民族によって腸内細菌叢は異なる
健康な日本人と世界11か国の人の腸内細菌叢のメタゲノム解析をした研究では、日本人はかなり独特のパターンを持っていることが分かった。
下のデータをご覧のように、他の国々のグループが比較的重複しているのに対し、日本人はなかなかのゴーイング・マイウェイ。
国別の腸内細菌叢
健康な日本人106人とその他の11か国755人の腸内細菌叢の遺伝子解析の結果。赤くマーキングされているのが日本人。他の国とほとんど重複が見られない。
遺伝子的には似ている部分が多い中国人とはまったく異なり、強いて言うならオーストリア人がやや近い菌叢を持っている。そして遺伝子的には遠いアメリカ人と中国人が近しい腸内細菌叢を持っていることも興味深い。
「日本人の特徴的な腸内細菌叢は日本食独特の発酵食品が大きな要因という研究もあります。発酵食品に使われている麴の一部は大腸に届き、腸内細菌のエサになることも分かっています」(京都府立医科大学の内藤裕二教授)
唯一無二の和食が日本人独特の腸の土台を作っている?
日本人の腸内フローラは5タイプある
腸内細菌叢のタイプをエンテロタイプという。世界的にはバクテロイデス属、プレボテラ属、ルミノコッカス属のそれぞれが優勢なタイプに分類されるが、なにせ日本人の腸内細菌叢は独特。この型にはめ込むことには無理がある。
そこで内藤教授の研究グループは日本人の糞便検体を用いて腸内細菌叢解析を実施し、5つのタイプを割り出した。それが下のエンテロタイプ。
バランス食タイプ:三大栄養素をバランスよく摂取している傾向
アンバランス食タイプ:炭水化物に偏りがちで他の栄養素が不足している傾向
タンパク・脂肪・糖タイプ:タンパク質、脂質、糖質の摂取が多い傾向
ヘルシー食タイプ:脂肪の摂取が少なく、栄養素をバランスよく摂取している傾向
タンパク脂肪タイプ:動物性タンパク質、脂質の摂取が多い傾向
健康な人はバクテロイデス属が優勢なバランス食タイプとプレボテラ属が多いヘルシー食タイプ。
病気のリスクが高いのはルミノコッカスが優勢なタンパク脂肪タイプ、ビフィドバクテリウム属が多いタンパク・脂肪・糖タイプに当てはまるという。
いずれ人間ドックで腸内細菌叢検査が必須項目になれば、食事指導に大いに生かされること間違いなし。
日本人は酢酸を作るのが得意
日本人の腸内細菌叢の特徴のひとつとして最も知られているのはビフィズス菌が多いということ。ビフィズス菌は食物繊維を発酵させてポストバイオティクスの酢酸を作り出す、いわゆる有用菌。
「大腸の中で作られた酢酸は主に大腸で使われていると考えられます。腸内環境を弱酸性にしていわゆる悪玉菌の繁殖を抑えたり、腸のバリア機能を強化して免疫力をアップさせたりと、大腸の老化を防ぐ役割をしているのではないかと考えています。腸の老化が防げれば脳や心臓、腎臓など全部の抗老化に繫がるというのが私たちの考え方です」
余談だが、日本人のもうひとつの得意技は海苔やワカメを分解すること。
日本人の約9割はこれらの海藻を分解する酵素遺伝子を持っている。海苔巻き一本、ワカメの味噌汁一杯を有効利用できることを誇ろう。
日本食で認知症リスクは減らせる?
国立長寿医療研究センターの佐治直樹博士は〈もの忘れセンター〉を受診した患者さんを対象に興味深い調査を行った。
認知機能検査、食事アンケートを行い、アンケートから日本食スコアを算出、認知症の有無との関連を割り出した。
現代的日本食スコアが高いと、認知症の割合が低い
伝統的日本食と現代的日本食の食品の摂取量が低い方から高い方に3分割してグルーピングし、認知症の有無との関連を%で表示。
伝統的日本食スコアは米、味噌、魚介類、緑黄色野菜、海藻類、漬物、緑茶、牛肉・豚肉、コーヒーの9品目の摂取状況から算出。現代的日本食のスコアはこの9品目に大豆、大豆製品、果物、きのこを追加して算出した。
その結果、認知症のない人は日本食スコアが高く、現代的日本食スコアではスコアが高い人ほど認知症の症状が見られないというきれいなデータが得られた。
とくに、魚介類、きのこ、大豆、コーヒーを多く摂取している人ほど認知症が見られず、腸内の悪玉菌が作る腐敗発酵代謝物の濃度が低かったという話。和食、やっぱりすごい。
日本人には 特有の「痩せ菌」がある
もともと「痩せ菌」として注目されていたのがあのアッカーマンシア・ムチニフィラ菌。でもこれ、ほとんどの日本人は持っていない。
ところが昨年朗報が。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所が肥満を予防・改善する可能性のある有用菌を発見した。その名をブラウティア菌という。
腸内細菌中1%以上持っている日本人は約9割。まさに日本人特有の「痩せ菌」で、肥満や糖尿病のリスクが低い人ほどブラウティア菌が多いという知見が得られた。
痩せ菌で太りにくいカラダに
ネズミの実験で高脂肪食だけを与えた場合とブラウティア菌を投与して高脂肪食を与えた場合では、後者の方が体重増加率が低かった。
目指すは6%超え
ブラウティア菌が全体の6%以上になると肥満や糖尿病リスクがぐんと減る。今持っているブラウティア菌をバランスのいい食事で増やすことが重要だ。
腸内細菌全体の6%以上になると肥満の指標であるBMI値が「標準体型」か「痩せ型」に分類される割合がぐっと上がるという。
ではどうしたらブラウティア菌の量を増やせるか? 魔法はない。バランス食の徹底あるのみ。今摂りすぎているものを減らし、足りないものを補う。これに尽きる。