三大栄養素に反応する3つの消化管ホルモンとは。
食べ物が胃から小腸に入っていくと、小腸からさまざまな消化管ホルモンが分泌されることは食欲ホルモンの基礎知識で前述した通り。
今のところ小腸由来の消化管ホルモンはすべて食欲を抑制する働きがあるとされている。ゆえに、ダイエットを成功させるためには、これらのホルモンが働くメカニズムを知っておくことが重要だ。
今回はダイエットにとくに有効な、コレシストキニン(CCK)、ペプチドYY(PYY)、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)という3つのホルモンに焦点を当てる。
3つのホルモンはそれぞれ特定の栄養素に反応し、分泌が促される。CCKは長鎖脂肪酸(食品中に含まれる多くの油脂はこれ)に反応して小腸上部のI細胞という部位から分泌される。PYYはアミノ酸に反応して腸管下部のL細胞から、GLP-1は主に糖質に反応してやはりL細胞から分泌されるという具合。
こうしてみると、三大栄養素にきっちり対応して機能していることが分かる。つまり、まずは栄養素のバランスを整えることが食欲抑制のカギ。また、物を口にしてから小腸に到達するのに最低でも20分程度かかる。それ以前に食べ終わってしまってはせっかくの食欲抑制ホルモンの出番がなくなるので、食事はバランスよくゆっくりと。
インスリンを効かせるには多糖質がベター。
ダイエットには消化管ホルモンの助けが必須。なら栄養素が小腸にいち早く辿り着いて情報を脳に伝えれば、食欲の暴走を止められる?
確かにそれも一理ある。ただし、気をつけなければならないのが糖質の摂り方だ。三大栄養素の中で糖質は最も吸収スピードが速い。とはいえ、ごはんやパンに含まれている糖質の多糖類、砂糖などの二糖類、ブドウ糖や果糖といった単糖類では吸収スピードが異なる。
多糖類は多くの糖が長い鎖のように繫がった分子構造で、二糖類はふたつの糖、単糖類は糖単体で成り立っている。分解の手間が省ける分、吸収スピードは二糖類などより速い。
だが、その分血糖値が急上昇し、インスリンが大量に分泌されて脂肪も合成されやすい。インスリンを正常に効かせるには多糖類で糖質補給。
肉や魚を先に食べるとインスリンが追加される。
消化管ホルモンのひとつ、GLP-1は実は糖質に反応するだけではない。タンパク質や脂質にも反応して小腸から分泌されることが分かっている。その働きはもちろん、食欲低下作用だが、もうひとつの重要な役割が近年注目されている。
先にタンパク質を摂取してから炭水化物を口にすると、GLP-1の働きで血糖値が上がりにくくなるというのだ。
小腸から分泌されたGLP-1は迷走神経に働きかけて満腹感の情報を脳に送ると同時に、膵臓のβ細胞にも作用する。するとβ細胞からのインスリン分泌が増強されることが分かっている。
インスリンをたくさん出したら脂肪が合成されたり血糖値スパイクが起こるのでは?という心配は無用。なぜならGLP-1は血糖値に反応するインスリン分泌のみを増強するから。やたらに大量のインスリンをプラスするのではなく、必要最低限の“追いインスリン”をするので、必要な糖質が必要な場所に届けられ、血糖値スパイクを起こす心配もないのだ。
血糖値を上げすぎることなくGLP-1の食欲低下作用で満腹感も増す。この事実を知っているのといないのとではダイエットの成功率は天と地ほどの差が生まれる。
満腹感をより得るためにはタンパク質から食べる。
ごはんより、まずタンパク質を先に食べると血糖値が上がりにくい。この事実は、ヒトを対象とした実験でも証明されている。
ごはんを先に食べた場合、血糖値が急上昇して急降下するのに対し、肉や魚を先に食べると血糖値は適度に上がり、ゆるやかに下がっていく。カラダには負担が少なく、満腹感も長続きするから適量の食事でお腹いっぱいになれる。これぞ太りにくい食べ方だ。
食べる順番として野菜が先で次に肉や魚、最後にごはんというのがこれまでの定石。だが、野菜に含まれる食物繊維は消化管ホルモンの分泌には何も影響しない。ホルモンの作用にあやかりたいなら、まずは肉や魚などのタンパク質から口に入れるのが正解だ。
理想の食べ方としては、タンパク質でGLP-1とPYYを出し、脂質でCCKを出し、消化に時間のかかる食べ物を消化管に仕込んだ後、少量の糖質で締めて再度GLP-1の食欲抑制作用に期待する。これで、完璧でしょう。