選ぶなら白米?チャーハン? クイズで学ぶ「適正糖質」【前編】

糖質をコントロールする目的は、食後高血糖対策と言っていい。なぜ糖質を抑える必要がある? どれぐらいの量を摂ればいい? 糖質関連の疑問を解消すべく、テストに挑戦。問題を解きながら適正糖質の基準を理解しよう。

取材・文/井上健二 取材協力・監修/山田悟(北里大学北里研究所病院糖尿病センター長) 写真/iStock.com

初出『Tarzan』No.871・2024年1月4日発売

クイズで学ぶ「適正糖質」【前編】
教えてくれた人

山田悟さん(やまだ・さとる)/北里大学北里研究所病院糖尿病センター長。2013年、緩やかな糖質制限=ロカボの考え方を広め、作り手にも食べる側にもより良い社会の実現を目指す一般社団法人食・楽・健康協会を設立。

「適正糖質」の糖質量を選びなさい

🅐 1食120g以下に抑える

🅑 1食20〜40gの範囲内で摂る

🅒 1日のカロリーの50〜65%以内に糖質を抑える

解説:血糖値を安定させるのは、1食20〜40gの糖質摂取

国の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の目標量は、1日の摂取カロリーの50〜65%を糖質(炭水化物)から摂ること。日本人は現在、1日平均230gほどの糖質を摂る。これは1日の摂取カロリーの56%前後に及び、国の目標量の範囲内に収まっている。

ところが、驚くことにこの目標量に科学的な根拠はない。ぶっちゃけて言うと、カロリーになる糖質、脂質、タンパク質の3大栄養素から、どのようなバランスでカロリーを摂取する(エネルギー産生栄養素バランス。別名PFCバランス)のがベストなのかは不明なのだ。

ここで登場するのが「適正糖質」という考え方。「ロカボ」の愛称でもお馴染みだ。

適正糖質はPFCバランスではなく、1食の糖質量を決めるという現実的な発想に基づく。食後に血糖値が急上昇する食後高血糖、血糖値が激しく上下する血糖値スパイクが諸悪の根源で、血糖値を上昇させるのは糖質のみだからだ。

血糖値を安定させつつ、カラダの機能が保てるように定められた適正糖質の基準は、糖質を1食20〜40g+間食10g=1日70〜130g摂るというもの。

これなら、ご飯やパンなどの主食も少量なら食べられるから、無理なく継続できるだろう。

正解:🅑


適正糖質の1日の上手な摂り方

1日3食で各々20〜40gの糖質を摂取する。間食を含めて1日70〜130g。トータルの摂取量が同じでも、一度に40g以上の糖質を摂ると食後高血糖が起こりやすい。

適正糖質の根拠を選びなさい

🅐 おにぎり1個の糖質量を参考にした

🅑 日本医師会の提言によって決まった

🅒 脳と赤血球の必要量が基準となった

解説:血糖を好む細胞のご機嫌も考慮する

1食当たり20〜40gという適正糖質の基準はどう導き出されたのか。目安は、脳の神経細胞と血液中で酸素を運ぶ赤血球の使用量。

両者は血中の糖質=血糖を好み、なかでも赤血球は血糖しかエネルギーにできない。血糖と並ぶ細胞の重要なエネルギー源は脂質(脂肪酸)だが、赤血球は脂肪酸を利用するためのミトコンドリアを持たず、血糖を使うほかないのだ。

そして脳は血液脳関門という“関所”で脂質が足止めされるため、血糖を好む。こうして消費される糖質量が1日130g。血糖を細胞に取り込むインスリンの分泌がまったくなくても、130gの糖質は処理できるのだ。

適正糖質を世界で初めて公式に認めたアメリカ糖尿病学会でも、1日の糖質摂取量130g以下の食事を糖質制限食として定義する。これを3食で割ったのが1食の上限40gだ。

一方、極端な糖質制限食は続かない人が多いため、1食20g以上という下限もあわせて設定している。

そもそも糖質は必須の栄養素ではなく、肝臓や腎臓で必要量を作り出せる。これが「糖新生」。その量は1日150g(糖尿病患者は250g)に達する。ゆえに理論的に糖質摂取はゼロでもいいとされる。

正解:🅒

玄米や全粒粉パンはヘルシーだからたくさん摂ってもいい?

🅐 玄米はダメだが、全粒粉パンはいい

🅑 全粒粉パンはいいが、玄米はダメだ

🅒 どちらも適正糖質を無視して摂るのはNG

解説:白米でも玄米でも、大切なのは糖質含有量

糖質を多く含む主食の中でも、精製度の高い白っぽい穀物は、消化吸収がスピーディに進むため血糖値が上がりやすい。白米、食パン、うどんなどである。

一方、精製度が低い茶色っぽい穀物は、消化吸収が前者と比べると緩やかに進むため、血糖値が上がりにくく、一般的にヘルシーだとされている。玄米、雑穀米、全粒粉パン、挽きぐるみのそばなどだ。

でも、適正糖質を守るうえで何よりも気にしたいのは、食品に糖質がどのくらい入っているか。

白っぽくても茶色っぽくても、摂った糖質は2時間以内にほぼ100%が血糖に変わり、血糖値を押し上げる。

たとえば、白米も玄米もご飯茶碗1杯(150g)では50g前後の糖質が入っているため、どちらも同じくらい食後高血糖、血糖値スパイクを起こしやすい。精製度にかかわらず、糖質含有量を1食当たり20〜40gのセーフティゾーン内に収めるのが先決なのである。

そのうえで同じ糖質量を摂るなら、食物繊維をより多く含む未精製タイプをチョイス。食物繊維は糖質の消化吸収をゆっくり進めるほか、大腸内の腸内細菌の餌となり、腸内環境を整えて体調を良くするポジティブな作用も期待できるからだ。

正解:🅒

白飯とチャーハンならどちらを選ぶのが正解?

🅐 低カロリーだから白飯に決まっている

🅑 チャーハンしか勝たん

🅒 好きな方をチョイスして構わない

解説:糖質はタンパク質や脂質と一緒に摂るべし

日本人が日常的にもっとも摂る糖質といえば、何といってもご飯。ひと口にご飯と言っても、白飯以外にもいろいろなタイプを食べているけれど、すでに触れたように適正糖質という視点から良し悪しを判断するいちばん重要な基準は、1食当たりに含まれる糖質量。

普通の白飯でもおかゆでも酢飯でも、要するに1食20〜40gという基準をクリアできるかどうかが大事。それを頭に入れたうえで、白飯とチャーハンのみを食べるという設定でこの設問に答えよう。

同じ糖質量で比べると、シンプルな白飯より、調理油や卵やチャーシューなどを含むチャーハンの方が高カロリー。他方、白飯は脂質もタンパク質もほとんど含まないのに、チャーハンでは油と具材に由来する脂質とタンパク質をある程度含む。その差が意外な違いを生むのだ。

カロリーは血糖値に響かない一方、脂質を摂るとGIP、タンパク質を摂るとGLP―1というホルモンが小腸から分泌される。いずれも膵臓からインスリン分泌を促し、血糖値の上昇を抑え、食後高血糖や血糖値スパイクを防ぐ。

ゆえにチャーハンの勝ちだが、チャーハンなら何杯食べてもいいという話ではないので(それは糖質過多を招く)念のため。

正解:🅑

「適正糖質」はどんな人に必要があるの?

🅐 血糖値が下がらない糖尿病患者だけ

🅑 健康診断でメタボの疑いがある人だけ

🅒 健康寿命を延ばしたいすべての人たち

解説:肥満、メタボ、がん、認知症を防いでくれる

歴史を辿ると、適正糖質は糖尿病の治療目的に開発されたもの。血糖値を上げるのは糖質のみ。糖尿病では血糖値が高くなりすぎて下げられなくなるから、適正糖質は効き目抜群なのだ。

その後、糖尿病に限らず、糖質の摂りすぎは脂質や血圧の異常などをドミノ倒し的に引き起こし、肥満やメタボリックシンドローム(メタボ)をはじめとする万病の元になる「メタボリックドミノ」という考え方が主流になってきた。

糖質過多が危険なドミノ倒しを起こす
糖質過多が危険なドミノ倒しを起こす

出典/伊藤裕、日本臨床 2003, 61, 1837-1843より JAMA Intern Med 2018, 178, 1098-1103を踏まえて改変

健康寿命を短くする多くの病気は、糖質の過剰摂取によって連鎖的に生じると考えられている。これをメタボリックドミノと呼ぶ。

日本人の40代の3人に1人はメタボかその予備群だから、適正糖質は健康寿命を延ばして人生を明るく元気に楽しみたい、すべての人に必要なのである。

適正糖質で予防が期待できる病気には、がんや認知症も含まれる。

まずはがん。高血糖や血糖値の変動は体内で酸化を進め、発がんリスクを高める。がん細胞のエネルギー源はおもに血糖だから、適正糖質で血糖値を上げすぎないことも肝要。

次は、認知症。血糖値の上下動は脳の神経細胞を養う血管を傷つけるなど、認知症を招きやすい。実際、血糖値が不安定な糖尿病患者は、認知症の発症度が健常者の約2倍に。

がんも認知症も長い時間をかけて発症する病気。だから適正糖質は、早く始めるほど効果的なのだ。

正解:🅒

適正糖質は仕事効率も左右する?

🅐 適正糖質で仕事効率はアップする

🅑 糖質をもっと摂った方が仕事効率が上がる

🅒 糖質と仕事には関わりがない

解説:血糖値の変動を抑えると、仕事も睡眠も質が上がる

適正糖質は老若男女に推したいものだが、特に意識して取り入れてほしいのが働き盛り世代。仕事の効率アップが期待できるからだ。

なかでも健康診断をすり抜ける“隠れ食後高血糖タイプ”は、糖質過多の食事をした後、食後高血糖に続いて血糖値が下がりすぎる“反応性低血糖”が起こり、強い眠気を感じやすい。そこで集中力が切れると仕事効率は大幅ダウン。適正糖質ならその心配は無用だ。

また血糖値の変動が大きいと、体内環境を調整する自律神経のバランスが狂い、心身を緊張させる交感神経ばかりが優位になる。それだとイライラしやすく仕事に集中しづらい。

ことに夕飯で糖質まみれの食事をすると血糖値が乱れ、就寝時刻が近づいても交感神経のスイッチが入ったまま。寝付けなくなり、睡眠の質も低下する可能性あり。睡眠が不十分だと翌日仕事が捌けなくなり、想定外の残業を強いられるハメになる。

適正糖質なら血糖値の上下動が少なく、交感神経の代わりに心身をリラックスモードへ誘う副交感神経が優位になりやすい。日中は自然体で仕事がこなせるし、たっぷり眠れて睡眠の質が高まり、翌日も絶好調で仕事が捗る。自由時間も増えてワークライフバランスも改善するのだ。

正解:🅐