目次
- 体温を奪われる分、 脂肪が燃えやすくダイエット効果が高い
- 左右対称&表裏対称でジムで鍛えるよりバランスの良い体型になる
- 交感神経を抑えて副交感神経が優位となり、リラクセーション効果がある
- 泳ぐ速度の 3乗で負荷がアップして筋トレ効果もある
- 水圧で呼吸筋が発達して持久力が上がる
- 運動不足も不良姿勢もリセット。肩こりや腰痛が改善する。
- できないことができるようになり、自己効力感が高まる。
- 重心と浮心のズレを調整するためバランス能力が鍛えられる。
- 段階的着圧ウェアを着たようにむくみが取れやすい。
- 究極の全身運動。機能性も高まる。
- 怪我をするリスクが低く、幅広い層が安全に行える。
- 子どもにとっては神経系の発達にもつながる。
体温を奪われる分、 脂肪が燃えやすくダイエット効果が高い
ランニングやウォーキングなどと同じように、水泳も有酸素運動(エアロビクス)。運動中に酸素を介して無駄な体脂肪を燃やしてくれるダイエット効果がある。
なかでも水泳は、他の有酸素運動よりもダイエット効果が高い。なぜなら、プールの水温は30度前後であり、空気より熱伝導率が高い水中で行う運動だからだ。
「プールに入るだけでも体温を奪われてしまう。そのため、運動で消費する以外にも、失った体温を補って平熱に保つためにエネルギーを消費します。その分だけ一層多くの体脂肪が燃えて体型が引き締まってくるのです」(新潟医療福祉大学で水泳部監督を務める下山好充教授)
泳ぐのが苦手なら、プールに入ってウォーキングするだけでも、体温を維持するために、余分に体脂肪が燃えることが期待できそう。 ちなみに、水中では体熱が奪われるのを防ぐために、クジラのように皮下脂肪が分厚くなりやすいという俗説もある。けれど、それはどうやら都市伝説のよう。 「クジラのようにずっと水に浸かっているわけではありませんから、そうした心配は杞憂でしょう」
左右対称&表裏対称でジムで鍛えるよりバランスの良い体型になる
スイマーはスリムで筋肉隆々だが、それ以外にも彼らが美しく見える理由が3つある。
第1に、体型が左右対称だ。 まっすぐ泳ぐには、手足を左右均等に使うことが求められる。そう心がけて泳いでいると、左右の筋肉が同じように強化されるため、シンメトリーに整ってくる。
第2に、鍛えにくい背中側も鍛えられている。 筋トレでは通常、胸の大胸筋や太腿前側の大腿四頭筋といった正面の目立つ筋肉ばかりを鍛えがち。対照的に背中側の筋トレは疎かになり、表裏がアンバランスになりやすい。 一方、水泳のストロークとキックでは、背中の広背筋や僧帽筋、股関節まわりの大臀筋やハムストリングスといった背面の筋肉がつねに動員されているので、表裏が均等に肥大しやすい。自体重トレだとなかなか鍛えにくい背中も、泳げばしっかり鍛錬されるのだ。
最後にスイマーは美姿勢だ。 水泳では、水中で姿勢を水平に近く保つために、体幹の筋肉が活躍している。そのため陸上でも背骨や骨盤などが正しい位置に収まりやすく、キレイな姿勢がキープできるのだ。
交感神経を抑えて副交感神経が優位となり、リラクセーション効果がある
小学生の頃、プールの授業の後、異常に眠くなって困った経験はないだろうか? 泳いで疲れて眠気が出てくる部分もあるだろうが、それ以外にも眠くなる訳がある。
水泳には副交感神経を優位にするリラクセーション作用があるのだ。 心身の機能を調整している自律神経には、交感神経と副交感神経がある。両者の働きは対照的であり、交感神経は心身を活動的に整えるし、副交感神経はリラックスモードへと誘ってくれる。 水泳を含めて、運動中は交感神経が優位になりがち。とくに体温よりも低いプールに入ると、交感神経が一時的に刺激されやすい。
ところが、水泳では運動後に速やかに副交感神経へと切り替わり、その状態がしばらく続く。 「水平のストリームラインを取ると、心臓と同じ高さで血液が循環するため、副交感神経が優位になりやすいと考えられます」 仕事でストレスや緊張を感じていると交感神経が優位になりやすい。そんなときはプールにふらっと立ち寄ってひと泳ぎ。副交感神経へとスイッチを切り替えてやろう。
泳ぐ速度の 3乗で負荷がアップして筋トレ効果もある
スイマーは惚れ惚れするような筋肉をしている。補強のために陸上で行うトレーニング(陸トレ)のお陰もあるだろうが、彼らの筋肉の大半は泳いで作られたもの。
水泳は有酸素運動であると同時に、優れた筋力トレーニングでもあるのだ。 レジスタンストレーニングという別名が示すように、筋トレでは何らかの抵抗(レジスタンス)をかけて筋肉を鍛える。陸上ではダンベルや自体重などが抵抗となる。 水泳で筋肉を刺激する抵抗となるのは、水そのもの。
水の抵抗(粘度)は空気の800倍以上。腕のストロークで水を搔いたり、脚でキックしたりするときに加わる水の抵抗が、適度な負荷となってくれる。 筋トレ的に見て水泳が優れるのは、ストロークやキックの速さを変えながら、泳ぐスピードで負荷が自由に調整できる点にある。 「速く泳げば泳ぐほど、筋肉には大きな負荷がかかり続けます。近年、水の抵抗は泳ぐスピードの約3乗に比例すると判明しました」 体脂肪を燃やしたい日はゆっくり長く泳ぎ、筋肉を鍛えたい日はスピード重視で泳げば、プールだけで有酸素と筋トレが一挙にこなせる。
水圧で呼吸筋が発達して持久力が上がる
体脂肪燃焼を促す減量効果に加え、有酸素運動には全身持久力(スタミナ)を上げる働きがある。 ことに水泳は、スタミナをアップさせるうえで、他の有酸素運動にはない利点がある。呼吸筋が発達しやすくなり、より多くの酸素が吸えるようになるため、それだけスタミナが高まりやすいのである。
呼吸筋とは何か。まずは呼吸の仕組みからおさらいしよう。 呼吸の主役である肺は風船のようなものであり、自ら膨らんだり、縮んだりできない。肺を収めている鳥籠状の胸郭が狭まると肺から空気が吐き出されて、胸郭が広がると肺に空気が吸い込めるのだ。 この胸郭の動きをコントロールしているのが、横隔膜、外・内肋間筋などからなる呼吸筋。
「水中では全身につねに水圧がかかっています。息を吐くときは胸郭を狭める手助けをしてくれますが、吸うときは水圧に逆らって胸郭を広げる必要がある。それが適度なトレーニング効果を発揮するので、水泳では呼吸筋が鍛錬されるのです」 ランニングが趣味の人も、水泳で呼吸筋を鍛えると呼吸がラクになり、走るペースが上げられるかも。
運動不足も不良姿勢もリセット。肩こりや腰痛が改善する。
肩こりと腰痛は日本人の国民病。原因はさまざまだが、運動不足や不良姿勢が大きな誘因であることは疑いようがない。 デスクワークが多く前屈み&猫背になると、首や肩が凝りやすくなる。加えてじっと坐っている時間が長くなると、股関節が屈曲したままサビやすくなり、それだけ腰椎のストレスが増えて腰痛を招きやすい。
水泳を続けると、これらの運動不足や不良姿勢による肩こりや腰痛が改善しやすくなる。 ストロークでより多くの水をキャッチするには、肩甲骨から腕を大きく動かすべき。この動的ストレッチのようなモーションにより、肩まわりの筋肉がほぐれやすい。また、猫背だと腕は大きく動かせないので、スイマーは肩を引いて胸を張った姿勢を自然に取る。これらの相乗作用で肩こりは軽快しやすい。
そして効率的なキックのためには、股関節から両脚をしなやかに動かすことが求められる。このため股関節の動きが良くなり、腰椎のストレスが減らせる。さらに腰が丸まると下半身が沈むので、骨盤を前傾させて腰を伸ばした姿勢を取るクセがつき、それも腰痛の緩和につながる。
できないことができるようになり、自己効力感が高まる。
泳ぐのが苦手、あるいは思ったように泳げないタイプこそ、水泳にチャレンジするとご褒美がある。自己効力感(セルフエフィカシー)が高まりやすいのだ。
自己効力感とは、はっきりとした根拠を持ち、「自分ならできるはず」と思えることだ。 初めのうちは上手に泳げなかった人でも、プールに通って地道に練習しているうちに、自分なりの泳ぎが徐々にマスターできるようになる。
「水泳は日常生活にはない動きですから、できる・できないが他のスポーツよりもハッキリしています。だからこそ、できないことができるようになると、なおのこと自己効力感が高まりやすいのです」
大人になり、ルーティンワークが主体になってくると、「できないことができるようになる」といった成功体験や達成感を得るチャンスはそうそうなくなる。 水泳で「自分ならできるはずだ」と自らに自信が持てるようになると、リスキリング(学び直し)やスキルアップにも新たに挑戦したいという意欲が高まってくるはず。水泳をきっかけとして人生の幅が広がり、キャリアアップの機会が得られる可能性だってありそう。
重心と浮心のズレを調整するためバランス能力が鍛えられる。
子どもから高齢者まで、日本人の多くで低下している体力の一つが、バランス能力。 バランス能力が下がると些細な凹凸で転びやすくなり、骨折などの思わぬ怪我を負うリスクがある。段差などの障害が室内でも屋外でも減り(そのメリットもあるが、その点は脇に置こう)、自ら主体的にバランスを取らなくても困らなくなった点がその背景に挙げられる。
バランス能力を高めるために、挙動が不安定なバランスボールなどを用いたエクササイズが推奨されるが、水泳ならより手軽にバランス能力が鍛えられる。 水に入ると浮力が働く。その中心を「浮心」という。空気で満たされた肺が浮き袋の役割を担うため、水平なストリームラインを保った姿勢では浮心は通常胸郭にあり、骨盤の奥にある「重心」とは一致しない。
このため、何もしないと重心に近い下半身が沈みやすくなり、浮心に近い上半身が浮き上がりやすくなる。 浮心と重心の差を体幹などの筋肉でうまく調整し、できるだけ水平なストリームラインを保って泳ごうとすると、バランス能力が無意識のうちにアップしてくるのだ。
段階的着圧ウェアを着たようにむくみが取れやすい。
じっと坐り続けたり、逆に立ち仕事が多かったりすると、下半身がむくみやすい。ふくらはぎなど下半身の筋肉によるミルキングアクションが十分に働かないからだ。
血液を巡らせているポンプは心臓だが、心臓には血液を送り出す作用はあっても吸い上げる作用はない。ゆえに、心臓より下を巡る血液は重力に逆らって心臓へ戻ってくる必要がある。それを助けるのが、ミルキングアクション。下半身の筋肉の伸縮で血管の圧迫と解放を繰り返し、下から上へバケツリレーの要領で血液の還流をサポートする。
下半身を動かさないとミルキングアクションが不発に終わり、還流されない血液が溜まり下半身がむくむ。それを解消するのが、水泳だ。 水の中に入ると水圧がかかる。水深が深くなるほど水圧も高くなるため、プールで立っているだけで、まるで段階的着圧ウェアを着るようなもの。ミルキングアクションと同じような効果が得られて、血液の還流が促されてむくみが霧散する。
さらに水平のストリームラインで泳ぎ始めると、心臓とほぼ同じ高さで全身の血液が循環し始めるから、むくみは完全にリセットされる。
究極の全身運動。機能性も高まる。
有酸素運動は、カラダ全体を偏りなく駆使する全身運動だとされる。 ことに上半身、体幹、下半身の筋肉をフル動員して行う水泳は、究極の全身運動。しかも外側のアウターマッスル(表層筋)だけではなく、陸上ではトレーニングしにくい内側のインナーマッスル(深層筋)までバランスよく鍛えられる。
「最新の研究では、泳ぐのが速い選手ほど、体幹の腹横筋などのインナーマッスルがよく発達していることがわかってきました」
究極の全身運動である水泳をよりアップグレードさせたいなら、4大泳法すべてにチャレンジしてみるのがベスト。 クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライはそれぞれフォームが異なるだけではなく、使っている筋肉も微妙に異なる。
仮に同じ筋肉が働いているとしても、その使い方には違いが大きい。 好き嫌いをせず、4大泳法を満遍なく楽しんでいれば、全身が隈なく鍛えられる。それにより、均整の取れたボディラインがデザインできるだけではなく、どんな動きも無駄なく機能的にこなせるファンクショナルなカラダに生まれ変われる。
怪我をするリスクが低く、幅広い層が安全に行える。
水泳に限らず、プールでの運動は怪我をしたアスリートや高齢者のリハビリなどにも幅広く用いられる。 なぜなら浮力により、筋肉や関節への荷重負荷(姿勢や体重により加わる負担)が相殺されるから。へその深さまで水に入ると荷重負荷は50%に減り、剣状突起(みぞおち)まで入ると30%になり、鎖骨の深さまで入るとわずか10%になる。
「陸上では介助がないと動けない人でも、プールでなら一人で運動できる場合もある。また手足を動かすスピードを変えるだけで、抵抗が自在にコントロールできるので、無理のない範囲で運動が行えます」
健常者でも、荷重負荷が少ない環境でトレーニングできるメリットは大きい。たとえば、ランの着地時には体重の2〜3倍の衝撃が加わり、走りすぎると足腰に響く。ゆえに市民ランナーには膝などにトラブルを抱える人が少なくない。
水泳も、選手クラスになると練習のしすぎによる故障も出てくるが、普通の人が趣味で楽しむレベルでは使いすぎによる障害が起こることはまずない。交通事故や転倒などによる怪我のリスクもなく、極めて安全に生涯楽しめるスポーツなのだ。
子どもにとっては神経系の発達にもつながる。
人差はもちろんあるにしろ、子どもの発育にはある程度決まった傾向がある。それをわかりやすく示したのが、アメリカの生物学者リチャード・E・スキャモンによる著名な「スキャモンの発育・発達曲線」。
この古典的な研究によると、3〜6歳の「プレゴールデンエイジ」で神経系が一気に成長し、6〜12歳の「ゴールデンエイジ」で神経系とカラダの発育がシンクロして完成へと近づいていく。この時期に子どもがさまざまな運動を経験すると、いわゆる「運動神経」が良くなり、将来何らかのスポーツで頭角を現す可能性が高まってくる。
「水泳は非日常的な運動なので、水泳をやっておくと神経系がより発達しやすくなると期待できます」
子どものうちに水泳で胸郭の柔軟性を高め、呼吸筋をきちんと成長させておくと全身持久力が高まり、いろいろな運動を粘り強く続ける能力も向上するだろう。また、できないことができるようになって自己効力感が高まると学習など運動以外の分野にもポジティブな影響が及び、文武両道が貫けるに違いない。子どもが水泳に取り組む利点は枚挙にいとまがないのだ。