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なぜ急に? 予防法は? 漫画でわかる“ギックリ腰”

ギックリ腰の原因

なぜ急になる? 普通の腰痛との違いは? 予防法は? わからないことだらけのギックリ腰。ギックリ腰にまつわる知識を漫画でおさらいしつつ、その謎を解明します。

ギックリ腰って何?

漫画でわかる ギックリ腰

ギックリ腰

ギックリ腰は医学的な病名ではない。“ギックリ”とは、急に痛くなることを表している一種の擬態語だ。

「ギックリ腰は、整形外科的には急性腰痛の一種。腰痛治療のガイドラインでは、痛みが起こって1か月未満を急性腰痛3か月以上経つものを慢性腰痛その間を亜急性腰痛と分類します」(富山大学医学部整形外科の川口善治教授

交通事故の衝撃で起こるような原因が明らかな急性腰痛もある。ギックリ腰は、これといったトラブルがなく起こる原因不明の急性腰痛を指す言葉なのだ。

レントゲンにもMRIにも異常が写らない

ギックリ腰を発症すると、痛くて数日間は動けないが、ほどなくすると痛みが引いて、元の日常生活に復帰できる。

でも、そこで安心してはダメ。億劫がらずに整形外科を受診しよう

「ギックリ腰を起こしても、レントゲンやMRIといった画像診断では、明白な異変は見つからないのが普通。寝違えや捻挫でも、同じように画像には何も写りません。

しかし、単なる腰痛ではなく、がんの転移があったり、細菌感染による化膿性の脊椎炎や椎間板炎が起こっていたりすることも考えられる。重篤な病が隠れていないことを確かめるためにも、画像診断はきちんと行いましょう

椎間板(軟骨)、関節、筋肉

ギックリ腰の詳しい原因は不明だが、痛みとトラブルの発信源は主に腰まわりの椎間板関節筋肉のどれかに絞られる。椎間板は、背骨をつくる椎骨の間にある軟骨。クッションの役割を果たす。

腰の関節には、椎骨同士をリンクさせている背中側の椎間関節、背骨と骨盤をつなぐ仙腸関節がある。なかでも、椎間関節はギックリ腰の誘因になりやすい

筋肉では、背骨に沿って走る脊柱起立筋がおもにトラブルを起こしやすい。

ギックリ腰とコップの関係

ギックリ腰

前屈み

地上で生活している以上、私たちのカラダにはつねに体重(重力)が加わっている。普段自覚はできないけれど、まっすぐ立っているだけでも、横になっているときと比べると、カラダにかかる負担は大きくなっている。

なかでも負担が大きくなるのが、腰を曲げて前屈みになる姿勢

姿勢の違いにより、椎間板にどのくらいの負荷が加わるかを調べた有名な研究がある(出典/Nachemson.1976)。

「それによれば、まっすぐ立った姿勢を基準とした場合、軽く前傾するだけで椎間板への負荷は1・5倍になり、前傾して荷物を持つと2・2倍にまで跳ね上がります」(川口先生)

椎間板のストレスが増えるときには、当然周りの関節や筋肉にもダメージが広がっている。それがギックリ腰の引き金になりやすいと考えられる。

コップの水理論

ギックリ腰の痛みは激痛と呼ぶに相応しいけれど、そのきっかけは掃除機をかける、洗顔をするといった些細なものが大半。なかには、くしゃみをした瞬間、ギックリ腰が生じるケースもある。

何とも理不尽に思えるが、痛みを起こした直前だけに、直接的な理由があるとは限らない

「痛みが起きた瞬間は、いわばコップの水が溢れたようなもの。姿勢や動きが乱れるなどして、椎間板や関節などに目に見えないダメージが少しずつ蓄積。それがあるレベルを超えると、ギックリ腰の痛みを引き起こすのでしょう」

何を契機にコップの水が溢れるかは、一人ひとり違う。ギックリ腰再発を避けるには、自らのコップの水を溢れさせやすい姿勢や動きを知り、それを避けることを忘れないように。また、腰椎椎間板ヘルニアのように、急性腰痛以外の腰痛でも、長年のダメージ山積でコップの水が溢れた瞬間に自覚されることも多い。

痛みの芽!?

漫画でわかる ギックリ腰

有痛性肉芽

「ギックリ腰を何度も繰り返す理由の一つは、有痛性肉芽が潜んでいるからだと私は考えています」(早稲田大学スポーツ科学学術院の金岡恒治教授)

有痛性肉芽とは、文字通り、痛みを伴う肉芽。肉芽とは、怪我や炎症などが起きたところをカラダが修復する際、生じる再生組織のこと。通常は赤く柔らかい粒状の組織である。そこには血管とともに神経が通っていて、刺激を受けると痛む。この痛みは、修復のため安静にして、それ以上チョッカイを加えてはならぬというカラダからの警告だ。

傷んだ組織の修復が終わると有痛性肉芽もやがて消失。だがリカバリーが完全に終わる前に刺激を加え続けると、有痛性肉芽はいつまで経ってもなくならない

それが地雷のように腰の椎間板、椎間関節、仙腸関節や筋肉などに潜んでいると、よくない動きで痛みスイッチである肉芽が刺激され大爆発! ギックリ腰がぶり返す恐れがあるのだ。

骨盤を立てる

有痛性肉芽をそっとしておくために大事なのは、床のモノを拾ったり、トイレでしゃがんだりする際、骨盤を立てる意識を持つこと。骨盤を立てるとは、骨盤を正しいポジションに置くことをいう。

骨盤は軽く前傾しているのが正解だが(前傾とは、肛門を後ろに向けるような動き)、現代人のように腹筋が衰えて腹圧が落ち、坐っている時間が長くなると、骨盤は後傾しやすい(後傾とは、肛門を前に向けるような動き)。

「骨盤が後傾していると、椎間板の負荷が増えます。たとえば、トイレでしゃがむ動作は、誰でも一日何度も繰り返しています。そのたびに椎間板にストレスが加わると、椎間板の中にできた有痛性肉芽はなかなか消えてくれないのです」

むろん骨盤が前傾しすぎると反り腰になり、今度は椎間関節の負担となる。後傾しすぎず、反り腰にもならない姿勢で。

コントロール不能?

漫画でわかる ギックリ腰

モーターコントロール

腰などの関節の安定は、機能的安定性構造的安定性がダブルで担う。

「このうち機能的安定性に関わるのが、モーターコントロール。負担のないニュートラルゾーンの範囲内で動けるように、筋肉で制御する仕組みです。これがうまくいかないと、関節周辺の靱帯や関節包といった構造的安定性に頼るほかありません。その結果、関節まわりにダメージが蓄積し、有痛性肉芽が形成されてギックリ腰が起こるのです」(金岡先生)

インナーマッスル

モーターコントロールの鍵を握るのは、インナーマッスル。カラダの深いところで関節の動きを制御している深層筋だ。それに対し、カラダの表面にあるのがアウターマッスル(表層筋)。アウターは、インナーよりパワフルなのが特徴だ。

本来はインナーが少しだけ先に働いて関節を安定させてから、アウターが働く仕組みがあります。これをフィードフォワード機構と呼びます。ところが運動不足などでインナーが衰えていたり、緊張やストレスでアウターが働きやすくなっていたりすると、フィードフォワード機構が上手に作動せず、構造的安定性を支える関節まわりのダメージとなります

ダウンドッグ、キャット&ドッグ

通常の筋トレで鍛えるのはアウターマッスル。腰痛予防に効くとされるフッキン運動も、アウターばかり働きやすい。

効果的なのは、ダウンドッグやキャット&ドッグのように骨盤の前傾・後傾を伴い、インナーで背骨を1個ずつ動かし、モーターコントロールを促す運動だ。

「インナーで関節を安定させながら動く習慣が身につけば、ギックリ腰予防につながります。毎朝1回、ダウンドッグやキャット&ドッグを行い、正しいモーターコントロールをカラダにインプットしてからその日一日を過ごしましょう」

取材・文/井上健二 イラストレーション/コルシカ 取材協力/川口善治(富山大学医学部整形外科教授)、金岡恒治(早稲田大学スポーツ科学学術院教授) 編集/阿部優子

初出『Tarzan』No.860・2023年7月6日発売

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