だから加工食品の摂りすぎはよくない。腎臓を蝕む食生活とは?
1分間に約1Lもの血液を処理している腎臓は休むことなく稼働し続けている勤勉な働き者。寿命にも関係するといわれるくらい大切な臓器ゆえに、働かせすぎには要注意だ。どうやら、加工食品が腎臓を痛めつけ、動物性タンパク質が老化を早めるらしい。本当にある腎臓の怖い話をお届けしよう。
取材・文/大吹雪ジュン イラストレーション/森 拓馬 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
教えてくれた人:髙取優二さん
たかとり・ゆうじ/腎臓専門医。埼友クリニック外来部長。抗加齢医学の観点から腎臓病を捉え直す新たな手法に取り組む。著書に『人は腎臓から老いていく』(アスコム)などがある。
加工食品の無機リンが腎臓を痛めつける
CKDが進行する代表的な原因はリンという栄養素。カラダに必要なものだが、現代人はリンを過剰摂取しがち。その理由は加工食品の常食だ。生鮮食品である肉や魚、乳製品には有機リン、ハムやカップラーメンなどの加工食品には無機リンが含まれる。腸管からの吸収率は前者で10〜40%、後者は約90%。無機リンの方が圧倒的に吸収率が高く、過剰摂取に繫がりやすい。
「不必要なリンは尿とともに体外に排出されますが、尿中のリンが過剰になると、カルシウムと結合したリン酸カルシウムがCPPという結晶を作り出し尿細管を痛めつけます。その結果、ネフロン数が減って1ネフロン当たりのリン負荷が増え、慢性腎臓病が進行します」
リンで腎臓が傷む仕組み
動物性タンパク質が腎臓の老化を早める。
低カロリーに制限した食生活でカラダが若返ることは、すでに知られていること。加齢で無惨に老いていく腎臓だが、カロリー制限でその組織が若々しい状態で保たれるということも分かっている。
「ただし、カロリー制限のデメリットは筋肉量が落ちること。そこでマウスの実験でアミノ酸を投与してみたところ、必須アミノ酸を投与したグループは筋肉量は維持されたものの生存率が低かったのです。原因は、必須アミノ酸に含まれるメチオニンというアミノ酸です。メチオニンを除いた必須アミノ酸を与えたマウスは筋肉を維持できるうえ、生存率も高いことが分かりました」
メチオニンを多く含む食材は肉や魚などの動物性タンパク質。これらの常食もリスクのひとつ。大豆製品など植物性タンパク質の導入も腎臓を若く保つ秘訣だ。
カロリー制限に対するアミノ酸配合の影響
カラダの酸性化がリンの害を増幅する
カラダに吸収されたリンが毛細血管の固まりである腎臓にダメージを与える。さらにある条件が揃うとそのダメージが増幅されるという。そのひとつが体内の環境が酸性になること。
「同じ量のリンが体内に吸収されても弱アルカリ性の環境ではCPPの合成が抑制されることが分かっています。健康な腎臓は酸を尿として排出してカラダを弱アルカリ性に傾ける働きがあります。腎臓が悪くなるとカラダは酸性に傾き、CPPがより合成されやすくなります」
野菜、海藻、大豆製品などアルカリ性の食品を積極的に摂ることが解決策のひとつ。同時に肉、魚、卵などの酸性食品はバランスよく取り入れる。動物性タンパク質食材はほどほどにし、大豆製品を主菜として取り入れれば、腎臓を老けさせるメチオニンの過剰摂取を防ぐことにもなるので一石二鳥だ。
週3回4時間拘束される人工透析人生
人工透析は機能が低下した腎臓に代わり、医療機器を使って血液から老廃物を取り除くこと。一般的な方法としては腕の血管に針を通し、ポンプを使って取り出した血液をダイアライザーという血液透析器に送り込んで浄化し、再び体内に戻すという方法。
「2〜3日分の毒素や水分を週3回、約4時間かけて浄化します。人工透析を受ける原因として最も多い糖尿病性腎症の5年生存率は、昔は50%程度でした。腎臓の働きを補うことはできても脳卒中などを発症することが多かったからです。でも今はよほど暴飲暴食しない限りは人工透析を受けながら20年、30年存命するケースも珍しくありません」
とはいえ、1週間に12時間拘束される人生はなかなかにハード。毎日加工食品を口にしている40代男性はこの機会に食生活の見直しを。