減塩だけじゃない! 腎臓を保護するDASH食とは?
ヒトの寿命を決めるといわれている腎臓。血液を濾過して尿を作ったり、体内の水分量を調整するほか、造血作用、血圧調整、ホルモン分泌と、その機能は多岐にわたる。いわば全身の健康の功労者である腎臓。ケアするには減塩のイメージが強いが今回紹介するのはDASH食という食事法だ。多様な栄養素を摂取して腎機能を健やかに維持しよう。
取材・文/井上健二 撮影/安田光優 スタイリスト/高島聖子 取材協力/川村哲也(東京慈恵会医科大学客員教授)
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
教えてくれた人:川村哲也さん
かわむら・てつや/腎臓専門医。東京慈恵会医科大学客員教授、同腎臓・高血圧内科客員診療医長。腎臓病の臨床と研究に長年携わるほか、患者向け「腎臓病教室」を開くなど腎臓病の正しい知識の啓蒙に努める。医学博士。
高血圧を改善し腎臓を保護するDASH食
腎臓の宿敵は、高血圧。腎臓の基本ユニット・ネフロンの糸球体は毛細血管の固まりなので、血圧が高くなりすぎるとその機能が妨げられる。
高血圧対策といえば、何より減塩が大切。それに加えて、日本と同じく高血圧大国であるアメリカで推奨されているのが「DASH(ダッシュ)食」だ。
DASHとは?
Dietary Approaches to Stop Hypertension
→高血圧を防ぐ食事法
「DASH食のポイントは、野菜、海藻、大豆食品などから、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル、食物繊維、タンパク質の摂取を増やすこと。高血圧を改善して腎臓を保護します」(腎臓専門医の川村哲也先生)
DASH食が重視する栄養素が、なぜ高血圧と腎臓に良いのか。一つひとつ解説してみよう。
初めはカリウム。カリウムとナトリウム(塩分)には相互作用があり、カリウム摂取を増やすと、血圧を上げやすいナトリウムの排泄が促されやすくなる。
次はカルシウム。カルシウムは、飽食といわれて久しい日本人に、長年不足し続けているミネラル。骨の材料という側面ばかりにスポットが当たっているが、実はカルシウムが足りないと血管が収縮しやすくなり、血圧がアップしやすいのだ。カルシウムは血管を縮める交感神経の興奮を抑えて、血管を広げて血圧を下げてくれる。
続いて登場はマグネシウム。カルシウムと対となって働くミネラルであり、カルシウム同様に日本人には欠乏しやすい。マグネシウムは、カルシウムの働きを調整して血管のしなやかさを保ち、血圧の過度な上昇を抑える。
そして食物繊維。食物繊維に期待されているのは、余分な塩分や脂質などを絡め取り、その排泄を促してくれる働き。それにより高血圧、さらには腎臓の働きを邪魔する動脈硬化が防げる。
最後はタンパク質。タンパク質は筋肉を作っているだけではない。血管もまたタンパク質メイド。タンパク質の摂取が不十分だと、高血圧で血管が弱く脆くなりやすく、腎機能を一層衰えやすくする。
DASH食が重視する栄養素の機能と多く含む食材
カリウム
- 機能:余分なナトリウムの排泄を助ける。
- 多い食材:野菜、果物、きのこ類、海藻類
カルシウム
- 機能:血管の収縮を防いで血圧を保つ。
- 多い食材:牛乳・乳製品、小魚、大豆食品、野菜(小松菜、青梗菜)
マグネシウム
- 機能:血管を拡張して血圧を下げる。
- 多い食材:魚類、大豆食品、ナッツ類、穀物
食物繊維
- 機能:余分なナトリウムの排泄を助ける。
- 多い食材:穀物、根菜、海藻類、きのこ類、イモ類
タンパク質
- 機能:血管を丈夫にする。
- 多い食材:肉類、魚類、卵、牛乳・乳製品、大豆食品
1日1回のDASH食でも高血圧に効果あり
本家アメリカのDASH食は、高血圧や心臓病を防ぐ観点から、肉類や卵などからの飽和脂肪酸やコレステロールの摂取を減らすことも推奨している。ただ日本人が飽和脂肪酸やコレステロールを減らしすぎると、タンパク質不足に陥りやすいので、両者は現状維持でOK。
改めて考えてみると、野菜や海藻など日本人になじみの深い食材が活躍するDASH食は和食との相性も抜群。腎臓をいたわりたい日本人に取り入れやすい食事法だ。
気になる人は、1日1回からでもトライしてみよう。1日1回のDASH食でも、血圧が下がるというエビデンスもある。
1日1回DASH食の降圧効果
マルハニチロが開発した和食中心の日本人向けDASH食を減塩と組み合わせ、1日1回摂取してもらった実験。対照群と比べると、1日1回摂取群では血圧が下がっている。