世界中でダンベルトレが人気。その理由は?

人気に火がついたのはコロナ禍がきっかけ。ジムの閉鎖により、自宅で使えるダンベルの魅力が再発見されたのだ。そんなダンベルがいま、世界的に売り上げを伸ばしている。全世界の人を魅了するダンベルトレの凄さを改めて確認していこう!

取材・文/井上健二 イラストレーション/Dan Matutina 取材協力/白戸拓也、加藤直之(ゴールドジム)、中村雅俊(西九州大学リハビリテーション学科理学療法学専攻主任、准教授)

初出『Tarzan』No.903・2025年5月22日発売

ダンベルトレが人気な理由
教えてくれた人

白戸拓也(しらと・たくや)/1963年、青森県生まれ。フージャース ウェルネス&スポーツ。元BODYPUMP/BODYCOMBATマスタートレーナー。法政大学卒業。大学卒業後、大手フィットネスクラブに入社。約30年在籍し、クラブマネージャーや教育担当などを歴任する一方、フィットネスの新たなトレンドを作るようなエクササイズプログラムを数多く開発。日本におけるレジェンドトレーナーの一人として一目置かれる存在。

中村雅俊(なかむら・まさとし)/西九州大学リハビリテーション学科理学療法学専攻主任、准教授。理学療法士、博士(人間健康科学)。2013〜23年の10年間において「Expertscape」によりストレッチ分野の世界No.1研究者にランキング。

1kg、2kgと細かい負荷設定ができる。

筋肉にどんな負荷をかけるか。それで得られる成果は変わる。

筋肉を効率的に肥大させるには、一度に10回前後しか反復できない重さが最適。これを10RMという。10RMで限界まで10回行い、適度な休息で疲労回復を図り、3セット行うのがゴールデンルール。自らの体重しか使えない自体重トレと異なり、ダンベルトレなら、ダンベルの重さの調節で筋力に応じた10RMが探せる。

加えてダンベルは、筋トレで大切にしたい「漸進性・過負荷の原則」を守って鍛えられる。これは順を追い少しずつ(漸進性)、いまより大きな負荷(過負荷)をかけ続けるというルールだ。

最初は10kgが10RMだったのに、筋力が上がるとそれが余裕でこなせるようになる。自体重トレと違い、ダンベルは筋力アップに伴って1〜2kgずつウェイトが増やせるから、漸進性・過負荷の原則を追い風にしつつ、筋肉を雪だるま式に大きくし続けることが可能なのだ。

筋肉が肥大しやすい。

筋肉が力を出す方法は主に2つある。コンセントリック収縮と、エキセントリック収縮だ。

コンセンとは、筋肉が抵抗に打ち勝ち、縮みながら力を出すもの。ベントオーバーロウでは、ダンベルを引き上げる動きだ。

それに対しエキセンとは、筋肉が抵抗に負け、引き伸ばされながら力を出力するもの。ベントオーバーロウでは、ブレーキをかけつつダンベルを下ろす動きである。

「エキセンを効かせるほど、筋肉は肥大しやすくなります」(西九州大学の中村雅俊准教授)

バーベルやマシンと比べて、ダンベルはエキセンの稼働域を広げやすい。たとえば、バーベルで行うベンチプレスでは、バーを下ろすと胸に当たるため、それ以上エキセンの稼働域は確保できない。同じく胸の種目のダンベルプレスでは、胸より低く下ろせるので、エキセンの稼働域が広がり、筋肉は大きく厚くなりやすいのだ。

効かせたい場所をピンポイントで刺激。

軌道が固定されたマシンはフォームが崩れてもできる反面、それだと狙った筋肉に効きにくい。

ベンチプレス、デッドリフト、スクワットといったバーベルでの定番トレでは、動きは自らコントロールしなくてはならないけど、軌道は2次元に限られる。

「ダンベルは3次元で自在に動かせるので、構え方やフォームの工夫により、効かせたいパーツにピンポイントで刺激が入れられる。筋肉を細部まで丁寧に作り込みたいボディビルダーが、ダンベルトレを欠かさない理由です」

そう語るのは、自らもビルダーとして活躍する〈ゴールドジム〉の加藤直之アドバンストレーナー。

ビルダーに限らず、ダンベルはボディを自分好みにデザインしたいすべてのトレーニーの願いを叶えてくれる、魔法の道具。その魔法を上手に使いこなすためにも、3次元でダンベルを正しく操れるフォームの習得をしっかり行うことからスタートしよう。

左右差を意識してバランスよくボディメイクできる。

筋肉はバランスよく発達させたいもの。全方位均等に成長すると、無理してムキムキにならなくても体型は美しく整ってくる。

だが、利き腕や利き足、長年の動作のクセなどにより、筋力には前後左右で多少偏りがある。それを無視して筋トレを始めるのは、曲がった釘をハンマーで叩き続けるようなもの。筋力格差が広がり、対称であるべき筋肉の大きさや形が変わったりすることも。

マシンやバーベルの筋トレは両手や両足を一緒に使うものが大半。いずれかの筋力が低くても、筋力の高い方がカバーしてごまかしながらトレーニングできる。すると筋力の高い方が余計強く大きくなるため、格差が広がり体型はみるみるアンバランスとなる。

ダンベルは両手に1個ずつ持って行うから、そうしたごまかしは一切利かない。ゆえに筋力格差が是正されやすく、それにつれて筋肉も偏りなく健やかに育ち、均整が取れた美ボディに近づける。

背中のように鍛えにくいところを強化。

自体重トレではほぼ全身が鍛えられるけど、苦手な部位もある。

まず、背中。鉄棒での懸垂が手っ取り早いが、鉄棒のある公園まで出かけるのは面倒。机に潜り込んで懸垂に近い動きを行うインバーテッドロウという種目はあるものの、効果は懸垂に及ばない。

「ダンベルには、背中の種目はたくさんあります」(パーソナルトレーナーの白戸拓也さん)

自体重トレが不得手な部位は他にもある。それは下半身。

下半身の筋肉は大きく力持ち。それだけ大きな抵抗をかけないと強化しにくい。自体重でのスクワットやランジでは重さが足りないので、反復回数を増やして低負荷×高回数で追い込むしかない。

「回数が増えてくると、筋肉の限界の前に心の限界が来てしまい、心が折れてそれ以上続けられない恐れがあります」(中村先生)

10RMになるようダンベルをプラスすれば、下半身も高負荷×低回数の10回×3セットでサクサク終わり、心が折れる心配はない。

姿勢を保つためにインナーマッスルが鍛えられる。

筋肉にはアウターマッスルとインナーマッスルがある。アウターは体表にある立派な筋肉。体型を決めており、筋トレでメインに働く主働筋となる。インナーは関節に近い深層にある筋肉。主働筋をサポートする協働筋として、関節と姿勢を安定させる役割を担う。

坐って行うほとんどのマシントレでは、関節と姿勢を定めるインナーの出番はほぼない。

「ダンベルトレでは、インナーが協働筋となり関節と姿勢をキープして正しいフォームを守りつつ、主働筋のアウターを鍛えるので、アウターとインナーがバランスよく整います」(加藤さん)

自体重トレでもインナーは鍛えられるが、ダンベルトレと比べて高負荷を加えにくいので、アウターへの効果は限定的。バーベルトレはアウターもインナーも強化できるものの、両手に1個ずつ持つダンベルトレは、両手で持つバーベルよりも関節と姿勢を保持するインナーがよりよく鍛錬できる。