「糖類」制限から気軽に始めてみる

食後高血糖は避けたい。とはいえ、いきなり主食を大幅に減らすことには抵抗がある。そんな人は砂糖などを控える糖類”制限に注目。目に見えないだけで料理にはたくさんの糖類が使われている。日々の食事を見直すきっかけにしよう。

取材・文/井上健二 撮影/五十嵐一晴 スタイリスト/高島聖子 取材協力・監修/麻生れいみ 撮影協力/UTUWA

初出『Tarzan』No.871・2024年1月4日発売

糖類制限
教えてくれた人

麻生れいみさん(あそう・れいみ)/管理栄養士、料理研究家。糖質オフで健康的に20kg痩せた体験を持ち、カロリー偏重の従来のダイエット法に警鐘を鳴らす。栄養学と医療や予防医学を結びつける活動を続ける。著書累計部数は114万部を超える。

Q. みんなの大好物。糖類が含まれる料理はいくつある?

糖類制限

私たちが普段何気なく食べている料理にも、糖類が含まれているケースは少なくない。次の22品のうち、どれに糖類が入っているか。考えてみよう。

A. 22品中11品には糖類が使われている

糖類制限

肉じゃが、すき焼き、煮魚、いなり寿司といったおなじみの料理には糖類が多い。煮魚→焼き魚、蒲焼き→白焼き、焼き鳥のタレ→塩に変えれば余計な糖類はカットできる。

糖類制限から始めるのがいい理由

糖質オフが三日坊主で終わる人には、ご飯やパンなどの主食を減らすハードルが高いとこぼす人が少なくない。そういうタイプに試してほしいのが、“糖類”制限。

糖類とは単糖類と二糖類のこと。

単糖類はそれ以上分解されないもの。ブドウ糖(グルコース)、果糖、ガラクトースなどがある。

二糖類は、単糖類が2つ結合したもの。砂糖の主成分であるショ糖はブドウ糖+果糖、牛乳に含まれる乳糖はブドウ糖+ガラクトース、麦芽糖はブドウ糖が2つ合体したものだ。

糖類は、いわゆる甘いものに多いのが特徴。デザートや間食を控えるだけでかなりカットできる。

一方、糖質制限で大きな障害となる主食の主成分は、でんぷんなどの多糖類。糖類を多く含むわけではない。糖類制限では控える必要はないから、ハードルが下がり継続性が高まる傾向にある。

むろん糖類をいくらセーブしても、ご飯の大盛りや麺類+チャーハンのようなダブル糖質がやめられないようでは無意味。糖類制限をクリアし、その成功体験で意欲を高めて、糖質オフに挑みたい。

炭水化物、糖質、糖類の違い

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炭水化物=糖質+食物繊維。糖質には主食に多いでんぷんなどの多糖類、糖アルコール、合成甘味料、単糖類と二糖類からなる糖類が含まれる。

糖類を摂取カロリー5%未満に抑える

新型コロナで存在感を増したのが世界保健機関(WHO)。そのWHOが、新型コロナパンデミックに遡る2015年から、糖類の摂りすぎに警鐘を鳴らしていることをご存じだろうか?

WHOが作ったガイドラインでは、遊離糖類”(ブドウ糖、果糖、ショ糖)の摂取量を、1日の総カロリー摂取量の10%未満に減らすように薦めている。それにより、肥満や虫歯が減らせる確実な証拠があるというのがその理由。

仮に1日に2000キロカロリー摂っていると、その10%は200キロカロリー。糖類は1g4キロカロリーだから、このケースでは50gが上限となる。糖類の代表選手である砂糖は大さじ1杯9g前後だから、依存症でなくても1日5杯半未満に抑えるべき。

さらにWHOのガイドラインでは、総カロリー摂取量の5%未満まで減らせたら、健康効果は一層アップすると指摘している。前述のケースなら1日25g=大さじ2・7杯未満という計算になる。

なおこのガイドラインでは、新鮮な(つまり未加工の)果物、野菜、牛乳に初めから含まれる糖類は、有害とする証拠が見当たらないことから、制限すべき糖類にカウントしなくてよいとしている。

その症状、砂糖依存症かも?

一休さんのトンチ話に、村人から水飴をもらった和尚の話がある。独り占めしようと「これは大人には薬だが、(一休のような)子供が食べると死んでしまう恐ろしい毒じゃ」と戒める。一休は和尚の企みを見破り、留守の間に水飴を全部食べ、和尚が大事にしていた茶碗をわざと割る。そして「お詫びに水飴をなめて死のうとしたのに、死にきれませんでした」とうそぶくという話だ。

毒というと言い過ぎだが、砂糖は大人にも子供にも要注意の糖類。依存性が高いからだ。

「砂糖はマイルドドラッグという異名を持ち、砂糖依存症という言葉もあるくらい依存性が高いのが特徴なのです」(管理栄養士の麻生れいみさん)

糖質は脳の大好物。なかでもすぐに吸収されやすい砂糖は大のお気に入りだ。だから、砂糖の甘味を感知すると、脳内ではドーパミンという快楽物質が放出される。その快楽が癖になると「またあの快楽が欲しい!」と砂糖を求めるようになる。反面、砂糖が満足に得られないと不安やイライラを感じてしまい、依存性が高まる。

砂糖依存症のチェックリストで思い当たるものが多いなら、砂糖断ちから糖類制限を始めよう。

砂糖依存症チェックリスト
  • 甘いものを食べると幸せを感じる。
  • 甘いものを食べないとイライラする。
  • コーヒーや紅茶には必ず砂糖を入れる。
  • ストレスがあると甘いものに手が伸びる。
  • いつでも飴が食べられるように準備している。
  • 甘いものを食べると疲れが取れて元気になる。

1つでも当てはまるなら、砂糖依存症の恐れがある。2つ以上当てはまるなら、糖類制限を早速始めて、砂糖依存症から脱却しよう。

定番和食の隠れた糖類を見逃すな!

糖類はデザートや間食など甘いものだけに多いというのは誤解。普通の料理にも多くの糖類が潜んでいる。なかでも、健康食とされている和食は、世界を見回しても糖類を多く使う珍しい料理だ。

和食の定番レシピでは、砂糖、みりん、日本酒といった調味料が多く使われている。砂糖は糖類そのものだし、みりんや日本酒もブドウ糖などの糖類を含む。

なかでも、糖類が多い調味料が、みりん。大さじ1杯(18g)中に、4g以上のブドウ糖が入っている。アルコールをほとんど含んでいないみりん風調味料でも、ブドウ糖の含有量はほぼ同じだ。

これらの糖類は料理にコクや照り、まろやかさを加え、保存性を高めてくれるが、糖類を制限するためにレシピよりもやや薄味に仕上げるクセをつけよう。

「出汁を利かせて旨味を増したり、食材の持つ水分だけで調理する無水調理で素材本来の甘みを引き出したりすれば、糖類を使わなくても和食は美味しく作れます」

この他、中国料理にも、グラニュー糖や氷砂糖などの糖類を多く用いるものも多いから油断禁物。

ビタミンB群をしっかり補う

糖類にしても、糖質にしても、制限するからには、摂った糖類や糖質は効率的に使いたいもの。

糖質や糖類をきちんと利用するのに欠かせないのが、ビタミンB1を中心とするビタミンB群。糖質や糖類をオフにすると、タンパク質と脂質の摂取が増えてくるが、タンパク質の代謝にはB6、脂質の代謝にはB2が欠かせない。

だが、日本人のB群摂取量は、『日本人の食事摂取基準(2020年版)』の1日の摂取推奨量を下回る。たとえば、ビタミンB1の推奨量は18〜49歳の男性で1.4mg、女性で1.1mgなのに、成人男性は1・03mg、成人女性は0・88mgしか摂れていない。一方、糖類を含む糖質は1日230gほども摂っているから、摂取した糖類と糖質をスムーズに利用できていない恐れもある。

B群は水に溶ける水溶性。一度にたくさん摂っても貯められないから、毎日こまめに摂取すべき。

「B1は豚肉やカツオ、B2は牛乳・乳製品や納豆、B6はニンニクや鶏ささみ肉などに豊富です。食品から摂るのが大変なら、B群がまとめて摂れる便利なサプリ、B群コンプレックスを活用しましょう」

とくに注意すべき糖類・果糖を控えよう

砂糖に続いて目を向けたい糖類が果糖。その名の通り、果物に多く含まれる。そう聞くと何となくヘルシーそうだが、果糖はまさに羊の皮を被ったオオカミ。その挙動は怪しすぎる。

果糖は血糖値を上げにくいが、それは摂った果糖の大半は肝臓で脂肪に変わるから。果糖を大量に摂ると脂肪肝になりやすい。そして果糖は体内でAGEという超悪玉に変わり、老化や生活習慣病を起こしやすい。

前述のWHOの指摘のように、新鮮な果物から、少量の果糖を摂る分には大騒ぎする必要はない。問題は、人工的に作られた甘味料にどっさり含まれる果糖だ。

それがトウモロコシなどから安価に合成される甘味料である異性化糖。ブドウ糖と果糖が結合せずに入り混じったものだ。果糖の含有量により、果糖ブドウ糖液糖(果糖含有率50%以上90%未満)、ブドウ糖果糖液糖(果糖含有率50%未満)などがある。

異性化糖は、清涼飲料水、お菓子、菓子パンといった加工食品に広く含まれる。栄養成分表示には果糖ブドウ糖液糖、ブドウ糖果糖液糖などと記されているから、表示をよくよく見て、なるべく異性化糖を含まないものを選ぼう。

人工甘味料は控えめな摂取に留める

27ページの図で示したように、人工甘味料は糖類ではない。

「しかし、人工甘味料に頼っているうちは、甘みへの誘惑が断ち切れていない証拠。それが糖類への渇望につながる恐れがあります」

人工甘味料には、合成甘味料と糖アルコールがある。

合成甘味料にはアセスルファムカリウム、アスパルテームなどがある。血糖値は上げないのに、インスリン分泌を促すものもある。

糖アルコールにはキシリトール、エリスリトールなどがあり、こちらは天然にも存在。なかでも血糖値の上昇もインスリン分泌も促さないのが、エリスリトール。

「糖類の代わりに料理に用いるならエリスリトールを使った自然派の甘味料がお薦め。ただし摂りすぎるとお腹が緩くなることもありますから控えめに使いましょう」

WHOも、砂糖を合成甘味料などの非糖質系甘味料(NSS)に置き換えても「長期的には体重減少効果はなく、むしろ病気のリスクを高める」とする。人工甘味料についてはいまだ賛否両論だから、糖アルコールを中心に最小限の摂取に留めるのが正解のよう。

糖類制限から糖質制限へ誘うヘルシープレート

食生活で大切なのは「バランスの良い食事」だという。では、どうやってバランスを取るのか。

日本にはその名も「食事バランスガイド」という指針が存在するが、複雑すぎてオワコン扱いされている。よりわかりやすいのは、円形プレートに盛り付けた面積で食品と栄養素のバランスを示したアメリカの「マイプレート」。それをハーバード大学公衆衛生大学院の専門家らがブラッシュアップし、「健康的な食事プレート」として公開している。

これは栄養バランスを見える化”したもの。ワンプレートディッシュの推奨ではない。ただワンプレートに盛り付けたらどうなるかを想像しながら、栄養バランスを整えるのはスマートな方法だ。

健康的な食事プレートでは、全体の半分を野菜(糖質の多いジャガイモを除く)とカラフルな果物にするように手引きする。残り半分のもう半分が魚介類や鶏肉などのタンパク源、あと半分が未精製の全粒穀物。飲み物は無糖の水やお茶にして、オリーブオイルなどの植物油の摂取を薦めている。

この食事プレートは基本的に糖類ゼロ。全体の4分の1を占める全粒穀物を適切に減らせば、糖質制限へスムーズに移行できそう。

健康的な食事プレート

糖類制限 健康的な食事プレート

まるで円グラフのように見えるため、何をどのくらいの割合で摂ればいいかを直感的に理解しやすいのが特徴。水分の項目では、水やお茶、砂糖は少なめか入れないコーヒーを推奨し、牛乳や乳飲料、ジュースを控え、糖分入りの飲料を避けるように指導している。出典/2023 The President and Fellows of Harvard College