タンパク質の摂りすぎはよくない? プリン体にも要注意? 腎臓を労わる食事術
ヒトの寿命を決めるという腎臓。どうやら得手不得手が多いらしい。塩分やリンなど、腎臓の苦手なものは避けいつまでも上機嫌で働いてもらうための食事術を紹介。地味ながら健気に働く司令塔に、つねに心配りを。
取材・文/井上健二 撮影/安田光優 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/坂西 透 イラストレーション/渡邉唯 取材協力/川村哲也(東京慈恵会医科大学客員教授)、田畑尚吾(田畑クリニック院長)
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
教えてくれた人:
川村哲也さん
かわむら・てつや/腎臓専門医。東京慈恵会医科大学客員教授、同腎臓・高血圧内科客員診療医長。腎臓病の臨床と研究に長年携わるほか、患者向け「腎臓病教室」を開くなど腎臓病の正しい知識の啓蒙に努める。医学博士。
田畑尚吾さん
たばた•しょうご/総合内科専門医。田畑クリニック院長。北里研究所病院、慶應義塾大学病院、東京オリンピック•パラリンピック選手村診療所内科チーフドクターなどを経て現職。糖尿病専門医、総合内科専門医、スポーツ内科医。
クランベリーを摂る
腎臓が作る尿を排出するルートを尿路と呼ぶ。腎臓の腎盂、尿管、膀胱、尿道の総称だ。ここが細菌やウイルスに感染する尿路感染症に罹ると、腎機能が低下しやすい。
尿路と腎臓を守ってくれるのが、ベリーの一種であるクランベリー。北米とヨーロッパの寒冷地が原産であり、アメリカの先住民たちは食用にしていただけではなく、古くから薬用にしていたと伝わる。
クランベリーの有効成分は、プロアントシアニジンとキナ酸。プロアントシアニジンは、植物が作る有用な化学物質フィトケミカルの代表選手。活性酸素を無力化する抗酸化作用に優れており、血管を守り、腎臓を保護する。加えて優れた抗菌作用があり、繰り返す尿路感染症の予防効果が知られている。
キナ酸は有機酸の一種。こちらにも抗菌作用があり、尿路感染症を防いでくれる。
クランベリーは生では手に入りにくいので、冷凍やドライ、ジュースを利用するといいだろう。キナ酸もプロアントシアニジンも、一度に多く摂っても体内には貯められない。少量でいいから、ヨーグルトにトッピングする、スムージーに加えるといった方法で摂取を習慣化したい。
汁物のスープは残す
血圧が上がると腎臓は悪くなり、腎臓が悪くなると余計に血圧は上がりやすい。こうした事情から、腎臓を守るための血圧の設定値はやや厳しい。慢性腎臓病向けの降圧目標は最高血圧130mmHg未満かつ最低血圧80mmHg未満となっている。
血圧を少しでも下げられたら、加齢などで腎臓が衰えるスピードを遅らせることができる。高血圧を避け、腎臓をいたわる一丁目一番地は塩分(塩化ナトリウム)摂取を控えること。塩分を摂りすぎると血圧は上がりやすいので、腎臓のために減塩は必須だ。
それにしても、なぜ塩分を摂りすぎると血圧は上がるのか。理由は大きく2つある。
1つ目は、塩分が増えると、体液のナトリウム濃度を一定範囲内に保つために、体内に多くの水分が溜まるようになるから。水分量が増えると当然血圧は上がりやすい。
2つ目は、ナトリウムが自律神経のうちでも交感神経を刺激しやすいから。交感神経には血管を縮める働きがあるため、血圧は高くなりやすいのである。
「降圧のための塩分摂取は1日6g未満が理想ですが、日本人の塩分摂取は1日平均10g前後。一度に6g未満まで減らすのは現実的に厳しいでしょう。まず1日8g未満を目指してください」(腎臓専門医の川村哲也先生)
下に減塩のコツをまとめたので、麺類のスープを残すなどできることから始めてみよう。
減塩のコツ
- 漬物は控える(自家製浅漬けにして少量に留める)
- 麺類の汁を残す(全部残せば2~3g減塩できる)
- 新鮮な食材を用いる(食材の持ち味で薄味に調理)
- 味噌汁は具だくさんにする(同じ味付けでも減塩できる)
- 調味料をむやみに使わない(味付けを確かめながら使う)
- 低ナトリウムの調味料を使う(酢、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシングを上手に活用する)
- 香辛料、香味野菜、果物の酸味を利用する(胡椒、七味、生姜、柑橘類の酸味を組み合わせる)
- 外食や加工食品を控える(目に見えない食塩が多く含まれる)
タンパク質を適切にコントロール
タンパク質は言うまでもなく大事な栄養素の一つだが、腎臓に関しては専門家の間でも賛否両論。
タンパク質は最終的には腎臓で代謝される。このため従来、過剰なタンパク質の摂取は腎臓の負担となると考えられてきた。
それに対して近年では、タンパク質の摂取を増やすだけでは、腎臓にネガティブな影響が及ぶことはないという意見が出てきた。カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル、食物繊維、タンパク質の摂取を増やすDASH食(詳しくはこちらの記事:減塩だけじゃない! 腎臓を保護するDASH食とは?)でも、むしろタンパク質の摂取を増やそうと提案している。
どちらを信じればいいのか。健常者のタンパク質の摂取推奨量は、体重1kg当たり1日0.9g程度。現在の標準的な診療基準では、CKDの初期(ステージG1〜G2、詳しくはこちらの記事:日本人の腎臓は生まれつき弱い? 寿命を左右する腎臓の働きと大問題)になると、それを超える摂取を戒める。そこからCKDのステージが進むと、腎臓専門医と管理栄養士による継続的な指導のもとで、タンパク制限が求められる。
「ただし腎機能の低下が見受けられない健常者が、腎臓のためにタンパク質を制限する必要はありません。筋トレによる筋肥大を狙う人でも、体重1kg当たり2.5g以上のタンパク質摂取は効果がないというエビデンスもありますから、健常者もそれ以上の無駄なタンパク質摂取は控えましょう」(総合内科専門医の田畑尚吾先生)
プリン体に気をつける
イワシやアジの干物、鶏レバー焼きあたりを肴に、地ビールや日本酒を嗜む。左党なら想像するだけでも頰が緩みそうだが、そんな食生活を享受していると、知らない間に腎臓が悲鳴を上げているかもしれない。
鍵を握っているのは、プリン体という物質。プリン体は食べ物の旨味の元であり、冒頭で挙げた美味しい肉類や魚類に幅広く含まれる。
摂取したプリン体は、体内で尿酸に変わり、腎臓から排泄される。尿酸値が高い=痛風と思いがちだが、それ以外にも余分な尿酸が溜まった高尿酸血症になると、やがて腎臓まで被害が広がってしまう。
「高尿酸血症を放置していると“痛風腎”と呼ばれる状態になり、腎機能が悪くなります」(田畑先生)
高尿酸血症とは血液中の尿酸値が7.0㎎/dLを超えるもの。腎機能が落ちると、尿酸の排泄が滞るようになり、高尿酸血症が進み、痛風腎が悪化するという悪循環に陥る。プリン体の多い食品を控えよう。
ちなみに、ビール以外のアルコール飲料にプリン体はほとんど含まれていないが、アルコールはプリン体からの尿酸合成を促進して、腎臓からの尿酸の排泄を抑えるため、プリン体の有無にかかわらず、節酒が重要なのだ。
お酒を適量嗜むなら、肴は野菜の煮物や海藻の酢の物などがお薦め。野菜や海藻にはカリウムが多く含まれており、カリウムは尿を若干アルカリ性へ傾ける。アルカリ性になると尿酸が尿へ溶け出しやすくなり、尿酸の排泄を助けてくれるのだ。
食品100g当たりのプリン体が多い食品
プリン体が極めて多い食品(300mg~) | 鶏レバー、イワシ干物、白子(イサキ)、アンコウ肝(酒蒸し) |
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プリン体が多い食品(200~300mg) | 豚レバー、牛レバー、カツオ、イワシ、大正エビ、サンマ干物、アジ干物 |
プリン体の70〜80%は体内で作られる。食事から1日に摂取するプリン体の量は400mg程度が上限。
ハム・ソーセージを週2回以内に抑える
繰り返し触れているように、腎臓は寿命を左右する臓器でもある。その腎臓にストレスをできるだけかけないために求められるのが、食品中のリン(P)を減らす工夫。
リンはカラダに欠かせない必須のミネラルである一方、リンの過剰摂取は腎臓をじわじわと痛めつけ、腎機能をレベルダウンさせる。
リンは、現代人が日常的に食べているほとんどすべての食品に含まれている。なかでも多いのは、加工食品とインスタント食品だ。
この先ずっと加工食品やインスタント食品を食べないと誓っても、きっと達成できないはず。ならば、もっとも身近でリンを多く含む食品であるハムやソーセージの摂取を、週2回程度と控えめにするのが、現実的な方法といえるだろう。
リンに関しては、ハムやソーセージだけが悪者ではないが、そこから減リン生活を始めたい理由がもう一つある。国際がん研究機関(IARC)では、ハムやソーセージなど加工肉の摂取は「ヒトに対して発がん性がある」と評価しているからだ。
腎臓のためにも、がんリスクをできるだけ下げるためにも、加工肉は控えめに食べよう。