血糖値を効率的に下げる運動とは?
里大学北里研究所病院糖尿病センター長・山田悟先生曰く、筋力や有酸素トレーニングを単独で行うより、複合的に行ったほうが効率よく血糖値は下がるという(基となった論文の表を下に引用)。
HbA1cとは赤血球中のヘモグロビンのうち、何%が糖と結合しているかを表す血糖値の指標。高いほど高血糖だ。標準偏差は各人の数値の、平均値からのばらつき具合を示す。筋力や有酸素トレーニングを単独で行うより、同時に行ったほうが3か月、6か月後のHbA1cの数値が減少していることがわかる。出典/ Sigalら(2007), Effects of Aerobic Training, Resistance Training, or Both on Glycemic Control in Type 2 Diabetes
そこで、『ターザン』でもおなじみのトレーナー・澤木一貴さんに、両方の要素を含んだ、血糖値をコントロールするためのトレーニングを考案してもらった。
「高血糖の人にあまりハードな運動は勧められません。だから、低負荷でいろんなバリエーションの運動を組み合わせました。たとえば、ある部分の筋肉を特化して鍛えたり、逆に全身を使ったりという具合にです。こうすることで、筋力と心肺機能を同時に高めていくことができます」(澤木トレーナー)
ここではステップ1〜3までのトレーニングを用意した。進むごとに負荷は上がる。ステップ1には4つの、ステップ2、3には6つのメニューがある。各メニューを30秒続け、ステップ1なら4種目、2、3なら6種目を連続して行っていく。これを1セットとする。
「初めはケガをしないためにも、ゆっくりと動いてください。そして、最終的には1秒で1回、つまり30秒で30回動作を繰り返せるようにしたい。できるようになったら、30秒のレストを挟んで2セット目にもトライ。最終的に3セット無理なくこなせるようになったら、次のステップへと移行。週3回程度、習慣にしてしまえば、カラダが変わっていくのが実感できるはずですよ」(澤木トレーナー)
エクササイズのやり方
- 全部で3ステップのエクササイズ
- ステップ1は4種目、ステップ2・3は6種目
- 初めはケガ予防にゆっくりと動く
- 慣れてきたら1秒に1動作が目標
- 3セット(休憩は30秒)無理なくこなせたら次のステップへ
- エクササイズの頻度は週3回程度
ステップ1|まずは関節の可動域を広げ、カラダを再生させる
血糖値が高い人は、日常的に運動をしていないことが多いはず。ある程度の運動を継続していれば、糖は使われるからである。そして、動かないことで、カラダは錆びついてしまっているのだ。
ひとつは関節である。普通に生活しているだけだと、可動域いっぱいまで関節を使うような大きな動きとは、ほぼ無縁。そのため、可動域が狭くなって、動きの滑らかさも失われてしまう。まずは、これを正したい。しなやかに大きく動けるカラダへと、再生させることが必要だ。
同様に、使わなければ筋肉も衰える。とくに大きな筋肉が集まる下半身は、エネルギー消費のためにも筋力を少しでも回復させたい。そのためにごく軽い運動から始めていこう。
ホリゾンタル・プッシュ&プル(30秒)
- 背すじを伸ばして、足を揃えて立つ。
- 手のひらを下に向け、腕を肩の高さで前方に伸ばす。
- 胸を開いて、左右の肩甲骨を背骨に寄せるように、肘を後方へ十分に引く。
- 腕を伸ばして元へ。肩の水平方向の可動域が大きくなる。
ニープッシュスクワット(30秒)
- 足を腰幅に開いて立つ。
- 尻を後方へ引くようにして、膝が90度ほどに曲がるまで腰を落とす。
- 同時に腕を伸ばして、膝の上に手を置く。
- 置いた手で、上半身を押し上げるようにしながら、立ち上がる。下半身の強化。
バーティカル・プッシュ&プル(30秒)
- 腰幅に足を開いて、背すじを伸ばして立つ。
- 腕を真横に開き、肘を曲げてやや後方に引き、胸を開いて左右の肩甲骨を寄せる。
- 腕を上に向かって伸ばし、元へと戻る。肩甲骨の動きを意識。肩の垂直方向の可動域が広がる。
ステップツイスト(左右各15秒)
- 腰幅に足を開いて立つ。
- 左斜め下方へと両腕を伸ばす。
- 右足を前に出すのと同時に両腕を右斜め上方へと上げ、カラダを右方向にひねる。
- 体幹だけでなく胸の筋肉も伸ばすように。上体の柔軟性を高める。
ステップ2|機能的に大きく動けるカラダを手に入れる
ステップ1でカラダの錆は落とせただろう。では、次のステップだ。ここでは機能的に動けるカラダを目指す。実は、長らく運動から離れた人には致命的な欠点がある。それは、動作が再現できないということ。試しに昔慣れ親しんだラジオ体操をやってほしい。自分ではできていると思っても、鏡に映してみると、なんと不格好だろうか!
カラダを機能的に使うことができなくなっているのである。その状況から抜け出したい。自分が思った通りに、カラダが動くようになることが重要だから、ここで行うメニューは、バランス力が必要であったり、動きが難しくなっていたりする。
自由自在にカラダを操れれば、動くことが楽しくなる。筋力は向上して、消費エネルギーも増えるのだ。
リバースランジ(30秒)
- 背すじを伸ばして、足を揃えて立つ。手は腰に。
- 右足を1歩後方に引き、腰を落とす。
- 前の膝が90度まで曲がる手前で、元へ戻る。
- 次は左足で。
- 動作中、上半身はまっすぐ保つ。前傾しないよう注意。下半身が強化できる。
ベントオーバーキックバック・エルボー(30秒)
- 膝を緩めて、股関節から上体を深く前傾させる。
- 背すじを伸ばし、胸を開く。
- 両肘を曲げて背中の上方まで上げる。
- 肘を固定して、前腕を腕が伸び切るまで引き上げたら、元に戻る。
- 腕だけでなく、姿勢を保つ筋肉にも効く。
ニートゥーエルボー・シングル(左右各15秒)
- 右脚を軸にして、左足を横に開いて爪先を床につける。
- 左手は腰に、右腕は斜め上方に伸ばす。
- 伸ばした肘を曲げて引き下げ、同時に膝を曲げて左脚を引き上げて、肘と膝をタッチさせる。動きの改善。
サイドステップ・スクワット(30秒)
- 右手で拳を作り、左手で包み込むようにして胸の前で合わせる。
- 左に1歩サイドステップして、尻を突き出すように腰を沈める。
- 左足を元の位置に戻しながら立ち上がり、今度は右足で。
- 横の動きに対応する筋肉に効果的。
トランクツイスト(30秒)
- 中腰になって、背すじを伸ばし、胸を開く。
- 左右に腕を振って、上体をひねる。
- ひねるときに膝でリズムを取るように、カラダを弾ませながら行おう。
- カラダの軸がブレないようにすること。全身運動で心拍数を上げる。
サイドベンド・ハンズアップ(左右各15秒)
- 肩幅に足を開いて立つ。
- 腕は脇を開いて伸ばす。
- 左腕を頭上に上げ、体側の左側を伸ばすように上体を側屈させる。
- 左腕の肘を曲げて下ろし、同時に上体を左へと倒す。腹の筋肉、とくに腹斜筋に効く。
ステップ3|カラダを進化させて、日常生活に繋げていく
ステップ1、2までこなしたら、ある程度機能的なカラダになれるし、エネルギー消費も以前と比べれば、確実に増えている。エネルギーが使われる機会が多ければ、血中の糖も少なくなっていくだろう。
では、最終段階。ここで行うことは、ステップ2をさらに進化させたトレーニングだ。たとえば小さい腕の振りが、ダイナミックな動きに変わったり、片側の腕だけを動かしていたのが、両腕を使って行うようになる。これまで以上にバランス感覚や筋力が求められるようになるのだ。
ただ、これがこなせれば、日常生活も変わる。喘いで階段を上っていたのがスッと行けるようになるし、ちょっとの距離なら簡単に歩ける。そして、こうした日常的な活動が、血糖値を下げることにも繫がるのだ。
リバースランジ・ハンズアップ(30秒)
- 背すじを伸ばして、足を揃えて立つ。
- 腕は横に開いて、肘を曲げる。
- 右足を1歩後ろへ下げて、腰を沈ませる。
- 同時に両腕を頭上へと突き上げる。
- 右足を前に出して元へ。今度は左脚で。
ベントオーバーキックバック・フルエクステンション(30秒)
- 膝を緩めて、股関節から上体を深く前傾させる。
- 背すじを伸ばす。
- 手を握り、両肘を曲げて耳の横に。
- 腕を伸ばしながら、大きく後方に回して、背中の上まで引き上げる。
ニートゥーエルボー・ダブル(左右各15秒)
- 右脚を軸にして、左足を横に開いて爪先を床につける。
- 両腕を斜め上方に伸ばす。
- 伸ばした両肘を曲げて引き下げ、同時に膝を曲げて左脚を引き上げて、肘と膝をタッチさせる。動きとバランス感覚の改善。
サイドステップ・スケーター(30秒)
- 左手を握り、右手で包み込むようにして胸の前で合わせる。
- 背すじを伸ばし、尻を後方へ引くように腰を沈める。
- まず、左足を1歩左へステップ。
- 元に戻り、今度は右脚で。
ベントオーバートランクツイスト(30秒)
- 膝を緩め、上体を股関節から深く前傾させる。
- 背すじは伸ばす。
- 両肘を後方、肩より高い位置まで引き上げ、
- カラダを左にひねりながら、右腕を伸ばして左足の上へ。
- 次に左腕で。姿勢を保ち、リズミカルに動くことを覚える。
ニーアップサイドベンドハンズアップ(左右各15秒)
- 肩幅に足を開いて立つ。
- 右手は腰に、左腕を頭上に伸ばして上体を右に側屈させる。
- 上体を左へと倒し、肘を曲げて左腕を真横に引き下げる。
- 同時に左脚を開いて上げ、肘と膝を近づける。腹の筋肉に効く。
- 左右15秒ずつ。
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