ストレスと上手に付き合うための12のキーワード【後編】
現代社会はストレスの原因に溢れている。後編では、おうち入院やフランクリン効果、自信の種類、怒りの感情との向き合い方といったストレス対処スキルに関わるキーワードから疲労の正体を紐解いていこう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/細山田曜 取材協力/下園壮太(心理カウンセラー)、ゆうきゆう(精神科医)
初出『Tarzan』No.858・2023年6月8日発売
教えてくれた人
下園壮太(しもぞの・そうた)/心理カウンセラー。メンタルレスキュー協会理事長。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。陸自初の心理教官に。カウンセリングや衛生隊員などの教育を担当後、定年退官。講演や執筆などで活動中。
ゆうきゆう/精神科医。東京大学医学部卒業。ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニック総院長。医師業の傍ら、心理学サイトの運用、漫画原作、書籍執筆など幅広い分野で活躍している。
ストレスが生じると、体内環境を一定範囲内に保つホメオスタシス(恒常性維持)が働き、自律神経、ホルモン系が反応する。が、長くストレスに晒されると自律神経やホルモン系が乱れ、免疫系にまで悪影響が及んでしまう。
そうなる前に、ストレスにどう立ち向かうべきか。後編では、6のキーワードと専門家の助言で守りを固めておこう。
ストレスをもたらすおもなストレッサー
- 物理的ストレッサー…気温、光、騒音
- 化学的ストレッサー…タバコ、アルコール、大気汚染、ホコリ
- 生物学的ストレッサー…ウイルス、細菌、花粉、カビ
- 心理学的ストレッサー…不安、不満、怒り、緊張、悲しみ
- 社会的ストレッサー…家庭環境、職場環境
① 自律神経失調症
ストレスで交感神経と副交感神経のバランスが乱れた結果、眠れない、疲れが取れない、息切れやめまいがある、下痢や便秘が続くといったカラダの異変が起こることがある。加えてイライラやうつといった心の異変が生じるケースも。
いわゆる自律神経失調症だ。とはいえ、自律神経失調症に効く特効薬があるわけではない。
「私たち精神科医の立場からすると、自律神経を整えるには、メンタルを整えるのが近道。すると自律神経のバランスが取れるようになり、心身のトラブルも自然に収まります。メンタルを整えるのに、近道はありません。休養をたっぷり取り、悩みを共有できる人に打ち明けるといった正攻法が、結局いちばん効果的なケースがほとんどです」(ゆうきさん)
② おうち入院
疲れてストレスに負けそうになったら、とにかく休むに限る。下園さんがクライアントに薦める休養法は、“おうち入院”。入院気分で自宅療養する方法である。
「衣食住が保証されている安心できる環境(自宅)で、ただひたすら安静にするだけ。外出、夜更かし、飲酒、喫煙など、通常の入院で許されないことはすべて禁止。仕事もすっかり忘れて、好きな本を読んだり、映画を見たりしてリラックスして過ごしてください」
“入院期間”は長いほどいいが、最低3日からトライ。土日+金曜or月曜=3日なら、会社員でも有休を使えば可能だろう。
「土曜は平日を引きずり、日曜は月曜以降の仕事が頭をよぎる。3日あれば、少なくとも真ん中の1日は完全にオフモードに切り替えられて効果的に休養できます」
休日はつい旅行などの予定を入れたくなるが、それもステルス疲労(詳しくはTarzanWebの記事:ストレスと上手に付き合うための12のキーワード【前編】)の元。ストレスを感じたら土日は入院気分でダラダラ過ごす癖を。
③ 3種の自信
生きている以上、疲労もストレスもゼロにはできない。ならば、身につけたいのは、疲労にもストレスにも対応できるという自信。
「自信とは、予想される変化を何とかできると思える状態。自信がないと不安が募り、自らを守るために“これからどうなるか”の予測を立てる必要が出てくる。そこにエネルギーを浪費すると疲労もストレスも募ります」(下園さん)
自信には、3つのタイプがある。
1つ目は、ストレスなどの課題を乗り越えられるという見積もり。これは本記事のキーワード⑥「ストレス対処スキル」で詳述する。
2つ目は、自らの健康や身体機能に対する信頼感。運動で心身を鍛えたり、エステでアンチエイジングに励んだりすれば、疲労にもストレスにも勝てる自信がつく。ただし、2つ目は、3つの自信の中でいちばん頼りない。もっとも有効なのは、最後の3番目。
「それは、自分には仲間がいるから大丈夫だという自信。精神科医が“私が守ります”というスタンスでカウンセリングを行うのは、3番目の自信を養うため。軍隊が共同生活で“同じ釜のメシ”を喰う戦友を作るのも、ストレスに満ちた戦場を第3の自信で乗り切るのが狙いです。一緒に悩んでくれる仲間を大事にしましょう」
④ 怒りは警備隊長
疲労やストレスが溜まると、イライラして怒りっぽくなるもの。
「あらゆる感情は、自分を守ってくれる本能的な仕組み。なかでも怒りの感情は、外敵に対し心身を戦闘モードに切り替える“警備隊長”的な働きをします。疲れているときほど怒りっぽくなるのは、弱った自分を守ろうとする真っ当な反応なのです」(下園さん)
いくら真っ当な反応でも、イライラや怒りをぶち撒けると、職場でも家庭でも炎上状態に。一方、怒りなどの感情を我慢して抑えつけるにはエネルギーがいるから、余計疲れるだけで悪循環に陥る。
まずは怒りを感じている自分を素直に許容する。さらに怒りを呼び起こす刺激からとにかく距離を置く。そのうえで、休養して疲労を取るなど怒りが生じにくい環境を作り、怒りを丁寧にケアしよう。
⑤ フランクリン効果
ストレスを抱えたとき、友達に愚痴をこぼすだけで、気分がラクになった経験は誰しもあるはず。
「ストレスを一人で抱え込むとネガティブになりやすい。他人に話す過程で心が整理されたり、客観的なアドバイスが得られたりするので、ストレスが軽くなる可能性が高まります」(ゆうきさん)
けれど、心を打ち明けられる人間関係を新たに作るのは難しい。
「まずはいまある家族や友人との絆を深めましょう。“いつもありがとう”などと感謝の言葉をプラスすることから始めてください」
意外にも頼み事は絆も深める。
「頼み事をすると嫌われると心配しがちですが、人は頼まれて“仕方ないな”と動いてあげると、“応じたということは、こいつのことが好きなのかも”と思い、好感を持ちます。この方法で政敵を懐柔したアメリカの政治家ベンジャミン・フランクリンに因み、フランクリン効果と呼ばれます」
フランクリン効果に期待するなら、お願い事は無理めではなく、小さな可愛いものに留めておこう。
⑥ ストレス対処スキル
キャンプで焚き火を見るとか、ビーチで早朝ヨガをするとか。ストレスの解消法は人それぞれ。
「肝心なのは、自分に合う方法を知ること。好物が一人ひとり違うように、何がストレスに効くかには個人差が大きい。他の人に効果的でも、自分にフィットする保証はないのです」(下園さん)
ストレスには早めに対応するのが鉄則。疲労が溜まってから、慌ててネットでケア法を検索しても遅い。ストレスや疲労がまだまだ軽い“平時”のうちに、いろいろなやり方を試して、自らに合うものを見つけておくべきなのだ。
「何が効くかは疲労や感情の状態でも変わる。対処術をできるだけ多く持っておき、臨機応変に使い分けできるよう準備しましょう」