脂質はどの程度、摂っていい? クイズで学ぶ「適正糖質」【後編】
糖質をコントロールする目的は、食後高血糖対策と言っていい。なぜ糖質を抑える必要がある? どれぐらいの量を摂ればいい? 糖質関連の疑問を解消すべく、テストに挑戦。問題を解きながら適正糖質の基準を理解しよう。
取材・文/井上健二 取材協力・監修/山田悟(北里大学北里研究所病院糖尿病センター長)
初出『Tarzan』No.871・2024年1月4日発売
教えてくれた人
山田悟さん(やまだ・さとる)/北里大学北里研究所病院糖尿病センター長。2013年、緩やかな糖質制限=ロカボの考え方を広め、作り手にも食べる側にもより良い社会の実現を目指す一般社団法人食・楽・健康協会を設立。
糖質オフを続けるコツは?
🅐 「糖質は敵だ」と書いた紙をトイレに貼る
🅑 チートデイを適宜作る
🅒 食事を楽しむ
解説:血糖値が安定してお腹が空かず継続しやすい
糖質オフは続きにくく、挫折しやすいと誤解している人も多いが、それは間違い。
食欲の中枢は、脳の視床下部にある。そこへ情報を伝えて食欲を左右するのは、小腸などから分泌される消化管ホルモンだ。
糖質オフでは、糖質を減らす代わりに、肉類や魚介類、植物油などからタンパク質と脂質をたっぷり摂る。すると、小腸からインクレチン(前編で解説したのGIPとGLP-1の総称)やペプチドYYといった消化管ホルモンが分泌される。
これらのホルモンが食欲中枢に作用すると満腹感が高まり、適切なところで自然に箸が置ける。食事のたびに食欲が満たされるし、カロリーも抑えないから空腹感に悩まされない。あくまで食事は楽しむもの。我慢せず、同じ糖質量でなるだけ食事を楽しもう。
糖質過多の食事で食後高血糖が起こると、血糖値が一気に上がり、大量のインスリンが分泌されて、その分血糖値が下がりすぎる。これが、“反応性低血糖”のメカニズム。強い空腹感を催し、次の食事でまた糖質過多の食事をするという悪循環に陥り、食後高血糖が続いて太りやすい。
また、好きなものを食べるチートデイを安易に作ると、それ以外の食事を我慢しようという気持ちになるので要注意。
正解:🅒
食べる順番でもっとも正しいのはどれか?
🅐 野菜から食べる
🅑 ご飯などの主食から食べる
🅒 ご飯などの主食を最後に食べる
解説:ベジファーストより、カーボラストが正解
少し前にブームとなった「食べ順ダイエット」では、野菜から食べるベジファーストが推奨されていた。
ベジファーストで食後高血糖が予防できる理由は3つある。
第一に、野菜はほとんど糖質を含まないから(根菜を除く)。次に野菜の食物繊維が主食などの糖質による血糖値の上昇を抑えてくれるため。また、ドレッシングなどに含まれる脂質の作用もあり、1日に血糖を体脂肪に合成するインスリンの分泌もセーブされるので痩せやすくもなる。
野菜と同じく、糖質量が少なく食物繊維が豊富な海藻、きのこなどから食べても同様の効果が期待される。言い換えると副菜ファーストだ。またタンパク質と脂質が多い肉類や魚介類などの主菜から食べる主菜ファーストでも、血糖値の上昇は抑えられる。
ようするに大事なのは、主食など糖質を多く含むものを最後に食べる=カーボラスト。血糖値を上昇させるのは糖質のみ。糖質から先に食べると血糖値が急上昇し、血管にダメージが及び、太りやすくなる。
カーボラストの恩恵を最大限に得たいなら、食事を始めてから20分ほど経ってから最後に主食に箸をつけるべき。そのためにひと口ごとによく咀嚼してゆっくり食べよう。
正解:🅒
カーボラストで食後高血糖をセーブ
16人の2型糖尿病患者を対象に、糖質を先に食べて10分後にタンパク質と野菜を食べた群、タンパク質と野菜を先に食べて10分後に糖質を食べた群、両者を挟んだサンドイッチを食べた群で血糖値の上がり具合を比較。カーボラストがもっとも血糖値が上がりにくかった。
脂質はどの程度摂ればいいのか?
🅐 糖質よりも高カロリーだから、できるだけ控える
🅑 肉類や卵など動物性脂質の摂取を控える
🅒 過酸化脂質とトランス脂肪酸以外はたっぷり摂っていい
解説:古い常識に縛られず、脂質を健全に摂る
食べてカロリーになる3大栄養素のうち、糖質とタンパク質は1g4キロカロリーだが、脂質は1g9キロカロリー。脂質は2倍以上も高カロリーだから、旧来のダイエットでは脂質制限が最優先されていた。
でも、これは古い栄養学に基づくもの。カロリー制限は危険だし(詳しくはTarzanWebの記事:「朝ロカボ」の食事で血糖値を安定させる)、脂質をきちんと摂れば満腹感が高まり、食べ過ぎる恐れはなくなる。
脂質では、肉類など動物性脂質に多い飽和脂肪酸やコレステロールの摂り過ぎを気にする人も多い。これらの過食は心臓病などの誘因になるとされた時期も長かったが、現在ではいずれも否定的である。
とくに日本人では、飽和脂肪酸の摂取量と心臓病の発症率にはほぼ関係性がなく、脳卒中に関しては飽和脂肪酸の摂取量が多い方が発症率はむしろ低く抑えられる。
ただ脂質なら何でもフリーに摂っていいわけではない。脂質で控えたいのは、酸化した脂質とトランス脂肪酸。
酸化脂質(過酸化脂質)は有害な酸化を誘発し、トランス脂肪酸は心臓病の危険度を上げるとされる。過酸化脂質は調理して時間が経った揚げ物、トランス脂肪酸は菓子パンなどの加工食品に含まれる。これらの摂取は気をつけてほしい。
タンパク質の摂り方で正しいものはどれか?
🅐 1食当たり20g以上のタンパク質を摂る
🅑 1日に体重1kg当たり0.5gのタンパク質を摂る
🅒 高タンパク低脂質のタンパク源を厳選して摂る
解説:1日体重1kg当たり1.0g以上のタンパク質を摂る
3大栄養素のうち、適正糖質でオフにするのは糖質のみ。脂質と同じくタンパク質はしっかり摂る。
タンパク質も満腹感を高めるし、足りないと筋肉が減り、代謝が下がり太りやすい体質になる。30歳以降、運動不足だと筋肉は1年に平均1%のペースで減る。タンパク質不足はその減少に拍車をかけるのだ。
そこで適正糖質では、1食当たり20g以上のタンパク質を摂ることを推奨する。そもそもタンパク質は1日体重1kg当たり1.0g以上を目安に摂るべき。体重70kgなら70g以上だから、3食に均等に分散すると1食当たり23g以上。体重から自分のタンパク質の必要量を計算しておこう。
夕食でタンパク質をドカ食いしても、朝食でタンパク質摂取が少ないと、午前中は筋肉分解モードになりやすい。均等に摂ろう。
脂質悪玉論に毒されていると、サラダチキンやヒレ肉のように低脂質のタンパク源を選びがちだが、それだとせっかくのタンパク質がエネルギー源にされてしまうかも。サラダチキンやヒレ肉にあえてオリーブオイルをかけるなどの工夫で、低カロリーに陥らないようにしたい。
タンパク質を多めに摂っても肥満にはなりにくいから安心して。
正解:🅐
間食の摂り方で正しいのはどれか?
🅐 絶対に摂ってはいけない
🅑 1日糖質10g以内ならOK
🅒 糖質を気にせず何度も自由に摂っていい
解説:糖質を10g以内に抑えて、不足しやすい栄養を補う
通常のダイエットでは間食はタブー。間食=甘いもので糖質をたっぷり摂ると、そのたびに食後高血糖が起こり、太りやすくなる。
間食を欲する大きな理由は、3食で糖質が多い食事をしているため。食後高血糖に陥り、その後血糖値が急に下がる反応性低血糖が生じ、お腹が空いて間食を求めるのだ。適正糖質を守っていれば、食後高血糖も反応性低血糖も起こらず、血糖値が安定して空腹に悩まされない。
それでも間食が欲しくなったら、1日糖質10g以内に抑えれば血糖値は大きく上がらない。血糖値を上げない人工甘味料を用い、このルールを守りながら楽しめるスイーツも増えた。スイーツは“心の栄養”だから、間食できると思うと気分がラクになり、適正糖質も続けやすい。
間食を単なるおやつではなく、栄養摂取のチャンスと発想を転換する手もある。お薦めなのは、アーモンドやクルミなどのナッツ類、タンパク質が摂れる無糖ヨーグルトやプロテインバーなど。
不足しやすい食物繊維、ビタミン、ミネラル、タンパク質が補える。いずれも栄養成分表示をチェックし、1食当たり糖質量が10g以内になるように摂ろう。
正解:🅑