塩分過多のリスクは? 塩とカラダの関係・正しい付き合い方を考える

高血圧をはじめ腎結石や肝炎などの病気にも影響を及ぼす塩分。ひたすら摂取量の削減を奨励されているが、塩の作用はダメージだけだろうか? 体内での働きと正しい付き合い方を専門家に尋ねた。

取材・文/松岡真子 撮影/石原敦志 イラストレーション/德永明子 取材協力・監修/板倉弘重(医学博士)

初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売

塩とカラダの関係
お話を伺った方

板倉弘重さん(いたくら・ひろしげ)/医学博士。国立健康・栄養研究所名誉所員。東京アスボクリニック名誉理事長。東京大学医学部卒業。動脈硬化、代謝学など内分泌代謝の第一人者。元日本動脈硬化学会会長。

そもそも「塩」とは?

塩

精製塩と天然塩のどちらを選ぶかで塩分の摂取量に差が出る。

「塩」は製造法で構成成分が異なる。

「塩の主成分はナトリウム(Na)とクロール(Cl)という2つの電解質が結合した塩化ナトリウムです。赤いキャップでお馴染みのいわゆる食卓塩は精製塩に分類され、原塩の不純物を取り除いたもの。成分の99%以上が塩化ナトリウムです。

もう一つは天然塩。海水を塩田に引き込み太陽熱や風で水分を蒸発させて結晶を作る天日塩や、地殻変動で海の一部が陸地に閉じ込められた地層から取れる岩塩が該当。

構成比は種類や産地で違いますが、塩化ナトリウムは80%程度で、マグネシウムなどの貴重なミネラルも含有。一般的に塩分摂取で問題になるのは塩化ナトリウムのこと。選ぶ塩によって量が異なることを知りましょう」

塩がカラダにもたらすこと

塩がカラダにもたらすこと

体内の塩分が微妙なバランスを保つことであらゆる機能が正常に。

体内へ取り込まれた塩化ナトリウムは、小腸で吸収される。その後、体内でさまざまな働きをする。

「血漿やリンパ液、間質液といった細胞を取り囲む細胞外液にナトリウムは存在し、ブドウ糖などエネルギー源の吸収や栄養分や酸素を隅々まで届ける役目を担います。細胞の内外の浸透圧を調整し、細胞の大きさと機能維持、カラダの65%を占める水分量を一定に保つ働きも。また筋肉もナトリウムが動かしています」

ちなみに、塩を大量に取り込んでもすべてが活かされるわけではない。

「血液検査の項目でも触れますが、血中のナトリウム濃度の正常値の幅は狭く、その微妙な均衡を保つために過剰なナトリウムは腎臓で排出されます。

塩分過多が続くと、それだけ腎臓への負担も大きくなる。機能の低下が進むと血圧調整がうまくできなくなり、高血圧に繫がります」

難しい“適量”を考える

難しい“適量”を考える

減塩する人が増えれば「日本人の食事摂取基準値」も下がるかも。

ヘルシーな文脈で語られる和食には実は塩分が盛りだくさん。厚生労働省が2019年に実施した「国民健康・栄養調査」によると食塩摂取量の平均は男性10.9g、女性9.3gであり、WHOが推奨する1日5g未満を大幅に上回る。

「厚生労働省の“日本人の食事摂取基準値”の2020年版では、男性7.5g、女性6.5gです。この数値はWHOの設定値と実情を鑑みて弾き出された実に曖昧なもの。

減塩と関わりの深い日本高血圧学会の目安は6gで、国際基準に近くなっています。前述のように量の基準は塩化ナトリウムそのものの値なので同量を摂っても精製塩と天然塩では異なります。

外食や中食では前者を採用するケースが多いので、自炊が少ない人は塩分過多を防ぐために基準値を把握しておきましょう」

しかしなぜ日本では塩がここまで悪者扱いされるのか?

「日本は他国と比べて、高血圧や動脈硬化に悩む人が多い。高血圧は脂肪肝を招き、脂肪肝は動脈硬化の引き金にもなります。その対策として“減塩”が叫ばれているのです」

摂りすぎも、摂らなさすぎも問題

塩とカラダの関係

飲みすぎによるむくみ以外は徐々に症状が表れるので要注意。

飲み会をラーメンで締めた翌朝は顔がパンパンになる人も多いだろう。

「あきらかな塩分過多です。ナトリウムが過剰になると細胞外液の量も増えます。そうすると水分を余分に蓄えて、むくむ。喉の渇きや血圧の上昇も同様です。飲酒は脱水を招き、体内の塩分量を急激に変えます。お酒と同じ量の水を飲むようにしましょう。

もし、むくんだら、翌朝ランニングなどの軽い運動で汗を流して、体内の塩分を出すのも有効。それでも解消されず、なおかつ数日間続くのは肝機能が低下しているサイン。そんな時は休肝日にして様子見を。習慣を変えずにいると、将来、肝機能障害になる可能性もあります」

世間では“減塩”ムードが加速中。2016年から「1日マイナス2g」運動が始まった。その一方で、塩分が足りてない人も多いという。

「体内のナトリウムが枯渇してくると、神経症状に異常をきたすように。疲れやすい、吐き気を催す、頭がボーッとするなどが見受けられます。

食欲不振や睡眠中のこむら返りもサインかもしれません。そのような症状が出るようでしたら、食事で適量を摂取するように心がけましょう。ちなみに熱中症は塩分不足の典型例。梅干しやミネラルを含むスポーツ飲料などで対策を」

こんな症状ありませんか?

過多:喉が渇く、顔やふくらはぎがむくむ、血圧の上昇

不足:睡眠中にこむら返りが起こる、疲れやすい、頭がボーッとする、食欲不振

適塩生活ができているかは血液検査で

適塩生活ができているかは血液検査で

電解質の基準値は個人差が少なく一定しているのも特徴である。

先述の深夜ラーメンによる影響でむくんだとしても、連日連夜の習慣でなければ心配はいらない。なぜなら、カラダのホメオスタシスが働いて通常モードに戻してくれるから。

「適塩生活を測るバロメーターとして3か月ごとの血液検査が有効です。なかでも注目をしたいのはナトリウムで、正常値は136~145mEq/L。この数値が示すように、非常に狭い範囲でバランスを保っています。コンビであるクロールもそう。これらが増減していると、先に挙げた異変も見受けられるかもしれません」

カリウムとマグネシウムが基準値未満ならば塩の選び方を考え直そう。

「ミネラルを含む天然塩を取り入れてみてはどうでしょうか」

この数値をチェック
項目 基準値
Na(ナトリウム) 136~145mEq/L
K(カリウム) 3.5~4.8mEq/L
Cl(クロール) 100~110mEq/L
Mg(マグネシウム) 1.8~2.6mg/dL

出典/国保中央病院「血液検査結果の見方」、MSDマニュアル「マグネシウム濃度の異常の概要」

無理なく適塩生活をするために

塩とカラダの関係

小さな積み重ねこそが健康な肝臓と腎臓を作る近道でもある。

食事を楽しむうえでも、生きていくためにも塩は不可欠な存在だ。しかも、工夫すれば適量にできる。

「家にある塩の成分をチェックしてみましょう。もし、精製塩であったなら、天然塩に切り替えるのも一案。肉の旨みを引き出す岩塩はステーキにもうってつけですよ。ナトリウムの排出を助けるカリウムやマグネシウムを含むため、かえって血圧を下げる働きも期待ができますし」

塩を替えるほかにも方法はある。

「例えば餃子はタレではなく、酢コショウで食べるようにするなど。香辛料や塩以外の調味料で満足のいく味付けを目指すといいです」

無理に減塩しなくていい場合も。

「目覚めにフラッとするくらい低血圧の人が実践すると足を攣るようになるので、むしろ減塩は控えて」