目指すはゴルゴ13の精密ボディ。ブレないカラダの秘訣は深層筋にあり。
見た目の美しさも、ブレない動きも、根幹を支えるのは“深層筋”。姿勢を整え、痛みを防ぎ、疲れを知らないカラダをつくる。深層筋を鍛えることで得られる8つのメリットを知り、ゴルゴ13のような精密ボディを手に入れよう。
取材・文/石飛カノ 取材協力/金岡恒治(早稲田大学スポーツ科学学術院教授) ©さいとう・たかを/さいとう・プロダクション
初出『Tarzan』No.911・2025年9月25日発売

1.美しく機能抜群の姿勢を維持できる。

この勇ましい仁王立ち。素晴らしい美姿勢も、深層筋が働いてこそ。
最初は羊水の中にプカプカ浸かっていて、陸に降り立ちしばらく経つと四つん這いで移動するようになり、やがて2本の脚ですっくと立ち上がる。子どもの成長はヒトの進化の過程を辿るようなもの。
「乳児が仰向け姿勢から寝返りを打つときは背中のインナーの多裂筋が働き、四つん這いになるときは多裂筋に加えて腹筋のインナーの腹横筋も働いているはず。二足歩行ができるようになるにはさらに足や骨盤の深層筋が稼働して姿勢が維持されると考えられます」
と言うのは深層筋研究のスペシャリスト、早稲田大学教授の金岡恒治さん。2本の脚で立ったり歩いたりするのは一朝一夕では不可能。ゴルゴ13の隙のない美姿勢も体幹をはじめとする深層筋のサポートがあってこそ。

体幹を横から見たときと断面で見たときの深層筋。腹横筋は腹部の最下層、多裂筋は背骨に沿う形で存在している。
2.正確無比な動作ができるようになる。

無理が利くのも、インナーのおかげです。
成長過程では使う術を知っていたかもしれないが、年齢を重ねていく段階で深層筋の使い方を忘れてしまうケースは少なくない。なぜなら、その気になればアウターの筋肉を使って大体の動作ができてしまうから。
「ところがアウターだけ動かしていると何をやるにも効率が悪くなります。姿勢を維持することができないしカラダの軸も決まらない。パワーはあるけれど精密さに欠ける動きになってしまいます。たとえば武道の止めの動作やしなやかなダンスの動きは深層筋なしには実践できないと思います」
銃を構えてピタリと照準を合わせ、微動だにしない静止状態をどれだけ保てるか? 深層筋の使い方を忘れた人にはまず無理なのだ。
3.内臓を正しい位置にキープできる。
正しい姿勢をキープできている人は横から見るとお腹もスッキリ。一方、体幹の深層筋を使えていない人は横から見ると猫背で出腹という残念なシルエットに。
胃や腸などの内臓は体幹の深層筋に支えられて本来のポジショニングを保っている。よって深層筋が衰えると重力に従って下垂するリスクが高まる。結果的に胃腸が押し潰されて機能が低下、胃もたれや便秘といった不調が引き起こされるケースもある。
また、背面の深層筋が衰えて猫背姿勢になると、胸郭のスペースが狭まる。すると、内部にある肺がうまく膨らまなくなり呼吸が浅くなる可能性も。
内臓機能もまた、深層筋によって担保されているという話。
4.筋肉や関節のケガのリスクを減らせる。

炎に包まれ大ジャンプ。それでも無事なのは、深層筋のなせる業!?
深層筋の特徴のひとつは、単一の関節にだけ跨っているということ。これを単関節筋と呼ぶ。たとえばアウターマッスルの上腕二頭筋は肩と肘、2つの関節を跨ぐ多関節筋だが、肩まわりに存在している多くの深層筋は肩甲骨と肩関節を繫ぐ単関節筋。ざっくり言うとアウターは多関節筋、インナーは単関節筋に分類できる。
「深層筋は関節のより近い部分に存在しているので、しっかり働くことで関節の安定性を確保することができます。また、関節を細かくコントロールすることで一部の筋肉に負担がかかりにくくなり、ケガの予防にも繫がります」
急斜面をスキーで爆走しながら狙撃、爆弾を危機一髪で回避。でもゴルゴはケガをしない。
5.長時間歩き続けても疲れにくくなる。
ちょっと歩くとすぐ足が重だるくなってしまう人、かなりの確率で足の裏の深層筋が働いていない可能性がある。
「足の中には多くの細かい筋肉が存在しています。それらがある程度機能しないと人間は足のアーチがキープできず、うまく歩けないことが分かっているんです。歩くときに踵を地面に着地させた瞬間に足の深層筋にスイッチが入り、アーチを利用して踵が浮くことで前に進むことができます。ところが、深層筋が働かないと足の裏全体で着地する“ベタ歩き”になってしまいます。前に進む推進力が弱いのですぐに疲れてしまうわけです」
足の裏にも深層筋。これが機能しなくては直立二足歩行のすべての動作がうまくいかなくなる。つまり、何もかもが台なし。
6.辛い腰痛、しつこい首痛の予防に繫がる。
背骨は頸椎、胸椎、腰椎の3つの部位に分類することができる。このうち、一番下にある腰椎は5つの椎骨で構成されている。で、そのひとつひとつにくっついているのが腹横筋というお腹の深層筋。
「腹横筋が収縮すると腰椎をひとつの塊として動かすことができます。ところが、腹横筋が働かないまま体幹を動かすと腰椎のうち、一番動きやすい4番目と5番目の骨に負担がかかってしまい、腰痛が引き起こされます」
頸椎に炎症が起こる首の痛みも同じ理屈。首の深層筋である頸長筋が働かず、頸椎のうち最も動きやすい5番目と6番目にばかり負担がかかる。で、その周辺の筋肉や筋膜が緊張したり関節が損傷して痛みが生じる。首痛、腰痛難民がまず行うべきは深層筋トレだ。

体幹部の模式図。側屈するとき左のようにアウターの筋肉だけ使うと一部の脊柱に負担がかかる。右のように腹横筋を使うのが正解。
7.脳とカラダの連携が強化される。
深層筋がうまく使えるようになるか否かの分岐点は、脳と筋肉をコネクトする神経系の成長が最も目覚ましい、9歳から12歳頃の「ゴールデンエイジ」と呼ばれる時期。この時期にさまざまな運動経験をした人ほど、深層筋を無意識に巧みに使うことができるそう。
「雑巾掛け、木登り、公園の遊具を使った遊びなどでは姿勢維持やバランス感覚が身につきます。その結果、深層筋を駆使した精密な動きができるようになるのです。もちろん、年齢を重ねた大人でも再教育すれば脳と筋肉を連携させ、深層筋を鍛えることは可能です」
ゴルゴでさえ日々の鍛錬を欠かさないのだ。いわんや凡人をや。

8.四十肩、五十肩の痛みを回避できる。

やはり大事なのは日々カラダを動かすことなのです。
多くの日本人が悩まされているというのに改善の決定打がない四十肩、五十肩。その原因にもまた深層筋が関わっている。
「四十肩や五十肩の原因はさまざまですが、多くは腕を上げるときに上腕骨の大結節という部分が肩甲骨に擦れて周囲の筋肉が炎症を起こすというもの。この摩擦を防ぐためには肩甲骨周辺の深層筋が機能して肩甲骨を動かす必要があると思います」
それもこれも四つ足から二足に進化し、自由度が高い肩関節を手に入れたがゆえの悩み。ヒトとして健やかに生きていくためには深層筋を稼働させる必要があるのだ。


















