腎臓を守るために実践したい4つのこと
ヒトの寿命を決めるという腎臓。いつまでも上機嫌で働いてもらうためには、適度に労わりつつ、日々のメンテナンスや状態チェックを欠かさないこと。まずはこの4つを日常生活の中で実践しよう。地味ながら健気に働く司令塔に、つねに心配りを。
取材・文/井上健二 撮影/安田光優 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/坂西 透 イラストレーション/室木おすし、内山弘隆、渡邉 唯 取材協力/川村哲也(東京慈恵会医科大学客員教授)、田畑尚吾(田畑クリニック院長)、中野ジェームズ修一(スポーツモチベーション最高技術責任者)、石垣英俊(ホリスティッククーラ代表)
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
教えてくれた人:
川村哲也さん
かわむら・てつや/腎臓専門医。東京慈恵会医科大学客員教授、同腎臓・高血圧内科客員診療医長。腎臓病の臨床と研究に長年携わるほか、患者向け「腎臓病教室」を開くなど腎臓病の正しい知識の啓蒙に努める。医学博士。
田畑尚吾さん
たばた•しょうご/総合内科専門医。田畑クリニック院長。北里研究所病院、慶應義塾大学病院、東京オリンピック•パラリンピック選手村診療所内科チーフドクターなどを経て現職。糖尿病専門医、総合内科専門医、スポーツ内科医。
尿の色、臭い、量、回数をチェック
便が大腸の現況を反映するなら、腎臓の状態を知らせるのは尿。尿を作るのが、腎臓の仕事だからだ。トイレで排尿するたびに、色、臭い、回数、量をチェックしよう。冷静に観察を重ねて、これまでにない尿の変化を捉えることができたら、腎臓の異変にいち早く気づける。
「健常者の尿は透明感のある淡黄色。臭いはほぼありません。排尿回数は日中4〜5回、夜間0〜1回。尿量は1日1.0〜1.5Lが標準です」(東京慈恵会医科大学客員教授で腎臓専門医の川村哲也先生)
血尿など尿に色がついていると、尿路感染症や尿路結石の恐れも。
水分摂取が足りず、脱水が起こっていると、尿は濃くなりやすい。脱水が進むと腎臓のダメージにつながるから、水分摂取を意識して増やしたい。
尿から甘い匂いがするなら糖尿病性腎症を招く糖尿病、アンモニア臭がキツいなら、腎機能を低下させる尿路感染症の恐れがある。尿が泡立つときは、腎機能が落ちて蛋白尿が出ていることも考えられる。
腎機能が下がると、頻尿になることもある。頻尿とは日中8〜10回以上、または夜間2回以上トイレに行くもの。慢性腎臓病(CKD)が進むと逆に尿が十分に作れなくなり、尿量・回数が減ることもある。
尿からわかる腎臓の病気
尿が泡立つ |
腎機能の低下、蛋白尿の疑い |
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血尿、尿が濁る、尿に刺激臭や沈殿物がある |
腎盂腎炎などの尿路感染症、尿路結石、急性腎臓病の疑い |
尿量・回数が増えた 尿量・回数が減った |
進行した慢性腎臓病(CKD)の疑い |
温水洗浄便座感染症を防ぐ
前述の尿路のうち、感染症を起こしやすいのは、出口にいちばん近く外敵に晒されやすい尿道。
そこから細菌やウイルスが遡ると、膀胱、尿管、腎臓と尿管の接続部にあたる腎盂へと感染・炎症が拡大する。これを上行性感染という。
細菌やウイルスが腎盂まで到達して腎盂腎炎を起こすと、38度以上の高熱を発することもある。腎臓がある腰のあたりに痛みが出てきたら、腎盂腎炎を疑ってみるべき。
尿道は、男性ではペニスを通るため平均14〜17cmと長いのに対し、女性は平均4cmほど。男性の4分の1程度と短いので、女性の方が尿路の上行性感染に罹りやすい。
尿路感染症を避けるには、尿意を無理して我慢せず、催したらトイレに直行するのが鉄則。尿とともに、感染症を引き起こす細菌やウイルスを定期的に体外へ押し流していれば、感染リスクは下げられる。
感染が起こっていない限り、尿道は無菌だから、排尿後に温水洗浄便座で洗わなくてもよい。
「尿路感染症を起こしやすいのは、大腸内の大腸菌。排尿後に温水洗浄便座で尿道口(尿道の入り口)を洗うと、肛門から大腸菌が尿道へ移り、尿路感染症を招きやすくなります」(総合内科専門医の田畑尚吾先生)
同様に女性が排便&洗浄後にお尻を拭く際も、後ろから前(肛門から尿道口)ではなく、前から後ろ(尿道口から肛門)へを意識すべき。
むくみを脛でチェックする
腎臓の調子を占うもっとも簡単なサインが、むくみの有無。
そもそもむくみとは、血管の外へと染み出した体液が、細胞の周りに溜まっている状態。腎臓が水分をうまく排泄できなくなると、むくみが生じやすくなる。
むくみのチェック法
床に坐って膝を立て、脛骨の横を親指で真上から10秒ほど強めに押す。指を放したとき指の跡がしばらく残れば、むくんでいる可能性あり。
カラダの60%前後は水分。食べすぎでも、運動不足でもないのに、体重が1〜2kg増えていたら、むくみによる体重増加の恐れがある。水分は重力の影響を受けるため、むくみは上半身よりも心臓から下の下半身から生じやすい。
「むくみをチェックしたいなら、脛骨の横あたりを親指で押してみてください。10秒ほど強く押して指をパッと放した際、指の跡がついて元に戻らなかったら、むくみがあると疑ってみましょう」(田畑先生)
腎機能の低下で起こるむくみは、左右対称に起こることが多い。左右非対称にむくむ場合には、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)などが疑われる。
ただしむくみを恐れて、水分摂取を控えすぎるのはNG。腎機能が正常なら、多少水を飲みすぎてもその分尿量が増えるだけ。むくまない。
水分摂取が少なすぎると、腎臓で老廃物の排泄が効率的に進まなくなり、腎臓の重荷となる。1日1.5Lを目安に、喉が渇いていなくても定期的な水分摂取を心がけたい。
ストレスマネジメントを始める
ストレス学説を唱えたハンス・セリエは、「ストレスは人生のスパイスだ」という洒落た名言を残した。確かに、多少のストレスがあった方が何事も頑張れるものだが、過度&慢性的なストレスは、スパイスどころか劇薬にほかならない。とくに煽りを喰らうのは、腎臓。
ストレスがあると緊張を強いられるため、血管を縮める交感神経のスイッチが入り、血圧が上がり、腎機能の減退を招いてしまうのだ。慢性腎臓病が心配なら、過剰なストレスを抑えるストレスマネジメントへの取り組みも不可欠。
「ストレスマネジメントに役立つのはヨガやストレッチ、ウォーキングなどの運動。ストレスが減り、血圧も下がりやすくなります。運動嫌いなら、せめてストレスを解消するために質の高い睡眠をたっぷり取るようにしてください」(田畑先生)
眠りの質を上げるには、朝決められた時刻に起きて朝日を浴び、体内時計を正常化するのが先決。就寝前に入浴して深部体温を上げる(上がった体温が下がるときに眠くなる)、脳の興奮を抑えるために夕方以降はスマホなどのスクリーンタイムを減らすといった対策も有効。
「加えて中高年は夜トイレに起きて眠りが中断されると、寝付けない人が多い。夕方以降は利尿作用があるカフェイン飲料を避けましょう」