血や骨にも大きな影響が!腎臓がもつ5つの役割。
主な役割は「カラダの老廃物を排泄する」だけ、と思われがちな腎臓。意外と知られていないが、実は骨や血液を作るシステムにも一役買っている。腎臓の役割をちゃんと知れば、なぜ医師が「腎臓にやさしい生活を!」と言い続けるかが分かるはず。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/野村憲司(トキア企画) 取材協力/川村哲也(東京慈恵会医科大学客員教授)
初出『Tarzan』No.893・2024年12月12日発売

教えてくれた人
川村哲也(かわむら・てつや)/東京慈恵会医科大学客員教授。同大学卒業後、米バンダービルト大学腎臓小児科へ留学。東京慈恵会医科大学教授、同臨床研修センター長を経て2022年より現職。患者のための腎臓病教室などを開催。
1.心臓から送られる血液を濾過する。
一番下の肋骨の内側にある左右1対の小さな臓器、2つ合わせてわずか300gの腎臓には毎分約1Lの血液が心臓から送られる。
「これは心臓が毎分送り出す血液の約4分の1。腎臓はそれを淡々と処理して尿を作り出し、代謝によってできた分解物や有毒物質を排泄する臓器です」(東京慈恵会医科大学客員教授・川村哲也さん)
流れ込んでくる血液をせっせと濾過して、“いるもの・いらないもの”を選り分けているのは毛細血管の固まりの糸球体。カラダに必要なタンパク質は漉されて再吸収される。ゆえに尿検査でタンパク質が基準値以上となると、腎臓の濾過機能に異変ありということ。

腎臓の入り口には腎動脈や腎静脈、尿管が備わっている。続く腎盂は腎臓と尿細管の合流点。空洞組織の腎洞の中には血管や脂肪などが存在し、表面には皮質や髄質があってこの中で尿が作られている。

皮質と髄質の拡大図。周りには動脈と静脈が縦横に走っていて、その他、細かい毛細血管によってびっしり覆われている。そして皮質の中には腎小体と呼ばれる組織がある。
2.水分、pH、電解質、さまざまな調節を行う。
大量に汗をかく真夏には尿量が減り、逆に冬には尿量が増える。こうした体内の水分調節も腎臓の仕事。さらには血液中のpHや電解質のコントロールも行っている。
「細胞のひとつひとつが活動するためには適切な環境が必要。たとえば体内の酸性物質とアルカリ性物質のバランスや、ナトリウムやカリウムなどの電解質のバランスが適正であること。こういった調節は腎臓が主にやっています。腎臓がしっかりしていないと肺や心臓など他の臓器に迷惑をかけることになります」
正常な体内環境は弱アルカリ性なので腎臓機能が低下して酸性に傾くと、不規則な呼吸や心臓の異常、ひどい場合は昏睡などが起こるケースも。
3.骨髄に働きかけて血液を作る。
腎臓といえば泌尿器と捉えられているがホルモンの分泌器官であることはあまり知られていない。たとえば、血圧が低下したときはレニンというホルモンを分泌して、血圧を上げるアンジオテンシンⅡというホルモンの生成を促す。
「血圧だけでなく血液そのものを作るエリスロポエチンというホルモンも腎臓から分泌されています。造血自体は骨髄で行われますが、赤血球を作るシステムを促すホルモンは腎臓が作っているんです」
貧血の治療法として以前はこのエリスロポエチンを注射するという方法が主流だったが、医学の進歩で現在は飲み薬として活用されているという。
4.リンを排泄して動脈硬化を予防する。
肉や魚などのタンパク質食材に含まれるミネラルのリン。その多くは体内で相性のいいカルシウムと結合し、リン酸カルシウムとして存在している。で、これが骨の材料になる。
適量摂取する分には問題ないが、リンが過剰になると血中で余ったリン酸カルシウムとタンパク質がくっついたCPPという物質が作られ、これが血管やさまざまな臓器の石灰化をもたらす。動脈が石灰化すれば動脈硬化を起こしやすくなるのは言うまでもない。
この過剰になったリンを排出するのも腎臓の仕事。ただし、加工食品に含まれる食品添加物には、肉や魚の有機リンより吸収のいい無機リンがどっさり。腎臓の負担もいや増しだ。

腎小体と尿細管から構成されている組織をネフロンと呼ぶ。実際に毎分約1L流れ込んでくる血液を濾過して尿を作り出しているのはこの部分。このネフロンは腎臓片方につき60万個くらいある。

腎小体をさらに拡大。糸球体という毛細血管の固まりが中心にあり、それがボーマン嚢という袋状の組織に包まれている。この濾過機能の中枢から濾過された尿が尿細管に運ばれる。
5.骨作りをサポートする。
免疫機能や血圧調節、心疾患にも関与するビタミンD。その働きの筆頭に挙げられるのが骨の強化。骨の材料はカルシウムとタンパク質だが、牛乳や小魚からのカルシウムの吸収はあまりはかどらず、ビタミンDに助けてもらってようやく十分な量を確保できる。
ビタミンDはきのこや魚に含まれ、紫外線を浴びることで皮膚でも作られるが、そのままでは役に立たない。肝臓を経由して最終的に腎臓で活性型ビタミンDに変換されることで初めて機能するのだ。
「活性型ビタミンDの不足で骨軟化症や骨粗鬆症のリスクが増えます。骨と腎臓は今とても注目されている研究テーマです」