深い呼吸を身につける「横隔膜エクササイズ」:ステップ② 吐く
インナーマッスル「横隔膜」が正しく機能した深い呼吸は、疲労や肩こり・腰痛といった不調の改善に繋がる。浅い呼吸で横隔膜を眠らせている多くの現代人は、宝の持ち腐れ状態というわけだ。そこで横隔膜を目覚めさせる3ステップのエクササイズを紹介する。ステップ②では、肋骨を下げて深く吐き、横隔膜を活性化していく。
取材・文/井上健二 撮影/石原敦志 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/高松由佳 エクササイズ監修/大貫崇(BP&CO.代表、呼吸コンサルタント)
初出『Tarzan』No.865・2023年9月21日発売
横隔膜の機能を呼び覚ますための3ステップのエクササイズ。基本チェックを終えたら、ステップ①では、横隔膜の動きを邪魔する筋肉のスイッチを切る。ステップ②では、吐くことを重視する呼吸へシフト。ステップ③で横隔膜で腹腔内圧を高めて、強くしなやかな体幹へと整える。
今回はステップ②。肋骨を下げて深く息を吐き、固まった横隔膜の動きを引き出していくエクササイズを紹介する。
3ステップ!横隔膜エクササイズのやり方
エクササイズは一度に全部やらなくて大丈夫。各ステップから1〜2種目を選んだ4つのプログラムを日替わりで1日~数日おきに行おう(下表参照)。これなら5分ほどだ。
すべてのエクササイズをひと通り終えたら、ステップ⓪に戻ってチェック。1〜2週間ごとにエクササイズ→チェックを続けて、肋骨が下がって閉じ、横隔膜が躍動する呼吸が身につくまで続けたい。
目次
ステップ② 吐く
ステップ①で“邪魔者”を黙らせたら、本格的に横隔膜を動かすエクササイズを。ストレスや緊張が強い現代人は、知らないうちに吸うことがメインになり、吐くことが疎かになる。それだと肋骨が上がって広がり、横隔膜がうまく働けない。
ステップ②では徹底して息を吐きながら、肋骨を下げて閉じ、眠れる横隔膜をシャキッと蘇らせる。
シンクロ呼吸(5呼吸×2~3セット)
ステップ⓪でチェックしたお腹と胸がシンクロする呼吸を身につけるためのベーシックなエクササイズ。呼吸は本来「吐いてから吸う」ものだが、こちらは軽く吸って準備を整えてからスタートする。
息を吐いたとき、お腹全体が萎んできたら、横隔膜と腹横筋&内腹斜筋が連携して働けるようになり、肋骨が正しく下げられているサインだ。
- 仰向けで両膝を曲げて立てる。
- 片手を胸、反対の 手をお腹に置く。
- 鼻から息を吸い、口から吐き、胸とお腹を床と平行にする。吐き切ったら3秒(3カウント)息を止める。
- 胸とお腹をフラットに保ち、鼻から息を吸って胸とお腹を同じだけ膨らませる。
- 口から息を吐いて、さらに胸とお腹を下げる。吐き切ったら3秒(3カウント)息を止める。
肋骨を下げる(5呼吸×2~3セット)
肋骨を下げ、固まった横隔膜がリラックスして動けるように整える。肋骨を下げてくれるのは、お腹の真ん中の腹直筋ではなく、お腹の横にある腹横筋と内腹斜筋。
呼吸をするごとに肋骨が下がり、最終的に胸とお腹の段差がなくなって寸胴に近づく。そして吸うときにお腹と胸がフラットなまま上がり、吐くときにフラットなまま下がる。これが理想形。
- 床で仰向けになり、両膝を曲げて立てる。
- 両手を肋骨に置く。指を開き、肋骨の動きを感じやすくする。
- 鼻から息を吸い、口から長めに息を吐き、お腹の横を使い、肋骨が矢印の方向へ下がることを両手で確認する。
- 息を吐くとき、お腹を凹ませず、あくまで胸から空気を出すことに集中する。
四つん這いで吐く(5呼吸×2~3セット)
肋骨を下げて腹壁が使えるようになると、お腹だけではなく、背中(胸郭)にも空気が出入りするようになる。その感覚を摑むため、四つん這いで呼吸してみよう。
肋骨が下がると、胸郭の回旋(捻る動き)がしやすくなり、スムーズに腕を振りながら歩いたり、走ったりできる。回旋動作が促されると、野球、ゴルフ、テニスなどのスポーツにも有利だ。
- 両手、両膝を床につき、四つん這いに。手は肩、膝は股関節の真下に置く。
- 頭は背骨の延長線上に置き、目線を2m先に向ける。
- 鼻から息を吸い、背中を丸め、胸を前方へ寄せる。
- 口から息を吐き、両手で床を押しながら肋骨を下げて骨盤に近づける。
- 肋骨を下げたまま、息を吸って空気を背中に入れ続ける。
壁にもたれて吐く(5呼吸×2~3セット)
仰向け、四つん這いで肋骨を下げて息が吐けるようになったら、次はいよいよ立ったままでも適切に呼吸できるようにしたい。
壁に腰をつけて、姿勢を安定させてから行うと呼吸により集中できるはずだ。背中の後ろで空気が出入りするイメージを持とう。両膝にクッションを挟むと、内腿の内転筋群が働きやすくなり、骨盤が安定しやすくなる。
- 壁から15cmくらい離れて背を向けて立つ。
- 両膝の間にクッションを挟み、両膝を曲げる。
- 腰と背中の下半分を壁につける。
- 両腕を斜め下に伸ばす。
- 鼻から息を吸い、口から息を吐きながら両腕をさらに伸ばし、背中を丸めて肋骨を下げる。
- 腹壁を使いながら、肋骨を下げたまま鼻から息を吸い、背中に空気が入るのを感じる。口から息を吐きながら、腕をさらに前に伸ばし、背中を丸めていく。
- 踵に荷重したままで行う。
オプション:吐いて風船を膨らませる
100均でも買える風船は、横隔膜を活性化できる絶好アイテムだ。どこへでも持ち歩け、息をどれだけ吐けたかの“見える化”が容易。風船を徐々に大きくしつつ、横隔膜でしっかり息が吐けるようになろう。
息を吐く際は、唇をすぼめ、ほっぺたを膨らませず、肺からダイレクトに風船へ空気を送り込む。息を吸うときは、風船の空気を吸わないように、舌を上顎につけて鼻から吸う。
坐った楽な姿勢から始め、最後は立ってできるようにしよう。立つと姿勢を保つための筋肉が働くようになり、呼吸するための筋肉の動きを阻害しやすいので、案外難しいのだ。その他、下記のポイントを厳守しよう。
ポイント
- 唇をすぼめ、ほっぺたを膨らませずに息を吐く。
- 風船を徐々に大きくしながら、自然に背中を丸める。
- 吸うときは舌を上顎につけ、鼻から吸う。
- 吸うとき、上半身を反らせたり、肩をすくめたりしない。
- 吸うとき、指で風船の口を押さえたり、唇で閉じたりしない。
- 風船の破裂に十分注意する。
坐る(5呼吸×2~3セット)
- 椅子に坐り、片手で風船を持ち、くわえる。
- 反対の手を肋骨の下に添える。
- 息を吐いて風船を膨らませ、肋骨が下がるのを手で確認。
- 息を吐き切ったら3秒(3カウント)静止し、鼻から息を吸う。吸った息で風船を膨らませる。息を吐くごとに肋骨が下がり、自然に背中は丸まる。
仰向け(5呼吸×2~3セット)
- 床で仰向けになり、両膝を曲げて立てる。
- 片手で風船を持ち、くわえる。
- 反対の手を肋骨の下に添える。
- 「坐る」と同じように 深い呼吸を繰り返して肋骨を下げる。
- 空気の通り道である気道が潰れないように、首の前彎アーチをしっかり作る。
四つん這い(5呼吸×2~3セット)
- 床で四つん這いになり、両手を肩、両膝を股関節の真下につく。
- 片手で風船を持ち、くわえる。
- 背中を丸める。
- 「坐る」と同じように深い呼吸を繰り返し、肋骨を下げて背中をさらに丸める。
立つ(5呼吸×2~3セット)
- 壁に片手をついて勢を支え、 反対の手で風船を持ち、くわえる。
- 風船を持った方の足を軽く後ろへ引き、背中を丸める。
- 「坐る」と同じように呼吸を繰り返して、肋骨を下げて背中をさらに丸める。