老化に影響する「糖化」原因のAGEを防ぐ

糖質の摂りすぎは、ダイエットの観点から語られることが多い。しかし、もっと注意するべきは健康、そして老化への悪影響だ。糖質の摂りすぎによって起きる「糖化」と、その原因物質となる「AGE」の正しい知識を得よう。

取材・文/井上健二 撮影/五十嵐一晴 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾  取材協力・監修/牧田善二 撮影協力/UTUWA

初出『Tarzan』No.871・2024年1月4日発売

教えてくれた人

牧田善二さん(まきた・ぜんじ)/〈AGE牧田クリニック〉院長、糖尿病専門医。ロックフェラー大学医生化学講座などでAGE研究を約5年間続ける。北海道大学医学部、久留米大学医学部を経て現職。医学博士。

糖質から人体で生じる噂の悪玉AGEの正体は?

美味しそうなものには、多くのAGEが含まれている。

美味しそうなものには、多くのAGEが含まれている。

これまで触れてきた食後高血糖や血糖値の乱高下の背後では、ある困った反応が静かに進行している。それが「糖化」だ。

「糖化とは、過剰なブドウ糖などの糖質が、体温で熱せられて、タンパク質を作るアミノ酸のアミノ基にくっつく現象。そこで生じる悪玉物質をAGEといいます」(糖尿病専門医の牧田善二医師)

AGEは「Advanced Glycation End Products」の頭文字を取ったもの。AGEsと複数形で呼ばれることもあるが、ここではAGEと言おう。日本語では「終末糖化産物」であり、その名の通り、AGEは糖化の終着駅である。

AGEは、体内で生じるお焦げのようなもの。実際、AGEがおよそ100年前に初めて発見されたのは、こんがりと焦げた食品からだった(左ページコラム参照)。

お焦げは美味しいけれど、後述するように、AGEは美と健康の大敵。糖質の過食で血糖値が高い状態が長く続けば続くほど、体内でAGEは増えてくる。

適正糖質や地中海食、ケトジェニックダイエットなどにより、血糖値が上がりにくい食事を心がけることは、カラダを危険なAGEから守るうえでも非常に重要なのである。

食品から始まったAGE研究の歴史を知る

AGEが最初に発見されたのは、カラダからではなかった。1912年、焦げた食品から見つかったのだ。

そのプロセスは、美食の国フランスの発見者ルイ=カミーユ・メラールの名前を英語読みして「メイラード反応」と呼ばれる。初めのうち、AGEは食品の旨みの元と好意的に評価されていたのだ。

人体から最初に発見されたAGEは、ヘモグロビンA1c(HbA1c)という物質から。58年に初めて分離されて、その生成メカニズムは75年になってようやく明らかになった。

HbA1cは健康診断で測られる値だから、誰もが一度は見聞きしたことがあるはず。赤血球中で酸素を運ぶヘモグロビンが糖化されたものであり、何%が糖化されるかで過去2か月の血糖値の平均値を示す。

そして90年代になり、この記事の監修者である牧田善二医師がアメリカのロックフェラー大学医生化学講座で研究中、血液や尿から微量のAGEを測る方法を発見。92年に世界的に著名な科学誌『サイエンス』に発表したことから、AGE研究が加速する運びとなる。

そして21世紀に入り、AGEと生活習慣病や老化などとの深い関わりが少しずつ解明されてきたのだ。

AGEは体内でどのように作られますか?

危険なお焦げであるAGEは、体内でどのように作られるのか。詳しく見てみよう。

AGEの生成プロセスには、大きく2つのステップがある。

ステップ1は、アーリーステージ(初期段階)と呼ばれる。

余計な糖質が体温によって加熱されてアミノ酸のアミノ基に付くと、シッフ塩基という物質ができる。

シッフ塩基は構造的には不安定だが、その一部は安定的なアマドリ化合物へと変わる。ここまでがアーリーステージだ。

ステップ2は、アドバンストステージ(後期段階)と呼ばれる。詳細は省くけれど、ここでアマドリ化合物は複雑な化学反応を経てAGEとなる。

体内でAGEが生じる2つのステップ

体内でAGEが生じる2つのステップ

初期段階まではまだ後戻りできるが、そこから糖化が進み、後期段階に至ってAGEが作られると、二度と元通りにはならない。

かくて生じるAGEは1種類ではなく、カルボキシメチルリジン(CML)、ペントシジン、クロスリン、イミダゾロンなど全部で100種類以上もある。

アーリーステージまでは後戻りできる可逆的な反応だが、アドバンストステージでアマドリ化合物から一度AGEが生じると、後戻りできない。茹で卵が生卵に戻らないのと同じである。

ステップ1→2へと悪化させないために、まずは血糖値をしっかりコントロールしておきたい。

AGEがコワい酸化と炎症を進めるってホント?

揚げ物を食べすぎていると、糖化、酸化、炎症のトリプルパンチ!

揚げ物を食べすぎていると、糖化、酸化、炎症のトリプルパンチ!

糖化と並んで怖いのが、酸化。呼吸で取り入れた酸素の2〜3%は有害な活性酸素となり、酸化を進める。活性酸素は細胞や遺伝子に容赦なくアタックし続け、生活習慣病や老化の引き金となる。糖化がお焦げなら、酸化はサビだ。

やっかいなことに酸化と糖化はコインの表裏のようなもの。切っても切れない関係にある。

まず糖化が進むと、酸化ストレスが増えてくる。

あらゆる細胞には、AGEをキャッチする受容体RAGE(Rece
ptor of AGE)が備わる。AGEがRAGEと結合すると、AGE―RAGE複合体ができる。この複合体はRAGEを増やす作用があり、AGEを次々と呼び寄せて、糖化を促す。同時に、AGE―RAGE複合体は、NADPHオキシダーゼという酸化酵素を活性化。この酵素により、体内で活性酸素がどんどん生じてしまう。

そして酸化が起こると、糖化に拍車がかかる。前述のアマドリ化合物からAGEができるプロセスに、酸化が関わるからだ。

こうして糖化と酸化がつねに起こっていると、体内では慢性的な炎症が生じて、慢性炎症は糖化も酸化も進めてしまう。糖化、酸化、炎症という悪のトライアングルこそ、万病の元なのである。

体内に溜まったAGEは何%ずつ排泄される?

すでに触れたように、AGEが初めて発見されたのは食べ物からだった。こんがり焼けたトーストやパンケーキ、アツアツの揚げ物やステーキといった美味しい食べ物にAGEはたんまり含まれる。

とはいえ、食べ物に含まれているAGEは、全部が全部体内に留まるわけではない。食事で摂取したAGEのうち、体内に留まるのはおよそ7%とされている。

「一方、溜まったAGEの約6%はおもに腎臓から排出されます。排出スピードの方が遅いので、体内に有害なAGEを溜めないためには、毎日の食事から入ってくるAGEを減らすことが先決です」

どんな食品にAGEが多いのか。そして食品からのAGEの摂取を減らすには、具体的にどうすればいいのか。

食べ物のAGEにいくら気をつけていても、体内でせっせとAGEを作るような食生活をしていたら、その害は避けられない。

余分な糖質から生じるAGEの害を避けるには、どの程度の糖質を摂るのが正解なのだろうか。

「通常は、1日3食で合計100〜120gの糖質摂取が有効。太っていて肥満も一緒に解消したいなら、糖質を1日60g程度まで減らしてみましょう」

シミもシワもAGEの仕業?

紫外線とAGEが、見た目年齢を一気に老けさせる。

紫外線とAGEが、見た目年齢を一気に老けさせる。

AGEの悪行はカラダの内側に爪痕を残すだけにとどまらない。見た目にも多大な悪影響を及ぼす。

同じ年代なのに、老けて見えるタイプと若々しく見えるタイプがいる。その差はおそらく、AGEがどのくらい累積しているかの差にある。なぜなら、AGEは、見た目年齢を一気に老けさせるシミとシワの要因でもあるからだ。

シミもシワも紫外線の害ばかりが注目されているが、AGEによるダメージも見逃せない。

シミの正体は、紫外線を浴びたメラノサイトが作るメラニンという褐色色素。加えて紫外線による酸化が糖化を進めると、皮下でAGEが増えてくる。AGEはお焦げだから、その茶褐色の色合いは、シミを一層目立たせる。

シワもシミと同様、紫外線で生じる。紫外線が皮膚深層のコラーゲンなどの線維を破壊し、肌の弾力や張りが失われてシワや弛みができるのだ。そこへ追い討ちをかけるのが、AGE。肌のコラーゲンなどにAGEが結びつくと、線維間に不規則で不自然な連なりが広がり、弾力も張りもなくなり、シワが深まり、弛みも重症化する。

現在はAGEの害を防ぐ点に着眼した化粧品も登場しており、皮膚老化を避ける一助となっている。気になる人はチェックしてみよう。

AGEががんにも認知症にも関わる?

物忘れが最近ヒドい? それって脳内にAGEが溜まったせいかも。

物忘れが最近ヒドい? それって脳内にAGEが溜まったせいかも。

糖化はさまざまな病気と関わる。がん、動脈硬化、認知症とAGEの関係をチェックしよう。

がんの発端は、遺伝情報を伝えるDNAの異常。AGEはこのDNAにも溜まりやすく、遺伝情報のミスコピーによる、がん細胞の発生を誘発しやすい。とくにAGEの一種アクリルアミド(フライドポテトやクッキーに多い)は、国際がん研究機関から「ヒトに対しておそらく発がん性がある物質」に指定されている。AGEは、がんの転移にも関わるようだ。

動脈硬化は、心臓から血液を運ぶ動脈が硬く狭くなり、血栓という血の塊が詰まりやすくなる状態。心臓病や脳卒中の主因だ。動脈硬化の始まりは、血管に溜まった悪玉コレステロールの酸化。AGEがこの酸化悪玉コレステロールに集まると、より動脈硬化を起こしやすい。また、血管内側の内皮細胞にある受容体(RAGE)にAGEが結合すると、動脈硬化が進むこともわかっている。

認知症を起こすアルツハイマー病の患者の脳には、健常者より多くのAGEが溜まっている。AGEはアルツハイマー病を起こすアミロイドβというタンパク質の凝集・沈着を促すうえに、糖化で脳の神経細胞を傷つけるのだ。

体内のAGE量を測ってみた

俄然気になるのは、自分に一体どのくらいのAGEが溜まっているか。

AGEの蓄積度合いを知るには、大きく2つの方法がある。血中のAGEを測るやり方と、皮膚のAGEを計測するやり方だ。

なかでも手軽なのは、皮膚のAGEを測ること。

AGEの蓄積度合いを示すAF値

AGEの蓄積度合いを示すAF値の正常値ゾーンは、加齢とともに右肩上がりになっている。出典/Lutgers HL et al., Diabetes Care 2006

 

AGEには、光に反応する蛍光性を持つものがあり、スキャナーで上腕内側に光を当てると、体内のAGE量を簡易的に推定できる。

AGEが蓄積しやすい糖尿病があるか、糖尿病がない健常者かにより、正常値ゾーンは異なる(糖尿病アリの方が正常値ゾーンは甘くなる)。そして加齢とともにAGEは溜まり続けるから、正常値ゾーンも年齢に応じて右肩上がりの直線を描く。

今回、60歳になったばかりのライターと40代前半の編集者が検査してみた結果、前者はギリギリセーフ、後者は余裕で正常値範囲内に収まるという結果になった。気になる人は、糖尿病専門クリニックなどに問い合わせて、同様のAGEの測定ができるかどうかを確かめてみよう。

「糖質制限すると血中のAGE値は比較的早期に減りやすいですが、皮膚のAGEは代謝が遅いので、減少するまで少し時間がかかります」