「ラグビー部の練習を思い出せばしんどいロケも乗り越えられる」笑いとウェルビーイング。令和ロマン・髙比良くるま(後編)

笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。第2回の後編では、令和ロマンの髙比良くるまさんの日々の生活を追いながら、裏側にある晴耕雨読的な思考についても伺います。

インタビュー/白武ときお 文・編集/飯田ネオ 撮影/鳥羽田幹太

Profile

髙比良くるま(たかひら・くるま)/1994年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部在籍中に相方の松井ケムリと出会い、2018年に令和ロマンを結成。2023、2024年の『M-1グランプリ』で2年連続優勝し、史上初の連覇を達成。2025年フリーに。現在テレビ番組では『ラヴィット!』(TBSテレビ、木曜隔週レギュラー)、『永野&くるまのひっかかりニーチェ』(テレビ朝日)に出演。インターネットラジオ『令和ロマンのご様子』(stand.fm)、『令和ロマンのUBUGOE』(Artistspoken)でMCを務める。近著に『漫才過剰考察』(辰巳出版)。
X:@Ku_ru_ma__

しんどい時はラグビー部時代の「本郷ォ〜〜!!」の掛け声を思い出す。

白武ときお(以下、白武)
最近は運動はしていますか?
髙比良くるま(以下、くるま)
ようやくジムに通い出しました。ここ1か月半くらいですね。体力は慌てて修正してるんですけど、やっぱり姿勢が悪くて。なんかストレートネックとか反り腰とか全部乗せで、もうダメらしいんですよね。でも自覚がないんで肩こりも頭痛も起きないんですよ。肉体の感覚がないんです。だから足の指とか頭とかそこらじゅうにぶつけてます。痛いですけどぼんやりしてるんで、40歳になったらヤバいんじゃないかって恐怖がありますね。
白武
身体の不調を感じづらいタイプなんですね。
くるま
そうなんです。だから風邪を引いてることにも気づけなくて、重症化するまでわからずに一気に胃腸炎になったりして。レントゲン撮ったら「腸が閉じてますよ」みたいな。そうなってから気づくんで困るなあって。
白武
それはタフさでもありますか?
くるま
そうかもしれないですけど、ボーッとしてるんですよね。視点が自分に向いてないんで。
白武
ぶつけちゃうのは、自分の境界線がわかってないから?
くるま
わかってないんだと思います。その教育を受けてないっていうか。

白武
学生時代にラグビーをやってましたよね。ラグビーが体に及ぼした影響ってありますか?
くるま
足首の脱臼とか怪我とかいっぱいしちゃったんで、足の裏が硬くなって使えてなくて、ふくらはぎにめっちゃ負担がかかってることが最近判明しました。だから今、足首を柔らかくするトレーニングやストレッチをしなきゃいけないんです。そういう面では本当にやられたなって感じですし、成長期に過度なフィジカルスポーツをやることがいいわけない。でも良かった点もあって、やっぱり精神的なところが鍛えられた気がします。楽しかったし、絶対めげないですからね、ラグビーやってたおかげで。
白武
例えば体を張る仕事なんかもあるじゃないですか。そういう場面でもプラスになってるわけですか?
くるま
そういう場合は精神的というよりも、フィジカル的な状況を比較して、昔のほうがしんどかっただろ?って自分を鼓舞する感じですね。海外ロケとかでしんどい状態でも、雨の中で何十本も走り込みをしてた高校時代を思い出して、あ、本郷高校っていう学校に通ってたんですけど、「本郷ォ〜〜!!」って掛け声出せばいけると思ってて。
白武
あのとき耐えた記憶を思い出して。
くるま
「誰だと思ってんだよ!」みたいな、謎のラグビーの時の自分が出てきてカバーしてくれますね。
白武
くるまさんの最近の楽しみはなんですか?
くるま
今年の春、住んでいる区にすごく税金を納めさせていただいたんですよ。それによって区への愛着が湧きまして。「我が道路だ!」みたいな気持ちになるんですよね。図書館とか初めて行くと「我が図書館!我が司書!このうちの何冊かは我が本!」となって楽しいですね。税金を納めた土地の繁栄を見守るのが最近の楽しみです。
白武
他にお金の使い道はどんな感じですか? 自分の楽しみとか喜びとかケアに使ってるんでしょうか。
くるま
普通に全然使いますよ。スーパーで黒毛和牛とか買いますし、それでタリアータを作ったりして。
白武
後輩に奢ったりも?
くるま
そのパターンを成さないまま退所しちゃったんで、罪悪感はあるんですよね。先輩にあんなにご馳走してもらったのに。吉本に在籍している時も、ご飯に行けば自分がいちばん後輩だったし、自分より後輩と仕事で一緒になることが少なくて、先輩に出してもらうほうが多かったんです。今は還元する人がいないから、大きな意味で将来的に還元できる場を作ることが俺にできることなのかなみたいな。だって今、俺と一緒に旅行とか行きづらいじゃないですか。何か邪推されたりするじゃないですか。
白武
くるまさんは周りにいる人たちを大事にしてるんですね。いつからそうなんですか?
くるま
鏡を見ずに育ったからかもしれないです。鏡を見ないと自分がどんな表情をしているかわからないし、自然と人のことを見てる時間のほうが長くなる。だから誰かが笑っているのを見ると楽しいし、笑わせることが第一次的な欲求になる。っていうか、そもそも「自己を認識する」ってみんないつ覚えたんですかね? 俺、あんま会得した時期がなくて。
白武
その場の楽しみが、人を喜ばせる方向に傾いている?
くるま
そうですね。 だから見えない誰かを思うのは得意じゃないですね。例えばどこかの国の問題となると、頭ではわかっていても直接見えないから想像する力は弱くなる。海外に一回行ったらまんまとその国のことが好きになるんですけど。

ルーティン化されてない素人の料理はもはや運動。

白武
最近は友達と遊ぶ時間は確保できてますか?
くるま
そうですね、うちに人が来るんで。まあ外だとなかなか会いづらかったりするので。
白武
ホームパーティですか?
くるま
パーティーと言うほど広い家じゃないですけど、普通に数人遊びに来て、一緒に飲むって感じです。大体家に人がいるんで。
白武
だいたい家に人がいるんですか?
くるま
だいたい誰かいますね。ひとりが嫌なんで。ひとりの時ってなんか実在しないんで、自分が。実在してないじゃないですか、意味ないから。
白武
人が来たら、何か料理をされるんですか?
くるま
そうっすね。自粛中にこういうふうにやるのか、とか言いながら作ってました。もともとカルボナーラが好きなんですけど、どうやらベーコンじゃなくてパンチェッタの方が美味いんじゃないかとか思って買ってみて。そしたらパンチェッタは自分で作れるって動画を見つけて、ブロックの豚バラ肉を買って、塩をすり込んで1週間ぐらい放置して自作して。そのあとでローマはグアンチャーレを使うらしいぞってなって豚トロを買ってきて、また塩を振って置いたりして。いや、そもそもカルボナーラは卵を使うんだから鶏で一貫するべきなんじゃないか? と最終的にボンジリを使ったりしてます。
白武
そこまでするのって何なんですか?
くるま
……何なんですかね? わかんないですけど、自分が美味しいものを食べたいっていう気持ちがあるんですよ。
白武
時間もあるし極めていこうと?
くるま
極めるってほどじゃなく、自分が美味しいもの食べたいなぁっていう。あと料理って運動なんですよ。素人にとっての料理って、何もルーティン化されてないじゃないですか。食材をいちいち買いに行くとか、これ作ってこれ置いといてとか、火も使うしめっちゃ汗をかく。外に出られないなか、かなり貴重な運動なんですよ。掃除機と洗濯機が進歩したから掃除や洗濯の運動量はたかが知れてますけど、料理はめっちゃ汗かきますね。

白武
そこからまた料理にハマっていくのか、もうカルボナーラで一旦は完成なのか。
くるま
ある程度、自分の家のちっちゃいコースはできたんです。最初にタコとアボカドのサラダ。これはウェブに載ってた〈アヒルストア〉っていうお店のレシピを使いました。あと和食の〈賛否両論〉の笠原将弘さんのYouTubeで見た玉ねぎのスープを作って、SNSでバズってたポテトをカリカリに揚げてポテトサラダにしてヨーグルトのソースとディルで和えるやつを食べてもらって、1回イチゴを挟みます。
白武
イチゴ(笑)。
くるま
はい。イチゴをシンプルに食べてもらって、そのあとにタリアータっていう牛肉を薄く焼いたのを作って、下にルッコラひいて、バルサミコ酢をかける。最後はカルボナーラで終わり……っていうコースができたんですよ。割と味のバランスも取れてるし、そんなに値段もかからないし、良いのではって一旦確定しましたね。誰か家に来るってなったらこれを作ればいいんです。このあと和食編に行くかもしれないですけど、仕事が始まっちゃったんで、また休みがあったらやろうかなって。
白武
それは自分にとってのベスト料理なわけですか。
くるま
そうです。それを押し付けてます。
白武
皆さんの感想は?
くるま
男たちは特に味わいもせず「うまいうまい」とか言いながらバクバク食いますね。
白武
嬉しいですか?
くるま
雑に食べられるとこいつらなんだろうなって思いますよね。Uberで良かったんじゃないかなと思って、段々コースをふるまう人を選ぶようになりました。芸人の先輩とか呼ぶとムシャムシャ食って終わりってことがあるんで、ちょっともったいないなと思って。

美容男子ではなく治療男子と呼んでほしい。

白武
最近、爆笑した記憶はありますか?
くるま
爆笑かあ。自粛中いちばん笑ったのは、Abemaの『ラブパワーキングダム〜恋愛強者選挙〜』っていう最高の恋リアがあるんですけど、出演者の長谷川惠一さんが意味もなくミッションをやらなかった瞬間があるんですよ。過去に『バチェロレッテ・ジャパン』とか『バチェラー・ジャパン』にも出ていて3回目の恋リア出演なのに、ただミッションをやらなくて。MCの(霜降り明星の)せいやさんも普通に突っ込んでいて、死ぬほど笑いましたね。家であんなひとりで笑うことないんじゃないかなっていうくらい。

白武
恋リアなり動画なり、映像を見てどれぐらい笑いますか?
くるま
あんまり笑わないですね。誰かと喋ってる時は笑うけど、映像作品は見ることに集中してます。ネタも同じで、笑ってる間に次に進んじゃうから黙って見ることが多いです。さすがに『THE SECOND 〜漫才トーナメント〜』のザ・ぼんち師匠はめっちゃ笑いましたけど。
白武
普段は誰といる時に笑いますか?
くるま
誰といても笑うなあ。男女、年齢を問わず。20代から60代ぐらいまでの友達がいますけど、やっぱり自分より年上の人の話は興味深くて笑っちゃいますね。そんな時代だったんですか! ってシンプルに面白くて。
白武
くるまさんは美容にも力を入れていますよね。
くるま
毎回この質問されたときに言ってるんですけど、僕がやってるのは治療なんですよ。だから美容って言われると。“美容男子”って、もともと肌が綺麗な人がよりフェミニンになろうとする行為だったりするじゃないですか。僕の場合、中高6年間ラグビー部でスクラム組んで、ニキビが潰れまくって肌がボコボコの状態で大学入って、そこから間違った市販薬とかを試しちゃって、さらに穴開いちゃったりして、皮膚科行ってちゃんとした薬処方してもらって、「跡を治すためにはこういう成分が効くんですよ」ってアドバイスを受けて、ちょっとずつ治療を頑張ってるっていう。だから美容男子ではなく治療男子と呼んでほしいです。
白武
(笑)。プラスしていくんじゃなくてマイナスを補っているんだと。
くるま
そうです。今もまだちょっとニキビ跡が残ってますけど、生活には全く困らないんです。それに生来の痣とかでっかい傷も本人が認めていたら個性だし、そういうことを揶揄する時代でもなくなってる。でも自分が出役だと、ちょっとでも傷があるとノイズになるじゃないですか。シャツにシワが付いてるのと一緒で、ちょっと話入ってこないなあってみんなうっすら思うんです。だからない方がいいかなって。
白武
そういう見た目の意識は、漫才においてやっぱり大事ですか?
くるま
漫才に限らず、出役であれば何においてもなんじゃないですかね。バラエティーとかでカメラがグッと寄りになった時に、ニキビがポツンってあったら気になりません? 特に芸人なんて食生活が終わってるから、『M-1』とかの大事な準決勝でめっちゃ大仏みたいなニキビできてる人がいるんですよ。ダメじゃないですか、そうなったら、そのニキビ生かすしかないじゃないですか。

俺はモバイルバッテリーを持っているからな!

白武
持っていると落ち着く、カバンの中にいつも入れているものをお見せいただけますでしょうか。
くるま
モバイルバッテリーですよね、本当に。モバイルバッテリー持ってないやついるじゃないですか。許せないですよね、マジで。
白武
コンビニにもありますよね。
くるま
みんな結局忘れて、あれを借りるじゃないですか。だったら持っていればいいのに。マジで意味わかんないんですよ。俺、それじゃないんですよ、それっぽく見られるんですけど。
白武
確かに“モバイルバッテリーを忘れて借りる人”に見られそうではありますね。
くるま
俺は持ってるんですよ。これややこしいところで。お前らの仲間じゃねえからな、お前らと違うからな、持ってるからな! って言いたいですね。しかも僕が使ってる〈Anker〉のバッテリーはそのままコンセントに刺して充電できるタイプなんです。みんな薄いやつを買ってType-Cとアダプタが必要なやつを買うから、ぐちゃっとなって置いてきちゃうんですよ。もうこれしかないの! 忘れっぽい人もこれ買えばいいの! うだうだ言ってるんじゃないの!

白武
(笑)。スマホはどれくらい見ちゃうんですか?
くるま
え、もう一日中見てますよ。仕事が全部スマホで来るのもありますけど。朝から晩までずっと。
白武
どんなSNSを見てるんですか?
くるま
今ほんとLINEにハマってて。LINE、超面白いじゃないですか。
白武
コミュニケーションを取ってるわけですか?
くるま
はい。もともとTwitterが好きだったんですけど、Xになって冷めて告知だけやってるんです。InstagramとかThreadsも自粛に入って途切れて冷めちゃって。仕事の窓口をLINEにして、連絡が来て処理してたら、LINEの友達の幅が増えたんです。それでグループLINEが色々できて、野球の話、音楽の話、常時ずっと動いてるんですよ。それがめっちゃ楽しくて。ビジネスの相談をする友達に、ちゃんと打ち返してる友達がいたりして
白武
タイムラインが忙しそうですね。
くるま
本来Twitterとかってこんな感じじゃなかったですか? 昔はおすすめとかなかったじゃないですか。だから今はLINEがよく使うSNSですね。

記事を読んで再発見できるから、取材は僕にとって鏡。

白武
くるまさんがこの人生き生きとしてるな、この人に憧れるな、と思う人はいますか?
くるま
さや香さんかもしれないです。新山さんは特に欲望がデカくないですか? めっちゃお笑いやってるけど、「『M-1』もうええわ」とか言って出ないで、東京来て、仕事人間だけどちゃんと結婚もして子供もいる。それ全部うまいことどうやってるの? みたいな。すげえなと思います。自分はなれないなと。石井さんも当然のように結婚してるし、「相方がウザいんですよ」とかもいちいち言わないじゃないですか。求められている場では言うけど、普段愚痴らないし、淡々とダンスしてる。カッコいいんですよね。

白武
くるまさんにとってのダンス的な趣味ってあるんですか?
くるま
取材じゃないですか? 取材楽しいです。
白武
それはどうしてですか?
くるま
大勢で話を聞いてくれるのが嬉しいのもありますけど、取材で話を聞かれると、これまで言ったことない言葉が出るじゃないですか。友達と喋ってると相手の話を聞いて返事をするし、過去に使った例えを出しがちなんですけど、取材では全く脳みそを使っていないので、逆に心から言葉が出るというか。記事になって自分で読んで、ああこんなこと言ってたんですねえって嬉しい。再発見。取材は僕にとってある意味鏡ですね。
白武
てっきりもうすでに考え終わったことを出力しているのかと思ってました。
くるま
いや全然。考え終わったらもう忘れてるんで。俺、保存っていう観点がなくて。毎回、保存してないのにバツを押しちゃうんですよ。保存すればいいんですけど、慌てて「はい今日終わった!」ってバツを押しちゃうんです。で毎回、空っぽのデスクトップから一日が始まっている感じですね。
白武
じゃあ海外旅行に行かれる前にインタビューをしていたら、また全然違う回答が出るんですか?
くるま
それは変わらないですよ。海外に行って人生観が変わるとかはなくて、“追加された”という感じなので。自分というエリアに、海外の経験とか見識が加わるっていう。
白武
じゃあ1か月後に聞いても、ベースのくるまさんは変わってない?
くるま
そうですね。継続ですね。
白武
最後に、くるまさんにとってのウェルビーイングとは。
くるま
僕、ずっと生き生きとしていると思うんですけど、それって考えてない状態があるからだと思うんですよね。考えるという行動には常にポジティブな面とネガティブな面が存在しているので、考えてない時間が大事なんじゃないですか? 
白武
流れるまま、目の前の出来事を選択していく。
くるま
そうです。自分の思考の外に自分を置くって、晴耕雨読的でもありますよね。その置いている時間のことじゃないですか、ウェルビーイングって。
白武
くるまさんはまさにそれを実践してるなと実感しました。
くるま
僕はむしろ、自分の思考を自分の中心に据える術を教わらないまま大きくなっちゃったんですよ。自ら努力して会得したことは何にもなくて、たまたまできたっていうだけなんです。