自体重でも筋肥大できる? 低負荷高回数vs高負荷低回数

トレーニング業界では、かねてから議論の対象となってきた負荷×回数の組み合わせ。最新の論文とエビデンスから得た結論は!? 科学的に正しい負荷×回数の組み合わせで自体重トレの効果アップを狙おう。

編集・文/オカモトノブコ 監修・取材協力/パーカーフィットネス(YouTuber)

初出『Tarzan』No.852・2023年3月9日発売

低負荷高回数vs高負荷低回数

筋肥大負荷回数」の科学的な根拠は薄いむしろ総重量を増やせる低負荷に軍配

強健なボディビルダーの筋トレが象徴するように、かつては高負荷なほど筋肉が成長しやすいとされてきた。これに異を唱えるのが、最新の研究論文に基づく科学的に有効なトレーニングをユーチューブで紹介するパーカーフィットネス氏だ。

「従来はおよそ6〜12REP(※01)が“筋肥大ゾーン”とみなされてきたが、データを見ると実は科学的な根拠は薄い。

ブラッド・シェーンフェルド博士による研究では、経験豊富な被験者による低負荷の10REP×3セットと高負荷の3REP×7セットでボリューム(※02)を等しくしたトレーニングを比較した結果、筋肥大効果(※03)は変わらないことが示されている」と、下のグラフでその理由を説明する。

※01|REP…Repetition(反復)の略。レップ。1回の動作を繰り返す回数を指し、単に「〜回」としてもOK。
※02|ボリューム…ウェイトトレーニングで筋肉にかかる負荷を数値化したもの。総重量。負荷(重さ)×レップ数(回)×セット数で計算され、負荷を変えて比較するトレーニング研究では、条件を一定にする数値として用いられる。
※03|筋肥大効果…トレーニングによって筋肉が太く、サイズアップすること。研究では筋肉の断面積で測定されることが多い。

筋肥大効果は低負荷・高負荷で同じ

低負荷・高負荷の筋肥大効果

さらにこの論拠を裏付けるのが、同種研究を集めたレビュー(複数論文の研究評価)によるデータだ。

「2017年のこのレビューでは、各論文の研究結果がそれぞれ中央値のゼロに近く、同じボリュームであれば筋肥大効果は低負荷も高負荷もほとんど差がないことが示されている。

最新の2021年のレビューでも同様に、1RM(※04)の30〜80%まで負荷を変えた場合も筋肥大に違いは見られない。つまり、強力な証拠として低負荷・高負荷の筋肥大効果にはほとんど差がなく、これはもはや議論の余地はないと考えていい」とパーカー氏は結論づける。

※04|RM…あるトレーニング種目を行う際の最大反復回数。負荷が重くなるほど反復できる回数は少なくなり、最終的に1回しかできない最大重量を1RMとする。逆に負荷が軽くなるほど回数は増える。

では、自体重の負荷におけるメリットと効果は?

「プッシュアップなどの負荷は研究で体重の6割程度とされ、低負荷に分類される。負荷と回数の研究は常にボリュームを一定にして分析されるが、低負荷トレーニングは疲労が早い高負荷に比べてボリュームを稼ぎやすい。

例えば100kgを1REP挙上できる人は50kgなら30REPほど反復でき、ボリュームは15倍になる。そのため特に筋肥大により多くのボリュームを必要とする上級者にとって、低負荷トレーニングを行う意義はより大きい。

またオールアウト(※05)が早い高負荷に比べて心理的な疲労が小さく、多くのセットをこなせるため筋持久力(※06)の向上も期待できる。初心者の場合はまず、最低でも週に10セットを目安にしたい」

※05|オールアウト…筋肉を極限状態まで使い、疲労物質が蓄積して生理学的に運動を継続できなくなる状態。質の高い筋トレの代名詞と考えられている。同義語として「追い込む」「ツブれる」。
※06|筋持久力…運動を継続する力、スタミナ。一般には有酸素運動的な能力とされるが、筋トレの回数やボリュームを上げるという意味では筋肥大にも影響する。

ただし低負荷といっても、その%には許容範囲があるようだ。

「4段階の負荷グループで腕と脚のトレーニングをそれぞれ均一のボリュームで行い、筋肥大を比較した研究では、1RMの20%のみ極端に少ない結果に。つまり軽すぎる負荷では、筋肥大効果は望みにくいと分かる」

低すぎる負荷では筋肥大効果が大幅減

低すぎる負荷では筋肥大効果が大幅減

自体重トレで基準になるのは30〜40REP。「慣れ」が来た後は陥りがちなミスに注意

低負荷に分類される自体重トレーニング。そのREP数についてパーカー氏は、「一般には20REP以上を低負荷とするが、ボリュームをより多くして筋肥大と筋持久力アップを狙うなら、30〜40REP程度まで増やすといい」と述べる。

ただしこうした超・高回数トレーニングにも注意すべき点があるという。

「自体重トレーニングを半年ほど続けると、50回、60回とできるようになる場合があるが、これでは効果的な負荷の範囲を下回り、いつの間にか筋肉の発達が停滞するケースが多い」

その際に“効いている感”を求めて筋トレを低スピードでゆっくり行う人は多いが、これに対して2021年の研究では、次のようなエビデンスがある。

「それぞれ10人の被験者で片脚2秒、もう一方の脚で6秒のレッグエクステンションをオールアウトまで行ったところ、両脚とも筋肥大効果に差はなかった。こうした結果は同種研究のシステマティックレビューでも示され、むしろ10秒以上は筋肥大効果が劣ることが明らかに。

そのため、もし40REP以上できるようになったら難易度を上げたり、ウェイトを追加するなどで負荷を上げる必要がある」

スピードの差による筋肥大効果の比較

スピードの差による筋肥大効果の比較

筋肥大のための最適解は、高頻度×全身法自体重トレそのための有効な手段に

最新の研究からパーカー氏が導き出す結論のひとつに、全身法(※07)で行う高頻度トレーニング(※08)の有効性がある。

「ここまで主流とされてきた分割法(※09)は追い込み感やパンプ感は得られるが、筋疲労によるトレーニングの質低下は避けがたい。ブラッド・シェーンフェルド博士の研究では、ボリュームを同等にしたトレーニングを全身法と分割法で比較。1RMの向上と筋肥大のいずれでも、前者の優位性が示された」

※07|全身法…1回のトレーニングで全身をまんべんなく鍛える手法。1950年代頃には主流とされていた。対義語に「分割法」。
※08|高頻度トレーニング…1週当たりのトレーニングを週4〜5回以上に増やすこと。全身法との併用で1回当たりのセット数を減らし、疲労が少ない状態でボリュームを稼げるメリットがある。
※09|分割法…1回で特定部位に集中してトレーニングし、複数回に分けて全身を鍛える手法。現代の筋トレ業界では主流とされる。対義語に「全身法」。

全身法vs分割法のトレーニング結果

さらに「全身法を行ううえで重要なポイントが、時間がかかるアイソレーション(※10)種目ではなく、コンパウンド(※11)種目を選ぶこと」とパーカー氏。

その意味でも自体重トレーニングは全身法向きであり、またジムに行く手間なく高頻度を容易に実践できるため「自体重と全身法は相性がいい」と結論づける。加えてパーカー氏が、高頻度トレーニングの実践において推奨する手法としてスーパーセット(※12)がある。

※10|アイソレーション…1つの関節を動かすトレーニング種目。単関節運動。特定部位を集中して鍛えるのに向く。
※11|コンパウンド…2つ以上の関節を動かすトレーニング種目。多関節運動。複数部位を効率的に鍛えられるという特徴がある。
※12|スーパーセット…1種目を複数セット続けて行うのではなく、異なる2種目を休憩なしの交互セットで行うこと。トレーニング時間を短縮できるメリットもある。

「例えばプッシュアップと懸垂のように拮抗筋(※13)を鍛えるスーパーセットは特に短時間で筋パフォーマンスをバランスよく上昇させ、質の高いトレーニングができる。ジムのように複数器具の同時使用によるマナー違反を気にする必要がないのも、自体重トレのメリットだ」

一石何鳥もの効果が得られる自体重種目を、最新の科学的トレーニングにぜひ取り入れたい。

※13|拮抗筋…互いに相反する動きを伴う、2つの筋肉または筋肉群のこと。対義語として「主働筋」がある。

コラム:筋力アップが目的なら高負荷×低回数も取り入れる価値がある

ここまではおもに、自体重トレと低負荷×高回数の関係を見てきた。一方で、高負荷トレーニングに見られる特有の効果もあるとパーカー氏。

「ブラッド・シェーンフェルド博士による研究では、筋力アップ効果において3REP×7セットの高負荷グループの方が有意に高いことが判明している。

その一方、一般に負荷は固定するより、バリエーションを持たせたほうが筋肥大効果がより促進され、成長の停滞も予防できる可能性が高いといわれている。そのため、低負荷も高負荷もバランスよく取り入れ、使い分けることが重要だと考えている」

筋肉を総合的に鍛えるなら、自体重とマシンの双方をこなすトレーニーが最強、ということになるだろう。