約5kgの減量で肝臓が救える? 健康診断の見方は? 肝臓の健康維持に役立つ知恵
生活習慣の乱れによって肝臓に負担が蓄積すると最悪の場合、肝硬変や肝がんに至ることも。なるべく早く対処できればベターだが、沈黙の臓器とも言われる肝臓、気にするべきサインなどはあるのか? 今回は体型と肝臓の病気のリスクの関係や、健康診断結果の見方など、肝臓の健康維持に欠かせないトピックをご紹介。
取材・文/井上健二 撮影/安田光優 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/坂西 透 イラストレーション/室木おすし 取材協力/竹原徹郎(大阪大学医学部附属病院病院長)
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
教えてくれた人:竹原徹郎さん
たけはら・てつお/大阪大学医学部附属病院病院長、同大学院医学系研究科教授、日本肝臓学会理事長。大阪大学医学部、ハーバード大学医学部などを経て現職。専門は肝臓病学、消化器病学。医学博士。
太っているなら体重を7%落とす
日本人は痩せていても脂肪肝になりやすいが、太っている人はより危険。その半数以上に、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)(詳しくはこちらの記事:糖質の摂りすぎで脂肪肝!? ちゃんと知っておきたい肝臓の働きと大問題)などによる脂肪肝が見受けられる。
そもそも肥満とは、体脂肪が溜まりすぎた状態。皮下に溜まり切れない体脂肪は、脂肪肝や内臓脂肪として溜まってしまう。
体脂肪率を正確に知るのは難しいので、ご存じのように身長と体重から求めるBMIが肥満を見分ける指標として用いられる。日本肥満学会は、BMI25以上を肥満としており、日本の成人男性の3人に1人、成人女性の4人に1人が肥満だ。
「太っている人は体重を少しでも減らすことが先決。一般的に体重を7%程度減らせたら、NAFLDが改善すると考えられています」(肝臓学が専門で大阪大学附属病院病院長の竹原徹郎先生)
体重70kgなら、約5kgの減量で肝臓が救える。リバウンドを防ぐには、月2kgペースの減量が適正とされるから、このケースなら2か月ほどで減量すれば、肝臓が元気に蘇る。より意欲的になり、体重10%減が達成できたら、線維化しつつある肝臓だって復活できるかも。
BMIと理想体重の算出方法
体重70kgで身長165cmなら、70÷1.652≒25.7。BMI25以上だから肥満と判定される。BMI22のときがもっとも死亡率が低い。長期的には、その体重(理想体重)を目指そう。
いきなりそこまで痩せられる自信がないなら、まずは体重3%減を目指してみよう。それだけでも肝臓に脂肪が蓄積する度合いは下がる。体重70kgの3%は約2kgだから、1か月で達するのもそう難しくない。
食事制限のみに頼ると筋肉が減り、肝臓の負担が増える(詳しくはこちらの記事:脂肪肝対策にイチ押しは酢納豆! 科学的に正しい肝臓ケアの食事術)。運動も多少組み合わせて。
体重減少で改善する肝臓の病気
各種研究から、体重減少により、肝臓のどのような病気が改善するかの確率を示したもの。太っている人は痩せれば痩せるほどメリットが多い。
血液検査の数値を読み解く
肝臓では2000種類以上の酵素が働いているとか。血液検査でその酵素をチェックすると、肝臓のコンディションを知ることができる。基本はAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPという3つの値の変化に留意すること。
このうちALTで脂肪肝が早期発見できる点についてはこちらの記事で紹介した通り。また、γ-GTPはアルコールに敏感に反応するので、お酒の飲み過ぎかどうかを判断できる。基準値を超えていたら、アルコール性脂肪性肝疾患が疑われる。
さらに、この3つの数値をクロスチェックしたり、他の血液検査の値と合わせたりすると、一層深く肝臓の様子がモニタリングできる。
「両者が基準値内でも、ALTとASTの双方が20以上あるか、またはALT>ASTなら脂肪肝が疑われます」(栗原先生)
より精度高く脂肪肝が見つけられるのが、γ-GTP、血中中性脂肪値、BMI、腹囲の4項目で、脂肪肝の危険度を教えてくれる「FLI(脂肪肝指数)」。インターネット上に計算サイトがあるのでやってみよう。30以上だと脂肪肝の恐れも。
脂肪肝が進み、線維化が起こっているかどうかをチェックするのに役立つのが「FIB-4インデックス」というスコアリングシステム。こちらもネット上に計算サイトがある。1.3以上は要注意。
以上の数値が一つでも引っ掛かったら、近くの内科で超音波検査などを受け、肝臓の現況を確かめよう。
肝機能の検査項目と基準値
数値は単独で見るのではなく、他の値とも比べる視点が大切。お酒を控えてもγ-GTPが下がらないならNAFLDの恐れも。
- FLI(脂肪肝指数):一般社団法人日本循環器予防学会
- FIB-4インデックス:一般社団法人日本肝臓学会
肝炎ウイルスをチェックする
節酒に努めたり、食生活を変えて減量したりすることは、肝臓にとって重要。でも、先立ってやってほしいことがある。肝炎ウイルス検査だ。
肝臓の病気で、いちばん怖いのはやはり肝がん。肝炎ウイルスは肝炎を起こし、肝がんリスクを高める。後述する治療法の確立で、肝炎ウイルスによる肝がんは減ってきたが、それでも肝がん全体の約半分はC型肝炎ウイルス、B型と合わせると約60%が肝炎ウイルスによる。
肝臓がんの原因
肝がんのおよそ60%は、肝炎ウイルスが原因。肝炎ウイルスに感染していることがわかったら、早期に治療することで肝がんリスクが下げられる。
厚生労働省の推計では、B型肝炎ウイルスの感染者は全国で110〜120万人、同じくC型の感染者は90〜130万人に上る。ともに血液や体液などを介して感染し、B型は母子感染や性行為によるもの、C型は輸液による感染が多い。
「日本人の2人に1人は、過去に肝炎ウイルス検査を受けたかどうかを覚えていないか、受けても検査結果を覚えていないとされます。過去に一度も検査を受けていない人はぜひ受けてください」(竹原先生)
肝炎ウイルス検査は、血液を採取するだけの簡単なもの。ほとんどすべての医療機関で受けられる。
かかる費用は医療機関によって異なるけれど、40歳以上で一度もウイルス検査を受けていない人は、自治体の肝炎ウイルス検診などで無料で受けられるケースもある。居住地の自治体に問い合わせてみよう。肝炎ウイルスに感染していても、C型は直接作用型抗ウイルス薬、B型はインターフェロンや核酸アナログ製剤などで薬物治療可能だから安心。