猫背や呼吸の浅さは、“胸郭リセット法”で改善しよう。
見た目が整っていても、多くの人の胸郭はわずかに左へズレている。呼吸や姿勢の乱れ、猫背の原因にもなるこの歪みを、理学療法士・柿崎藤泰先生が提唱する“胸郭リセット法”で整えよう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/ダン・マトゥティナ 取材協力・監修/柿崎藤泰(文京学院大学教授、理学療法士)
初出『Tarzan』No.912・2025年9月11日発売

教えてくれた人
柿崎藤泰さん(かきざき・ふじやす)/理学療法士。文京学院大学保健医療技術学部教授、医学博士。社会医学技術学院卒業。昭和大学藤が丘リハビリテーション病院、昭和大学附属豊洲病院などを経て現職。胸郭の運動分析、呼吸運動療法などが専門。
約9割の人は胸郭が歪んでいる。胸を骨盤の真上にリセットしよう。
欠点のない人間がいないように、歪みのない人間もいない。一見美姿勢でも、胸椎と肋骨などが作る胸郭に自覚できない歪みがあるからだ。
「約90%の人は、骨盤の中心に対して胸郭の中心が左へ偏り、左側が詰まり、右側が緩んでいます」(理学療法士の柿崎藤泰さん)
そんな衝撃的事実を披露するのは、文京学院大学の柿崎藤泰先生。左側の肋骨弓(みぞおち横の肋骨下部のカーブ)が右側より広がり、やや出っ張っているのがそのサインだ。
胸郭が左にズレている人の割合。

健常な成人男性18人を対象とした臨床調査。丸く点線で囲んだ部分が、胸郭の質量も面積も左へ偏位していると考えられる人たち。右にズレている人はわずか2人に留まっている。
出典:Ishizuka T, Koseki T, Hirayama T, et al :The novel approach to determine lateral deviations of thoracis and body trunk. WCPT-AWP & ACPT Congress, I-P202, 2013
胸郭が左側へズレる最大の理由は、左脳に言語中枢を持つヒトでは、発達した左脳がコントロールする右半身の方が使いやすいから。そのため左脚に荷重して支点を定め、右脚から踏み出しやすくするのだろう。
「胸郭が5mm以上ズレると、横隔膜の動きが邪魔されて深い呼吸ができなくなったり、左右均等に動けなくなったりする恐れがあります」
胸郭を正面から見ると、左側へシフトしている。

肋骨と胸骨の間には肋軟骨という軟骨があるため、胸郭は柔軟性が高く多少の歪みは許容できる。でも、ズレが大きすぎると、胸郭の底を支える横隔膜も変形。周辺には自律神経が集まるため、その失調につながる恐れも。
さらに猫背の根本原因にもなる。後方へカーブする胸椎では、背骨を作る椎骨同士の上下の関節面は前傾している。胸郭が左へズレる=第7胸椎から上が右向きに回旋すると、前傾した関節面を下位の椎骨が次々とせり上げるため、胸椎の後彎が強まり、猫背が固定化しやすいのだ。
胸郭の調整法はいくつかあるけれど、柿崎先生がそれらを施術すると、多くのクライアントは猛烈な眠気を訴えるという。
「歪みがひどすぎると、脳も体幹の筋肉も無意識に緊張してしまう。ズレが矯正されると緊張がオフになり、リラックスして眠くなるのでしょう。無駄な力みが取れると、体幹のインナーマッスルも働きやすくなる。体幹トレでインナーを鍛えるなら、まずは胸郭をリセットしましょう」
胸郭を後ろから見ると、背骨はこうねじれている。

体幹の重みの中心は、第7〜9胸椎あたりにあり、第7胸椎から上は後ろから見て右向きに回旋し、そこから下は左向きに回旋する。このため、胸郭は左側へズレるというわけ。つられて骨盤も左を向いてしまう。
タオルリセット法(1〜2分・20回程度)|タオルの上に寝るだけで胸郭のズレをリセット。

- 仰向けで頭をタオルに乗せ、椅子の座面に踵を乗せる。両膝を閉じ90度曲げる。
- 背中側の肋骨下端に沿い、畳んだタオルを逆V字に差し入れ、胸郭の左方向へのズレを修正。
- お尻の下にも畳んだタオルを敷き、内臓の重みで横隔膜を押し上げる。
- 左手を胸、右手をお腹に添える。
- 鼻から息を吸うときは胸とお腹が一緒に上がり、口から息を吐くときは同時に下がるように意識。これを1〜2分(20回程度)。
胸椎ベルト修正法 その1(10回)|頸椎の運動性を高め、胸郭を動きやすく。

- まっすぐ立ち、みぞおちのやや下(胸椎と腰椎の境目)に、伸縮性のあるベルトやチューブをややキツめに巻く。頭を天井から引っ張られるように背すじを伸ばす。
- 頸椎を動かさず、顎を引いて頭蓋骨を軽く前傾させると、みぞおちが自然に前に出る。
- これで首の後ろの後頭下筋群をストレッチして3秒キープ。少し緩めて(ただし猫背にならない)10回繰り返す。
胸椎ベルト修正法 その2(10回)|片脚ケンケンで胸郭を元の位置へ。

- みぞおちのやや下に、伸縮性のあるベルトやチューブをややキツめに巻き、自然に立つ。
- 右脚で片脚立ちになり、片脚ケンケンを10回ほど繰り返し、胸椎の左側へのズレを修正。




















