実はカラダに良くない! 有酸素運動の4つの間違い
カラダを動かすは吉。でも陥りがちな落とし穴も数知れず。あなたのその運動、大丈夫? 今回はランニングもウォーキングも、本当にカラダに効かせる有酸素運動のやり方をマスターしよう。
取材・文/井上健二 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/3rdeye 取材協力/石井好二郎(同志社大学スポーツ健康科学部教授)
初出『Tarzan』No.784・2020年3月26日発売
間違い① 早朝に空腹でラン
ランは手軽な有酸素運動。早朝、出勤前に走るランナーをよく見かけるが、空腹で走るのは良くない。
空腹で走ると体脂肪は気前よく燃えるから、早朝に限らず、減量目的のランナーは空腹で走りたがる。でも、そこに思わぬ落とし穴がある。
確かに空腹であるほど体脂肪はエネルギー源として使われやすい。脂肪細胞に蓄えられた中性脂肪が分解されて、血中に遊離脂肪酸が増えるのだが、この遊離脂肪酸がくせ者。
「遊離脂肪酸は毒性があり、心臓にリスクを抱える人では、血中の濃度が高すぎると心臓を動かす心筋が興奮しすぎて不整脈が起こり、心室細動から突然死を招く恐れもあります」(同志社大学スポーツ健康科学部の石井好二郎教授)
早朝は、一日の中でも前の食事からの経過時間がもっとも長くて腹ペコ。このため遊離脂肪酸が生じやすいから要注意。早朝は夜間の副交感神経から日中の交感神経への自律神経の切り替えも完了していないから、その点でも運動には向かない。
朝出勤前に走るなら、まずは寝ている間に失った水分を補い、バナナやスポドリなどから糖質を軽く補給。これで遊離脂肪酸の過度な発生が抑えられる。さらに長めのウォーミングアップで交感神経を優位にして、血行を促進してから走ろう。
間違い② 1週間に6回以上走る
血圧など健康診断の数値を改善するうえでも最強なのはランニング。
走れば無駄な体脂肪が燃えて減量しやすいし、血圧も血糖値も下がりやすい。そう聞くと張り切って毎日でも走りたくなるけれど、初めは週1〜2回で十分。
「18歳から100歳までの成人5万5,000人以上を、走るランナー群と走らない非ランナー群に分けて15年以上追跡した研究があります。
それによると週1〜2回走るだけでも、非ランナー群と比べて死亡リスクが下がっていました。さらに週3回以上走る人たちと週1〜2回走る人たちの死亡リスクは変わらないという結果が得られました」(石井先生)
走りすぎは心臓病や脳卒中で死ぬリスクを上げる
この研究のポイントは15年間の追跡調査であること。それくらい長く続けているから、週1〜2回でもそれなりの見返りがあるのだろう。
週3回以上走ろうと張り切りすぎて挫折するくらいなら、初めからハードルを下げて週1〜2回走ればいいと気楽に構えて。三日坊主で終わらないように継続を心がけたい。
心臓病や脳卒中で死ぬ危険度に限ると、週5回までは死亡リスクは横這いで推移するが、週6回以上走る人ではやや上がる(それでも走らない人よりは低い)。何事もやりすぎは良くないのである。
間違い③ 行き帰りに頑張って2駅分歩く
ランだけが有酸素運動ではない。ウォーキングも立派な有酸素。ことに「ややきつい」速歩は健康面の御利益が目白押し。
ウォーキングは日常生活のついでにできるのが大きなメリット。通勤時に歩く距離を延ばすだけでも、心身にポジティブに作用する。
難なく2駅分歩けるならそれでもいいが、そうでなければ背伸びをしなくていい。1駅分でもウォーキングには効果が期待できるのだ。それを示すのが、厚生労働省が進める「+10(プラステン)」運動。
「これはウォーキングなどでカラダを動かす時間をいまより10分だけ延ばそうというメッセージ。大きな変革ではなく、生活の延長線上で行うスモールチェンジの方が始めやすく、続けやすいのです」(石井先生)
この「+10」にはエビデンスがある。複数の研究を解析したところ、「+10」で死亡リスクを2.8%、生活習慣病発症を3.6%、がん発症を3.2%低下できると判明しているのだ。そして1年続けると体重も1.5〜2kg落ちる。
「+10」なら2駅分ではなく、1駅分で達成可能。10分のウォーキングは歩数にすると約1,000歩だ。+10で歩くのが日課になったら、「ややきつい」ペースの速歩の時間を増やそう。
間違い④ ランニングだけを長年続けている
ランは有酸素運動の王様。健康維持には極めて有効だが、月間走行距離やベストタイムにこだわりすぎるのはNG。
健康のために走り始めたのに、ハマるといつの間にかラン自体が目的になりがち。まして勝負の世界に生きるアスリートでもないのに、他人と競うように頑張りすぎるのは論外。
一般的に市民ランナーは月間走行距離200kmを超えるあたりから、故障に悩む人が増える。同じ運動を反復し続けると、特定の筋肉や関節ばかりにダメージが蓄積。故障につながるのだ。これは使いすぎによるオーバーユース症候群。ことにランナーには膝や股関節、腰などに使いすぎによるトラブルが起こりやすい。
そこで提案したいのが、複数の種目を自由に組み合わせるクロストレーニングだ。
バイク(自転車)やスイム(水泳)もランと同じく有酸素運動。疾病の発生を抑える作用は同等だ。
ラン、バイク、スイムはそれぞれ使う筋肉と関節が異なるので、1時間運動するなら20分ずつ行うとオーバーユース症候群も避けられる。ただひたすら走るだけのマラソンマニアになるより、3種目を掛け持ちするトライアスリート気分で有酸素を楽しんだ方がカラダへのダメージが少なく長続きするのだ。