脂肪肝対策にイチ押しは酢納豆! 科学的に正しい肝臓ケアの食事術
見えない肝臓を大切にするなんて、どこから手をつければいいのかわからない? いやいや大丈夫、エビデンスに基づいた肝臓ケアを紹介しよう。今回は肝臓を守るために知っておきたい食事のポイント。納豆にはお酢、甘い果物・野菜ジュースは控える、超加工食品は摂らないetc…。できることから始めればいい。優しくすれば、肝臓の数値は数週間のうちに応えてくれるはず。
取材・文/井上健二 撮影/安田光優 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/坂西 透 取材協力/栗原 毅(栗原クリニック東京・日本橋院長)、竹原徹郎(大阪大学医学部附属病院病院長)、田畑尚吾(田畑クリニック院長)
初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売
教えてくれた人
栗原毅さん
くりはら・たけし/肝臓専門医。栗原クリニック東京・日本橋院長。東京女子医科大学で肝臓病学を専攻し、教授に就任。慶應義塾大学教授などを経て、生活習慣病の予防・治療を目的とするクリニックを開設。医学博士。
竹原徹郎さん
たけはら・てつお/大阪大学医学部附属病院病院長、同大学院医学系研究科教授、日本肝臓学会理事長。大阪大学医学部、ハーバード大学医学部などを経て現職。専門は肝臓病学、消化器病学。医学博士。
田畑尚吾さん
たばた•しょうご/総合内科専門医。田畑クリニック院長。北里研究所病院、慶應義塾大学病院、東京オリンピック•パラリンピック選手村診療所内科チーフドクターなどを経て現職。糖尿病専門医、総合内科専門医、スポーツ内科医。
目次
納豆に酢をかけて食べる
脂肪肝の患者に、肝臓専門医の栗原毅先生がイチ押しする食品がある。それが納豆1パックに、タレの代わりに酢をかけた「酢納豆」。
「酢納豆を毎日1食食べるだけで、脂肪肝のマーカーであるALT(詳しくはこちらの記事:糖質の摂りすぎで脂肪肝!? ちゃんと知っておきたい肝臓の働きと大問題)が下がり、脂肪肝が縮小する患者さんが大半。かける酢は、米酢でも黒酢でもお好みでOKですが、成分表示を確認し、糖質の含有量ができるだけ少ないものを選ぶようにしてください」(栗原先生)
なぜ酢納豆が脂肪肝に効くのか。まずは酢。酢に含まれる酢酸とクエン酸には、肝臓で脂肪を代謝する酵素の活性を上げる働きがある。肥満気味の人が酢を摂り続けると、実際に内臓脂肪が減ったという研究データもある(下グラフ参照)。一度に摂る量は、大さじ1杯(15mL)が目安。そのまま飲む場合は、水を加えて2〜3倍に薄めよう。
酢を飲むと体重が減り、腹囲が細くなる
ミツカンが、BMI25〜30の肥満者を対象に行った研究。食酢を毎日15ml、12週間摂った群では、対照群と比べて内臓脂肪、体重、BMI、腹囲がそれぞれ低下していた。
納豆パワーもスゴい。大豆タンパク質の主成分であるβ-コングリシニンは、内臓脂肪と血中の中性脂肪を減らす。加えて大豆サポニンには、脂肪細胞からアディポネクチンという物質の分泌を促す作用を持つ。アディポネクチンは脂肪燃焼を促進するうえに、肝臓の炎症を抑える抗酸化作用を持つ。
酢納豆はまさに肝臓の救世主的存在。朝食の新メニューに加えよう。
空腹の時間を14時間以上作る
脳や筋肉は寝ている間には少し休めるが、肝臓は睡眠中でも24時間休みなく栄養素の代謝を続ける。
そんな働き者の肝臓をいたわるために重要なのが、何も食べない空腹の時間をできるだけ長く作ること。
「食事をするたび、門脈から流れ込んでくる栄養素を代謝するために、肝臓は活発に働きます。ダラダラ食べや甘い物の間食は、肝臓のストレスになるのです。間食を控え、空腹の時間をなるべく長く取ると、それだけ肝臓を休めることができます」(総合内科専門医の田畑尚吾先生)
空腹時間を延ばすコツは、夕飯を早めに摂ること。
夕方6時に夕飯を済ませ、翌朝8時に朝食を摂れば、14時間は体内に新たな栄養素が入らないから、肝臓の仕事は減る。また、夕飯が就寝時刻近くまでズレ込むと、肝臓は睡眠中もサービス残業を強いられるが、夕飯を早めに終えると起きている間に代謝活動はほぼ終わり、真夜中に残業を強いられることもない。
空腹を感じている間、肝臓は完全なスリープモードになっているわけではない。血糖値を保つために、蓄えたグリコーゲンを分解したり、脂質(グリセロール)やタンパク質(アミノ酸)から糖質を新たに作る「糖新生」を行ったりしている。どちらも、脂肪肝や内臓脂肪をはじめとする無駄な体脂肪の分解を促してくれるから、脂肪肝の軽減やダイエット効果も期待できそう。
甘い果物・野菜ジュースを控える
健康のために、果物ジュースや野菜ジュースを意識して飲んでいる人もいるだろう。自家製のジュースを少量飲むのはノープロブレムだが、市販の甘いジュースをガブ飲みするのは肝臓のために控えるべき。
問題なのは、果物ジュースに多い果糖。果糖は血糖値を上げにくいが、それは摂った果糖の大半は肝臓で脂肪に変わるから。果糖を大量に摂ると、脂肪肝やNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)の発端となりかねない。野菜ジュースにも、飲みやすくするために果物ジュースが加えられているケースがあるから気をつけて。果物や野菜はジュースではなく、サラダなどでそのまま食べたい。その方がビタミンやミネラル、食物繊維がロスなく摂れる。
ジュース以上に危ないのが、甘い清涼飲料水などに含まれる異性化糖。トウモロコシなどから安価に合成される甘味料で、高果糖液糖(果糖含有率90%以上)、果糖ブドウ糖液糖(果糖含有率50%以上90%未満)、ブドウ糖果糖液糖(果糖含有率50%未満)などがある。その名の通り、いずれも果糖を大量に含み、脂肪肝やNASHの誘因となる。
飽和脂肪酸の過剰摂取で脂肪肝になる
肥満者38人に1日1000kcalの余分なカロリー摂取をしてもらった研究。飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、糖質の3群で比べてみると、脂肪肝がもっとも悪化したのは飽和脂肪酸グループだった。
最近では、果糖やブドウ糖が代謝される際の中間産物であるグリセルアルデヒドが、NASHにおける炎症を進めるという怖い話も出ている。甘い飲み物は極力避けよう。
肉を食べるときは魚も食べる
糖質を摂りすぎると脂肪肝に陥りやすいが、脂質だって摂りすぎると脂肪肝を招く原因に。脂質の摂取で気をつけたいのは、量に加えて質。脂質の性質を決める脂肪酸に目を向けてほしいのだ。
肉類、卵のような動物性脂肪に多い飽和脂肪酸の摂りすぎは脂肪肝炎を起こしやすい。対照的に、青魚などの魚類、アマニ油、オリーブオイルなどに多い不飽和脂肪酸は脂肪肝炎になりにくい。その中でも青魚やアマニ油のオメガ3系の不飽和脂肪酸は、肝炎を抑える。
また、日本人約9万人を調査した研究では、オメガ3系の多い魚類などをよく摂る人ほど、肝がんの発症率が低いという結果が出ている。
しかし、肝臓のためとはいえ、肉類や卵などを控えるのは難しいし、控えすぎると食卓がプアになる。そうならないためのポイントは、飽和脂肪酸を摂るとき、不飽和脂肪酸を一緒に摂取すること。
「飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を同時に摂取すると、飽和脂肪酸のネガティブな作用が抑えられることがわかっています」(肝臓病学が専門の竹原徹郎先生)
朝食の目玉焼きにはベーコンではなくサーモンを添える、昼食や夕食で肉類を食べるときはオリーブオイルやアマニ油で味付けしたサラダを食べるといったちょっとした工夫で、肝臓は守られるのだ。
超加工食品や危ないアブラを摂らない
「あなたはあなたの食べたものでできている」という名文句があるが、小腸などから体内へ吸収された食べ物の成分はすべて残らず肝臓へ送られるから、何を食べたかは肝臓のコンディションに直結する。
肝臓にダメージを与える筆頭格はアルコールだが、それ以外に控えたい食品もある。2つ挙げよう。
1つ目は、超加工食品。カップ麺、菓子パン、スナック菓子などのように加工度が高く、一部に工業的な製造法を用いている食品だ。
超加工食品には、食感や風味を良くしたり、保存性を高めたりする目的で添加物が多く用いられている。添加物には肝臓の解毒処理の対象となるものもあり、肝臓のストレスになりかねない。超加工食品は便利だが、食べすぎは避けた方が無難。
2つ目は、“危険なアブラ”。
「それはトランス脂肪酸と過酸化脂質。肝臓の重荷となり、動脈硬化の危険度も上げます」(田畑先生)
トランス脂肪酸は、工業的に加工された脂質。マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどがあり、パンや洋菓子などに多い。
過酸化脂質は酸化されたアブラ。体内で有害な酸化を連鎖的に引き起こしやすい。こちらは作って時間が経った揚げ物や干物などに多い。
危険なアブラは超加工食品に含まれるケースも多いから、要注意。
鉄分を摂りすぎない
油断してお酒を痛飲した翌日には、シジミ汁が効くとか。でも、肝臓の具合が悪い人には、お酒の飲みすぎと同じく、シジミ汁も決してよくない。なぜなら、シジミに多い鉄が、弱った肝臓をさらに弱らせる恐れもあるからだ。
肝臓には、鉄などのミネラルを貯蔵する働きがあり、食べ物に含まれる鉄は肝臓に集まる。鉄は、血中で酸素を運ぶ赤血球のヘモグロビンの成分であり、不足すると鉄欠乏性貧血に陥りやすい。
ただ貧血が怖いからといって、鉄を摂りすぎるのもマイナス。体内で怖いのは、活性酸素による酸化。酸化は、がんなどの生活習慣病や老化の発端だ。過剰な鉄は、肝臓でこの酸化を加速させる。
活性酸素には、いろいろなタイプがある。なかでも最凶なのが、過酸化水素から生じるヒドロキシルラジカル。寿命は短いのだが、非常に強力な酸化反応を引き起こす。
体内には活性酸素の害を抑える抗酸化酵素も備わるが、それらの酵素もヒドロキシルラジカルにはほぼほぼなす術がない。
「このヒドロキシルラジカルを、過酸化水素から生じさせる触媒となるのが、鉄。これはフェントン反応と呼ばれています」(竹原先生)
弱った肝臓には、お酒の飲みすぎも鉄分の摂りすぎもNGなのだ。
緑茶やコーヒーを毎日飲む
甘い飲料やジュースは脂肪肝の元凶となる。代わりに飲むなら、何といっても緑茶。無糖飲料の王様だ。
「緑茶に含まれる茶カテキンは、脂肪の蓄積を抑えて燃焼を助けます。脂肪肝を招く食後高血糖にもブレーキをかけてくれますから、食前に摂るのがお薦め。ペットボトルのお茶は手軽でいいのですが、できれば急須で淹れて茶カテキンを多く抽出してください。それでも茶カテキンなど緑茶の有効成分の約70%は茶葉に留まりますから、残った茶葉を食べるのがベストです」(栗原先生)
茶カテキンは水溶性。摂ってから3〜4時間くらいで体外へ排泄されてしまうから、こまめに飲もう。
緑茶もいいが、コーヒーも負けていない(ただしブラック限定)。
日本で行われた大規模な研究では、コーヒーを飲まない人と比べると、1日1杯以上コーヒーを飲む人では肝がんの発症リスクが下がるという結果が出た(グラフ参照)。
コーヒーの摂取で肝がんリスクが下がる
国立がん研究センターが40〜69歳の日本人男女1万8815人を13年間追跡調査。110例の肝がんをC型ウイルス感染者を含めて検証すると、コーヒーの1日当たりの摂取量が増えると相対危険度が下がる場合が多い。
研究者たちは、コーヒーに含まれるフィトケミカル(植物性化学物質)のクロロゲン酸が、肝細胞の炎症を抑えて、肝がんの予防につながるのではないかと考察している。
とはいえ、緑茶もコーヒーも、夕飯以降は摂取を控えた方が無難。どちらにも、覚醒作用を持つカフェインが多く含まれており、入眠を妨げて睡眠の質を落とし、肝臓のみならず内臓に不調を招く恐れがある。
サプリや不要な薬を飲みすぎない
肝臓の病気の一つに「薬物性肝障害」がある。これは医療機関で処方されたり、ドラッグストアなどで購入したりした医薬品の摂取により、肝臓に炎症などが起こる病気だ。
病を治すはずの薬で、なぜ肝臓が病んでしまうのだろう。その理由は、薬に含まれている成分も肝臓が代謝しているから。
薬の成分は栄養ではないから、アルコールなどと同じように肝臓の解毒処理のターゲット。それが肝臓を作る肝細胞の負担となり、炎症などが生じるのだ。
必要な薬は医師や薬剤師の指導の下に摂るべきだが、「念のために」とか「とりあえず」などと自己流で薬を摂るのは控えるべき。
薬だけではない。栄養補助食品であるサプリメントでも、薬物性肝障害に似た症状が出ることがある。
「サプリに含まれている成分が引き金となる場合もありますが、それ以外に成分を収めたカプセルや錠剤の成分の処理が肝臓の重荷となることも考えられます」(竹原先生)
純アルコール20gのお酒の量を知る
昔から「酒は百薬の長」という言葉があり、適度なアルコールの摂取は健康増進効果があると長年信じられてきた。ところが、最近では少量のアルコールでも、健康を害するという説が有力になっている。
アルコールの悪影響をダイレクトに受けるのは、肝臓。アルコールの処理をおもに担うのは肝臓であり、過剰なアルコールを摂取すると肝臓の仕事が増えるからだ。
ことに飲むと顔が赤くなったり、気持ち悪くなったりするタイプは、体質的にアルコールを代謝する酵素を持たないか、活性が低い証拠。本来なら一滴も飲まない方がいい。
お酒に強いタイプでも、肝臓が代謝できるアルコール量は通常1時間当たり体重(kg)×0.1gとされる。ビール中瓶1本に20gのアルコールが含まれるから、体重70kgなら代謝を終えるまで3時間ほどかかる計算。
夕飯後にビール3本飲んだら、その処理には9時間かかり、就寝後も肝臓は不眠不休を強いられるハメになる。肝臓の立場に立つと、深酒は金輪際できないはずだ。
「ことにビールや日本酒などの醸造酒にはアルコール以外に糖質も含まれており、糖質が脂肪肝を進める恐れもあります」(田畑先生)
そう諭されても、お酒がやめられないなら、1日の飲酒量は純アルコール換算で20g以内(表参照)に留めるべき。それ以降は、本物のお酒に近いテイストのノンアル飲料などを活用してみよう。
純アルコール20gの目安
- ビール : 5%×500mL(中瓶1本)
- 日本酒 : 14%×180mL(1合)
- ワイン : 12%×200mL(グラス2杯弱)
- 焼酎 : 25%×100mL(グラス1/2杯)
- ウィスキー : 43%×60mL(ダブル1杯)
間食をナッツかビターチョコにする
チョコレートというと糖質が多くて太りやすく、脂肪肝が心配になる食品だと思いがち。しかし、カカオ分70%以上で砂糖などの糖質含有量が少ないビターな高カカオチョコレートには、意外にも脂肪肝を抑える働きがある。理由は2つある。
「第一に、高カカオチョコに含まれるフィトケミカルのカカオポリフェノールに体脂肪の蓄積と炎症を抑える働きがあり、脂肪肝の進行にブレーキをかけます」(栗原先生)
もう一つの理由は、高カカオチョコは食物繊維が豊富だから。食物繊維は糖質の吸収をスローダウンし、食後高血糖を抑えてくれる。
食前や食間に軽くつまむなら、アーモンドやクルミなどのナッツ類もいい。高カカオチョコと同様に食物繊維が豊富だし、タンパク質も含むので血糖値の上昇が抑えられる。
チョコレート摂取による血糖値とインスリン濃度の変化
健常人15人を無作為に分け、約500mgのポリフェノールを含むダークチョコレート(高カカオチョコレート)100gか、ポリフェノールを含まないホワイトチョコレート90gを15日間食べてもらった後、耐糖能試験を行い、血糖値とインスリン濃度を比較。前者の方が血糖値は上がりにくく、インスリン分泌量も少ない。