クサいと病気のリスクが高い?気になる「おなら」のウソ・ホント
便と同様、腸と深い関係がある「おなら」。頻度や臭い、腸内環境や食生活との関係など、気になることはいろいろあるものの、何だか掴みどころのない存在。そこで、おならにまつわる疑問をクイズ形式で解説。ウソ・ホントを知って、正しくおならと付き合おう。
取材・文/井上健二 取材協力/神山剛一(日暮里健診プラザ 予防医学管理センター副センター長)、ビオフェルミン製薬 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.864・2023年9月7日発売
目次
おならがクサい人は、病気リスクも高い?
ウソ
おならで、いちばん気にかかるのはこの点。おならの臭いがキツいと、カラダのどこかに悪いところがありそうで心配になる。
おならの大半を占めるのは窒素。無味無臭の気体だ。それ以外の酸素、二酸化炭素、水素、メタンなども同じく無味無臭。
おならを臭わせるのは、そうしたメジャーな気体を除く、わずか1%ほどの成分。硫化水素などの揮発性硫黄化合物、インドールやスカトールといった揮発性窒素化合物などで、少量でも強烈な臭いを発する。
なかでも揮発性硫黄化合物は、肉類、ネギ、ニンニク、ニラのように、硫黄成分を含む食べ物を食べると、腸管内で発生しやすい。このうち肉類の過食には健康リスクが潜むとされるが、ネギやニンニクなどの野菜には抗酸化作用など健康にポジティブな働きがある。
おならがクサい=危ないとは断言できそうにない。
「おならの臭いと病気リスクの関わりについては、まだ何もわかっていないのです」(大腸、肛門機能の専門医である神山剛一先生)
おならのほとんどは腸内細菌が作っている?
ウソ
便の状態には、腸内細菌が深くコミットしている。そもそも水分を除いた便の固形分のおよそ3分の1は、腸内細菌そのもの(おもに死骸)なのである。
おならはどうか。おならも同じように、腸内細菌が作っているのか。意外にも、答えはノーだ。
「おならの大半は、飲食時、食べ物と一緒に体内へ入ってきた空気。そのうち85%ほどは、血液中に再吸収されますが、残りの一部がおならとして肛門から排気されます」
外から入ってくる空気は気道、食べ物は食道へと仕分けられる。食べ物が気道に入ることは普通ないが、逆は必ずしも真ならず。100mLの飲み物を飲むと、2倍の200mLの空気が食道から流入する。ちなみに、飲み込んだ空気が胃から先に進まず、口から逆流するとゲップとなる。
おならの成分を分析した研究によると(下表参照)、前述した通り、その80%ほどは窒素。空気の約78%を占めているのも窒素であり、おならの組成は空気に極めて近い。窒素に続いて、おならに多いのは、大気中にはほとんど含まれていない二酸化炭素と水素。これらは腸内細菌の代謝によって、大腸内で作られている。
大気の20%前後は酸素だが、おならに含まれる酸素は、最大で2%程度。酸素は細胞に不可欠なものだから、肛門まで到達する間に体内へ再吸収されるからだろう。
大腸内のガス組成
大腸内のガス | 組成 |
---|---|
窒素(N₂) | 23〜80% |
酸素(O₂) | 0.1〜2.3% |
二酸化炭素(CO₂) | 5.1〜29% |
水素(H₂) | 0.06〜47% |
メタン(CH₂) | 0〜26% |
硫化水素(H₂S)などの揮発性硫黄化合物 | 1%未満 |
おならは我慢していると消える?
ウソ
「出物腫れ物所嫌わず」という諺があるように、おならは場所もタイミングも選ばずに、不意にもよおすもの。トイレに行けたら、おならでも何でも自由に出してOKだが、会食の最中などTPO的に我慢を強いられるシーンも少なくない。
では、我慢したおならはどこへ行くのか。頑張って耐え忍んでいたら、そのうち消えてなくなってしまうのだろうか。
「排便を一時的に我慢しても便自体は減らないように、じっと我慢しても発生したおならがなくなるわけではありません。良きタイミングでトイレに移動して出しましょう」
ただし、おならの成分によっては、忍耐しているうちに、消えてしまうものもある。その代表格が、水素。おもに腸内細菌によって作られている。おならの成分となる水素のうち、全体の7分の1にあたる約14%は腸管から血液へ移行するという。血中の水素は、巡り巡って肺から呼気とともに排気される。
ちなみに水素は無臭なので、おならに混じって出ても、呼気に混じって出ても、それと自覚することはない。
おならは1日ペットボトル1本分以上出る?
ホント
親しい人にもコクれないけれど、恥ずかしいくらいおならが多くて困っている…。そんな悩みを持つ人は案外多いかもしれない。けれど、自分のおならが多いのか、それとも少ないのかを客観的に評価できる物差しはない。
正常な便の量は、1日バナナ1本分(約150〜200g)くらいだとされるが、おならは1日に一体どのくらい出るものなのか。
この分野の研究は数少ないが、神山先生から、30年ほど前にオーストラリアで行われた貴重な研究の存在を教わった(Tomlin J et al., Gut, 1991; 32: 665-669)。
その研究では、男女5人ずつ計10人の健康なボランティアたちに、通常の食事に加えて、ガスの排出を促すために豆料理(ベイクドビーンズ=白インゲン豆をトマトソースで煮込んだ料理)を食べてもらい、直腸にカテーテル(管)を入れて24時間おならを採取し続けた。
その結果、おならの1日の総量は476〜1491mLと判明。中央値は705mLだから、平均で1日に500mL入りのペットボトル1本分以上のおならを出していたのだ。
この研究からは、おならの量に明らかな男女差はない、おならの排出量は食後に増えて睡眠中には極端に減るといったなかなか興味深いデータも導き出されている。
運動をするとおならが増えてクサくなる?
ホント
筋トレをしたら、筋肉の原料となるタンパク質を補うため、プロテインを飲むのがお約束。タンパク質が足りないと、筋肥大も進まない。すると引き換えに、おならはクサくなりやすい。これは、ボディメイクに励む人に共通の密かな悩み。
前述のように、肉類を食べ過ぎると、おならはクサくなりやすい。それは肉類に多いタンパク質を構成するアミノ酸に、メチオニンやシステインといった硫黄を含むものがあるため。
硫黄から、おならの臭いとなる硫化水素などの揮発性硫黄化合物が腸内で合成されるのだ。プロテインにも硫黄を含むアミノ酸は多く含まれるから、筋肥大を優先するなら、おならがクサくなっても仕方ない。
対照的に、臭わないけれど、おならをたくさん出しやすくなるのが、ランニングのような有酸素運動で鍛えているトレーニーたち。
おならの大部分は空気そのもの。有酸素運動では、呼吸数が増えて安静時の何十倍という多くの空気を取り入れるから、おならが増えても何も不思議はない。
腸の動きが活発だとおならも出やすくなる?
ホント
所構わず出すぎるのは困りものだが、おならが出ること自体は大腸が正しく機能している証拠。
「盲腸など腸管の手術後などには、腸管の動きが復活したサインとしておならが重視されていた時代もありました。現在は、おならが出るまで待つのではなく、聴診器で腸管の動きを確認する方法が主流です」
大腸の蠕動運動が盛んだと排便がスムーズに進むように、おならも出やすくなる。オシッコや便と同じように、おならが出るのは自然の摂理。おならが毎日ちゃんと出るのは、腸管がしっかり動いているサインと捉えて喜ぶべきである。
ただし、早食いでよく嚙まずに食べるのが癖になっていると、腸管の動きが悪くても、おならが増えることもある。
再三触れているように、おならの主成分は空気。早食いだと空気を多く飲み込みやすくなり、それだけおならの量が増えやすいのだ。ストレス・不安・緊張などで無意識に空気を飲み込む「呑気症」でも、おならは増えやすいから要注意。
善玉菌が多い人は、おならも臭わない?
ウソ
善玉菌とは、腸内の発酵により、カラダにとって有益な代謝物を作り出すもの。ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌などがある。腸内に善玉菌が多いほど、腸内環境が良くなり、おならも臭わなくなるというイメージがあるけれど、それは必ずしも正しくない。
善玉菌が作る善玉物質の代表格は、酢酸、酪酸、プロピオン酸といった短鎖脂肪酸。この短鎖脂肪酸は無臭ではなく、強い臭いを放つ。酢酸=酢の刺激臭は、誰でも一度は嗅いだことがあるはず。酪酸やプロピオン酸の臭いも、負けず劣らず強烈だ。
「短鎖脂肪酸の多くは大腸から体内に吸収されて利用されますが、一部の揮発性成分は、おならに混じって出てきますから、おならの臭いをキツくすることも考えられます」
短鎖脂肪酸でおならが臭うなら、むしろ歓迎すべき。おならの臭いで、全身のコンディションはもちろん、腸内環境の良し悪しを自己判断するのは早計なのである。
ガスを止める整腸剤でおならは消える?
ウソ
おならが気になる人のために、腸内のガス溜まりがリセットできる整腸剤も市販されている。知りたいのは、整腸剤を服用したときのおならの行方。我慢してもおならは消えないが、整腸剤なら消せるのだろうか。
「おなら対策をうたっている整腸剤のおもな成分は、ジメチルポリシロキサンという消泡剤。病院で処方される《ガスコン》の主成分でもあり、ガスを包む泡の表面張力を低下させることにより、ガスの小さな塊を潰して大きくし、おならが出やすい腸内環境へ導いてくれます」
こうした整腸剤の狙いは、腸内でおならを消すことにあるのではなく、おならが外に出るのを促す点にある。だから、整腸剤を飲むとおならは少なくなるどころか、一時的におならが増える場合もある。
ガス溜まりを解消する整腸剤には、消泡剤のほかにも、乳酸菌のような整腸成分、腸内細菌のエサとなる食物繊維を分解する消化酵素なども含まれており、合わせ技でおならが気にならないようにしてくれる。
肉食の人はおならは少ないがクサい?
ホント
伝統的な和食は、野菜や海藻類など食物繊維の多い植物性食品がメインであり、牛肉や豚肉のように繊維質に乏しい動物性食品は少なめ。
そんな純和食を好むタイプが、欧米を旅して動物性食品多めで低繊維&高タンパクな現地食をしばらく食べ続けると、おならの量は減るのに、臭いがキツくなると実感しやすい。
まず、腸内細菌もおならを作っているから、そのエサとなる食物繊維が少ないと、おなら量も減る。前述した研究では、被験者に食物繊維をまったく含まないファイバーフリー食を食べてもらったところ、おなら量が大きく減ったと報告している(グラフ参照)。
食物繊維を含まないファイバーフリー食を2日食べてもらったところ、被験者6人の平均のおならの排気量は大きく減少することがわかった。
次に、肉類のようにタンパク質が多い食べ物を毎食のように食べると、硫黄を含むアミノ酸がたくさん入ってくる。そのため、おならを臭わせる揮発性硫黄化合物などの成分が増える。これも前述した通り。
海外旅行に出かけなくても、「おならが少なくてクサい」と感じたら、純和食にスイッチしてみたい。きっと好ましい変化が訪れるだろう。