口呼吸はメンタルにも悪影響? 鼻呼吸が必要な理由
口呼吸がNGなのはナゼ? 口呼吸がカラダやココロに与える多大な悪影響を紐解いていく。これを知れば、鼻呼吸への徹底した切り替えが喫緊の課題であることがご理解いただけるだろう。
編集・取材・文/オカモトノブコ イラストレーション/世戸ヒロアキ
初出『Tarzan』No.865・2023年9月21日発売
教えてくれた人
今井一彰さん:みらいクリニック院長。内科医、東洋医学会漢方専門医。口呼吸を鼻呼吸に変えて自然治癒力を高め、薬に頼らない治療で多くの実績を上げている。『正しく鼻呼吸すれば病気にならない』『免疫力を上げ自律神経を整える 舌トレ』など著書多数。
近藤拓人さん:アスレティックトレーナー/ビュテイコ呼吸法セラピスト。医科学修士、アスレティックトレーナー(BOC-ATC)。感覚運動分野をベースとした運動療法を専門とし、現在はパーソナルトレーニング施設〈NEXPORT新小岩〉の代表を務める。共著に『新しい呼吸の教科書』。
口呼吸で免疫システムが大幅ダウン。慢性炎症が全身にトラブルを引き起こす
我々の多くが普段、知らず知らずのうちに行う口呼吸。実はカラダの免疫システムにダメージを与える、かなり無防備な呼吸法だという。
「まず、口の中が乾燥することで唾液の消毒・殺菌作用がうまく働かず、細菌が繁殖しやすい環境に。これが口臭のみならず、歯周病の炎症を招く要因にもなります」と今井さん。
さらに問題なのは、ここから先。
「慢性的な炎症が、遠く離れた臓器に二次感染を引き起こすのです。これを“病巣疾患”といって、口腔内の炎症が原因として認められるのは関節リウマチ、高血圧、肝炎、腎炎、大腸炎などさまざま。また、糖尿病患者の歯周病罹患率は、一般に比べて2倍以上という報告もあります」
また、本来は鼻呼吸のフィルターで濾過されるべき異物が喉へ大量に送り込まれるという問題もある。
「全身をつなぐリンパ系のネットワークのうち、最も上流に近いのが喉のリンパ組織。ここで捕獲しきれなかった異物はさらに下流へと送られ、免疫システムに障害を与えます」
これを裏付けるように、今井さんが“病巣疾患の代表格”と言うアレルギー性疾患の患者には、ほぼ100%に口呼吸が認められるのだそう。
一方で、「ヒトの免疫システムは、白血球が外敵と戦う際に大量の活性酸素を放出。細胞の老化や血管の硬化を招き、関節リウマチや脳血管障害といった重篤な病気の一因にもなります」という話も。
まさに、口呼吸は“百害あって一利なし”なのだ。
炎症は全身に広がり、さまざまな不調を生み出す
免疫性疾患:アトピー性皮膚炎・ぜんそく・花粉症・アレルギー性鼻炎・潰瘍性大腸炎・過敏性腸症候群・関節リウマチ・筋炎
脳・血管障害:糖尿病・高血圧・心筋梗塞・脳梗塞
内臓疾患:肝炎・腎炎・肺炎・大腸炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・虫垂炎
精神疾患・精神障害:認知症・抑うつ
口呼吸で生活習慣病やメンタルへの影響も大
眠っている間の呼吸が一時的にストップする、睡眠時無呼吸症候群。
厚生労働省の報告では、血中の酸素濃度低下による高血圧や動脈硬化、さらには睡眠不足のストレスで血糖値やコレステロール値が上昇するなど、さまざまな生活習慣病のリスク要因として問題視されている。
「一般には仰向け寝や肥満などで気道が狭くなるのが理由とされますが、根本的な原因はむしろ睡眠中の口呼吸。周辺の筋力低下で口が開きやすくなり、舌や軟口蓋が沈んで気道がふさがれるのです。睡眠時無呼吸症候群の人は、炎症反応の指標・CRPの数値が高いという報告も」
さらに口呼吸は、カラダだけでなく精神面での不調も招くという。下のグラフは、その影響を表したもの。
口呼吸の人ほどうつ症状になりやすい
女子大学生186人に対し、呼吸の状態に関するアンケートと「気分調査票」という心理テストを実施。口呼吸を自覚する人は少数派だが、抑うつ度が大幅に高いという結果に。
「免疫に使われる白血球は自律神経のバランスと相互に影響し合い、口から冷たい空気や多量の有害物質が入り込むと、交感神経が常に優位な状態に。するとストレスホルモンのコルチゾールなどが増え、反対に副交感神経は常に休息できない状態になって、メンタルが慢性的なダメージを受け続けてしまいます」
実際のところ、今井さんが推奨する呼吸改善のセルフケアでは、うつなどメンタル不調の改善例も多数。
「鼻呼吸で自律神経が整うと、まずカラダの不調が改善。やがて気分も快方に向かうケースが多いです」
鼻呼吸で緊張をリセットすればパフォーマンスがぐーんとUP
「呼吸を改善する絶対条件として、必要なのが鼻呼吸」と断言するのは、トレーナーの近藤さん。
我々の多くは“呼吸過多(浅く回数が多い呼吸)”になりがちだが、「安定したパフォーマンスが維持できない、ケガの多いアスリートは呼吸に問題があるケースがほとんど。そして実は、肩こりや腰痛、疲労感といったものも、その主たる原因は不適切な呼吸です」と話す。
では、呼吸と心身のパフォーマンスにはどんな関係があるのだろう?
「まず大前提として、ヒトは脳に支配されている生き物です。呼吸過多になると、脳は酸素不足に陥ってカラダの制御能力が低下。筋肉も精神もリラックスさせる方が難しく、思考や運動パフォーマンスが上がらないばかりか、物理的・精神的な負荷やストレスに対応しきれず心身が常に緊張状態になってしまうのです」
しかも悪いことに、間違った呼吸は姿勢にも悪影響を与えるという。
「過度な緊張が続くと、腰が反る、肩がすくむ、食いしばりや首が前に出るなどの不良姿勢が常態化。慢性的な緊張で呼吸がうまくできず、緊張がさらに強まる悪循環に陥ります。日々のパフォーマンスUPを狙うなら、まずは鼻呼吸で心身の緊張をリセットするのを最優先に考えましょう」
とはいえ鼻が詰まって呼吸ができない人に
対策① 鼻うがい
鼻水と同じ濃度の生理食塩水を使うため、痛みの心配はご無用。ナトリウムが細胞に浸透し、白血球が次亜塩素酸を生成して炎症を抑制する。就寝前を含め、1日に複数回行うといい。
【やり方】
①精製水かミネラルウォーターに食塩を加え、濃度1%の生理食塩水(水100mL当たり食塩1g)を作る。②スポイトに5mLほど入れ、頭を後ろに傾けて生理食塩水を鼻の穴に入れる。③喉に落ちてくる食塩水は、吐き出しても飲み込んでもOK。左右で行う。
対策② 馬油の点鼻
古くから火傷や肌荒れの薬として使われる馬油。優れた抗炎症作用のほか、粘膜を保護して潤いが保たれ鼻呼吸がスムーズに。液状のものを朝昼晩の3回、0.5mL程度ずつ点鼻して30秒ほどキープしよう。鼻うがいの後に行うのもおすすめ。