日(木)|初めてマスク着用でラン。辛すぎる。
シリアスランナーとして知られる京大の山中伸弥教授が、飛沫感染予防の観点から、ラン中もマスク着用を呼びかける。すれ違う際、嫌そうに背中を向ける歩行者も増えたから、遅まきながらマスクランを実践。
専門家はマスクをしても息苦しくないペースで走るべきだと言うが、後半汗をかくとマスクが濡れて通気性ゼロに近くなり、息ができない。平均ペースは1km6分まで低下。
ゴールデンウィークが始まり、芝公園の芝生の広場には多くの家族連れが集まっていた。
4月30日(金)|ダンベルで片手20kg持てるようになる。
6回目にしてこの日初めてプレートをフル装備。片手20kgでダンベルプレスが15回×5セットこなせる。
計算してみた。チェストプレスの75kg×10回×3セットでは、総挙上重量は2250kg。一方、ダンベル両手計40kg×15回×5セットだと3000kg。仕事量的には家トレがジムトレを上回ると知り、満悦。
5月4日(月)|緊急事態宣言が延長。筋肉の衰えを自覚。
悪いニュース。感染終息が見えないため、特定警戒都道府県の緊急事態宣言延長が決まる。やれやれ。
入浴前に裸になると、胸板が12%くらい薄くなったと気づく。脱いで誰かに褒めてほしくて鍛えているわけじゃない。自己管理の一環でトレーニングしているつもりだが、それでもやはり悲しくなる。心理学によれば、人は何かを新たに得る喜びより、得ている何かを失う悲しみを過大評価するらしい。
この日、アメリカではゴールドジムが経営破綻。日本のゴールドに影響はないようだが、これ以上コロナが広がると潰れるジムが出てきてもおかしくない。大胸筋の心配をしている場合ではない。
5月12日(火)|綱の手引き坂を歩かずに走り切る。
芝公園を4周して余力があったので、帰りに綱の手引き坂を上る。全長300mほどの緩やかなスロープだが、チャレンジ3回目で初めて歩かず上り切れて自信になる。ちなみに、この坂は下りでは日向坂と名前を変える。読みは「ひなたざか」ではなく「ひゅうがざか」だよん。
午後、密を避けて編集者と自宅近くの公園でこのページの打ち合わせ。青空打ち合わせはライター人生初。
5月14日(木)|ダンベルを落とし、気を引き締める。
ダンベルプレス⇒SAPが日常化して油断したのか、ダンベルプレスの4セット目途中で左手のダンベルがコントロール不能になり、床に落とすという痛恨のミスを犯す。気を抜いてはいけないと猛省する。
この日ネットで、アメリカ・フロリダ州でジム再開を求める人びとが、裁判所前でプッシュアップをしながら「筋トレをさせろ、さもなければ殺せ(Give me gains or give me death)」と訴えたという記事を読む。ジムで働く人の雇用確保も求めた抗議だ。それに英国の新聞は「路上でプッシュアップできるなら、ジムは再開しなくて済むのでは?」と皮肉っぽくコメント。わかってないなぁ。
5月20日(水)|体重計に乗る。意外にも痩せていた!
帽子を被らず、日焼け止めも塗らずに外ランを続けていたせいか、日焼けして顔が引き締まって見える。もしかして痩せた? 試しに半年ぶりで体重計に乗ると63kg。以前より約2kg痩せた。喜ぶべきなのか。
ジムでは筋トレ+ラン×週2回だったが、家トレではラン2回+筋トレ2回と週4回に分割した。そもそも筋トレはカラダの合成(同化)を促し、ランは分解(異化)を促す。別々に行ったことで両者の効果が最大化し、体重減少に結びついたのか。それとも単に筋肉が削れただけ?
5月27日(水)|2か月ぶりにジム再開。オープンと同時に行く。
新規感染者が減り、5月25日に政府は緊急事態宣言の解除を決める。東京都は6月1日からジムの休業要請を解く方針だったが、通っているジムはなぜか27日に一足先に開く。
待ちに待ったその日。開店と同時に勇んでジムへ。筋力が落ちたはずなので、以前より重さ控えめでスタート。最終的にはレッグプレスとラットプルダウン以外は、以前とほぼ同じ内容でこなせた。家トレである程度筋肉は維持できていたらしい。筋トレ後、トレッドミルへ。パーティションで1台ずつ仕切られて、感染症対策が施されている。まるで〈一蘭〉でラーメンを食べる気分。
6月3日(水)|ダンベルプレスとランは継続。今後は二刀流。
マスクが市中に溢れ、テイクアウトも定着。ジムライフも戻りつつあるが、ダンベルプレスと外ランは続ける。再度のジム閉鎖に備え、ダンベルトレのスキルと外ランの習慣をキープするためだ。
今日でジムは今年30回目。昨年の同じ時期は42回目だったから、12回分ロストした。でも、その分だけ貴重な学びもあった。ジムトレ+家トレの二刀流でしばらく頑張ろう。