なぜ、もっと野菜を摂るが必要があるのか。野菜後進国の日本人が知っておきたいこと
日本人の前に立ちはだかっている高い壁、それは野菜摂取不足。だが、いくら野菜不足が叫ばれても、その量は10年ほど横這いを描き、一向に解消する気配はない。“ベジ活”こそ、低コストで最大の健康効果が期待できる賢者の選択。まずはその真価を知ることから始めよう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/前田豆コ 取材協力/岩崎真宏(管理栄養士、医学博士、日本栄養コンシェルジュ協会代表理事)、松本麻衣(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)
初出『Tarzan』No.863・2023年8月24日発売
目次
超えられるか? 野菜摂取量の目標値350g以上
いま、日本人の前に立ちはだかっている高い壁がある。インフレでも、少子高齢化でもない第3の壁、それは野菜摂取の高い壁だ。
国は、健康維持のために1日350g以上の野菜を食べるように推奨している。だが、成人の野菜摂取量は280g前後。野菜不足がいくら叫ばれても、その量は10年ほど横這いを描き、一向に解消する気配はない。
日本人に足りない野菜量は1日70g!
成人の1日の野菜摂取量の平均値は280g。350gには70g足りない。男女別では男性288g、女性273g。この10年間で明らかな増減は見受けられない。年齢階層別では、男女ともに20~40歳で少なく、60歳以上で多くなる傾向がある。
2024年度から開始される「健康日本21(第三次)」の野菜摂取量の目標値は、目標が依然として達成できないことから、第二次から据え置かれている。また、350g以上のうち、緑黄色野菜を120g以上摂るように推奨されている。
ちなみに、緑黄色野菜とは色の濃い野菜で、原則として可食部100g当たりのカロテン含量が600㎍以上の野菜。
ただし、食べる回数や量が多いものは、トマトやピーマンのようにカロテン含量が基準以下でも緑黄色野菜に分類される。それ以外は淡色野菜。
日本は「野菜後進国」だった!?
ユネスコの世界文化遺産にも登録された「和食」は世界に冠たるヘルシー食。それゆえ日本人は他国の人々よりも野菜を多く食べているというイメージがあるかもしれない。
でも、それは勘違い。実は野菜摂取が多かったのは、高度成長期以前まで。世界的に見ても、近年の日本人は野菜を食べていないのだ。
2007年と少し古いデータで恐縮だが、消費量を反映する日本の1人当たりの野菜供給量は約290g。世界177か国の平均(約225g)は上回っているものの、ランキングでは全体の第10位に留まり、トップ3は中国、ギリシャ、韓国に譲っている(国ごとに“野菜”の定義は異なり、厳密な比較は難しい)。
1日1人当たりの野菜供給量の国際比較
野菜の摂取量を反映している野菜供給量の国際比較(2007年)。日本は全体の10位であり、177か国の平均値よりも多少多いというデータが出ている。
意外にもいまや日本人は、“肉食”と思われているアメリカ人よりも、野菜を食べなくなっている。
かつて野菜摂取量は日本人の方が多かったが、アメリカでは健康志向の高まりを受け、1991年から1日に5皿以上の野菜と果物を食べようという「ファイブ・ア・デイ」プログラムを実施。
そのおかげもあり、90年代には野菜摂取量が日米で逆転。その後、アメリカでは野菜摂取量は多少減ったが、それでもまだアメリカ人の方が日本人より多くの野菜を食べている。めざせ、再逆転!
私たちは野菜に多くの栄養素を頼っている
栄養素と聞いて、真っ先に頭に浮かぶのは、糖質、タンパク質、脂質の3大栄養素だろう。
ただ、飽食の現代ではこれらの3大栄養素はむしろ摂り過ぎが心配されることも多い。筋肉などのカラダのパーツを作るタンパク質はともかく、運動不足なのにエネルギー源となる糖質や脂質を摂り過ぎると、エネルギー過多によって肥満や生活習慣病の引き金になりかねない。
そこで重要なのが、野菜の摂取量を最優先して増やす“ベジ活”になる。
野菜は水分が多く、総じて低糖質&低脂質で低カロリー。たくさん食べればその分だけカロリー、糖質、脂質が減らせるし、不足気味のビタミン、ミネラル、食物繊維が増やせる。
野菜から多く摂れる栄養素
日本の成人が、栄養素をどんな食品から摂っているかを示したもの。ビタミンAの50%、ビタミンCの42%、カリウムの23%を野菜から摂っている。
「ビタミンA(野菜はβ-カロテンとして含有)、ビタミンC、葉酸、カリウムといった栄養素では、野菜の寄与率が特に高くなっています」(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の松本麻衣研究員)
なかでもカリウムは、日本人の国民病ともいえる高血圧の予防に有効。高血圧を引き起こすナトリウムを、排泄する作用があるからだ。この他、野菜を食べれば食べるほど、肥満、心臓病、2型糖尿病といった生活習慣病のリスクは下げられる。ベジ活で健康のベースを作ろう。
1日350gの野菜摂取で糖尿病が抑えられる!
悪しき生活習慣による2型糖尿病の推定相対リスクと、1日当たりの野菜摂取量の関係。350g前後までは、野菜摂取量が増えるほど、リスクは下がっている。
野菜350gってどのくらいの量なの?
ベジ活を本気でスタートさせるなら、野菜はどのくらいで何gかを把握するのが先決。便利なのは「手ばかり」。
1日3食で350gの野菜摂取を実現するなら、1食120g前後ずつ摂ると考える。それは生野菜なら、ちょうど両手1杯分。
加熱するとカサが減り、温野菜なら片手1杯分だ。毎食両手1杯の生野菜を食べるのはひと苦労だが、加熱すればその半量で済む。
外食の野菜料理には、農林水産省が目安を示している。それによると、副菜となる青菜のおひたしやカボチャの煮物などの小鉢・小皿料理は1皿70g。生野菜サラダも同じく1皿70gだ。主菜にもなる野菜炒めなどの大皿料理は、その2倍となる1皿140gと計算する。
一歩進み、野菜ごとに目安量を覚えておくと、買い物するときにも便利だ(下表参照)。緑黄色野菜のホウレンソウ1束で200g、淡色野菜の玉ネギ1個で200gだから、この2種類で1日350g以上、緑黄色野菜120g以上という基準は満たせる。
でも、ベジ活は多彩な野菜を分散して摂るのが鉄則なので、4〜5種類取り合わせて基準をクリアしたい。
覚えておきたい野菜摂取量の目安
手ばかり | 生野菜 両手1杯:120g 温野菜 片手1杯:120g |
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外食の野菜料理 | 小鉢・小皿料理(副菜) 1皿:70g 大皿料理(主菜) 1皿:140g |
緑黄色野菜 |
トマト 1個:150g、ニンジン 大1本:200g、ホウレンソウ 1束:200g、小松菜 1束:300g、ブロッコリー 大1/2株:150g、ピーマン 1個:35g、パプリカ 1個:150g、カボチャ 1/2個:600g、アスパラガス 1本:20g、ニラ 1束:100g |
淡色野菜 | 白菜 1/2株:1,000g、キャベツ 1/2個:600g、大根 1/2本:500g、レタス 1個:300g、玉ネギ 1個:200g、白ネギ 1本:80g、ナス 1個:80g、キュウリ 1本:80g、水菜 1束:200g、もやし 1袋:250g |
「野菜投資」という考え方を知る
投資ブームだが、株式や投資信託以外にも投資先はある。ほかならぬ野菜だ。
「お金がいくらあっても、健康でなかったら人生は楽しめません。足りない栄養素を補い、カラダという唯一無二の資本を充実させるために、野菜にお金を使いましょう。それが私の提唱する“野菜投資”です」(管理栄養士の岩崎真宏さん)
投資で大切なのは、得られるリターンとリスク(損益)のバランス。リターンの高いものほど、リスクも高い。でも、野菜投資は、栄養バランスが整って心身がヘルシーに整うという大きなリターンは保証されるが、リスクはゼロ。限りあるお金の投資先としては理想的だ。
下記で触れるように、1日100gの野菜や果物をプラスすると、2年ほど若返るというデータがある。それだけ野菜や果物を増やすのに、仮に200円かかるとするなら、月約6000円、年7万円ほど。
野菜投資の200円を、健康を損なう悪癖を解消して捻り出せたら、一石二鳥。禁煙&節酒を心がけ、ジャンクフードや甘い間食をセーブすれば、1日200円くらいはすぐに捻出できるはず。それで健康寿命が2年延ばせるなら、コスパ最強だ。
野菜を食べると長生きできる
いつまでも若々しく、元気で長生きしたいと願うなら、怪しげなサプリに手を出すより、ベジ活に励んでせっせと野菜を食べた方がいい。なぜなら、野菜を多く食べるほど、老化や寿命と関わる「テロメア」が伸びることがわかっているからだ。
テロメアは、4つの塩基からなり遺伝情報を伝えるDNAの両端にあるキャップのようなもの。細胞内で大事なDNAを守っている。
テロメアは生まれたときがもっとも長く、細胞分裂を繰り返すたびに短くなっていく。細胞分裂の回数には限りがあるため、テロメアには“命の回数券”という別名もあり、テロメアが短くなるほど老化は進み、死亡率が上がるという報告もある。
紫外線や喫煙、過度の飲酒はテロメアを短くするが、野菜や果物を多く食べるほどテロメアは伸びる。
「アメリカの大学の研究では、野菜と果物の摂取が1日100g増えるごとに、テロメアが27.8塩基対伸びることがわかっています」
通常1歳ごとにテロメアは14.9塩基対短くなるから、1日プラス100gの野菜と果物の摂取は、老化を約2年(正確には1・86年)遅らせる働きがあるそう。ブラボー!
野菜と果物の摂取で伸びる塩基次数
アメリカの全国健康・栄養調査(NMANES)からランダムに抽出した成人男女5,448人のデータを分析して得られた結果。野菜と果物の摂取が増えるほど、テロメアが長くなっていた。
野菜が含むフィトケミカルという魔法の栄養素
野菜が含む栄養素は、ビタミンやミネラル、食物繊維だけではない。注目したいのは、フィトケミカル。植物が作る化学成分の総称であり、その多くは植物が紫外線や害虫などから自らを守るために作り出すもの。植物特有の色、香り、苦み、辛みなどの元となっている。
フィトケミカルは、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維に続く“第7の栄養素”。野菜はフィトケミカルの宝庫だ。
フィトケミカルの機能性で傑出しているのが、抗酸化作用。ニンジンなどの緑黄色野菜のβ-カロテン、トマトのリコピン、ホウレンソウのルテイン、玉ネギのケルセチンなどだ。
体内で発生する活性酸素は生活習慣病の元凶で、老化を進める悪玉。それを無力化するのが、抗酸化作用である。体内には抗酸化作用を持つ酵素も備わるが、加齢でその活性は低下。その衰えをカバーするのが、野菜のフィトケミカルというわけ。
この他、免疫作用を強化するフィトケミカルも多い。ブロッコリーのスルフォラファン、白菜やキャベツのイソチオシアネートなどである。
野菜ジュースから始めるのも悪くない
野菜を何から増やすかを考えるときに必ず話題に上るのが、野菜ジュースをどう捉えるか。野菜ジュースからは、野菜の栄養は100%摂れない。それを承知で、ベジ活では野菜ジュースを頭から否定しない。
「国が定める『食事バランスガイド』でも飲んだ重量の半分を野菜として扱うとしています」(松本さん)
つまり200mLの野菜ジュースを飲んだら、約100gの野菜を食べたとカウントしてOKということ。ただし、倍量を飲むことが推奨されているわけではなく、あくまで補助的なものとして捉えたい。
野菜が増やせないなら、ハードルを下げ、野菜ジュースを飲むところから始めるのも悪くない。