なぜ「食後高血糖」が怖いのか。血糖値を整える6つのメリット
肥満、イライラ、生活習慣病…。そのすべてに関わるのは血糖値。とくに注目は「食後高血糖」だ。
取材・文/井上健二 監修/山田悟医(北里大学北里研究所病院糖尿病センター長)
初出『Tarzan』No.822・2021年11月11日発売
そもそも血糖値・食後高血糖とは?
血糖値は、血中のブドウ糖である血糖の濃度。70〜110mg/dL未満に調整されている。血糖値を上げるのは基本的に糖質だけ。糖質過多の食事をした後、血糖値が140mg/dL以上に上がるのが食後高血糖だ。
上がった血糖値を下げるのは、膵臓が分泌するインスリンというホルモン。その追加分泌が遅すぎたり、少なすぎたり、効き目が悪かったりすると、食後高血糖が生じる。
食後高血糖が起こると、インスリンが遅れた分だけ後から大量に出るため、効きすぎて血糖値が一気にダウン。このように血糖値が鋭く乱高下する状態が「血糖値スパイク」だ。
食後高血糖と血糖値スパイクは血管などカラダへのダメージが大きい。健康診断で空腹時血糖値が正常でも、食後高血糖と血糖値スパイクの可能性は否定できない。そこがドミノ倒しの発端となり、肥満などの悩みから、がんや認知症といった病気まで連鎖的に起こす心配があるのだ。
食後高血糖の怖さにスポットが当たったのは、90年代後半のこと。
「空腹時の血糖値は正常なのに、食後高血糖だと死亡率が高いとわかり、食後高血糖が注目されました。血糖値の乱高下が、多くの病気や老化を招く酸化ストレスを増やすとされ、発端となる食後高血糖の予防が重視されるようになったのです」(北里大学北里研究所病院の山田悟医師)
逆に言うなら、魔のドミノ倒しの発端となる食後高血糖さえ防げたら、メリットは大きい。どんな御利益があるのか、確かめてみよう!
メリット① 痩せられる
脳には食べすぎを防ぐ満腹中枢がある。食べてカロリーになるのは、糖質、脂質、タンパク質の3大栄養素。脂質とタンパク質には満腹中枢が反応しやすいので食べすぎないが、満腹中枢は糖質への反応が鈍いので、過食⇒肥満に至る。
脂質とタンパク質が多い唐揚げはすぐ満腹になるのに、糖質はラーメン+丼ご飯でも余裕で完食できる理由。食後高血糖を防ぐために糖質を控えると、満腹中枢が過食にブレーキをかけるのでラクに痩せられる。
メリット② 若々しくなる
食後高血糖が起こると、体内では知らない間に糖化という反応が進む。糖化とはカラダを作るタンパク質(正確にはその構成成分であるアミノ酸)に、体温で血糖がくっつく現象。肌の張りや弾力を保つタンパク質(コラーゲン)で糖化が進むと、シワができやすい。
同時に、糖化した部分では褐色に変色するメイラード反応が進み、シミも大きくなる。糖質の適正摂取でコラーゲンを守り、メイラード反応を避け、肌を若々しくキープしよう。
メリット③ がんリスクが下がる
日本人の2人に1人は生涯一度はがんになり、3人に1人はがんで死ぬ時代。老若男女を問わず、がんに対する準備はつねにしておきたい。食後高血糖を放置すると、糖尿病に陥る可能性が高くなる。
そして糖尿病になると、がんリスクが約20%上がるという気になるデータがある。食後高血糖によるインスリンの過剰な分泌、酸化ストレス、血糖値スパイクなどが、がん細胞の発生と関わるらしい。がん対策の基本は血糖値の適切な管理なのだ。
メリット④ メンタルが安定する
食後高血糖後、追加分泌されたインスリンで血糖値が下がりすぎると、一時的な低血糖(反応性低血糖)に陥る。血糖はエネルギー源として必要不可欠なので、急な低血糖は緊急事態。
血糖をいちばん使うのは脳だから、血糖を節約するために機能を絞る防衛反応が起こり、結果的に眠気が生じたり、イライラや集中力の低下が起こったりする。食後高血糖をセーブできたら、日中の眠気、イライラ、注意散漫などがなくなりメンタルは安定する。
メリット⑤ メタボが防げる
メタボ(メタボリックシンドローム)とは、内臓脂肪でお腹が出すぎるほど太る内臓脂肪型肥満があり、高血糖、高血圧、脂質異常症が2つ以上重なったもの。心臓から血液を運ぶ動脈が硬くなり、血液の固まりが詰まりやすくなる動脈硬化の危険因子だ。
日本人の死因上位を占める心臓病と脳卒中は、ともに動脈硬化から生じる。食後高血糖が防げたら、内臓脂肪型肥満も高血糖も回避でき、メタボ、心臓病、脳卒中のトリプルリスクが下がる。
メリット⑥ 脳も若々しくなる
ある調査では30代の約半数が終活を意識しているとか。でも、先に備えたいのは認知症。65歳以上の高齢者6人に1人は認知症だ。血糖値スパイクのように血糖値の上下動が激しくなるほど、認知機能テストの成績は悪くなるという結果があるように、食後高血糖を抑えると認知症予防につながる。
一説によると、食後高血糖で過剰に分泌されるインスリンは、脳内で認知症を招くアルツハイマー病の一因であるアミロイドβの分解を妨げるという。