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タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
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糖質制限した方がいいと聞くけど、続けられるかが不安。そんな人にまず薦めたいのが朝食の見直し。朝の糖質量をちょっと変えるだけで一日を通して恩恵を受けられるのだ。満足度が高いのに糖質が少なめの朝食メニューとともに紹介しよう。
山田悟さん(やまだ・さとる)/北里大学北里研究所病院糖尿病センター長。2013年、緩やかな糖質制限=ロカボの考え方を広め、作り手にも食べる側にもより良い社会の実現を目指す一般社団法人食・楽・健康協会を設立。
目次
糖質の摂り方を見直すなら、朝食から始めるのがベスト。
「糖質の摂り方を変えると、健康を左右する血糖値が安定します。そして最初の食事が次の食事に影響を与えるセカンドミール効果により、朝食を抜くと血糖値が上がりやすくなります。朝食でタンパク質と脂質を適切に摂ると血糖値は上がりにくく、食欲が安定するので、昼食以降の食べ過ぎも抑えられるのです」
と語るのは、適正な糖質摂取をロカボと名付け、日本に根付かせた北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟先生。
朝食から始めるロカボ、“朝ロカボ”のルールは2つ。第1に、血糖値の急な上昇を抑えるため、糖質は1食20〜40g以下に抑える。さらに、タンパク質と脂質も十二分に摂る。
記事後半では、このルールを満たした朝ロカボメニューを7品紹介するので参考に。ちょっとした工夫で、いつもの朝食が朝ロカボに変身しちゃうのだ。
朝食を抜くと血糖値は上がりやすい:糖尿病患者22人を、朝食抜きの昼夕2食、朝食アリの1日3食のグループに無作為に振り分け、血糖値の上がり具合を比較した。朝食抜きだと昼食と夕食で血糖値が上がりやすくなっている。
日本人が摂取するカロリーの半分以上を占める栄養素。それが糖質だ。それだけ馴染みの深い栄養素なのに、なぜ糖質摂取に注意が求められるのか。
最大の問題は、糖質を摂りすぎると血糖値が急激に上がること。食事から摂った糖質は、体内ではブドウ糖としてやり取りされている。血中のブドウ糖を血糖、その量を血糖値(mg/dl)という。
血糖値が高くなると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌される。インスリンは、肝臓や筋肉などへの血糖の取り込みを助け、血糖値を適度に下げる。
血糖値が下げられなくなり、高い状態が続くのが、糖尿病。推定患者数1000万人ともいわれる国民病だ。血糖値を下げるためにインスリンが過剰に分泌されると、多くの生活習慣病の誘因となる。その出発点の一つが肥満。
インスリンは血糖値を下げるため、体内で常時行われている体脂肪の分解にブレーキをかけ、血糖からの体脂肪の合成にアクセルを踏む。そこから“肥満ホルモン”という別名もあるほど。
肥満も生活習慣病も避けたいなら、糖質オフを真剣に考えてみるべきなのだ。
糖質と聞くと、反射的にお菓子やアイスクリームといった“甘いもの”が頭に浮かぶ。確かに甘いものに糖質は多いが、そればかりが糖質ではない。
強い甘みのないご飯、パン、麺類、シリアルといった主食も、糖質の固まり。それらはいずれも穀物であり、平均的な日本人は現在1日の摂取カロリーの40%ほどを穀物から摂っている。
主食の穀物に含まれる糖質は、でんぷん。糖質の基本形であるブドウ糖が無数に集まった作りをしており、ブドウ糖の結合の違いから、アミロースとアミロペクチンという2タイプがある。一方、いわゆる甘いものの糖質には、砂糖、ブドウ糖、果糖などがある。
糖質と混同されがちなのが、炭水化物。糖質と炭水化物はイコールではなく、炭水化物=糖質+食物繊維。食物繊維は、ヒトの消化酵素では分解できない食物中の繊維質である。
食物繊維は摂ってもあまりカロリーにならないし、血糖値も上げない。それどころか、食物繊維は糖質の消化吸収を緩やかに進めてくれるため、血糖値の上昇をスローダウンさせる働きもある。
血糖値の正常値は70〜110mg/dl。健常者の血糖値は、糖質を多く含む食事をしても、この範囲内に収まる。
理由は、血糖値が高すぎるとヤバいから。糖化や酸化といったアブない反応が次々と生じ、生活習慣病がドミノ倒し的に起こる。食後1時間の血糖値が140mg/dlを超えるのが食後高血糖。それを契機に血糖値が激しく上下するのが血糖値スパイクだ。
健康診断では、血糖値を次の2つでチェックする。
まず、10時間以上絶食した後に測る空腹時血糖値で、70〜110mg/dlが正常値。
2つ目はヘモグロビン(Hb)A1c。赤血球中で酸素を運ぶヘモグロビンに血糖が何%ついているかを示す。
過去2か月間の血糖値の平均を反映し、正常値は6.0未満。だが、空腹時血糖値が異常なしでも、食後高血糖がないとは言い切れない。HbA1cがOKでも、血糖値スパイクですぐ血糖値が下がるとHbA1cは正常に出る。
「40歳以上の3〜4人に1人は血糖値に異常があり、とくに血糖値が乱高下するタイプは血管などにストレスがかかり、生活習慣病を招きやすくなります」
正常な人の血糖値は、食事をしてもしなくても、70〜110mg/dlの正常ゾーン内に収まっている。食後高血糖がある人は、たとえ空腹時の血糖値は正常でも、食後1時間で血糖値が140mg/dlを超える。
糖質、脂質、タンパク質を3大栄養素という。いずれも摂るとエネルギーになる。そもそも栄養素とは、摂取しないと欠乏症などが生じる恐れがあるため、日々の食事から欠かさず摂るべきもの。ならば、3大栄養素の一角である糖質をオフにしても大丈夫なのか。
もっともな疑問だが、3大栄養素で糖質だけは摂取しなくても欠乏症は起こらない。糖質以外の脂質とタンパク質には体内で合成できないため食事から摂るべきものがあり、それぞれ必須脂肪酸と必須アミノ酸と呼ばれる。脂肪酸は脂質の性質を決めている成分。アミノ酸は、タンパク質を作っている成分だ。
一方、糖質に“必須糖質”はない。
「肝臓と腎臓は、脂質(グリセロール)やアミノ酸から、糖質を新たに合成する“糖新生”を日常的に行っています。たとえ糖質をまったく摂らなかったとしても、この糖新生のみでも、糖質を好んで消費する脳の神経細胞、あるいは糖質しかエネルギーにできない血中の赤血球などの必要量は十分賄えるのです」
必須でもない栄養素を摂りすぎたら、不都合が生じるのはある意味当然かも。
従来のダイエットの主流は、カロリーオフ。3大栄養素でいちばんカロリーが高い脂質を減らすのが常套手段だった。でも、現在では脂質などを減らすカロリー制限はお腹が空いて続かないうえ、危険という説が最有力。
そもそも太っているとは、体内に無駄な体脂肪が溜まった状態。脂質悪玉説、カロリー神話を信じる人たちは、脂質などでカロリーをセーブすると、不足分をカバーするため、無駄な体脂肪だけが分解されて痩せられると勘違いしている。
でも、カロリーを控えて分解されるのは体脂肪だけではない。筋肉を構成するタンパク質も同時に分解される。筋肉のタンパク質はつねに分解と合成を繰り返す新陳代謝を行っているが、カロリー制限下では分解が合成を上回るのだ。
筋肉は、安静時でも消費している安静時代謝の20%前後を担う。分解が進んで筋肉が落ちると代謝が下がり、太りやすい体質になる。加えて筋肉に連れ立って骨も削れるため、仮に痩せられたとしてもカラダはボロボロ、スカスカになる。セーブすべきなのは、あくまで余分な糖質の摂取なのである。
昼食後に耐えられない眠気があり会議で居眠りしてしまった、お腹いっぱい食べたのにすぐにお腹が空いて困る…。
そうした自覚症状があるなら、知らない間に食後の血糖値が上がっている「隠れ食後高血糖」の恐れが高い。食後に眠気や倦怠感、空腹を感じるのは、食後に一度血糖値が急上昇した反動により、血糖値が下がりすぎる「反応性低血糖」が起こっている可能性があるのだ。
すでに触れたように、食後高血糖かどうかは健康診断を受けていてもわからないから、案外見過ごされているもの。
山田先生によると、中国で行われた大規模な調査では、2人に1人が食後高血糖を起こしており、その大半が隠れ食後高血糖だったという報告もあるという。中国人と日本人は体質的に似通っている点も多いから、同じような傾向が日本人にあっても不思議はない。
以前、血糖値に異常がないはずの『ターザン』編集部員12人を調べたところ、66%(8人)が隠れ食後高血糖の疑いアリとなった。
思い当たる人は、糖質との付き合い方を再考し、朝ロカボから余計な糖質の摂取を抑える食生活をスタートさせよう。
朝パン派のド定番メニューも、食パンを6枚切り1枚にすれば、朝ロカボになる。こんがり焼いたベーコンと卵から、良質なタンパク質がしっかり摂れる。サラダは低糖質な緑黄色野菜を主役にすれば、栄養値が高くなる。
ご飯にもち麦を加えると、ご飯茶碗3分の2杯ほど食べられる。もち麦は食物繊維が多く、血糖値の上昇も緩やかに。主食以外の焼き鮭、納豆、おひたしなどに糖質はほとんど含まれない。味噌汁は具だくさんにすべし。
ミューズリーとは、押し麦などの未精製の穀物にドライフルーツ、ナッツ、種子類などをミックスしたもの。砂糖無添加のタイプを選ぼう。牛乳とギリシャヨーグルトでタンパク質を増量。ベリーは果物中では低糖質だ。
トレーニングの翌日などには、プロテイン1食分+牛乳150ml+バナナ1本で簡単スムージーを作る。ピーナッツバターを入れると美味しさ倍増だ。野菜をプラスしたいなら、アクが少ない小松菜を生で加えるのがお薦め。
イングリッシュマフィンにソーセージと目玉焼きをサンドしたアメリカでポピュラーな朝食メニュー。某大手ファストフードチェーンの朝食メニューでもお馴染み。野菜ゼロなので、昼食と夕食でいつもより多めに食べよう。
コンビニなどで買えるサンドイッチには糖質量が30g前後のものもある。ハムレタスサンドのように野菜ができるだけ入っているものをチョイスしよう。この栄養価は手作りしたもの。ギリシャヨーグルトを加えてタンパク量を増やした。
低糖質&高タンパク質の具だくさんスープは、多めに作って作り置き。バターでタマネギを先に炒め、次にニンジン、ベーコン、鶏肉を炒め合わせ、残りの食材を入れてコンソメで煮込み、豆乳と溶けるチーズで仕上げる。
隠れ食後高血糖の実態を探るべく、2021年の本誌『ターザン』の糖質OFF特集では、健康診断では合格点をもらっている編集部員12人の血糖値を自己採血して調べてみた。
すると、そのうち8人で食後高血糖の疑いアリというショッキングな結果が出た。塩おにぎり2個+野菜ジュース(糖質量100g)を摂取し、1時間後の血糖値を測定したところ、下グラフのように12人中8人が140mg/dL超だったのだ。(2021年本誌822号より)
取材・文/井上健二 イラストレーション/渡邉唯 レシピ・栄養監修/河村玲子(管理栄養士) 取材協力・監修/山田悟
初出『Tarzan』No.871・2024年1月4日発売