浅い呼吸、臓器の疲れ…「胸・腹」の悩みを解消するマッサージ
慢性的な凝りや痛み解消のためにはセルフマッサージが効く。大事にしたいのは、「頑張らない」こと。しんどい時には誰だって頑張りたくないはず。そこで厳選したのが、余計な力をできるだけ使わず最大限の効果が得られるメソッドだ。今回は、浅い呼吸や肝臓、腎臓、胃腸の不調といった「胸・お腹まわり」にまつわる悩みを解消するセルフマッサージメソッドを紹介!
取材・文/井上健二 撮影/幸喜ひかり スタイリスト/ヤマウチショウゴ ヘア&メイク/天野誠吾
初出『Tarzan』No.867・2023年10月19日発売
目次
巻き肩には…トリガーポイントリリース
滝澤幸一さん
教えてくれた人
たきざわ・こういち/筋膜治療家。ソル・エ・マーレ鍼灸治療院院長。鍼灸師。12年以上にわたり、1万5000人超の実績を誇る筋膜リリース治療のパイオニア。日本オリンピック協会強化スタッフを務めるなどアスリートの信頼も厚い。
巻き肩は、肩が内側に入った状態。肩甲骨が背骨から離れる外転を伴うと猫背になる。主因は、前傾姿勢などを続け、胸の大胸筋と筋膜が硬くなり、肩を前へと引っ張っていること。
巻き肩が修正できると姿勢が良くなるだけではなく、胸がしっかり張れるようになり、胸板が厚く逞しく(女性ならバストアップして)見えるようになる。
筋膜ローラーの作り方
市販の筋膜リリース用のフォームローラーがなくても、手軽に手作りできる。バスタオル1枚を横に広げ、端に芯となる厚めの雑誌を1〜2冊置く。雑誌をタオルで上下から包み、巻き寿司を作るように固く巻き、両端を紐で縛って固定する。
胸の筋膜リリース(左右各3〜5呼吸)
❶床でうつ伏せになり、両脚を腰幅で伸ばす。
❷筋膜ローラーを右の脇の下から胸に当てる。
❸右腕を真横に伸ばす。左腕は楽な位置に置く。
❹顔を左へ向けて脱力し、鼻から3秒(3カウント)で息を吸い、口から5秒(5カウント)で息を吐く。
呼吸が浅いなら…アラウンドマッサージ
石垣英俊さん
教えてくれた人
いしがき・ひでとし/あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師。ホリスティッククーラ代表。手ぬぐいボール健康法提唱者。解剖学と東洋医学の知見を融合した施術を心がける。ことに背骨からのケアを重視し、日本背骨養生協会では指導者の育成にも取り組む。
緊張が強すぎると、自律神経の交感神経の働きで呼吸が浅くなり、酸素不足で全身のコンディションが悪くなる。横隔膜を使う深い呼吸を心掛けよう。
浅い呼吸では首すじの斜角筋群などの呼吸補助筋が働きすぎで硬くなり、深い呼吸を邪魔する。そこをほぐすと横隔膜は動きやすい。加えて後述する「季肋部のマッサージ」も行って横隔膜を活性化してやろう。
斜角筋群のマッサージ(左右各3〜5回×2〜3セット)
❶椅子に浅く坐り、息を吐きながら鎖骨と肋骨を下げる。
❷右手の人差し指と中指を、左の鎖骨の上(斜角筋群)に押し当てる。
❸深い呼吸をしながら、伸ばした左腕を時計回りにゆっくり回し、斜角筋群をマッサージする。
❹腕を回している間に肩が上がらないように注意する。
肝臓の疲れには…アラウンドマッサージ
安静時には、血液の25〜30%が肝臓と消化管に分配されている。なかでも肝臓は1分間に1Lの血液が流れ込むという。
肝臓の疲れを取りたいなら、血液循環を促すのが先決。肝臓をマッサージしよう。ペットボトルを使えば楽にできる。また肝臓は横隔膜に密着している。横隔膜を刺激しながら動かすと、カラダの内側から肝臓をほぐして血流が促進される。
肝臓のペットボトルマッサージ(3〜5秒×3〜5回)
❶椅子に浅く坐る。
❷ボトルの底部を両手で持ち、キャップ部を右側の肋骨の下端に当てる。
❸口から息を吐きながら上体を前に倒し、両手でキャップ部を3〜5秒押し込み、鼻から息を吸いながら戻る。押し込むと痛みが強い人、肝疾患がある人は行わない。
季肋部のマッサージ(3〜5秒×3〜5回)
❶椅子に浅く坐る。
❷左右の肋骨の下端(季肋部)に、両手の親指以外の4指を押し当てる。
❸6秒ほどかけて口から息を深く吐きながら上体を前に倒し、4指で季肋部を3〜5秒深く押し込み、鼻から息を吸いながら戻る。
下痢には…ツボペッカー
寺林陽介さん
教えてくれた人
てらばやし・ようすけ/あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師。六本木・寺林治療院院長。父の治療院で修業後、24歳で独立して治療院を立ち上げ、予約の取れない人気を獲得。著書『疲れをとりたきゃ腎臓をもみなさい』(アスコム刊)はベストセラーに。
内臓に関連するツボは、ヘソの周辺に集まる。慢性的な下痢に効果的なのは、ヘソの外側にある天枢(てんすう)と大巨(だいこ)。
ツボペッカーは基本的にツボを突くメソッドだが、内臓まわりはデリケートなので、優しくさすったり押したりしよう。また消化機能が衰えた人には腹部の血流が悪く、冷えているタイプが多い。仕上げに手で温め、血流を促したい。
天枢・大巨をさする(10〜30回+10秒)
❶坐って両手の拳を軽く握り、ヘソから指3本分ほど外側に添える。
❷拳を上下に動かし、天枢と大巨をまとめてさすって揉む。
❸仕上げに天枢に両手の手のひらを置き、手の温もりで10秒ほど温める。
便秘には…ツボペッカー
日本人のおよそ20%は、何らかの便秘に悩んでいるとか。その多くは、大腸の働きが落ちたことによる機能性便秘。
便秘に効くツボといえば大腸のほぼ真ん中に位置する関元(かんげん)だが、一緒に刺激したいのは中脘(ちゅうかん)。中脘には胃を温めて機能を高める作用がある。胃がきちんと働いてくれたら大腸の負担が減り、便秘も和らぎやすい。
中脘・関元をさする(10〜30回)
❶坐って片手の拳を軽く握り、ヘソに添える。
❷拳を上下に動かし、中脘と関元をまとめてさすって揉む。
腎臓の疲れには…ツボペッカー
不調に陥っても、これといった自覚症状がないのが、腎臓。いわゆる“沈黙の臓器”だ。健康診断などで腎機能の低下が疑われたら、減塩などで血圧を下げるのが先決。
加えて腎機能を整えるツボにもアプローチ。腎臓のツボとしては腎兪(じんゆ)が有名だが、背中側にあり手が出しにくい。だからあえてアクセスしやすいお腹側の膏兪(こうゆ)をセレクト。
膏兪をさする(10〜30回+10秒×1セット)
❶坐って片手を軽く握り、ヘソに添える。
❷ヘソを撫でるように、拳を左右に動かして膏兪をさすって揉む。
❸ヘソを撫でた手のひらを開き、ヘソの中央に当てて膏兪を10秒ほど温める。
肝臓の疲れには…ツボペッカー
腎臓と並び、調子が悪くても文句一つ言わないのが肝臓。みぞおちの右側に横たわる内臓最大の臓器で、代謝や解毒、胆汁の産生と八面六臂の活躍を果たす。
その働きが低下すると疲れや免疫機能の低下、肥満といった不調が同時多発的に起こってくる。思い当たるところがあったら、肝臓のツボである章門(しょうもん)を心地よく刺激し、温めておこう。
章門を押す(左右各10〜30回+10秒)
❶床で仰向けになり、両膝を曲げて立てる。
❷右手の小指を肋骨のいちばん下に引っ掛ける。
❸両膝を左側へ倒す。
❹両膝を右側へ倒しながら、親指以外の4指を肋骨の下に差し入れる。
❺最後に、右手を右側の肋骨の下に当てて章門を10秒ほど温める。