危険因子を知っておこう。腎機能を見極めるコツ
ヒトの寿命を決める重要な臓器、腎臓。同じく重要な肝臓と違い、一度失われた機能は容易には戻らないため、腎臓の状態を見極め、危険因子をしっかり押さえておきたい。腎機能を見極めるコツを知り、日々のケアを欠かさずに。
取材・文/井上健二 イラストレーション/室木おすし 取材協力/川村哲也(東京慈恵会医科大学客員教授)、田畑尚吾(田畑クリニック院長)
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
教えてくれた人:
川村哲也さん
かわむら・てつや/腎臓専門医。東京慈恵会医科大学客員教授、同腎臓・高血圧内科客員診療医長。腎臓病の臨床と研究に長年携わるほか、患者向け「腎臓病教室」を開くなど腎臓病の正しい知識の啓蒙に努める。医学博士。
田畑尚吾さん
たばた•しょうご/総合内科専門医。田畑クリニック院長。北里研究所病院、慶應義塾大学病院、東京オリンピック•パラリンピック選手村診療所内科チーフドクターなどを経て現職。糖尿病専門医、総合内科専門医、スポーツ内科医。
アスリートは血清シスタチンCで腎機能を判定する
腎機能チェックには一般的に血中クレアチニン値が使われる。クレアチニンは腎臓から排泄されるが、腎機能が落ちて排泄が滞るとクレアチニン値は上がる。この値に年齢と性別を加味し、腎機能の指標となるeGFR(推定糸球体濾過量)を弾く。60未満で慢性腎臓病が疑われる。
でも、腎機能は格別悪くないのに、クレアチニン値から求めたeGFRが低くなることもある。習慣的にトレーニングを行い、同性同世代の人より筋肉量が多いタイプだ。
クレアチニンは筋肉のエネルギー源。筋肉量が多いほど、クレアチニンの血中への放出量も増える。筋肉量が同性同世代の平均値を大きく上回ると、腎臓からのクレアチニン排出はスムーズでも、血中のクレアチニン値が高めに出ることがある。
「そういうときは、筋肉量に左右されず、eGFRが計算できる血清シスタチンCを調べるとより正確に腎機能が評価できます」(田畑先生)
逆に、高齢者で同性同世代よりも筋肉量が少なすぎると、筋肉から放出されるクレアチニンも低下。腎機能が衰えてクレアチニンの排泄が滞っていても、クレアチニン値から求めるeGFRでは問題ナシと判断されてしまう恐れもある。この場合も、血清シスタチンCが指標となる。腎臓内科などのクリニックで調べよう。
腎臓リスクを知っておく
僚友の肝臓は、たとえ手術で一部を切り取ったとしても、再生する能力を秘めている。肝臓は、臓器中で唯一再生力を持っているのだ。
ところが、肝臓に負けず劣らず重要なはずの腎臓には、肝臓のような再生能力はない。一度失った機能は容易に取り戻せないのだ。
「だからこそ、一体何が腎臓を痛めつける危険因子となってしまうのか、それを知っておくことが、何よりも重要です」(川村先生)
それを端的に示しているのが、下の一覧。じっくり眺めてみよう。
明確なシグナルとなるのは、健康診断などでわかる蛋白尿や血尿の有無。それらがあると、慢性腎臓病が悪化する相対危険度は最大2倍にも跳ね上がる。
慢性腎臓病を進行させる危険因子
慢性腎臓病がステージG3〜G5に進む危険因子を、男女別に調べたもの。蛋白尿、血尿、高血圧、糖尿病、善玉コレステロールの少なさ、喫煙などが挙げられる。
続いて高いリスクとなるのが、高血圧。次に気をつけたいのが、糖尿病。
糖尿病とは、血糖値を下げるインスリンというホルモンの働きが落ちた結果、血糖値が高くなりすぎて下がらなくなる病気。血糖値が高い高血糖が続くと、血管にダメージが加わりやすい。ことに細い血管ほど高血糖には弱く、腎臓の毛細血管もこっぴどくやられる。
糖尿病になってから平均10〜15年くらいで、糖尿病によって腎臓が悪くなる糖尿病性腎症に陥りやすい。糖尿病性腎症は、新たに血液透析を始める原因疾患の第1位であり、その数は年間1万6000人に上る。要注意だ。むろん喫煙や飲酒も避けるべきだ。