40代男性の腎臓が危ない!? 他人事ではない腎臓の怖い話
1分間に約1Lもの血液を処理している腎臓は休むことなく稼働し続けている勤勉な働き者。それをいいことにブラックな労働条件を強いていると、20年、あるいは30年かけて少しずつゆっくりと壊れていく。気づいたときにはすでに手遅れ。物言わぬ沈黙の臓器は一体どんなふうに壊れていくのか。本当にある怖い話を始めよう。
取材・文/大吹雪ジュン イラストレーション/森 拓馬 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
教えてくれた人:髙取優二さん
たかとり・ゆうじ/腎臓専門医。埼友クリニック外来部長。抗加齢医学の観点から腎臓病を捉え直す新たな手法に取り組む。著書に『人は腎臓から老いていく』(アスコム)などがある。
40代以降の腎臓が危ない理由は食生活にあり!
「今40代の男性は近い将来、慢性腎臓病に陥る確率がすごく高いと思います」
と言うのは腎臓専門医で埼友クリニック外来部長の髙取優二先生。
「肝臓と同様、慢性腎臓病には明らかな自覚症状がないことが理由のひとつ。むくみや息苦しさといった症状が出たときは尿毒症、あるいは肺に水が溜まる肺水腫という病態ですでに腎不全状態です」
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease=CKD)という概念は今から20年くらい前に定義されたもので、それ以前は慢性腎不全でかなり重症度が進んでから診断がなされていた。つまり、見つかったときはすでに手遅れに近かったということ。
「現在は血液中のクレアチニン、年齢、性別から糸球体の濾過能力を示す数値を割り出すことができ、これで腎機能をより早い段階で判断できるようになりました」
ではなぜ40代男性の腎臓が今ヤバいのか? 詳しく見ていこう。
腎臓が重症化する流れ
悪い生活習慣
CKDの引き金になるのは、肝臓同様に悪い生活習慣。甘いものの過剰摂取や過食、加工食品の食べすぎ、動物性タンパク質ばかりに偏った食事など。主に食生活のバランスが腎臓を痛めつける原因になる。
腎臓の老化による機能低下
どんなに健康な人でも腎臓は加齢に従ってある程度劣化していく。生理学的に自然なレベルで機能低下する分には何の問題もないが、食生活の偏りや生活習慣病がそこに重なってくるとCKDのリスクを高めることに。
腎臓は40代以降、縮んで機能が低下する
腎臓は加齢とともに機能が低下。中身がスカスカになりサイズも萎縮する。記事内の腎臓のイラストでいうと、上から10〜20代、30〜40代、50〜60代、それ以降というイメージ。
「加齢によって尿を作るための最小限の構造物、ネフロンの数が減っていきます。糸球体が潰れたり他の組織が障害を受けたりすることで組織学的変化が起こり、さらに腎臓の容積も減っていきます。40代頃からこうした変化が顕著に起こるようになり、そこにプラスαで高血圧や糖尿病、また腎臓特有の疾患が重なると、腎代替療法へと急激に傾いてしまうのです」
腎臓の老化と慢性腎臓病
CKD (慢性腎臓病)
慢性腎臓病CKDは腎臓の機能が慢性的に低下した状態、あるいは尿の中にタンパク質が漏れ出している状態の総称。病院の検査で腎障害が明らかに認められ、糸球体濾過量が60mL/分/1.73㎡未満で診断される。
腎不全
CKDは5つのステージで進行していく病気。ステージ5になると透析や移植といった代替療法の適用範囲に。CKDは全般的に自覚症状が乏しいがこの腎不全レベルになると食欲不振や呼吸困難、頭痛などの症状が表れる。
腎臓の“排毒”機能が衰えると元に戻らない
40代以降、機能が低下していく腎臓。透析患者の原因疾患は現在、糖尿病の合併症である糖尿病性腎症が圧倒的に多い。
「この他の原因として動脈硬化により起こる腎硬化症という疾患が増えています。私は今後、寿命が延びることと加工食品の過剰摂取という食生活によって腎硬化症がより増えていくと考えています」
腎臓は体内の有害物質を排泄してくれる“排毒”の臓器。糖尿病と腎硬化症の増加でその機能が失われると一生元には戻らない。ふたつの原因疾患のリスクに見舞われやすいのが40代の男性なのだ。