股関節の可動域でクオリティが変わる
スムーズで安定した歩行には、足首と股関節の連動した動きが不可欠。
「足首と股関節はモビリティ関節に分類され、その可動域を十分に活かすことが重要です。これに対して安定性を保つスタビリティ関節の膝は“中間管理職”とも呼ばれ、足首と股関節が硬いと間違った歩き方で運動効果が上がらないだけでなく、間にある膝を痛めてしまう可能性も」
こう話すのは、トレーナーの澤木一貴さん。「歩行は股関節から生まれる動作」と言うが、注目すべきは歪みを生じやすいその構造にある。
「男性に多いガニ股では股関節が外側に、女性に多い内股では内側にねじれた状態。同時に股関節まわりの筋肉も硬く衰え、脚の動きが根元から制御されるため、正しく効率のいい足運びができません。歩行は無意識に行う活動だけに、歩く前に必要なパーツを整備しておくだけで、そのクオリティは格段に変わります」
そこで、今回は歩行の肝とも言える股関節の可動域を取り戻すためのエクササイズを紹介する。
股関節の可動域を広げるエクササイズ
「ガニ股」「内股」の場合はそれぞれ、股関節周辺で硬くなった筋肉をほぐすモビリティ(=可動性)ストレッチからスタート。そのうえで、弱った筋肉を強化してスタビリティ(=安定性)を高めるトレーニングを行おう。
さらに実際の歩行に即した動きをカラダに覚え込ませることで、歩きが驚くほど快適になるはずだ。
まずは下半身の主要な筋肉をチェック!
踏み出すときには⑦腸腰筋、爪先を上げる動作では⑧前脛骨筋が働き、続いて②大腿四頭筋が足運びを制御する。脚を後方へ移動させるのは⑤大臀筋と④ハムストリングス。①大腿筋膜張筋や③内転筋群、⑥深層外旋六筋も、股関節の安定した動きには不可欠な筋肉だ。
- 大腿筋膜張筋
- 大腿四頭筋
- 内転筋群
- ハムストリングス
- 大臀筋
- 深層外旋六筋
- 腸腰筋
- 前脛骨筋
【ガニ股気味の人】のためのエクササイズ
① プレッツェル
外腿・前腿の硬直をほぐすモビリティストレッチ
腿の外側が硬く縮んで脚が外に開くガニ股の場合、前側も張っているケースが多い。そこで行うべきは、ねじりの動作によって外腿の大腿筋膜張筋、さらに前腿の大腿四頭筋も同時に伸ばすストレッチ。腿を全方位的にほぐすことで、変形性膝関節症の予防にもなる。
仰向けになり、片脚を曲げて反対側へ倒したら、膝を手で押さえつける。顔と胴体は天井に向けたまま、さらに反対の膝も曲げて足先をつかみ、30秒キープ。反対側も行う。
② ヒップアダクション
内腿の筋肉を鍛えるスタビリティトレーニング
脚が外に開くことで弱化した、内転筋群のトレーニング。カラダが前に倒れると股関節にうまく効かないため、手足でしっかり支えて行うのがコツ。
横向きになって手で頭を支え、上側の手と膝は床につける。ここから下側の脚を付け根から上げ、2秒キープ。下ろすときも力を抜き切らずに、10回繰り返す。反対側も同様に。
【内股気味の人】のためのエクササイズ
① バタフライ
内転筋群の硬直をほぐすモビリティストレッチ
内股で股関節のモビリティを高めるには、うまく使えずに硬くなった内転筋群のストレッチが先決。深くゆっくりした呼吸とともに、内腿がじんわりほぐれる感覚を味わおう。
両足の裏を合わせ、膝を開いて座る。いったん息を大きく吸い、フーッと吐きながら、前腕部で膝を押さえて前屈。息を止めずに30秒キープ。
② クラムシェル
股関節の外旋力を強化するスタビリティトレーニング
ここで鍛えるのは、内股で弱った尻の大臀筋と深層外旋六筋。動きが前後にグラつかないよう、骨盤の位置が変わらない範囲で脚を開くことが股関節の動きをよくするポイントだ。
両膝を直角に曲げて横向き寝になり、手で頭を支え、反対側の手はカラダの前に置く。踵をつけたまま膝を開き、ゆっくり閉じる。閉じるときも力は抜き切らず、20回繰り返す。反対側も。
【共通】歩行に使う筋力を鍛えるトレーニング
① ヒップローテーションスクワット
歩行で使う尻の感覚を身につけ、股関節の安定性を高める
歩行に欠かせない回旋の動きを強化し、股関節の安定性を高めるトレーニング。ねじりと逆側の大臀筋に刺激が加わり、歩くときに使う尻の感覚が得られるはずだ。同時に深層外旋六筋、大腿四頭筋も鍛えられる。
足先を正面に向けて肩幅に開き、手は腰に当て、膝を軽く曲げて立つ。上体をねじり、腰に当てた手を反対の足につけるように2カウントでしゃがむ。左右交互に各10回繰り返す。
② ウォーキングレッグスイング
分解した歩行動作によって正しい足運びをクセづける
歩行の動作をすべて盛り込み、それぞれで働く筋肉を効率よく強化。まず狙うのは、脚を引き上げる腸腰筋と、爪先を上げる前脛骨筋。さらに足運びを制御する大腿四頭筋、脚を後ろに引く大臀筋とハムストリングスを鍛え、歩きの速度アップにつなげる。
腰に手を当て、両足をつけてまっすぐ立つ。①爪先は上げたまま、片脚の膝を曲げて大きく引き上げる。②反対の足の爪先と揃うくらいの位置に踵を着地させる。③足裏をつけたまま、爪先を滑らせるように尻を使って足を後ろへ引いていく。①に戻って10回繰り返し、反対側も同様に行う。