3つの「体内時計リセット術」。代謝を上げる朝の過ごし方
カラダに備わる「体内時計」は、実は地球の自転リズムより少し長く設定されているため、放置しておくと後ろ倒しになり生理機能が乱れがちに。だから毎日脳とカラダをリセットする必要がある。「光」「運動」、そして「朝食」の3本柱で、代謝のスイッチを入れよう!
取材・文/石飛カノ 撮影/大森忠明 スタイリスト/矢口紀子 取材協力/柴田重信(早稲田大学理工学術院先進理工学部 電気・情報生命工学科教授)、吉村英一(国立健康・栄養研究所 栄養・代謝研究部エネルギー代謝研究室室長)、畑本陽一(国立健康・栄養研究所 栄養・代謝研究部エネルギー代謝研究室研究員)
初出『Tarzan』No.806・2021年3月11日発売
朝イチのタイミングで一日の生体活動が決まる。
生き物は毎日脳とカラダをリセットし、その日一日の生理機能を働かせる必要がある。カラダに備わっている体内時計は地球の自転リズムよりちょっとだけ長く設定されているからだ。リセットをせずになんとなく一日を過ごしていると、体内時計は徐々に後ろ倒しになり生理機能も乱れがちに。
では、いつリセットすべきかというと、朝イチのタイミング。目覚めた後の朝活でその日の体内時計のネジを巻き直すことができるのだ。
「たとえば、リセット方法のひとつが朝食を食べること。朝食を摂ることでエネルギーが消費され、体温が上がります。体温が上がれば動きやすいし、活動的になるため代謝量アップに繫がります」と言うのは、体内時計研究の国内第一人者、柴田重信教授。
覚醒前や夕方に体温や血圧を上げたり、インスリンなど代謝に関わるホルモン分泌を促せるかは朝一番の行動次第。キーワードは「光」「運動」、そして「朝食」。この3本柱で代謝のスイッチをオン!
① 起床後に光を浴びる。
生き物のカラダに備わっている体内時計は「時計遺伝子」が作るタンパク質の増減によって一日のリズムを刻んでいる。時計遺伝子が合成するタンパクの増減サイクルが一周するのが、24時間+α。
中枢となる時計は脳の「視交叉上核」という場所にあり、まずはこの時計のズレをリセットする必要がある。そのきっかけが太陽の光だ。起床後、太陽の光を浴びると目の網膜から光情報が視交叉上核に届く。すると、ちょっと長めの時を刻んでいた中枢の体内時計リズムがリセットされるのだ。これによってその日一日のもろもろの生体機能スケジュールが決定される。
「また、光を浴びることには代謝を高めるという役割もあります。血糖値を上げるホルモンにコルチゾールというものがあります。コルチゾールは覚醒前に分泌されるのですが、ネズミの実験では光を浴びることで直接的にコルチゾール(ネズミの場合はコルチコステロン)分泌が促されるという報告もあるのです」
もともと血糖値を上げて、お目覚めモードになっているところに、さらに光を浴びることでカラダはより覚醒モードになるというわけ。
「自然光を浴びるならカーテンを開けて光を目に届ける。間接照明のような暗めの照明でなければ部屋の電気をつけるだけでも大丈夫です。またスマホやパソコンのようなブルーライトは朝の時間帯に見る分にはまったく問題はありません」
メールのチェックや対処はむしろ朝一発目に積極的に行うのが◎。
② 午前中に運動をする。
朝に運動を取り入れると筋肉が効率的に養える。そんな結果が柴田教授の実験で明らかにされている。モデルとなったのは寝たきり状態のネズミ。寝たきりで刺激が入らなくなると筋肉が萎縮し、いわゆるサルコペニアと呼ばれる運動器障害に陥ってしまう。ヒトもネズミもこれは同じ。
そのサルコペニアのネズミを2つのグループに分け、ひとつのグループは朝に4時間、もうひとつのグループは夕方に4時間、リハビリ運動を行った。すると、前者のグループの方がよりサルコペニアが回復したという。
「朝の方がアミノ酸がカラダに取り込まれやすいので、筋合成が進みやすいと考えられます。食事が先か運動が先か、どちらが有効かは分かりません。僕自身は朝40分程度散歩をしてから朝食を摂っています」
筋肉を維持し代謝アップを狙うなら朝食前後の運動が有効なのだ。
③ 最も重要なのは、決まった時間に朝食を食べること。
体内時計の中枢は脳だが、それだけではなく、時計遺伝子は全身の細胞にくまなく備わっている。で、これらは結構バラバラに動いている。
朝の光で脳の時計のリズムをリセットするだけでは全身の時計遺伝子はそれと同調しない。脳とカラダ、どちらもリセットするためにマストなのが朝食だ。しかも決まった時間に食べることで消化酵素もきちんと分泌されて代謝のエンジンがかかる。では、何を食べるか? それも大事な問題だ。
朝食メソッド1|主食の糖質食品はマスト。
朝は、エネルギーを補充する目的で糖質を摂るわけではない。覚醒前、さらに光を浴びることでコルチゾールが分泌され、血糖値はもう十分に上がっているからだ。
では、朝食にごはんやパンなどの糖質食品がマストなのは一体どうして? 答えは糖質を摂ることによって膵臓から分泌されるインスリンが末梢の時計遺伝子のリズムをリセットしてくれるから。そう、ごはんやパンなどの主食を食べる目的は、糖質補給によるインスリン分泌なのだ。
「朝の方が夜に比べてインスリンの分泌量が多く、効きもいいことが分かっています。インスリンの働きで糖質をエネルギーに変えやすいので、代謝を上げるという意味でも、朝の糖質は不可欠です」
ダイエット中だから、糖質はカット。これ、とくに朝食ではやってはならないこと。せっかくの代謝アップのチャンスを逃してしまうことになるからだ。
朝食メソッド2|代謝アップにはタンパク質も不可欠。
夜眠っている間は当然食事ができない。ゆえに、夕食を早めに切り上げて眠ると、就寝中は軽い飢餓状態。これによって、オートファジーというタンパク分解が起こりやすいとされている。
「実際、7〜11歳の子どもの研究では、夜間、筋合成より筋分解の方が進むことが分かっています。朝食にタンパク質を食べると、分解系のモードが合成系に切り替わって元に戻ります。欠食は論外ですが、朝食で十分な量のタンパク質を摂ることが非常に大事です」
子どもたちだけの話ではない。柴田教授によると、こんな実験報告も。
「朝、高齢者にホエイタンパクとビタミンDを一緒に投与すると筋合成が起こりやすいといわれています。朝食をしっかり食べることで筋肉がつけば、それも代謝の底上げに繫がると思います」
卵or納豆or鮭などのタンパク質食品を冷蔵庫に常備するべし!
朝食メソッド3|水溶性食物繊維で食欲を抑え脂肪燃焼。
食物繊維を夜に摂ると、翌朝の排便がスッキリ! そんなイメージがあるが、これ半分正解、半分間違い。水に溶けにくい不溶性食物繊維は確かに夕食で摂ると、便の嵩を増して腸が刺激されるので翌朝の快便に繫がる。
一方、水に溶けやすい水溶性食物繊維は逆に朝に食べた方がベター。というのは、腸内細菌が水溶性食物繊維をエサとして分解する際、さまざまな健康効果をもたらす短鎖脂肪酸が作られやすいから。
「ネズミの実験では短鎖脂肪酸は夜より朝の方が作られやすいことが分かっています。短鎖脂肪酸は脂肪の燃焼にも関わっているほか、食欲を抑えるGLP-1という消化管ホルモンの生成にも関わっています」
野菜やきのこ、豆類などの不溶性食物繊維は夜に摂取。昆布やワカメなどの海藻類、タマネギやゴボウのアクの部分に豊富に含まれている水溶性食物繊維は朝の味噌汁の具に、ぜひどうぞ。
朝食メソッド4|機能性成分の摂取は朝食で。
呼吸で酸素を取り入れてエネルギー代謝をするのが、酸化という化学反応。となると酸化とは代謝そのもの。どんどん酸化が進めば代謝も進む。ただ、唯一の難点は、酸化のプロセスで活性酸素という細胞を錆びさせる物質が生じること。
体内にも抗酸化システムは備わっているが、さらに抗酸化食品の力を借りるとなおよし。たとえばトマトに豊富に含まれるリコピンは強力な抗酸化作用を発揮する。これを取り入れるなら、やはり朝食。
「理由は夜寝ている間、脂肪の分解に関わる胆汁が胆囊にたっぷりと溜まっているからです。リコピンは脂溶性の栄養素。脂質とともに食べると吸収率が上がるので朝食ではトマトをドレッシングなどで食べるのがおすすめ」
また、脂肪燃焼作用のある青魚のDHAは脂肪酸だ。焼き魚を食べるのも胆汁豊富な朝食で。
夕食が遅いと朝食後に脂質が燃えにくい!?
最後に食事のタイミングの違いによる、ちょっと怖いトピックを。
国立健康・栄養研究所、栄養・代謝研究部の吉村英一さん、畑本陽一さんによると、朝食を食べる時間が遅くなると夕食の時間が後ろ倒しになり、その結果、脂肪燃焼率が下がる可能性があるという。
夕食を6時に食べ終わる場合と9時に食べ終わる場合とを比較してみると、後者の方が平均血糖値が高くなり、脂肪燃焼率も低かったという結果に。
「太るか太らないかは別の話として、脂肪が一日燃えにくい状態が続きます。夜遅い時間に食事をすることで、睡眠中も血糖値が高いままに。血糖値が高いということは糖質を使ったエネルギー消費をしている可能性があるということ。寝ている間だけでなく、翌日の朝食後も脂質よりも糖質が多く利用されていることが分かっています」
他の研究でも、1日3食を朝→昼→夜のタイミングで摂った場合と昼→夕方→夜遅めで摂った場合を比べてみると、やはり後者の方が脂肪が燃えにくい状態が続くという報告があるとか。
「基本的にどんなタイミングで食事を摂っても、消費エネルギーは変わらないということが分かっています。ただ、エネルギー消費量は変わらなくても血糖値が高い状態が続くことで、糖尿病のリスクが高まる可能性は考えられると思います」
朝食も夕食も早め早めのタイミングが健康的な代謝の条件。