食欲をコントロールする「ホルモン」3つのメカニズム
ダイエットの敵、食欲の黒幕もホルモン。でもその仕組みを逆手に取り、ホルモンを有効活用すれば、痩せへの道筋が見えてくる。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/加納徳博 監修/佐々木 努(京都大学大学院農学研究科教授)
初出『Tarzan』No.782・2020年2月22日発売
食欲中枢は脳の視床下部、弓状核という場所にある。ここに食欲を調節するさまざまなホルモンが働きかけることで、人は空腹や満腹を感じるのだ。
当然ながら、意思の力でホルモンをコントロールすることはまず不可能。ダイエットを成功に導くために、まずはホルモンの3つの基礎知識を学ぶことから始めよう。
1. 太ると食欲をセーブするホルモンが弱まる。
食欲を抑制する代表的なホルモンに、脂肪細胞から分泌されるレプチンがある。レプチンが脳の視床下部に「もう食べなくてもいんじゃね?」と働きかけ、食欲がセーブされる。
ところが、肥満に陥るとこのホルモンの効きが悪くなる。レプチン自体はちゃんと出ていて、実際、肥満者はレプチンの血中濃度が高い。でもその情報が脳に伝わらないのだ。
これ、無線LANで言えばWi-Fiがつながっていない状態。満腹という情報が拾えないから、カラダに必要なエネルギーが足りていても食べ過ぎてしまうというわけ。
肥満になると脳に至る血液の関所、血液脳関門にバリアができる、ホルモンの標的の細胞に垣根ができるなど諸説あるが、詳しいことは分かっていない。ただ、痩せればホルモンの効きは正常化する。
2. インスリンが血糖値をコントロールする。
ダイエットをするうえでその分泌量を注視しなければならないホルモンは、やはりインスリン。
インスリンは膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、体内に入ってきた糖質を全身の細胞に誘導する役割を果たす。血液中の糖質が各細胞に分配されることで血糖値が下がるという仕組み。
インスリンが正常に働いている分には何の問題もない。だが、空腹状態での早食いやドカ食い、あるいは清涼飲料水やスイーツなどを口にすると、血糖値が一気に上がる。それに対応するインスリンも一気に、しかも大量に分泌されて今度は急激に血糖値が下がる。血糖値の急上昇と急降下、これがいわゆる「血糖値スパイク」と呼ばれる現象。
血糖値スパイクがしょっちゅう繰り返されると、まず脂肪合成が促されて太る。それだけでなく、活性酸素が発生して血管を傷つけ、やがて脳梗塞や心筋梗塞などの深刻な病気を招くことも。食事は規則正しく、食べるときはゆっくりと、がインスリン制御の基本のキ。
3. 満腹感を感じるホルモンは血液・神経経由。
お腹いっぱいになったとき、誰に止められなくても自動的に箸が止まる。こうした食事による満腹感をもたらす経路はふたつある。
ひとつは主に小腸から分泌されるさまざまな消化管ホルモン。これらが消化管に張り巡らされている迷走神経に働きかけ、その情報が神経から脳幹、脳幹から視床下部の満腹中枢を刺激するというルート。
もうひとつは脂肪組織が分泌するレプチンが血液によって脳の視床下部に直接送られるというルート。
前者の迷走神経の方が情報伝達スピードが速い、いわば有線LAN。食事を始めて15〜20分後に感じる満腹感はこちらの担当。レプチンのような血液を介したルートを液性伝達というが、こちらは無線LANで伝達スピードが若干遅い。このルート経由の満腹感は食後数十分から1時間くらいにやってくる。
前者が食事という行為に直接反応するのに対し、後者はどちらかというとカラダのエネルギー状態をモニターしている。
中性脂肪の蓄積量が多ければ満腹感を促し、逆に脂肪が少なければレプチンの分泌量自体が減り、空腹感が促される。 満腹感は2段構えのシステムでもたらされているのだ。